※本稿は、梶尚志『更年期の不調の原因は栄養不足が9割』(あさ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■不調の原因は「食べない」こと
更年期の食事について話していると、よく「どんな食材がいいですか」「何を食べればいいのでしょうか」といった質問をいただきます。
たしかに食材選びは大切ですが、その前に見直してほしいのは「ちゃんと食べているかどうか」。
体型が気になって食事を抜いたり、家事や仕事に追われて食事の時間がとれなかったりして、「朝は何も食べない」「昼はパンだけで済ませる」といった食生活の方も少なくありません。
結果として、1日に必要なカロリーをきちんと食べられていない人が多くなっています。
体調がすぐれない、疲れやすい、気分が落ち込みやすい……。こうした不調の背景には、栄養不足が関係しているケースがとても多いのです。
私たちの体は、食べたものを材料にしてホルモンをつくり、自律神経や内臓の働きを支え、体温を保っています。タンパク質や脂質、ビタミン、ミネラルなどが不足すれば、体のバランスがくずれて、さまざまな不調があらわれやすくなります。
「食べていない人ほど体調が悪くなりやすい」というのは、栄養療法に取り組む医師のあいだでは、よく知られた事実です。
■更年期こそ「朝しっかり」が鉄則
更年期の不調を軽くするうえで、まず土台になるのが「食べること」。それも、1日3回、バランスよく食事をとることがとても大切です。
とくに注意したいのが、朝食です。「時間がない」「食欲がない」「活動には影響しない」など、さまざまな理由で朝食を抜いたり、軽く済ませてしまう方も少なくありません。けれども朝食は、その日の体と心の調子を左右する、大事なエネルギー源です。
更年期には、ホルモンバランスや自律神経の働きが不安定になりやすいため、朝のエネルギー補給ができていないと、さまざまな不調につながることがあります。たとえば、血糖値が不安定になり、イライラしやすくなったり、疲れが抜けなかったり、集中力が落ちたりといった変化が出やすくなります。
また、生活習慣病の予防という点からも、「朝をしっかり、昼はほどほど、夜は軽め」という“逆ピラミッド型”の食事スタイルが推奨されています。
とくに更年期以降は、夜にたくさん食べると胃や腸に負担がかかり、翌朝も食欲が出ず、また朝を抜いてしまうといった悪循環に陥りやすくなります。
「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」も体の調子に大きく影響します。
■朝・昼に2品ずつが黄金ルール
食事のなかで、とくに意識してとりたいのが「タンパク質」です。
タンパク質というと「筋肉の材料」というイメージが強いかもしれませんが、それだけではありません。
肌や髪、爪といった見た目の健康にも深く関わっているので、タンパク質は「体と心の土台になる栄養素」と言ってもいいかもしれません。
とくに意識してほしいのが、朝と昼に、肉、魚、卵、大豆製品といったタンパク質を2品ずつとること。これは更年期世代にとって、とても大切な食習慣です。
女性ホルモンの材料にもタンパク質は使われますし、朝や昼にしっかりとっておくことで、血糖値が安定して、気分の落ち込みやイライラの予防にもつながります。手軽なものでいいのです。
【朝】
*卵+納豆
*サバ缶+豆腐
*鶏ささみ+ゆで卵
【昼】
*鶏むね肉+豆腐
*魚の塩焼き+卵焼き
*豚しゃぶ+納豆
動物性と植物性、どちらもバランスよくとるのがポイントです。
■買い置きの定番食材「ゆで卵」「納豆」が便利
忙しい朝にあれこれ準備するのは大変ですから、“手をかけずに食べられるタンパク質”をいくつか常備しておくと便利です。
たとえば、ゆで卵。前の晩にまとめてゆでておけば、朝は冷蔵庫から出すだけですぐ食べられます。豆腐のミニパックや納豆も、買い置きしておけば手間なく食べられる一品として重宝します。
ハムやウインナーなどの加工食品は、塩分や添加物の面から積極的にはすすめませんが、「どうしても時間がない日」のサポート役として、上手に使うのもひとつの手です。
できるだけ添加物の少ない商品を選んで、野菜と一緒にサンドイッチにするなど、栄養バランスをとる工夫をしてみてください。
毎日のことですから、完璧を目指す必要はありません。「朝と昼に、タンパク質を2品とる」というシンプルな習慣を、できることから少しずつ取り入れてみましょう。
■意識したい栄養素は「脂質」
更年期の女性にとって最も大切な栄養素が、脂質(コレステロール)で、すべての女性ホルモンの出発点です。そしてコレステロールの代謝に影響を与えるのがオメガ3系脂肪酸(α-リノレン)酸です。なかでもよく知られているのが、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった成分です。
これらの脂肪酸には炎症をやわらげる働き(抗炎症作用)があり、頭痛の軽減や子宮内膜の炎症をおさえるのに役立つといわれています。さらに、月経の状態を整えるサポートをして、動脈硬化を防ぐ作用もあることがわかっています。
更年期に入ると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減ってきます。すると、これまでエストロゲンによってコントロールされていたコレステロールの代謝がうまくいかなくなり、悪玉コレステロール(LDL)が増えやすくなる傾向があります。
■魚の缶詰・じゃこで手軽に補給
DHAやEPAは、このLDLコレステロールが酸化するのを防いで、血管を健康に保つ働きがあります。生活習慣病の予防という面から見ても、大切な栄養素なのです。
これらの成分は、サバ、イワシ、アジなどの青魚に多く含まれていますが、毎日魚を調理するのはなかなか大変。そんなときは、じゃこやしらす干しなど、まるごと食べられる食材をうまく活用してみてください。
とくにDHAは魚の頭部に多く含まれているため、まるごと食べることで効率よくとることができます。カルシウムも豊富に含まれていますので、骨粗しょう症の予防に役立つという点でもおすすめです。
また、サバ缶やツナ缶などの魚の缶詰も、とても頼れる存在です。調理いらずで栄養価も高く、ストックしておけば、時間がないときでも手軽に魚の栄養をとることができます。青魚を日々の食事に取り入れることで、ホルモンバランスの乱れや体の不調をやわらげる助けになります。
■おやつは「ナッツ・果物」に置き換え
食事のなかで見落とされがちなのが、「油の選び方」です。油と聞くと、体に悪いものというイメージを持たれがちですが、実は、体にとって欠かせない大切な栄養素のひとつです。とくに更年期の女性にとっては、ホルモンの材料にもなるため、適切にとることが大切です。
なかでもおすすめなのが、エゴマ油、アマニ油、オリーブオイルといった「良質な油」です。これらには、ホルモンバランスを整えるオメガ3系脂肪酸や、血管の健康を保つオレイン酸などが豊富に含まれています。
たとえば、納豆にエゴマ油をかける、味噌汁にアマニ油をちょっと加える……そんな使い方なら、味もほとんど変わらないので、毎日でも続けやすいと思います。
一方で、なるべく控えたいのが、トランス脂肪酸と呼ばれる油です。これはマーガリンやショートニングに多く含まれ、パンやお菓子、スナック類などに使われていることが多いため、知らないうちにとりすぎていることもあります。
「絶対にNG」というわけではありませんが、日常的にとりすぎないよう意識しておくことが大切です。おやつをスナック菓子からナッツや果物に置きかえるだけでも、トランス脂肪酸のとりすぎを防ぐことができます。
Q.良質な油がホルモンの材料にもなるということで、積極的にとりたいと思っています。ステーキなどでも、ヒレよりサーロインなどを選ぶほうがよいのでしょうか?
A.ホルモンの材料となる脂質は必要ですが、質が大切です。サーロインの脂は飽和脂肪酸が多く、過剰にとると血管への負担も。ヒレは脂質が少ない反面、良質なたんぱく源。青魚やアマニ油、ナッツなどの不飽和脂肪酸も取り入れながら、バランスよく食べることが更年期の体には理想的です。
■「甘いものがやめられない」のも栄養不足
ごはんやパン、麺類、お菓子や甘い飲み物など、身のまわりには糖質を多く含む食べものがたくさんあります。とくに、菓子パンやコンビニスイーツ、麺類だけで済ませるような食事が続くと、気づかないうちに糖質をとりすぎてしまいがちです。
糖質は、体のエネルギー源として大切なものですが、量が多すぎると血糖値が急に上がって、また急に下がるという「血糖値の乱高下」が起きやすくなります。
このアップダウンが続くと、体がだるくなったり、イライラしたり、不安を感じやすくなったりすることもあります。
「甘いものがやめられない」「食後にどうしてもお菓子がほしくなる」という方もいるかもしれません。でもそれは、もしかすると「糖質依存症」のサインかもしれません。
タンパク質や脂質など、体に必要な栄養が足りていないと、体はすぐにエネルギーになる糖質をほしがってしまうのです。
また、「朝はフルーツだけ」という方も見かけますが、果物に含まれる果糖も、とりすぎると血糖値の変動を大きくする原因になります。
もちろん果物にはビタミンや食物繊維など、体にうれしい栄養もたくさん含まれていますが、朝からたっぷり食べるのではなく、1日1回、食後のデザートとして少量楽しむくらいがちょうどいいでしょう。
■「食事のとり方」だけでも変わる
そして、なによりも大事なのは「きちんとごはんを食べているかどうか」です。
甘いものがほしくなったときは、まず1日3回の食事がきちんととれているか、タンパク質や脂質が足りているかを見直してみてください。
糖質を完全に避ける必要はありません。でも、日々の食事の中で「とり方」を少し意識するだけで、体も心も安定しやすくなります。
まずは、糖質に頼りすぎない食生活を心がけてみてください。
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梶 尚志(かじ・たかし)
梶の木内科医院院長
1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)がある。
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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)