※本稿は、茂木健一郎『AIで脳は覚醒する AIには絶対にできないこと 人間だけができること』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■クリエイティブな作業の求められる意外な要素
「創造性って言っても、自分にはセンスとかないしなあ……」ここまでお読みになって、こんな風に感じた方がいらっしゃるかもしれません。
たしかに、巷に広がる「クリエイティブ」と言えば、デザイナーがコンピューター画面に向かって何かすごいものを創作しているイメージがあるかもしれません。
でも、これはまったくの見当違いです。クリエイティブという概念についての典型的な誤ったイメージだと言えるでしょう。では、ここでクリエイティブの“本質”について考えてみたいと思います。
それは絵が描けたり、小説が書けたり、あるいはキャラクターを生み出すことでもありません。クリエイティブをひと言で説明するなら、「さまざまな制約をクリアしながら新しいものをつくりあげる」ことではないでしょうか。
クリエイティブな作業と言っても、実際にはジャンルを超えて多種多様なものが存在します。例えば、ゲームをつくることも、ビジネスパーソンが企画書を作成することも、すべてクリエイティブな作業となり得るのです。
そうしたクリエイティブな作業のすべてに求められること、それは「締め切りをつくること」です。
■天才と締め切りの関係
ある高名な作家は、「執筆の動機は何か?」という質問に「預金通帳の残高が減ることだ」と言ったそうです。
締め切りという制約をクリアしないことには、出版社から原稿料がもらえず、預金通帳の残高が減っていきます。預金通帳の残高が減ってしまうのは困ったことです。締め切りまでに、どうすればいい原稿が書けるのか……。それを苦労して考えながら原稿を仕上げる。これこそがクリエイティブの本質だと思います。
これは同時に、プロとアマのクオリティの差が「締め切りがあるかどうか」にあることも教えてくれます。
職業音楽家のモーツァルトもバッハも、まさに締め切りの連続だったといいます。バッハにいたっては、聖トーマス教会で、日曜日やそれぞれの祝祭日ごとの儀式のために楽曲製作を請け負って生計を立てていた時代がありました。
実は、「締め切りがある」というのは、脳があれこれ必死に考えることができる絶好のチャンス。だからこそ、脳が覚醒できるというわけです。
先に登場した夏目漱石も同じです。
近代文学史に輝く名作『こころ』が生まれたのは、まさにこの締め切りのおかげでありました。
そもそもこの小説は朝日新聞の連載小説として書かれたのですが、ストーリー後半の「先生と遺書」の部分は、次に連載を担当する弟子が失踪してしまい、師匠である漱石が必死に物語を引き延ばす苦肉の策であったと言われています。
■本当に新しいアイデアはほぼ存在しない
漱石の才能はもちろんですが、締め切りのための時間稼ぎという“制約”が手伝って、この素晴らしい作品は生まれたのではないでしょうか。
締め切りを意識して、脳にプレッシャーをかける。すると、何かがひらめいたり、新しい解決策が出てきたりします。これなら誰にでもできるはずです。つまり、脳は鍛えるほどに、創造的になっていくということなのです。
もう一つ。クリエイティブとは、かつて文化人類学者のレヴィ=ストロースが提唱した「ブリコラージュ」という概念に似ています。
ブリコラージュとは、その場で手に入るありあわせのものを寄せ集め、それらを部品に何がつくれるかと試行錯誤しながら、最終的に新しいものをつくリ上げることです。
皆さんも仕事の場では、新しいアイデアを求められる機会がよくあるでしょう。
けれども、この世の中で、本当に新しいアイデアはほぼ存在しません。実際はさまざまなアイデアの組み合わせであることがほとんどです。
ここでも重要なのは、その締め切りが「自分の好きなこと」であること。そして、アイデアにつまったらいろいろなものを掛け合わせてみる。こうしたクリエイティブな作業ができるようになってくると、AIにはできない人間の脳の創造性が高まっていくのです。
■なぜ私は毎日ランニングをするのか
ここから、今すぐできる「茂木式・創造性の高め方」をご紹介しましょう。
私は毎朝、1時間ほどランニングしているのですが、たとえ1日のスケジュールがぎっしり詰まっている中でも、状況が許す限り走るようにしています。
AIが発展すればするほど、私の仕事や私生活をサポートしてくれることで、ランニングする時間も確保しやすくなると踏んでいます。
なぜ、私が毎日ランニングをするのかといえば、体力作りが目的ではありません。ランニングをしながら脳をゆったりした状態、つまり、先に述べた「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」が優位にある状態へと持っていくためです。
「街路樹の葉っぱが濃くなったな」
そんなふうに木を見上げたりしながら自由にのんびりと走ります。ですから、私がやっていることはほとんど子どもと変わりません。
AIが進化すればするほど、生活の中でゆったり脳を使う時間を確保することが難しくなっていくような気がしています。そう考えると、あくせく働く一方で、ゆったりすることの価値が高まっていくかもしれません。
■AI時代こそ逆に原始的な能力が求められる
最近、私が読んだ本に、『TIMEOFF』(John Fitch, Max Frenzel)があります。
人生の岐路に立ったときや、人生の新しい扉を開くというときに、実はゆったりとオフの時間を持つことが重要だといった内容でした。
私はこの本を読んで、このAI時代こそ逆に原始的な能力が求められると感じるようになりました。原始の人たちは1日のほとんどをゆったり、ぶらぶらと過ごしていたはずです。その理由は、ゆったりして脳がDMN優位の状態にあったほうが、何かに集中しているよりもっと速く身の危険を察知できたからだと考えられます。
DMNが優位に活動しているとき、脳は身体のセンサーがつかんだ情報を優先的に処理します。これに対し、何かに集中しているときの脳は、周囲からの刺激を認知する反応が鈍くなるのです。
これは現代の私たちも、よく経験することです。
テレビゲームやスマホなどに熱中するあまり周囲から話しかけられたことに気づかないパターンです。こうした状態を続けていると脳に余裕がなくなり、とっさの事態にも反応できませんし、新しい発想も出にくくなります。
そんな時代に終止符を打ってくれるのがAIだと私は考えています。
AIに任せられることはAIに任せる。そうしてできた時間を使ってゆったり走る時間をもつ。
ランニングをしていると、私の“ひらめき”の回数が際立って増えることに気づきます。ゆったり走っていてDMNが優位にあるときは、記憶のドットとドットが結び付いてアイデアが生まれやすくなるのです。
■集中と弛緩で脳のバランスを整える
走ることが体力的に無理な方なら、ウォーキングや散歩でもOKです。ぼんやりできるなら、何でもかまいません。バスや電車に乗って、移り変わる車窓の景色を眺めることでもいいでしょう。
DMNが活性化する状況にあれば、何かがひらめく可能性は高まります。私の場合だと、大きなひらめきや気づきは、なぜかランニングの間に起こるのです。
ランニングしていて何かをひらめいたら、私はすぐに自分のLINEにメモとして送ります。ひらめき送付用の専用アカウントをちゃんと用意してあるのです。
こうしたこともいずれはすべてAIが管理してくれるようになるでしょう。それだけでなく、AIが私の日々のランニングの特徴やどれくらいDMNが活性しているかを学習して最適なランニングライフを送ることができるようになるかもしれません。
とはいえ、あまり長い時間DMNを優位に働かせ続けることは、脳によい影響を与えないことも付け加えておきます。
よく勘違いされるのが、ゆったりとしているからDMNは脳にとって省エネの状態なのかと思われるかもしれませんが、実はまったくの逆。身体のセンサーが認知活動を積極的に行っているため、脳はエネルギーを大量に消費します。つまり、いつでも通常モードで活動できるように脳が待機し続けている状態と言ったらいいでしょうか。ですから私も、ランニングは1時間までと決めています。
集中と弛緩、そのちょうどいいバランスで脳のコンディションを整えることが、創造性を高める秘訣でもあるのです。
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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)

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