中学受験を成功させるために、親はどうすればいいのか。『中学受験 子どもの成績の本当の伸ばし方』(KADOKAWA)を書いたユウキ先生は「秋は志望校の過去問に触れ始めると思うが、取り組み方によっては合否に影響が出てしまう。
親が関わる際には、気をつけてほしいポイントがある」という――。(第2回)
※本稿は、ユウキ先生『中学受験 子どもの成績の本当の伸ばし方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■親子で「学校説明会」「文化祭」へ行ってほしい
中学受験のカウンセリングでよく相談を受けるのが「どのように志望校を決めれば良いのか?」というテーマです。偏差値、校風、通学時間、学費など学校選びの要素は複数あるので、「このタイプの子どもにはこの学校が最適!」と一律に判断することは難しいものです。だからこそ、私は実際に学校へ足を運び、直接確認することをおすすめします。
わが家では、中学受験をした息子が小学4年生の頃から学校説明会や文化祭に積極的に参加しました。最初の頃は本人もどこがいいのかよく分からない様子でしたが、その後6年生になるまで複数校の文化祭に参加し、最終的には6年生の時に参加した文化祭で、「絶対にこの学校がいい」と強く決意するに至りました。
保護者と子どもの意見が食い違うケースもよくありますが、子どもが強い希望を示す場合は、本人の意思を尊重することが何より大切です。
志望校を決める際、最初に気になるのは、やはり学校のブランド力や偏差値といった要素です。偏差値の高い難関校の説明会や文化祭に行くと、生徒たちの落ち着いた雰囲気や自信にあふれた表情を見て、親としても「うちの子にもこんなふうになってほしい」と強く願ってしまう気持ちは、私もよくわかります。
■“本人の希望”とすり合わせる
ある家庭では子どもが4年生の頃から、親子で何度も学校説明会や文化祭に参加していました。初めは親の意向で御三家などの偏差値の高い学校を志望していましたが、子ども自身も親の期待を感じながら徐々に憧れを抱くようになり、最終的に第一志望を御三家に設定しました。

しかし、模試を受けていくにつれ、現実的に偏差値の差が10以上開き始め、6年生の夏の時点で模試偏差値が目標校の50%ラインよりも大幅に下回っていきました。「このままでは受からないかもしれない……」そんな不安を感じ、改めて親子で話し合いをしたところ、実は子どもは「第一志望校に掲げていた難関校よりも、別の学校の文化祭での生徒の雰囲気や学校の空気感の方が好きだった」とぽつりぽつりと話し始めたそうです。
そのとき初めて、わが子が心から望んでいる学校と、親が偏差値やブランドで判断していた学校が違うことに気づいたそうです。子どもが希望した学校は当初の第一志望より偏差値が若干低かったものの、模試の結果ではなんとか合格範囲内であったことに加え、本人が希望した学校だったことから、最後に頑張りを見せ、合格を手にしました。
■秋の過ごし方の8割は「過去問の整理」
学校に行き、友人たちと切磋琢磨して成長をしていくのは子どもたちです。だからこそ、志望校を決定する際には、偏差値だけでなく子ども自身が感じた学校や生徒の雰囲気、また学校の文化や空気感も尊重して決めることが、合格への道となります。また、模試の偏差値を現実的な指標として冷静に受け止め、子どもの希望や気持ちをくみ取りながら志望校を変えることも、中学受験を成功させる大きなポイントになります。
そして、受験直前期である9月~11月の親の役割をひと言で表すなら、「子どもが迷わず、最大限の力を出し切るための環境を整えること」に尽きます。この期間には、やるべきことは山のようにありますが、その中でも8割を占めると言っても過言ではないのが過去問の整理です。
「いつ」「どの学校の」「どの教科を」「どう解かせるか」……。このスケジューリングを塾が全て担ってくれるわけではありません。大手塾では、スケジュールを提出すればコメントやアドバイスはもらえるでしょう。
しかし、志望校ごとの傾向や子どもの弱点を踏まえた管理までしてくれるケースは少ないと思った方がよいです。参考までにわが家の過去問管理を紹介します。
(1)9~10月は併願校の過去問に一度触れておく程度に。

(2)11月以降は第一志望に集中する期間にする。

(3)市販の過去問を1問ずつ切り取り、A4用紙に貼り付け、計算や図を描く余白をとれるように加工する。

(4)丸付け、得点計算は保護者が行う。

(5)過去問は10年分やるのではなく、直近5年を完璧に解いて、出題傾向を身につける。
■「8割取れたよ」とごまかしてきた息子
なお、丸付けと得点を親が管理することは、受験直前で子どもに焦りがある場合は特に重要です。思った点数が取れないと、子どもは悪気がなくても「間違いをなかったことにする」行動に出ます。
実際、うちの息子が「今回は過去問8割取れたよ」と持ってきた答案を確認したところ、消しゴムの跡の下に、うっすらと残った最初の誤答が透けて見えたということがありました。
あと少しで受験本番なのに、思うような点数が取れないという悔しさと焦り、そして何より私に怒られるかもしれない……そんな思いで書き直してしまったのでしょう。自分の誤ちが見つかってしまい、おどおどしている子どもの様子に「この子はこれだけ焦っているんだ」という気持ちに胸が詰まる思いでした。

だからといって、書き直した問題をそのままにしていては問題を理解したことにならず、実力を測ることはできません。私は「間違えてもいい。その後、どうするかが大事だよ」と諭し、一緒に見直しをしました。
過去問を管理する3カ月は、親にとって裏方に徹する時間でもあります。派手なサポートではありませんが、この時期に敷いた整備されたレールの上を子どもはまっすぐ走っていくことで、合格へ近づいていくのです。
■“過去問を解くようす”をビデオで撮影
国語や理科、社会と違い、思考のクセがついてしまうと誤答に導かれてしまうのが算数。実は算数の過去問演習において、正解・不正解だけでは見えてこない思考のクセを可視化する方法があります。それが、手元を録画することです。
私は過去問を解く息子の近くにスマホスタンドを立て、息子が問題を解いている手元を真上から撮影していました。すると「手が止まる問題が数問ある」「解くまでに異常に時間がかかる問題」「見直しの仕方」などが客観的に見えてきました。
問題を解いた後、子どもと動画を見ながら「手が止まった問題たちには共通点があるかな?」など質問をしていくと、子どもは自分の解き方を改めて考え、自分の思考の迷いを言葉にしていきました。
この受験直前期に“客観的に自分を見る”プロセスこそが、入試本番でのアウトプット力を高め、また同じミスを繰り返さないための修正力を育てる最大のトレーニングだと、私は確信しています。

■「説明会」は出題方針を知るチャンス
9月以降も、各学校では説明会や入試ガイダンスが数多く開催されます。受験のラストスパートに向け、慌ただしい日々なのは承知ですが、これらの説明会は「時間があれば行った方がいい」というものではなく、「行かないと本気で損をする」ものなので、志望校の説明会はぜひ参加をしてください。
私自身、複数の学校の説明会に参加して驚いたのは、話される内容がそのまま出題方針のヒントになっていたことです。「理科は実験観察が多く、設問文が長くなります」「国語の記述では“根拠の書き方”を重視しています」「算数は速さと立体の切断が必ず出ます」という先生の言葉を聞いて、日々の学習の焦点を置くポイントを変えたのを覚えています。
秋以降は模試も頻繁に行われ、説明会参加のスケジュールを組むのも大変でしょうが、志望校に向けた新たな戦略法を手に入れるためにも、ぜひお子さんと一緒に訪れてください。家庭学習のモチベーションアップにもつながるはずです。
■「模試の結果」に一喜一憂してはいけない
9月以降は毎月のように合否の確率が出る模試があり、志望校別模試や記述特化型など、出題形式に踏み込んだ実践模試も増えてきます。この時期に大切なのは、模試の点数や偏差値に一喜一憂することではありません。「どこで、なぜ間違えたのか?」を塾や家庭教師と共有し、それを家庭学習に反映させていくことです。
実際私も「9月も過ぎたのに、過去問のこんな問題も解けないなんて……」と1人で悩み、焦りに押しつぶされそうになることもありました。
でも、そんなときほど塾の先生に相談しました。第三者の視点が入るだけで、つまずいている理由がクリアになり、親の気持ちも整理されます。
家庭の中だけで悶々としていると、親の主観が強くなりすぎて、本来の学習の目的や、子どもの良さを見失いかけてしまうことがあります。親が冷静でいるために塾を頼ることは、決して弱さではなく、最良のパートナーシップの形です。
また、受験本や教育コラムには、「子どもを責めないようにしましょう」とよく書かれています。私も、何度も目にしてきましたし、指導者という立場の私は、むしろそれを言う側でもありました。でも、正直な話をすれば――わかっていても、できないときがあるんです。
■親が怒ったところで、成績は伸びない
前にも書いたように息子が過去問の解答を書き直し、点数をごまかして私に持ってきたことがありました。解答欄に残る消した跡に一瞬怒りを覚えましたが、冷静に問いただしたところ、彼は少し黙ってからこう言いました。
「……だって、この点数じゃ怒られると思って」

「本当は、もっとできるって思われたかった」
その瞬間、私は言葉を失いました。受験直前になり、さらに強く芽生えた息子の中にある恐れと、親の期待に応えたいという気持ちを考えるとなんとも言えない気持ちになりました。
これ以降は特に、私は「点数」よりも「子どもとの向き合い方」を意識するようになりました。点数が低くてもそのプロセスの中に成長があったのか。同じミスをしても、今回はどう考えて、どう迷ったのかを聞いて、子どもが正直に振り返る習慣を作ることが、受験直前でも安心して勉強に取り組み、本番では立ち直れる力につながると信じて向き合ってきました。

親の感情が揺れるのは当たり前です。でも、その感情に飲まれてしまうか、踏みとどまれるかが、この数カ月で子どもが得る安心の質を決めると思います。

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ユウキ先生(ゆうきせんせい)

中学受験スリースターズ代表講師

2006年より関東の大手進学塾にて算数の講師を担当、数多くの合格者を輩出。現在は「中学受験スリースターズ」を運営し、SNSなどを通じて算数の解説動画や学習法を発信するほか、全国の受験生や保護者への個別相談やサポートを行う。自身も保護者として子どもの中学受験を支えた経験を持ち、指導者・保護者という両面からの具体的かつ実践的なアドバイスを行う。

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(中学受験スリースターズ代表講師 ユウキ先生)
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