※本稿は、宮本剛志『なぜパワハラは起こるのか 職場のパワハラをなくすための方法』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
■上司でなければパワハラ加害者にはならないの?
ケース1:先輩や同僚との間でも起こりえるパワハラ
Cさん(3年目)はある業務でわからないことがあったので、その業務の担当者である先輩(ベテラン社員)のDさんに質問するが、いつも教えてもらえない。Cさんの同僚たち(年次が近い)も、Cさんとやり取りするのが面倒なので、Cさんをメールの宛先から除いてCさん以外の全員で情報共有をしていた。Cさんも知っておかなければいけない情報だったため、Cさんはいつも困っていた。
「パワハラって上司と部下で起こることですよね。だから研修は管理職にだけやっています」
そう言われることがまだまだあります。しかし、パワハラのパワー、優越的関係は上司と部下だけではありませんでしたね。つまり、ケース1では、先輩であるベテラン社員のDさんは「経験」というパワーを持っており、同僚たちは、「人数」というパワーを持っているのです。そのため、同僚同士の人間関係のトラブルもパワハラになることがあります。
必要な情報を教えない、共有しない行為はたとえパワハラにならなかったとしてもいただけない行為です。職場の雰囲気を悪化させ、行き過ぎるとCさんをメンタルヘルス不調にさせてしまう恐れがあります。
■上司だって被害者になることがあるのか?
ケース2:上司の適正な注意に反発するベテラン社員
部長はCさんのことが気になったので、Dさんに「Dさんのやり方は職場のためになっていない。Cさんをサポートしてあげて」と注意をした。しかし、Dさんは部長に対して「(舌打ちしながら)私がどれだけ会社に貢献しているのか知らずに私を注意するなんて……。辞めますよ⁉ いいんですか? 私のような貢献者を否定するなんて(嘲笑)ハラスメントとして訴えるぞ!」と言い、部長の指示を無視し続けた。
部長は「訴えられたらまずい……。ハラスメント加害者にされてしまうかもしれない」と不安になり、それ以来Dさんに何も言えなくなってしまった。
職場の雰囲気が悪くなっていることに気づいた部長が介入しました。安全配慮の観点からもとても大事なことですね。しかし、部長の注意に対して、ベテラン社員のDさんが反発してしまいます。パワハラになるのでしょうか?
いわゆる「逆ハラスメント」とも言えるかもしれません。とても微妙なケースですね。
その際、部下の方がパワーがあれば、部下がパワハラの加害者になります。つまり、逆ハラスメントではなく、ただのパワハラなのです。
■「ハラスメントハラスメント」への対処とは
ケース2のベテラン社員のDさんと部長の場合で仮に、部長の方がパワーがあるとします。その場合には、パワハラには該当しません。パワハラではないのであれば、企業が正式にハラスメントとしてDさんを注意することはできないかもしれません。では、放置していいのでしょうか? このままだとDさんのやりたい放題になってしまいそうですね。
しかし、それではいけません。ケース2でも正式にDさんに改善を求めなければいけません。
・気に食わない課長に対して、部下が「課長との会話は全部録音しています。ハラスメント上司としてネットで公開しますから」と言って脅してきた。
上司はとても困りますね。ハラスメントハラスメントは、法的規制のあるハラスメントではありませんが、コンプライアンス違反と言えます。指示を守らないわけなので就業規則違反とも言えそうです。
■悩ましい「あの人をCCに入れるか入れないか問題」
ケース3:メールの「CC問題」は大丈夫ですか?
Dさん(ベテラン社員)・Yさん(後輩・2年目)
Dさんは自分に厳しいだけではなく、後輩4人に対しても厳格に接していた。しかし、後輩のYさんは、Dさんが自分にだけ厳しい気がして憂鬱な気分になっていた。
ある日、DさんからYさんへ指導のメールが来た。Yさんが他社の社員と話している時の言葉づかいに対しての指導であり、至極当然の内容だった(人格否定に該当するような言葉等は含まれていない)。しかし、「CC」に部長や部署の同僚全員が入っていた。
このケースはパワハラに該当するでしょうか? 結論から言うと、パワハラには該当しない可能性が高いケースです。3つのポイント(①パワーのある関係②自分の権限を超えたことをやってしまう③繰り返し・継続的にやってしまう)で見ると、②権限の範囲を超えた言動をしているかと言えば、そこまでのことではないですね。ですから、パワハラとは言いがたいと思います。
しかし、CCにYさん以外の全員が入っていることはどうでしょうか? 適切とは言いがたいですね。ただし、指導の内容は至極真っ当なことです。ですから、明らかに権限の範囲を超えたこととは言えないでしょう。もし、人格否定のような発言、また大きな文字や赤字で明らかに威圧的な形式で送っている時にはパワハラになる可能性があるでしょう。
あなたの職場では、どんな時に誰をCCに入れるのかルール化していますか? ある程度ルール化しておかないとトラブルのもとになります。私はこれを「CC問題」と名付けています。よく相談を受ける問題です。
「なんであの人たちをCCに入れるのか」
「どうして、あの人をCCに入れないのか」
時にはイライラしながら話してくれます。
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宮本 剛志(みやもと・つよし)
メンタル・リンク社長・公認心理師
管理職を経験し部下との関わり方に悩んだことをきっかけに、ハラスメントについて学び始めた。その後、ハラスメント対策を通してより良い職場づくりの支援を行うために起業。現在は、心理学に基づく研修やハラスメント被害者・加害者の面談を行う。企業のハラスメント対策委員会外部委員や顧問を務める。企業研修は年間約200回。カウンセリングは年間約400人(延べ人数)。著書は『「ハラスメント」の解剖図鑑』(誠文堂新光社)、『こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ』(時事通信社)、『「怒り」とうまくつき合う―アンガーマネジメント』(SMBC経営懇話会)。NHK総合テレビ『所さん!事件ですよ』、TBS『THE TIME,』等のメディア出演あり。
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(メンタル・リンク社長・公認心理師 宮本 剛志)