いま都市部では旧来型の墓地ではなく、「ビル型納骨堂」と呼ばれるビル上の納骨堂が増えている。宗教問題編集長の小川寛大さんは「ビル型納骨堂は、安さと便利さが受け入れられてブームになっていった。
だが、ここ10数年のあいだに経営破綻や経営者の不祥事なども起きており注意が必要だ」という――。
※本稿は、小川寛大『誰が「お寺」を殺すのか』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■ブームになった「ビル型納骨堂」
“僧侶の社会的立場の低下”といった話を象徴的に示す一つの例が、近年都市部などで増えているビル型納骨堂だ。
これも世にネット葬儀社が現れ始めたのと軌を一にする、21世紀に入った前後から、東京や大阪などの都心部で、高級マンションのような外観を持った巨大な納骨堂がニョキニョキと林立し始めたのだ。
そこに一歩入ると、まるで高級ホテルのロビーのような空間が広がり、遺骨は特別の礼拝スペースに遺族が訪れたときのみ、コンピューター制御で奥の安置室からベルトコンベアなどに乗って現れる。屋内なので雨のときにも気楽に墓参ができ、駅から至近のものほど人気は高い。
草むしりなどのケアも不要で、原則としては、業者が責任を持って遺骨を管理してくれる。言ってみれば、ネット葬儀社や僧侶派遣サービスなどの隆盛を支えた“個の時代”のニーズに、よく合致したのだろう。
このビル型納骨堂は2010年前半くらいを頂点に、ブーム的な人気を見せた。従来、納骨堂と言えばコインロッカーのようなタイプのものが主流で、それは「一般的な墓石を買えない人のための“二線級の墓地”」といったイメージすらあった。
しかし、2000年前後ごろから世の中に登場してきたビル型納骨堂は、前述したようにそのようなイメージを覆す、洗練されたつくりを備えていた。それでいて、これらビル型納骨堂は従来型の墓より値段が安いという事実もあった。

■宗教法人による“名義貸し”が行われている
現在、インターネットを検索すると、このビル型納骨堂の紹介・販売サイトが山のように表示されるが、その多くは“定価”をきちんと表示していて、おおむね50万~100万円くらいで販売されている。
一方、先に名を出したネット葬儀社、鎌倉新書の運営するサイト「いいお墓」が行った「第16回 お墓の消費者全国実態調査(2025年)」によると、「一般墓」、すなわち一般的な霊園に墓石を立てるタイプの墓の平均購入金額は155.7万円となっている。つまり、ビル型納骨堂とは「便利な上に安い」というイメージで世間にアピールし、受け入れられてきたものなのだ。
ここで、“墓地や納骨堂を運営するにはどういう資格や条件が必要なのか”について、日本における決まりを少し説明したい。わが国の法令によれば現在、地方公共団体や宗教法人、公益法人などにしか墓地や納骨堂の開設・運営権はないことになっている(昔から民家の敷地内にあるものなどは除く)。
つまり、民間の事業として墓地・納骨堂経営を始める場合、“隣接事業”として葬送儀礼を行うことなどと考え合わせても、宗教法人格を持つ団体(寺や神社など)が行うのがいちばん手っ取り早いわけだ。
しかし、寺の本堂に隣接するような形で設けられた小規模墓地ならばともかく、たとえば数百区画以上を擁する巨大霊園などは、“普通のお寺”が運営するには手に余るものである。そこでよく行われているのが、墓地・納骨堂運営を考えた民間営利企業が、宗教法人(寺)とタイアップする形式だ。
より露骨に言えば、民間企業が宗教法人の名義を借りて霊園などを開設するスタイルである。実際のところ、ビル型納骨堂の多くは、この“名義貸し”スタイルによって運営されている。
■放漫経営の末に寺院ごと倒産したケースも
つまりビル型納骨堂のなかには、ブームに乗って安易な参入を思い立った営利企業が、宗教界の事情や墓地運営のノウハウを知ることもなく建てたものも少なくない。よってまさにブーム全盛期の2010年代には、このビル型納骨堂をめぐっておかしな事件がさまざまな形で起きた。

2010年と12年、福井県と宮城県において大型納骨堂の経営を行っていた宗教法人が、それぞれ倒産した。より実質的な話をすれば、その宗教法人の名義を使って納骨堂を経営していた民間企業が、放漫経営などの末に宗教法人ごと破綻してしまったのである。
今、日本の仏教系宗教法人(寺)の数が減り続けているという事実があるが、それらの内実の多くは地方の寺が檀家減のために自主解散したり近隣の寺との合併を選択したりといったもので、本当に経済的に行き詰まり、倒産したような事例は決して多くない。
実際に2010年の福井の宗教法人(寺)の倒産に際しては、地元紙・福井新聞が「過去十年間に県内の宗教法人が破産した例はない」という福井県庁のコメントを紹介しており、またその寺が所属していた宗派も「過去に当宗派の寺院が破産した話は聞いたことがない」と、同じ記事内で語っている。
■納骨堂を運営する女性社長が、脱税容疑で逮捕されたが…
この福井の寺に関しては、当時筆者は関係者に直接、倒産に至った事情について話を聞くことができている。
季刊『宗教問題』21号に掲載した記事から、そのコメントを引用すると、それは「今となっては『あまりにも業者任せだったかな』という思いもあります。もう少し、寺としてやりようがあったのかもなと……」「建設計画は最初から、ある建築会社とタッグで行われたものでした。納骨堂運営の実務にあたる有限会社も新設され、寺は納骨堂の仕事をそこに“お任せ”しきっていて、ほとんど主体的に関与していなかった。そういうところに、大きな問題があったのではないかと考えています」という話だった。
2017年には、大阪市で驚くべき事件が起こった。地元で派手なテレビCMなどを打ち、高い知名度を誇って「あそこは成功している」との世評も高かったビル型納骨堂の運営会社の女性社長が、脱税の疑いで大阪地検に逮捕されたのだ。
■脱税に関わったとされる元夫は、山口組の幹部だった
それだけならば、まだ一般的な「やり手経営者が起こしてしまった経済事件」とも言えたが、衝撃はこれに留まらなかった。
この女性社長の前夫は何と指定暴力団・山口組の直参組長(幹部)で、この前夫もまた、納骨堂の脱税に関わっていたとして逮捕されたのだ。
なお言うまでもないことだが、この大阪の納骨堂も地元寺院の宗教法人格を名義借りする形で運営されていて、その住職は当時、マスコミの取材に「うちは管理を委託しただけで、不正のことは知りませんでした」と答えている。実際、そうとしか言いようのない運営実態だったのだろう。
まさに21世紀以降に起こった“巨大納骨堂ブーム”とは、“お寺業界”にこうした魑魅魍魎(ちみもうりょう)を引き入れてしまったものでもあったのだ。
■“免税特権”が認められない事例も
2015年、東京都は同港区内にあるビル型納骨堂に対し、固定資産税と都市計画税の支払いを求めた。周知のように、宗教法人は各種の免税特権を持っており、納骨堂が宗教法人の(少なくとも名義を借りて)行っているものである以上、東京都による課税も不当のはずだ。
しかし先にも説明したが、宗教法人の免税特権とは、あくまで彼らが“宗教行為”を行って得た収入について認められているものである。すなわち、葬儀のお布施などに税金はかからないが、寺が飲食業や一般の物品販売などを行っていた場合、そこからの収入には課税される。
これを前提として東京都は港区の納骨堂に対し、その堂内に運営会社が営業所を構えていること、またこの納骨堂が“宗派不問”であり、その上で運営宗教法人以外の宗派の宗教者が来て儀式などを行う場合は使用料を取っていたことなどを根拠に、“宗教行為を行っている場所ではない”と判断、税の支払いを求めたのである。
■なぜ納骨堂だけが狙われたのか
納骨堂側はこれを不服として東京都と裁判闘争を開始したのだが、結局、都側が勝訴する形で終わっている。
しかしながら、“宗派不問”で運営されている墓地や納骨堂は現在、決して珍しいものではない。なぜこの納骨堂だけが行政に“狙われた”のか。

これに関しては、「あまりに儲け至上主義でやっている印象のあるビル型納骨堂が、悪目立ちするような形で行政の目に留まったからではないか。こういう東京都の措置が拡大適用されていかないか心配だ」とする意見が、お寺業界などのなかには少なからずある。
だとすると、これも“終活業界”の活況に群がる外部事業者が、宗教界に余計なダメージを与えた一件だったのかもしれない。

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小川 寛大(おがわ・かんだい)

『宗教問題』編集長

1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年、同誌編集長に就任。著書に『池田大作と創価学会 カリスマ亡き後の巨大宗教のゆくえ』(文春新書)、『南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)、『誰が「お寺」を殺すのか 貧困化する寺院と多様化する葬儀ビジネスの裏側』(宝島社新書)など。

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(『宗教問題』編集長 小川 寛大)
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