10月中旬に招集される臨時国会で高市早苗氏が首相に選出される見通しだ。「高市首相」はどのような政権運営をするのか。
日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「高市氏が目指すのはこれまでのような妥協や調整だけの政治ではなく、構造疲労を打破するための新しい統治モデルだ」という――。
■日本再生のための「たった1つの方法」
激動の現代、これまでのように妥協や調整だけで政治を運営することは、もはや日本の持続を保証しない。各省庁の利害をすり合わせ、派閥の均衡を保ち、世論の平均値をとる――そうした「合意形成型政治」は、戦後の復興と安定成長期には機能した。しかし、構造が老朽化し、変化の速度が桁違いとなった現在、このやり方は国家の惰性装置に変わっている。
人口減少、少子高齢化、地方衰退、経済停滞。こうした慢性疾患のような課題は、もはや行政の調整力では解決できない。成長を優先すれば格差が広がり、分配を重ねれば活力が失われる。防衛を強めれば財政が揺らぎ、支出を抑えれば安全が脅かされる。どちらかを立てれば、どちらかが崩れる――これが今の日本政治の構造的ジレンマである。
したがって、問うべきは「どちらを選ぶか」ではない。どうすれば対立する要素を同時に生かせるかである。成長と分配、防衛と福祉、官僚と政治――すべてを“均衡のデザイン”として扱わなければ、この国は二項対立の消耗戦の中で失速していく。

いま求められているのは、理念でも立場でもなく、矛盾そのものを国家のエネルギーに変える統治知である。この発想の転換なしに、日本の再生はあり得ない。
ゆえに、自民党の解党的出直しも、日米関係の再設計も、日中関係の均衡構築も、経済大国としての復活も、すべては同じ課題に行き着く。すなわち、「対立を選択ではなく構造として制御する」ことである。
■高市早苗氏の「フォース型政治」とは
調整と妥協の政治は、国家を動かすことを目的とせず、「止めること」「先送りすること」を目的化してしまった。このままでは日本は、静かに衰退するだけの現状維持国家に堕してしまう。
高市早苗が示唆し、筆者が「フォース型政治」と命名する新たな政治は、まさにこの構造疲労を打破するための新しい統治モデルである。
フォース型政治とは、矛盾を力に変え、対立を循環に変える政治である。フォースとは、本来「力(Power)」ではなく、「生命の調和(Balance of Life)」である。英語「force」の原義はラテン語「fortis(強い)」に由来するが、物理的な「力(power)」というよりも、「作用・働き・影響力(agency)」を指す概念である。
実は「フォース」には、東洋的哲学との共鳴がある。
道(タオ/老子):万物の根源的秩序・循環の原理

陰陽(中国古典思想):相反する力が均衡して宇宙を維持する構造
それは「スター・ウォーズ」に象徴されるように、光(創造)と闇(抑止)の二つの側面を持つエネルギーであり、対立するものを排除するのではなく、循環させることで全体を維持する原理である。

ライトサイド=命を育む力(創造・流動・希望)

ダークサイド=命を守る力(制御・戦い・犠牲)であり、両者は対立ではなく“宇宙の呼吸”として共存する。
善と悪、光と闇、秩序と混沌──それは排除し合う関係ではなく、お互いを定義し合う循環の構造である。
・ジェダイ(光)vs.シス(闇):片方が滅びるともう片方も歪む。対立は均衡を保つ力

・個人の自由vs.銀河の秩序:どちらかが過剰になると、もう一方が反発として生まれる

・感情(愛・怒り)vs.理性(規律・責任):“心”を封じても、“秩序”は腐敗する。どちらも人間の根幹

つまり「光があるから闇が生まれ、闇があるから光が意味を持つ」。この両輪的対立=循環構造が、宇宙(フォース)の持続性を支えている。
「二項対立=循環系の両輪」という視点を高市早苗氏の政策思想に重ねると、高市政治はまさに「フォースの均衡」を目指す国家設計に見えてくる。
光(成長)と闇(防衛)という二つのエネルギーを同時に制御し、対立を均衡へ、矛盾を力へと変える政治。それが、彼女が目指すべき「矛盾を統治する国家」の構想である。
■「自民党離れ」の本当の理由
自民党の真の再生とは、政権延命のための表層的刷新ではない。それは、戦後日本が築いてきた政治構造そのものを再定義し、「国家の設計を担う政党」へと生まれ変わることである。
戦後の自民党は、秩序を守ることで国家を安定させてきた。
官僚、財界、地方組織、メディア――これらを結ぶ重層的ネットワークが、日本型統治の骨格を形づくった。この「秩序の保守」は、かつての日本を確かに支えた。しかし、いまやその秩序自体が制度疲労を起こしている。秩序を守ることが、結果として変化を拒む慣性の政治に変質したのである。
今日、自民党が直面している危機の本質は、世論の批判や派閥抗争といった表面的な問題ではない。それは、党が国家の構造的役割を失ったことにある。かつて自民党は「国家を動かす政党」であったが、いまや「政権を維持する政党」に堕している。国家のために制度を設計する知性を捨て、官僚調整と世論迎合の狭間で方向性を失っている。
■「解党的出直し」の行く末
高市早苗の掲げる解党的出直しとは、単に古い派閥を壊すことではなく、「政党を国家構造の再生装置へと再定義する」試みであるべきだろう。それは、党の存続ではなく、国家の再構築を優先する思想である。
この新しい自民党像において、保守とは秩序を維持することではなく、秩序を更新し続ける力を意味する。改革とは破壊ではなく、再設計としての創造を意味する。
この「保守と改革の統合」という構造が、高市が描く“フォース型政治”の党内モデルとなる。
自民党はこれまで、光と闇を分断してきた。「改革の光」は短命で終わり、「保守の闇」は停滞を生んだ。だが高市政権が志すのは、その両者を同時に駆動させる新しい構造である。
改革で保守を守り、保守で改革を支える。この循環構造を党の原理に据えるとき、自民党は初めて“秩序の党”から“構造の党”へと進化する。
この進化の先にあるのは、「動的安定」という新しい政治概念である。それは、変化を抑えることによる安定ではなく、変化を制御することによる安定である。すなわち、矛盾と対立を統治の素材として扱い、多様な意見と構想を党の中で循環させる構造的政党運営である。
■日本の統治構造をアップデートする
この構造を支えるべきは、三つの変革軸である。「思想→構造化→実装」のソートリーダーシップだ。
①思想の再生

党の存在目的を「政権維持」から「国家構造設計」へと移行させる。
党員一人ひとりが、単なる支持者ではなく、国家の再構築に関わる“共創者”としての自覚を持つ。そのために必要なのは、保守思想の再文脈化――“守るために変える”“変えることで守る”という思想の現代的再定義である。
②構造の再編

派閥政治を終わらせるのではなく、派閥を「政策構造のモジュール」として再設計する。人脈・資金・影響力ではなく、政策領域・課題別プロジェクト単位で組織を再構築し、動的に連結・分離する“構造政党モデル”を導入する。
③実装の再構築

政策形成と実行の間に存在する「行政遅延構造」を断ち切り、官僚機構を敵視せず、制度の中で制度を動かす政治技術を確立する。高市的リアリズムとは、政治が制度を超えるのではなく、制度を理解し、制度を上書きする統治技術となるべきだ。

この三軸の再設計によって、自民党は「静的な安定」から「動的な安定」へと変わる。党が国家のミニチュアであるならば、その党の構造を更新することは、日本の統治構造そのものを更新することに等しい。
高市早苗が実行すべき解党的出直しとは、日本政治のOSを再起動する国家的リセットにほかならない。自民党がその「構造再生の実験場」となるとき、日本は再び“政治が国家を動かす国”へと帰還する。
自民党の再生とは、政権の延命ではなく、国家の再構築を先導する構造革命である。その秤を手に取る者こそ、真の保守のリーダーとなる。

■日米同盟を“根本的に”見直すべき
激動するグローバル秩序の中で、日米関係は依然として日本外交の中核であり、最大の試金石である。だがこれまでの“同盟依存”型アプローチは、地政学的変化、米国内の保護主義回帰、グローバル価値の分断激化の前に限界を露呈している。従属層化、関税・通貨の交渉圧力、軍事負担論争――これらは、日米関係が「光(共有価値)」と「闇(主権・利益対立)」を両立できていない徴候である。
さらに、筆者の記事〈日本は関税を下げる「最強の切り札」を持っている…トランプ大統領が喉から手が出るほど欲しい“日本の技術”〉(プレジデントオンライン、2025年4月15日7時配信)の主張を起点にすれば、日本は「関税を下げるカード」を使って米国と戦略的補完関係を再構築できる余地を持っていたはずなのだ。
トランプ政権が“相互関税”政策を打ち出す中、日本が受動的に防戦するだけではなく、能動的提案国として立ち回るべきだという論点であった。
つまり、日本は「守るだけの同盟国」から、「関税・通貨・産業政策を持ち込む構造的同盟国」へステップアップできる可能性を持っている。
■日本が持つ「交渉の切り札」とは
この観点から、高市のフォース型政治が日米関係に提示すべき構造的ヴィジョンは次の三点である。
1.光としての価値連携×闇としての主権維持
日米同盟がもはや単なる価値連帯では通用しない時代である。高市は、共有する自由・民主・法の価値(光)を基盤としつつ、同時に「国家主権=自らの防衛力・産業主導権」を明確に守る(闇)姿勢を貫くべきである。
これは、米国に対して“依存の従属関係”を強める方向でも、反米・独立を主張する方向でもない、構造を支える同盟を志向する外交である。アメリカと協力しながら、国家としての自律性を失わない。
この構造は、米国にとっても魅力的である。なぜなら、日本が「使いやすい従属国」ではなく、「関係構造を設計できる対等国家」になれば、米国にとっても戦略的選択肢の幅が広がるからだ。
2.関税戦略を同盟戦略に転化する構造提案
筆者の指摘する「日本が関税を下げる切り札」という構想を、高市外交のフォース武器とすべきである。
単なる譲歩ではない、提案型同盟外交として、次のような政策設計が可能である。
相互関税制度を協調の入り口とし、通商交渉の中心を日米で共同設計する枠組みを提案するような構図だ。
規制・通貨・産業補助金と関税を連動させた交渉パッケージを提示し、日本が「譲るだけの国」から「提案できる国」へと軸転換する。
特に注目すべきは、造船業など米国が国家戦略として再興を目指す分野への共同参画である。
これは、防衛・インフラ・産業を横断する“構造補完関係”の具現である。
このような戦略により、関税問題は“摩擦”ではなく、日米同盟の「設計要素」として活用されうる。この発想こそ、古典的な同盟論を越えるフォース型同盟観である。
3.統合戦略構造:防衛×通貨×産業×経済の循環同盟
日米関係を再構築するには、外交・安全保障だけでなく、関税・通貨・産業・投資などを統合的に制御する同盟経済構造を設計すべきである。
防衛協力を提供できる国家技術を持つことが、日本の価値供与となる。
関税・通貨協調を交渉力のカードとし、日米の産業互恵関係を再構築する。
米国にとって日本が不可欠な産業パートナーとなることで、安全保障負荷だけでなく、経済圏の補完関係を強化する。
この統合モデルは、「米国安全保障=日本産業力の底上げ」という構造的ループを創出する。これこそ、光と闇を循環させるフォース型同盟戦略である。
日米関係は最も鍵を握る外交軸であるが、それを従属か対立かのいずれかで考える時代は終わった。
高市早苗のフォース型政治が目指すべきなのは、
・価値を共有しながら主権を守る同盟

・関税を交渉の武器にする提案型国

・安全保障、産業、通貨、外交を統合する同盟構造

これらを構造レベルで設計し直すことができれば、日米関係は日本再生の最大の舞台となる。
すなわち、日米同盟を「与党―野党の調整課題」から、「国家設計の柱」へと格上げする。この転換こそ、高市政権が掲げるフォース国家としての日本を映す鏡である。
■高市外交で「日中関係」は変わるのか
日中関係は、21世紀の日本外交における最も複雑で、最も戦略的な構造課題である。中国は、日本にとって市場としての光であり、覇権としての闇でもある。経済的共存と安全保障上の競合という二重構造を、どちらかに寄せるのではなく、同時に制御する力が日本には求められている。
戦後日本の対中政策は、長く「対話か抑止か」という二項選択に縛られてきた。しかし、現代の地政学において、そのような単線的思考はすでに通用しない。高市早苗の外交哲学は、対話を“善”、抑止を“悪”とする二元論を超え、対話の中に抑止を、抑止の中に対話を埋め込む構造的フォース外交を志向するものである。
1.光としての「対話と共存」
高市外交における光の側面は、開かれた対話と現実的共存である。アジアの平和と繁栄を保つには、中国との経済関係を一方的に断ち切ることは不可能である。サプライチェーン、エネルギー、レアメタル、AI・量子などの先端技術――どの分野をとっても、中国は国際経済の中枢に位置している。
ゆえに、日本は中国を“封じ込める対象”ではなく、上手にマネジメントし、再設計する対象として捉えねばならない。経済的対話を通じて、相互依存を“脆弱性”から“均衡性”へと転換する。そのために必要なのは、理念ではなく構造的戦略である。
高市政権が追求すべきは、単なる経済協力でもなく、譲歩による融和でもない。それは「開かれた市場を守るために、構造を管理する外交」である。つまり、経済の光を活かしながら、国家主権の境界を曖昧にしない――しなやかで、だが揺るがぬ対話外交である。
2.闇としての「抑止と主権防衛」
対話の光を支えるのは、闇としての抑止としたたかさである。中国が台湾海峡や東シナ海において示す軍事的圧力は、日本が「平和国家」であるという理念だけでは防げない。
高市外交の核心は、対話のための力、抑止のための意志である。
防衛力の増強は、対話を妨げるものではなく、むしろ対話を成立させるための前提条件である。抑止とは、戦うための準備ではなく、「戦わないための構造的優位」を確保する行為である。
このために日本は、
・防衛技術の自立化(宇宙、サイバー、無人防衛)

・経済安全保障の強化(重要物資、AI、量子技術の保全)

・同盟国との統合抑止(米、豪、印、ASEAN連携)

を同時に推進すべきである。
抑止とは軍事だけではない。経済・技術・情報・外交を貫く“総合防衛構造”を築くことで、中国に対し「コストの高い挑戦」を強いる。これが、構造的抑止の思想である。
■目指すべきは「強い日本」ではない
3.構造的強さ・したたかさ・しなやかさ
高市外交が目指すべきは、「強い日本」ではなく、“強く設計された日本”である。強さとは軍事的優位ではなく、構造的優位にある。
・構造的強さ:多層的抑止を設計する知性

・したたかさ:戦略的柔軟性を持ちながら主権を譲らぬ交渉力

・しなやかさ:対話の扉を閉じずに影響力を浸透させる外交構造

この三位一体が、日本のフォース外交の本質である。対話を通じて相手を理解し、抑止を通じて自らを守る――この循環を制御する国家こそが、21世紀のアジア秩序の中心を担う。
4.結論:フォース型日中関係=「対話の中の抑止」「抑止の中の対話」
高市早苗の外交哲学は、中国との関係を「友好」か「対立」かという単純な選択肢から解き放つ。彼女が目指すのは、対話の中に抑止を宿し、抑止の中に対話を維持する。この二重構造を国家戦略として制御することである。
対話なき抑止は、孤立を招き、抑止なき対話は、従属を生む。日本はそのどちらにも陥ってはならない。
高市政権のフォース外交とは、光(共存)と闇(抑止)の両方を国家のリズムとして循環させる外交構造である。しなやかに語り、したたかに動き、構造的に守る――それが「矛盾を制御する国家」としての日本の真の強さである。
対話は意志、抑止は構造。その両輪を同時に動かせる国だけが、次のアジアの秩序をデザインできる。
■戦後日本を動かしたのは、技術でも政策でもない
日本経済の真の課題は、成長率の数字ではなく、国民の成長意識の減退にある。戦後の日本を動かしたのは、技術でも政策でもなく、「明日は今日よりよくなる」という社会的確信であった。それが今や、失われた。経済が停滞しているのではない。未来を信じる構造が、社会から抜け落ちているのである。
高市早苗の掲げる経済再生とは、この「希望の構造」を国家レベルで再起動することにある。すなわち、経済政策を単なる景気対策ではなく、国民の人生観を再設計する政策へと転換することである。「明日はもっとよくなる」と信じられる社会では、自然に投資が生まれ、投資が未来を引き寄せる。逆に、将来を信じられない社会では、どれほどの金利緩和も無意味である。
経済とは数字の集合ではなく、未来への信頼の総和である。
1.成長マインドを取り戻す国家デザイン
高市政権の使命は、国民に「成長のマインド」を取り戻させることである。それは単なる精神論ではない。人・企業・政府の意識構造を変える政策設計である。
教育では、「失敗を避ける学習」から「挑戦を称賛する学習」へ。

経営では、「コスト削減型企業」から「未来投資型企業」へ。

政策では、「弱みの補修」ではなく、「強みの増幅」へ。
このマインドシフトこそが、投資行動・消費行動・起業行動を根本から変える。国民が未来を信じる国家は、投資が自己増殖する“信頼経済圏”となる。
■世界経済の「次の覇権」を決めるもの
2.「フィジカルAI」への国家集中投資
筆者が記事〈世界経済の「次の覇権」を握るのはGAFAMでもテスラでもない…日本人が知らない「約7400兆円の新市場」のインパクト〉(プレジデントオンライン、2025年9月22日18時配信)で主張してきたように、次の経済覇権を決めるのは「PHYSICAL AI」(フィジカルAI)である。これは、デジタルのAIが生成する情報知性に対し、現実世界(フィジカル)を直接動かすAI=実装知性を指す。すなわち、ロボティクス・自動運転・物流制御・エネルギー・スマートシティ・製造の自律化――AIが“現場”を制御し、人間社会の生産性そのものを高める分野である。
日本はこの「フィジカルAI」の実装領域において、世界で最も豊かな現場データと産業知を持っている。それを活かす国家戦略が、まだ十分に設計されていない。高市経済の中核は、このフィジカルAIへの集中投資に置かれるべきである。
AIとロボット、DXと産業基盤、教育と研究――これらを断片的に扱うのではなく、「AI×リアル経済」構造に統合する国家システムを構築する。AIが現場を制御し、ロボットが社会を動かし、人間が創造を担う。この三位一体が、次の日本型経済文明の骨格である。
データは脳、ロボットは手、そして国家は身体である。フィジカルAIとは、日本という身体を再び動かす神経系である。
3.弱みを補う国家から、強みを伸ばす国家へ
長年、日本の政策は「弱みの克服」に偏ってきた。しかし、成熟社会において成長を生み出すのは、弱みの修正ではなく、強みの深化と連鎖である。
・製造業の精密技術

・医療、介護の人間中心システム

・ロボティクス、半導体素材、エネルギー効率技術

・高度教育と現場技能の融合

これらは、世界のどの国も再現できない“日本型強み”である。政策はこれを部分最適で扱うのではなく、横断的に連動させ、強み同士が資本を呼び込む国家構造をつくるべきである。
弱みを埋める国家は永遠に防御的である。
強みを増幅する国家は、未来を創る。
この転換こそ、フォース型経済の本質である。
■「経済大国日本」を再設計するには
4.「明日はもっとよくなる」という構造的希望
高市政権の経済再生とは、単に数字を上げることではなく、「明日はもっとよくなる」という信頼構造を取り戻す国家設計である。希望とは感情ではなく、制度である。それを支えるのは、投資・教育・科学技術・文化の四層循環である。
投資が未来を創り、教育が人を育て、科学技術が社会を動かし、文化がそれを共有する。
この信頼の循環こそが、経済を支える「光のフォース」である。そしてそれを守るのが、防衛・安全保障・経済秩序という「闇のフォース」である。光と闇の循環が国家を成長させる――それが、経済大国日本の再設計図である。
高市早苗の経済構想は、単なる政策ではなく、希望を制度化する政治であるべきだ。成長を数字で測る時代は終わった。これからの国家の価値は、「未来を信じられるか」で決まる。
AI、DX、フィジカルAI、ロボット、教育――それらを統合して「明日はもっとよくなる」という社会的信頼を創出できる国。その国こそ、投資を呼び込み、世界から尊敬される経済大国となる。
経済とは、明日を信じる力の総和である。高市早苗のフォース型経済とは、希望を制度に変え、未来を現実に変える国家の設計思想である。
■日本が再び「世界の思想的中枢」に立つ
日本はいま、かつてない転換点に立っている。戦後の平和と繁栄を支えた「調整の政治」はすでにその役割を終え、人口減少、少子高齢化、地政学の緊張、経済構造の硬直化という複合危機が、国家の持続可能性そのものを問い直している。
もはや、過去の安定モデルを延命させるだけでは、国家は生き残れない。必要なのは、「矛盾を避ける政治」ではなく、「矛盾を制御する政治」である。その知的挑戦こそが、高市早苗のフォース型政治である。
1.光と闇を同時に駆動させる国家
高市の政治思想の根幹は、二項対立を循環させる構造知性にある。成長と防衛、改革と保守、自由と秩序、同盟と自立――これらを対立概念として捉えるのではなく、国家の両輪として同時に回転させるという統治哲学である。
光が未来を照らし、闇がその光を守る。国家とは、その二つの力が呼吸する生命体である。
日本の再生は、この“フォースの均衡”を取り戻すことから始まる。政治の使命とは、国民の意志を煽動することではなく、国民の矛盾を調律する構造を設計することにある。
2.政治の再定義――「感情の政治」から「構造の政治」へ
戦後の日本政治は、理念と現実のどちらかを選ぶ政治であった。理想を語れば現実から乖離し、現実を優先すれば理想を失う。この“感情の政治”を終わらせ、知性と構造で国家を動かす政治へと移行することが求められている。
高市早苗が示すのは、激情や信念のリーダーではなく、構造を理解し、制度を使いこなす知的リーダーの姿である。高市が尊敬するマーガレット・サッチャーが「信念で制度を壊した」とすれば、高市は「構造で制度を再生させる」。それは、破壊ではなく設計による変革であり、政治における“構造主義的ルネサンス”である。
3.日本型フォース文明の胎動
高市早苗のフォース型政治は、単なる統治モデルではない。それは、次の文明の形を示している。
AI・DX・フィジカルAI・量子技術が社会を貫く時代において、国家とは単なる行政機構ではなく、「人間と機械、経済と倫理、光と闇をつなぐ調律装置」とならねばならない。
日本が持つべき使命は、軍事的覇権でも、経済的規模でもなく、矛盾を制御する文明モデルを世界に提示することである。それは、分断を超える知性であり、調和を生み出す設計思想である。
フォース型政治とは、政治を超えて“文明の設計思想”へと昇華する。高市の国家観は、政治と科学、文化と経済を統合する“知の国家デザイン”であり、日本が再び世界の思想的中枢に立つ可能性を示すものである。
■「高市早苗首相」に問われていること
4.新しい日本の定義――「強さ」とは、矛盾を使いこなすこと
これからの日本の強さとは、単一の価値やスローガンでは測れない。強さとは、矛盾を抱えながらも、その矛盾を国家のエネルギーに変える能力である。
防衛と対話を両立させる外交。
官僚制と政治主導を共存させる統治。
技術革新と人間中心主義を調和させる経済。
過去の伝統と未来の創造を融合させる文化。
これらを同時に駆動できる国だけが、次の時代の文明を主導できる。そして、日本こそが、そのモデルを世界に示す潜在力を最も備えた国である。
5.結語――フォースを制御する国家
高市早苗の政治は、激情でもなく、破壊でもなく、構造の知性による統治である。彼女が実行すべき「フォース型政治」とは、対立を恐れず、矛盾を恐れず、光と闇を同時に回転させる国家デザインである。
成長とは未来を照らす光であり、防衛とはその光を絶やさぬ闇である。日本とは、その光と闇を呼吸させる知性の国家である。
この構造を世界に提示できる国こそ、次の時代の「思想大国」であり「文明国家」である。
高市早苗の挑戦は、政治の枠を超えて、“矛盾を制御する国家”という新しい文明の設計書を描く試みである。それは、戦後日本の総決算であり、同時に“未来日本”の創世記となる。世界観、歴史観、人生観、人間観こそが問われている。

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田中 道昭(たなか・みちあき)

日本工業大学大学院技術経営研究科教授、戦略コンサルタント

専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。

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(日本工業大学大学院技術経営研究科教授、戦略コンサルタント 田中 道昭)
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