結婚相談所で婚活している人は、どんなことがきっかけで結婚を決意するのか。主宰する結婚相談所でカウンセラーを務めている大屋優子さんは「高学歴で高収入な男性のなかには女性経験がまったくない人もいる。
30代の女性は、あるデートを提案して結婚のきっかけをつかんだ」という――。
※なお、本稿は個人が特定されないよう、相談者のエピソードには変更や修正を加えている

■「ハイスぺ非モテ男性」の婚活事情
結婚相談所には、一生の伴侶を見つけるために、自分の身元を明かして学歴や収入の証明書を提出し、誠実に婚活をしている人々が集まっている。
そのなかには、恋愛経験がまったくないという人も少なくない。実際に私の結婚相談所にも、たくさんの恋愛未経験男性が相談にやってくる。
筆者が結婚カウンセラーとしてこれまで見聞きしてきた範囲では、この恋愛未経験の方は女性より男性に多く見られる。実際に、内閣府の調査でも20代男性の4割が交際経験がないと発表されており(*1)、数年前のコロナ蔓延や、個人情報保護の強まりなどの背景もあり、奥手、コミュニケーション下手なかたは、以前にも増して、出会いや恋愛の機会は減っている。
実は、この恋愛弱者の男性たちの中には、優秀な方々も非常に多い。
勉強ができる優等生で、一流大学や大学院で学び、学生時代もバイトやサークルや遊びに明け暮れる友人たちとは一線を画し、ゼミなどで研究に没頭。そして、一流企業の研究職などに就職。学生時代に出会いがなかっただけでなく、勤務先にも男性ばかりに囲まれる環境にいる。
彼らができないのは彼女だけで、勉強も仕事もできる。
また、所得も高い方が多く、余計な遊びもしない分、知らず知らずのうちに貯金も貯まっていたりもする。

つまりは、高学歴、高年収で、結婚相談所で言われるところの「ハイスペック」男性に属するかたが多いのだ。
(注)

(*1)『男女共同参画白書 令和4年版』「結婚と家族を取り巻く状況」
■高収入・高学歴でもなかなか結婚できない
しかし、彼らの多くは、残念ながら見た目がちょっとダサい。
言わずもがな、女性の目を意識したこともないから、私服は昔から、母親が買ってくれるものを着ているだけだったり、靴もかばんも、ブランドものなど持っているはずもない。
チェックのシャツの上に、チェック柄の羽織ものを着ていても、指摘されたこともない。美容院には行ったこともなく、近所の1000円カットを利用、眉毛カットなどという身だしなみがあることも知らない。
女性慣れしていないからか、女性との距離感をうまくつかめずコミュニケーションを深めていく機会を失ってしまうことも少なくない。彼らは年収・学歴・社会的地位において間違いなく「ハイスぺ」なのだが、女性に対する経験値のなさもあって婚活がスムーズに進みにくいのだ。ある意味で、非常にもったいない存在であるとも言える。
そんな「ハイスぺ非モテ男性」を射止めた女性がいる。
31歳、大卒、女性。大変温かく何不自由のない家族に囲まれて、暮らしてきたある女性は、両親に結婚を迫られていた。
「結婚したくないわけではない。
だけど出会いがまったくない」
穏やかで優しいご両親に育てられた、人柄も申し分のない彼女が結婚相手に望むことは「関西人」であること。学生時代を関西で過ごした彼女は、関西人の面白さ、人情味あふれる人柄に触れ、結婚するなら「関西人」が良いとずっと考えていた。
■お見合いするも「沈黙の1時間」
卒業後は、東京の実家に戻り、就職。勤務先の会社には関西人はほとんどおらず、折しも新型コロナウイルスが世界を震撼させた時期と重なり、ウイルス感染症の終焉の目途も立たない中、短期間で結婚相手を見つけるには、結婚相談所での活動一択と考えた。
彼女がお申し込みするお相手男性は、全員が関西出身。結婚後は、関西にお嫁に行くのも構わない。彼女の仕事は東京だが、結婚して関西に転勤希望も出せる。
そんな彼女が巡り合ったのが、先述の「恋愛経験ゼロ」の神奈川県在住、大阪大学出身の4歳年上の男性である。
お見合いでは、一度も目を合わせてくれなかった。それどころか、ずっとお見合い中、下を向いたまま、ジャケットのボタンを開けたり閉めたりを繰り返していた。彼からの質問は一切なし。ホテルラウンジで、お見合いの理想時間と言われる1時間を、沈黙が流れるなか、やっと時間をやり過ごした。

一般的には、このようなケースでは、交際成立しないことがほとんどだが、彼女は一時間のお見合いで、彼を見限るようなことはしなかった。
彼に交際希望を出し、もう一度話してみようと仮交際が成立した。
■緊張しすぎて会話が意味不明に
結婚相談所の婚活では、お見合い後仮交際が成立すると二人の連絡先が開示され、「ファーストコール」と呼ばれる電話を男性から女性にするのがルール。
お見合いの翌日、彼から彼女の携帯に電話がかかってきたが、そこでも緊張しまくった彼の言葉は、「何を言っているのかまったく意味不明だった」と彼女からの振り返りが入る。
それでも何とか、初デートのランチの約束をし、2時間ほど食事をした。そこでも、彼は、気の利いた会話などできるわけもなく、沈黙を乗り越えて、やっとランチが終わった。聡明な彼女は、彼には女性経験がないだけで、悪い人ではないことは、お見合いと初デートで理解できた。
会話の中で、彼の住まいが鎌倉の近くということ、神社仏閣の散策が好きなことがわかり、彼女からの提案で、2回目以降のデートは、鎌倉を彼に案内してもらうことになった。
元々、とても優秀な男性だから、知っていることには強い。彼の関西弁の案内で巡る鎌倉散歩は、彼女にはとても有意義な時間だった。会話がなくとも鎌倉の風景や、歴史ある寺社を歩いていると、二人の心の距離をどんどん縮めてくれるような気がしたという。
女性とお付き合いしたことがないから、毎回同じチェックのシャツを着てデートに現れたし、デート代はすべて割り勘だったし、彼女への好意を表す言葉もない。
手をつなぐことなんて、当然ない。
彼は、2016年にTBSテレビ系で放映され人気を博した『逃げるが恥だが役に立つ』の主人公・星野源演じる「ヒラマサさん」そのもののような恋愛経験なしの男性である。
■口下手な男性から本音を引き出す「36の質問」
結婚相談所の交際では、仮交際と呼ばれるフェーズから、真剣交際という結婚前提の交際にステップアップしていくのだが、奥手男子の彼から、そのような話が出るわけもなく、彼女とカウンセラーの私はどうしたものかと思いあぐねていた。
何しろ、彼の気持ちはまったくわからない。彼女と毎週会っているのだから、好感は持ってくれているはず。だが、彼から言葉や態度でそれを表すことはないのである。
彼のカウンセラーを通じて、彼の気持ちを打診もしてみた。残念ながら、このカウンセラーが全く頼りにならなかった。真剣交際へのお気持ちがあるのかを確認いただきたい、とお願いしても余計な話をするばかり。相手の結婚相談所が頼りにならないなら、こちらで何とかするしかない。
当時は、新型コロナウイルスの蔓延の時期に重なり、「不要不急の外出はしない」ことが叫ばれていた時期でもあった。そんなある日、二人は「オンライン」デートをすることになった。

だが、何しろコミュニケーション能力に乏しい彼と、どうやったらオンラインで会話が盛り上がるのか。そこで彼女が見つけてきたのが、「アーサー・アーロン博士の恋に落ちる36の質問」(*2)であった。
(*2)36の質問のもとになった論文はこちら。

The Experimental Generation of Interpersonal Closeness: A Procedure and Some Preliminary Findings
■「もし、今夜死ぬとしたら…」
この36の質問を交互に読み、質問に答えていくというものだが、恋愛経験ゼロではあるものの、真面目な彼には、効果てきめんであったのだ。
誠実に交互の質問に答えていくなかで、彼は彼女への気持ちを随所に言葉にして表した。
彼女への好意を、アーサー・アーロン博士の質問の答えの中でこんな風に伝えたのである。
「未来を水晶で見られるなら、あなたとどんな暮らしをしているのか見てみたい」

「もし、今夜死ぬとしたら、あなたと結婚したいんだとなぜ言わなかったか後悔すると思う」
オンラインデートは大成功を収めた。このあと、二人はすぐに真剣交際となり、あれよあれよという間に成婚退会、結婚した。
結婚後の彼は、恋愛経験ゼロ男子などという印象からほど遠い、おしゃれでイケている男性に変身。ダサかったお洋服は一掃。彼の服は、彼女のセレクトでさわやかな好男子となったばかりか、表情も明るくなり、自信に満ち溢れた性格にも見える。彼女が彼を変えたのだ。
「逃げ恥のヒラマサさん」はどこにもいない。
お子さんも授かり、共働きで共育児。教えられたことは着実にこなす優秀な男性は、家事もしっかり担当。
彼の役割であるお風呂掃除では、排水溝の髪の毛もしっかり取ってくれ、ごみ捨て係として、通販の段ボール箱もきちんとたたんで始末してくれる。結婚後に会社でも出世し、家庭人としても進化。彼女が仕事の日には、イクメンとして、保育園の送迎も、子供の世話も担当。
■“ダイヤの原石”を自分の手で磨き上げた
最初に会った彼は、石ころのような、光り輝く前のダイヤの原石男子だった。彼女が原石を見つけて、キラキラに光り輝くダイヤモンド男性に磨き上げたのだ。
旧帝大卒、超優良一流企業研究職勤務、関西出身のパートナーを射止めたのは、彼女の「相手の良いところを見つける」ことに長けた性格だったから。そして、恋に落ちる36の質問の力を借りて、コミュ力弱者の男性は、彼女に気持ちを伝えることもできた。
彼女と出会わなかったら、お見合いでも何も話せない彼の婚活はうまくいかず、今でも独身だった可能性もあるように思う。
多くの婚活女性が、うわべだけ取り繕うことが上手い「口先男性」ではなく、彼女のように光る可能性を秘めた、ダイヤの原石のような男性に出会ってもらえるようにと祈るばかりである。

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大屋 優子(おおや・ゆうこ)

結婚カウンセラー

1964年生まれ、株式会社ロックビレッジ取締役。ウエディングに特化した広告代理店を30年以上経営のかたわら、婚活サロンを主宰。世話好き結婚カウンセラーとして奔走。著書に『余計なお世話いたします 半年以内に結婚できる20のルール』(集英社)がある。

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(結婚カウンセラー 大屋 優子)
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