※本稿は、梶本修身監修『最新医学でわかった 脳ファーストの休養学』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■栄養ドリンクで疲れが消えるわけではない
「脳ファースト」の生活には、睡眠だけでなく食生活も重要です。特に注意しなければならないのが、カフェイン飲料。なかでも栄養ドリンクには注意が必要です。
栄養ドリンクを飲むと疲れが取れるように感じるのは、それは大量のカフェインによる覚醒作用と、ドリンクに含まれる微量アルコールが気分を高揚させるせいで、疲労が解消するわけではありません。その状態で栄養ドリンクを飲み続ければ、過剰な摂取によって心筋梗塞やカフェイン依存症、情緒不安定になる恐れもあります。
また、「タウリン」が疲労に効くというイメージをお持ちの人は多いかもしれませんが、タウリンに健康な人が起こす疲労を軽減する効果はまったくありません。実は、現在市販されている栄養ドリンクの中で、人を対象として科学的に疲労回復効果が実証されているものはないのです。
■「カルシウム=イライラに効く」の誤解
疲れに効くといわれているビタミンB1は、確かに欠乏するとだるくなり、疲労感が強くなります。ですから、欠乏しているときに補充すれば、疲労が軽減します。ところが、現在の日本では、ビタミンB1不足から起こる「脚気(かっけ)」の人はほとんど存在しません。
ビタミンB1は豚肉にも多く含まれていることもよく知られているように、普段の食生活をしていれば、体内で足りなくなるようなことはほぼないと言っていいでしょう。
カルシウムも、「摂取するとイライラ解消にいい」とよく言われていますが、まったくのデタラメです。そもそも体内(骨など)には豊富なカルシウムがあります。脳が主であり、身体は従である以上、万一、脳でカルシウムが不足するような事態が生じれば、我々動物は自分の骨を溶かしてカルシウムを補うメカニズムを太古の昔から装備しています。
■実証された抗疲労成分「イミダペプチド」
血液検査や尿検査など客観的なエビデンスで疲労回復効果が示された唯一の成分が、イミダゾールジペプチド(以下、イミダペプチド)です。イミダペプチドは体内に吸収されてから2種類のアミノ酸に分解され、血管脳関門を通過して脳にダイレクトに届きます。
そして、脳神経細胞の活性酸素を抑制し、自律神経の疲労回復につながることが明らかになっています。まさに、「脳ファースト」に最適な食成分と言えるでしょう。
イミダペプチドとプラセボを対象としたクロスオーバー二重盲検試験では、血液検査で組織損傷マーカーとされる「TGPβ(ベータ)」、尿検査では酸化ストレスマーカーが、プラセボ摂取時と比較して有意に減少したのです(p<0.05)。
私たちは、総額30億円の研究予算で23種類の抗疲労物質候補となる成分を試しました。そのなかで、疲労感とパフォーマンス以外で血液検査や尿検査においても抗疲労効果が実証された唯一の成分が「イミダペプチド」だったのです。
■鶏むね肉を1日70g食べれば効果が出る
このイミダペプチドを特に多く含んでいるのが鶏むね肉。1日70g、この量でイミダペプチドの効果発現量である1日200mgを摂取できます。
鶏むね肉以外にも豚のロース肉や、鶏、豚、牛のもも肉、カツオなどにもイミダペプチドは含まれています。産地や種、季節、さらに消化吸収力でかなりばらつきがありますが、豚ロース肉やカツオなら130gで200mgのイミダペプチドを摂取できます。
複数の食材を組み合わせて、1日3食で200mgのイミダペプチドを摂るようにすると、ほかの栄養素もバランスをよく摂ることができます。
料理する時間がないときなどは、イミダペプチドのサプリメントを摂取してもいいでしょう。200mg以上含有していることを示す「イミダペプチド確証マーク」がついたサプリメントを選ぶようにしてください。
■バナナ1本でいいから朝ご飯は抜かない
疲労予防のためには1日3食、特に朝食をしっかり食べることが大切です。
体内時計は太陽の光だけでなく、朝食を摂って消化管を動かすことでも自律神経のスイッチがオンになり、体内リズムを整えます。こうして体内リズムが整えば質のよい睡眠につながって日中の活動による疲れが回復する、という好循環を招くのです。
ところが朝食を摂らないと、自律神経は完全に機能しないままの状態が続いてしまいます。バナナ1本でよいので、少しでも朝食を摂って自律神経をしっかり目覚めさせてあげましょう。
また、最近は、週末だけ食事を抜く「プチ断食」や、24時間のうち16時間は食事を摂らないようにする「16時間断食」、1日1食生活など、さまざまな食事制限ダイエットが話題になります。
しかし、いずれも空腹の時間が長くなってしまうため、体内に蓄えられた体脂肪やグリコーゲンが分解され、エネルギーバランスを整えるために自律神経に負荷がかかります。「脳ファースト」で疲労を予防するためにも、やはり1日3食が基本です。
■疲れた日は焼き肉より焼き鳥がいい
「今日はスタミナをつけたいから焼き肉を食べよう!」「夏バテ防止にはやっぱりうなぎだよね」などと、疲れているときほどガッツリ系の「スタミナ食」を食べようとしがちです。ですが、こういった料理は高カロリーで脂肪分も多いものが大半です。
そういう料理は消化器官に負担がかかるので、自律神経に負荷がかかります。疲れているなら消化のいい料理や、先ほど説明したイミダペプチドを多く含む鶏むね肉料理が効果的ですから、焼き肉よりも焼き鳥がおすすめです。
また、ニンニク料理も疲れが取れると思い込んでいる人も少なくないと思います。ニンニクやニラ、長ネギやタマネギに含まれるアリシンは、加熱などの過程でアリインという成分に変化し、ビタミンB1に結びつくと糖質の代謝が安定します。
エネルギーが不足しているときなら、ビタミンB1を多く含む豚肉やレバーと、アリシンを含むニンニクやニラなどの組み合わせは栄養をつける点では理想的ですが、栄養不足で疲れているわけではない日本人にとっては無意味と言わざるを得ません。
■すっぱい「クエン酸」も疲労回復に効く
イミダペプチドに疲労回復効果があることはお伝えしましたが、それ以外にも疲労回復に役立つ栄養素がいくつかあります。そのうちのひとつが、柑橘類などに多く含まれているクエン酸です。
人間の身体は37兆個もの細胞で構成され、細胞にはそれぞれの活動エネルギーを生み出すための、いわばエネルギー生産工場のような極小の器官が備わっています。それがミトコンドリアです。
ミトコンドリアは食事から摂取した栄養を、酸素を使ってエネルギーに変換します。その際、クエン酸がエネルギー生産工場の働きを活発化させることから、「クエン酸回路(TCA回路)」と呼ばれています。
このクエン酸回路によって身体のエネルギー効率が高まると、細胞にかかる負担が減り、結果的に疲労が軽減するというわけです。
■イミダペプチドとの「合わせ技」で効果増大
クエン酸で疲れを軽減させるための摂取量は、1日に2700mgが必要とされ、それを4週間続けると、疲労が軽減されるという研究報告があります。レモンなら2個、梅干しなら4~6個、酢や黒酢なら大さじ3~4杯が目安になります。
特にクエン酸摂取で疲労軽減効果が期待できるのが、栄養補給をしないまま、激しい運動や残業などをして疲れたときです。クエン酸を摂取すると、短時間でクエン酸回路が活性化します。スポーツ大会などでクエン酸を含むドリンクが好まれるのは、そのメカニズムを知らなくても、これまでの経験で疲労回復作用があるとわかっているからなのかもしれません。
ただし、クエン酸の自律神経に対する作用は確認されていません。
クエン酸単独で、日々の疲労を軽減させるのは難しいので、イミダペプチドと一緒にクエン酸を摂取することをおすすめします。イミダペプチドと同時摂取により、さらに大きな抗疲労効果が見込めます。
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梶本 修身(かじもと・おさみ)
東京疲労・睡眠クリニック院長
医師・医学博士。大阪大学大学院医学研究科修了。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」研究統括責任者。自らプログラム作成したニンテンドーDS『アタマスキャン』は30万枚を超えるベストセラーとなり、脳年齢ブームを起こす。著書に『すべての疲労は脳が原因1・2・3』(集英社)、『寝ても寝ても疲れがとれない人のための スッキリした朝に変わる睡眠の本』(PHP研究所)などがある。「ホンマでっか⁉TV」ほか、「ためしてガッテン」、「世界一受けたい授業」、「林修の今でしょ!講座」など、TVやラジオにも多数出演。
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(東京疲労・睡眠クリニック院長 梶本 修身)