※本稿は、高橋彰『結露ゼロの家に住む! 健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本』(セルバ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
(前回記事「住宅がこれほど資産にならないのは日本だけ…人生最大の買い物を"負の遺産"に変えた住宅政策の失敗」につづく)
■日本の住宅寿命は欧米平均の3分の1
日本の住宅は、欧米に比べて極端に短寿命です。
少し古い資料ですが、図表1のグラフを見ると一目瞭然です。
欧米の住宅の平均寿命が80年~100年以上であるのに対して、日本は何と30年と、その3分の1ほどの寿命で建替えられてしまっています。
日本の住宅が短寿命なのにはいくつかの理由があります。
前回の記事で説明した日本の戦後の住宅政策の問題に加えて、住み手側も、地震国なので「どうせ大地震で被害を受けて建て直すことになるのだから」というあきらめがあり、長寿命な家に対するこだわりが少ない傾向があるようです。
この「地震国だから仕方がない」という認識には大きな誤りがあります。
地震に強い家を普及させようと「構造塾」を運営するM's構造設計の社長で一級建築士の佐藤実社長によると、耐震性能は、「躯体の倒壊防止」と「躯体の損傷防止」という2つに分けることができるそうです。
建築基準法が要求している耐震性能(耐震等級1)は、「躯体の倒壊防止」であり、震度6強から7程度の地震で倒壊・崩壊しないことを要求している性能です。
これは、あくまでも一度の大地震で建物が倒壊・崩壊することで人が死なないことを要求している耐震性能です。
いわば、たとえ半壊しても、「逃げることができれば死なないよね」という考え方です。そのため、震災後に建物を使用し続けることができることを要求している性能レベルではありません。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」には、耐震等級の上位等級として、耐震等級2および3が定められています。
最近は耐震等級3にこだわって建てる施主も増えてきています。ちなみに震度7が二度襲ってきた熊本地震の益城町エリアの耐震等級3の住宅は、すべて震災後も住み続けることができる性能が維持されていました。
つまり、「躯体の損傷防止」レベルの耐震等級3まで耐震性能を高めれば、大震災で建て替えることを前提に考えることは必要ないのです。
■なぜ長寿命化が必要なのか
そもそも、なぜ住宅を長寿命化するべきなのでしょうか?
筆者は、「これから家を建てたい」という人にむけ、住まいづくりをサポートする会社を経営し、高気密・高断熱住宅の工務店を無料でご紹介するサービスを提供していますが、当社にご相談いただくケースで比較的多いのは、リタイヤ前後のシニア層の方が、「若いころに建てた家が冬寒く、耐震性能も不安なので建て替えたい」というものです。
住宅ローンも終わり、老後資金を使って、快適な老後の生活のために、家を建て直そうという方々が多いのです。
日本では、古い家を子どもや孫が引き継いで住み続けるというケースは多くありません。
まして、中古住宅として、住宅自体の価値が評価されて売却できるケースは極めて少ないのが実情です。
現在の日本の住宅マーケットでは、戸建住宅は築20年も経過すると、建物の評価額はゼロになり、土地の価値だけで評価されるようになります。そればかりか、古家が残っていると、解体を前提とするため、土地価格から解体費用分が評価額から差し引かれてしまうことも少なくありません。
それに対して、欧米では、きちんとメンテナンスされていれば、建物自体も古くなってもきちんと価値が評価されます。
住宅の建築コストの高騰が続いている中で、世代ごとに住宅ローンを組んで住宅を建て直し続けることは、国全体として、国民の生活のゆとりを圧迫するものにほかなりません。
60~100年間健康・快適かつ安心して住み続けられる家が普及するということは、老後まで安心して住み続けたり、子どもや孫が引き継いだりするだけでなく、新たな若い世代が中古住宅として新築よりもリーズナブルに購入して、快適に暮らすこともできるのです。
住宅の性能を高めて、健康・快適に暮らせる長寿命な家が普及することは、中長期的な国民生活の豊かさにつながると考えます。
■長寿命化を阻む“もう一つの課題”
つまり、日本の住宅の長寿命化を図るためには、以下の2つの課題があるのです。
① 耐震性能を向上させ、大地震の被害を受けても、住み続けることができるようにすること
② 高気密・高断熱化を図り、「冬寒く、夏暑い」を解決すること
そして、これに加えて、もう一つ大きな課題があります。
それは、シロアリ対策です。
前提として、高気密・高断熱住宅の構造は、木造がベストです。
鉄筋コンクリート造(RC造)は高価ですし、鉄骨造は気密性能を確保することを苦手にしています。
木造は、耐震性能が不安視されがちですが、耐震等級3を確保すれば、上述のように大地震でも問題はありません。
木造の唯一の欠点は、シロアリ被害のリスクと木が腐るリスクです。
専門的には「防腐・防蟻」と言いますが、日本の住宅業界には、この「防腐・防蟻」対策にも大きな課題があります。
施主が「防腐・防蟻」に知識を持たないと、本当の意味で長寿命の家が実現できないのが、日本の住宅業界のとても残念な現状です。
■「長期優良住宅」は本当に長持ちするのか
国は、日本の住宅を「フロー型」から「ストック型」への移行を図っています。
その一環として、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が2009年6月4日に施行され、長期優良住宅という認定制度ができました。
この法律に基づいて認定された住宅が、長寿命であると国からお墨付きを得た「長期優良住宅」ということになります。
筆者は、この制度は基本的にはいい制度だと考えています。家を新築するのならば、ぜひ、「長期優良住宅」の認定をとるべきでしょう。
ただし、この制度には一つ大きな問題があります。「長期優良住宅」の認定基準の一つに、「劣化対策等級3」があります。国は、「劣化対策等級3」は、一定の維持管理を行えば、おおむね75~90年住み続けられるとしています。
ただ、この「劣化対策等級3」に定められているシロアリ対策(防蟻)の認定基準が不十分なのです。
劣化対策等級3の認定基準の中に、図のように「外壁の軸組等」という項目があります。
「外壁の軸組等」とは、建物の外壁を構成する柱、梁、筋かい、壁材などのことで、これらの劣化を防ぐための基準が示されています。
そして、外壁の軸組等の具体的な劣化対策としては、地面から1mまでについて、図のような内容が定められています。そして多くの工務店・ハウスメーカーは、(ⅰ)の(イ)の通気構造+「製材、集成材等又は構造用合板等を使用+薬剤処理(現場処理可)」で対応しています。
ちなみに、通気構造とは、壁内結露リスクを減らすために、外壁材と躯体の間に通気層という空洞を設け、壁体内に溜まった湿気を外部に排出する工法です。
この外壁の軸組等の劣化対策には、2つの大きな問題があります。一つは「薬剤処理」、もう一つは「地面から1m」までの処理であるということです。
本稿では、「薬剤処理」の問題点について説明します。長くなってしまうので、「地面から1m」までの処理の問題については、次回の記事で説明したいと思います。
■「効果は5年」シロアリ駆除の落とし穴
7~8割程度の工務店・ハウスメーカーが、合成殺虫剤系の薬剤を使用した「薬剤処理」を行っていると言われています。
そのうちのかなりの割合の会社が、ネオニコチノイドというEUでは屋外使用が禁止されている合成殺虫剤系の薬剤を使用しています。EUでの禁止の理由は、ミツバチの大量死につながっていると言われているからのようです。
日本は、EUとは異なり、農薬としてネオニコチノイドの使用が許されています。そして、それが防蟻処理剤として使用されています。
ところが、ネオニコチノイド等の合成殺虫剤というのは、有機系の薬剤であるため、5年ほどで自然に分解されてしまいます。そのため、防蟻の保証期間は5年間に設定されていることが多いのです。
この防蟻方法には、いくつかの問題があります。
問題①費用が高額
5年ごとに数十万円程度の費用をかけて再処理を行うことが必要です。長く住み続けることを考えると、かなり大きな負担になる金額です。
問題②人体に有毒
合成殺虫剤、特にネオニコチノイドは人体に有害です。大人も化学物質過敏症を発症するリスクがありますし、近年急増している子どものADHD(注意欠如・多動性障害)の原因物質と言われており、健康被害のリスクがあるのです。
また、新築時に塗布するだけならともかく、5年ごとに人が住んでいる状態で再施工しなければならないので、さらに健康被害を増大させてしまうリスクがあります。
いくら耐震構造を強化しても意味がない
問題③再施工ではすべてをカバーできない
5年ごとに再施工するにしても、実質的には地面から1mの再施工が不可能であることです。竣工後の地面から1mまでの構造材は、柱と柱の間には断熱材が詰め込まれ、柱の内側も外側も壁で覆われていて触ることができません。
つまり、竣工から5年経つと効果がなくなっているのにあらたに対策できず、実質的にはシロアリに対して無防備な状態になってしまうのです。
私は、これが最大の問題だと思っています。
百歩譲って、5年ごとにしっかりと防蟻処理ができるのならまだいいのですが、そうではないからさらに問題です。竣工後は再施工できない箇所がほとんどですから、シロアリに対して無防備な家になってしまいます。
ちなみに阪神・淡路大震災で被害を受けた住宅の調査結果では、調査対象エリアの住宅のうち、シロアリ被害や腐朽があった家屋のほとんどが全壊していたことが明らかになっています。
つまり、竣工時の耐震性能も重要ですが、その耐震性能を維持するためにシロアリ対策や腐朽対策等の劣化対策も非常に重要なのです。
■もちよく、無害な防蟻方法はちゃんとある
では、どうすればいいのでしょうか。
永続性があって健康被害の心配がないシロアリ対策も、実はちゃんとあります。
でも、日本では、不思議なことに普及はあまり進んでいません。
方法①ホウ酸処理
まずひとつは、殺虫剤系の薬剤ではなく、基本的に人体に無害なホウ酸を塗布する方法です。最近、意識の高い工務店を中心に少しずつ普及が進んでいます。
ホウ酸は銅や金と同じ鉱物ですが、水に溶ける性質を持っているので、水に溶かして構造材に噴霧することができます。
有機系の薬剤とは違って、無機系なので揮発性がなく、ずっと木材の表面に残ります。そのため、永続性のある防蟻方法です。
シロアリがホウ酸処理された木材を食べると、消化できずに死んでしまうしくみです。
シロアリにとっては死をもたらすホウ酸ですが、人体にとっては基本的に安全です。目薬や子どもが遊ぶスライムの材料に含まれているくらいです。人間のように腎臓を有する動物なら、ホウ酸が体内に入っても尿として排泄されるので問題ありません。
方法②加圧注入剤
他に、加圧注入剤と言われる処理方法もあります。
木材を釜に入れて真空状態にしたうえで、圧力をかけて薬剤を中まで浸透させるというものです。この薬剤には銅が含まれているので、防蟻だけでなく木を腐りにくくします。
銅は酸化することで緑青を生成するので、柱の色は緑色。そのため「緑の柱」と呼ばれることもあります。
■「防蟻対策」でいい工務店は見極められる
では、なぜ問題だらけのシロアリ対策が採用されているのか? といえば、悲しいかな、「儲かるから」です。
新しく家を建ててから、5年後にまた「そろそろ再処理をしないと、シロアリの被害に遭いますよ」と言って再施工を請け負う……。5年ごとに、チャリンチャリンとお金が入ってくるおいしいビジネスを手放すことができないというのが現状です。
日本の住宅業界で一般的になっている防蟻処理方法は、非常に歪んでいるのが実情です。
施主のことを考えれば、人体に無害で永続性能ある防蟻方法を用いるべきです。
意識の高い工務店・ハウスメーカーは、すでにホウ酸処理や加圧注入材を標準にしていますが、まだそれは少数派なのです。
裏を返せば、工務店・ハウスメーカー選びの際には、防蟻処理方法について、きちんと説明を受けて、合成殺虫剤系ではない防蟻処理方法を標準にしている会社を選ぶことが、施主の立場に立った施工をしている工務店・ハウスメーカー選びの重要な目安になると考えます。
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高橋 彰(たかはし・あきら)
住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事
東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。
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(住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)

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