※本稿は、茂木健一郎『AIで脳は覚醒する AIには絶対にできないこと 人間だけができること』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■マーク・ザッカーバーグが考えるこれからのAI時代
MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグが、YouTubeのインタビュー(2024年6月27日)で、AI技術のオープンソース化に対する信念を次のように述べました。
「人々は多様性を重視します。それが人生において学び、進歩しているという感覚を生み出す豊かさの多くを作り出していると思います。
だから私は、未来は一つのAIではなく、多くの人々が異なるものを作れる多くのAIになると深く信じています」
マーク・ザッカーバーグはこのように、将来的にはさまざまな種類のAIが生まれてくるのではないかという希望的な未来予測を打ち出しました。
AI技術を一企業が独占するのではなくオープンソース化し、他の企業や個人が自らの手でAI技術を活用できるようになることで、さまざまな分野において革新を生み出すことができると考えているのです。
ただ、現状ではAI技術はどちらかといえば寡占が進んでおり、アメリカのビッグテックが中心となって動いています。
それこそ、AIを活用した主要なサービスも、大規模言語モデルも、私たちが日常で活用しているAI技術は限られてしまっています。
ただ、人間の世界を見れば、それこそ70億の人たちがいて、世界中に多様な個性がちりばめられています。
それこそ、いろいろな性格の人もいるし、得意なこともあれば不得意なこともあって個々の能力がでこぼこしているわけですから、人間の持っている多様性がさまざまなAIと結びつくことで大きな強みになってくるのではないかと、私はマーク・ザッカーバーグのインタビューから感じました。
■人間がAIに対し圧倒的有利なこと
人間とAIを比較してみると、人間が圧倒的に有利なのは多様性です。
つまり、ひょっとするとAIがない時代を知っているというのも多様性の一部なのかもしれません。そう考えれば、「脳+AI」で、ある一つのアイデアが浮かび上がります。AIネイティブの世代と、そういうものを知らなかったアナログ世代の経験をうまく重ね合わせることで、何か新しいものが生まれるかもしれない、というアイデアです。
最近若者の間でフィルムカメラやレコードが流行っているようですが、今の時代は古いテクノロジーが突然バズったりします。
AIはそうした多様性を構造的に生み出すのが難しい。なぜなら、AIはどんなことも最適化しようとするからです。つまり、最適化されていない多様性を活かすことがこのAI時代の強みになるというわけです。
では、実際に多様性を活かすとは、どのようなことでしょうか。
私は、「人間同士、お互いの個性を認め合うこと」だと考えています。
■ブルーカラーの方が高給になる
今の日本人を見ていると、どうしても頭の中で序列をつくっている人が多いと感じます。例えば、大学に行った人のほうが行ってない人よりも偉いとか、職業も医者や弁護士は偉いけど肉体労働者はそうでもない、といったように……。
でも、これからのAI時代というのはそうした価値観が逆転する可能性があります。
コンピューター科学者で、人間とコンピューターのインターフェース研究の第一人者である暦本純一さんとお話をする機会があったのですが、暦本さんの予想ではAIはホワイトカラーをなくすとおっしゃっていました。しかも、今は現場仕事のほうが人材不足なので、給料が逆転する可能性すらあると。
つまり、従来多くの日本人の頭の中にあった序列感覚が、このAI時代に逆転する可能性がある。ひょっとしたら、MBAを取っているような人よりも、現場でおいしいパンを作れる人のほうが、社会的評価や収入が上がるかもしれないのです。
実は、こうした肉体労働の価値は、AI業界でも注目されています。
笑い話のようにも聞こえるかもしれませんが、先に紹介したAI開発企業が必死に確保しようとしているGPU、この原料となっているシリコンや希少元素を掘っている人たちがもっとも潤うのではないかというのです。いわゆる、ゴールドラッシュでみんなが金を掘るとき、スコップを売るのが一番儲かるという話に似ています。
そう考えれば、肉体を使った労働の価値というのは、これから多様性を活かす大きなアドバンテージになり得るのではないでしょうか。
■AI開発の最前線にいる「レッドチーム」
現代を生きる私たちにとって、AIをどのように使うか、そのセンスが、今まさに問われています。
「はじめに」で紹介したアメリカや中国、さらにはヨーロッパのAI先進国では、急速に発展するAIをどのように使うかについて真剣に議論が繰り広げられています。
日本と海外では、AIの使い方に対する議論がまったく違う。これは、私が今、「壁」の向こうを見ながら感じていることの一つです。
AIがもたらす危機、つまり「発展すればするほどAIは悪用されるのではないか」「AIは人間がしっかりコントロールするべきだ」といったテーマが海外での議論の主軸です。
それを物語るある事例を紹介しましょう。
日本ではまだ馴染みがないと思いますが、アメリカには「レッドチーム」という仕事があります。
レッドチームとは、サイバー攻撃演習においてさまざまな攻撃手法に対する耐性をチェックするために、実際のサイバー攻撃者を想定して攻撃を仕掛けるチームのことです。
現在、GoogleやMicrosoft、OpenAIといったAI開発の最前線では、サイバー攻撃の防御役である「ブルーチーム」とは別に、攻撃役のレッドチームを作り、模擬的に戦わせることでサイバー攻撃による弱点を見つけて開発を進めているのです。
一方、日本ではそうした危機感に対する議論が活発とは言えません。
■まずは「AI=怖い」を脱するところから
日本は聖徳太子の時代から「調和」を大切にしている国です。
十七条憲法の冒頭「和を以て貴しと為す(和を大事にすること)」という言葉は有名ですが、日本人の「和」を重んじる心は農耕文化が関係していると言われています。農作業は一人ではできないので、調和が大切にされたわけです。
同様に、AIと人間も課題は「調和」をめぐる関係性であるとするのが日本の主要な議論と言えるかもしれません。
あえて例えるならば、AI先進国は『ターミネーター』のようにAIのリスクを想像し、日本では『鉄腕アトム』や『ドラえもん』のイメージでAIを見ているというわけです。
では、日本も海外と足並みをそろえて危機感を持てばいいのかといえば、そう単純な話ではないと私は考えています。
「AI=危険」
「AI=怖い」
私たち日本人は日本人で、あえてこのような考え方をまずは捨てることから始めてみませんか。
コレクティブ・インテリジェンス。
これが、日本人がAIを使いこなすための最初のキーワードです。
コレクティブ・インテリジェンスとは、「共同知能」のこと。「脳+AI」という、私たち人間の脳とAIを集結させ、ひとつの目標を達成していくという考え方です。
■日本がこれから勝つ道筋
前述したように、日本人は昔から「和」を重んじてきました。
日本は自然災害が多く、皆が団結して困難に立ち向かわなければならなかった。力を合わせなければならないとき、「和」を乱さないよう周りとの調和に意識を向けた行動が求められたのです。
現在においても、チームプレーを得意とする日本人とAIとの適性が高いため、ビジネスチャンスが眠っている可能性は大いにある。だからこそ、人間の脳とAIの両者で協働する可能性を模索したほうがこれからの時代は建設的だということ。人間がAIを利用するアプローチに加えて、AIが人間の脳を使えれば、圧倒的な生産性を生み出す可能性を秘めているからです。
現在海外のビッグテックがAI開発にしのぎを削っているわけですが、日本が到底太刀打ちできないフェーズにすでに入っています。
だからこそ、日本人はコレクティブ・インテリジェンスで「脳+AI」というパフォーマンスを発揮する方向へ進む。そうすれば、ビジネスにおいても明るい未来が見えてくると私は信じているのです。
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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)

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