※本稿は、マルコム・グラッドウェル『Outliers 思考と思考がつながる』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■アメリカでもっとも賢い男
アメリカのテレビに『1vs.100』というクイズ番組がある。その2008年シーズンの5回目の放送で、クリストファー(クリス)・ランガンという名前の特別ゲストが登場した。
テレビ界では、『フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア(百万長者になりたい人は?)』という番組の驚異的な成功を受けて、数多くのクイズ番組が生まれた。『1vs.100』もそんな番組のひとつだ。
「モブ」と呼ばれる100人の一般人が出演し、週ごとに変わる特別ゲストとクイズ対決をする。
賞金は100万ドルだ。ゲストはたったひとりで、100人の敵よりもたくさんのクイズに正解しなければならない。その基準に照らせば、クリストファー・ランガンほどの適任者はなかなか見つからないだろう。
「今夜、モブは史上最強の敵と対決することになります」と、番組のナレーションが入る。
「ご紹介しましょう。
そこでカメラがゆっくりと回り、がっしりした体格の50代の男性が画面に登場した。
■アインシュタインよりもIQは45高い
「IQの平均は100といわれています」と、ナレーションは続ける。
「アインシュタインはIQ150でした。そしてクリスのIQは195。彼は現在、その驚異の頭脳を使って宇宙の理論を解き明かそうとしています。しかし、そのキングサイズの頭脳をもってしても、100人の挑戦を退けて、100万ドルを手に入れることなど、はたして可能なのでしょうか? 今夜の『1vs.100』で、その答えが明らかになります」
そして大きな拍手に迎えられ、ランガンがステージに登場する。
「この番組で勝つのに、そこまで高いIQがはたして必要なのでしょうか?」と、番組の司会者のボブ・サゲットは尋ねた。サゲットはおかしな目でランガンを見ている。まるで研究の検体か何かを見ているかのようだ。
「そうですね、実はむしろ障害になるかもしれないと考えています」と、ランガンは答えた。低く、確信に満ちた声だ。「IQの高い人は、何か特定の物事を深く考える傾向がある。
「まあ、なんとかやれるでしょう」
■凡人には理解不能な奇問
それまでの10年で、クリス・ランガンは奇妙な名声を獲得していた。天才としてアメリカ中で有名になった人物、外れ値のセレブリティだ。
ニュース番組にゲスト出演し、雑誌で特集が組まれた。エロール・モリス監督のドキュメンタリー映画にもなっている。そのすべては、ランガンが言語を絶する頭脳の持ち主だったからだ。
テレビのニュース番組『20/20』で、実際に神経科学者をスタジオに呼んでランガンのIQを測ったことがある。結果は、文字通りのぶっちぎりだった。高すぎて計測できなかったのだ。
このスーパーIQテストを考案したのは、自身もかなりの高IQを持つロナルド・K・ホーフリンだ。言語のつながりを推論する分野からひとつの問題を紹介しよう。「歯と雌鶏(めんどり)の関係は、巣と何の関係と同じか?」。答えを知りたい? 残念ながら、私にはさっぱりわからない。
■神を知る5歳児
ランガンはわずか生後6カ月で言葉を話した。3歳になると、毎週日曜日にアナウンサーがマンガを朗読するラジオ番組を聴き、そのマンガを目で追いながら自分で読み方を覚えた。5歳のときには、祖父に対して神は実在するのかと尋ね、そして祖父の答えにがっかりしたという。
学校に上がると、たとえば外国語のクラスのテストでは、まったく勉強せずに教室に入り、先生が来るまでの2、3分の間に教科書をざっと読むだけで、誰よりも高得点を取ることができた。
10代の初めは、農場で働きながら、理論物理学の分野の本を幅広く読むようになった。バートランド・ラッセルとアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドによる、難解なことで有名な名著『プリンキピア・マテマティカ』は、16歳のときに読破したという。
弟のマークは、高校時代のランガンの夏休みのすごし方についてこう言っている。「数学を1時間やったら、次にフランス語を1時間やる。その次がロシア語だ。それが終わったら哲学書を読む。このルーティンを一日も休まず続けていたよ」
■クイズ番組で天才が出した「答え」
また別の弟のジェフは言う。
「クリストファーが14歳か15歳のときのことだ。冗談半分に描いた絵でも、まるで写真のようだった。15歳のときはジミ・ヘンドリックスばりに舌でギターを弾いていたよ。ジャーン、ジャーン、ジャーンってね」
「学校へは半分しか行っていなかった。テストのときに顔を出すだけだったが、学校側は何も言えなかった。僕たちから見れば、実に愉快だったよ。
『1vs.100』の番組のセットの中で、ランガンは自信満々だった。低音のよく響く声で、小さな目は鋭く光っている。回りくどい話し方はしない。正しい言葉を探して悩むことも、前に言った内容をくり返すこともない。
それに加えて、「あー」や「えーと」など、会話のつなぎもほとんど口にしなかった。簡潔にして洗練された言葉が、まるでパレードで行進する兵隊のように、次から次へと彼の口から飛び出してくる。司会者のサゲットが問題を出すたびに、彼はいとも簡単に正解する。
獲得した賞金が25万ドルに達したところで、彼は頭の中で素早く計算した。この時点で、ゲームを続けることによって得られるかもしれない利益よりも、すべてを失うリスクのほうが上回る。
突然、彼は答えるのをやめると、「お金をもらう」と宣言した。そしてサゲットと固い握手を交わし、ゲームを終えた。
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マルコム・グラッドウェル
ジャーナリスト
1963年生まれ。カナダ・トロント大学トリニティカレッジ卒。複雑な社会現象を鮮やかに解き明かすカナダ系アメリカ人のジャーナリスト兼作家。イギリス系ジャマイカ人の母とイギリス人の父を持つ彼は、多様な文化的背景から独特の視点を培った。『ワシントン・ポスト』紙の記者を経て、『ニューヨーカー』誌のスタッフライターとして活躍。彼の真骨頂は、一見当たり前に思える現象の裏に潜む驚くべき法則を発見すること。著書『The Tipping Point』『Blink』『Outliers』などが世界中でベストセラーとなっており、ビジネスから教育まで幅広い分野に影響を与えている。
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(ジャーナリスト マルコム・グラッドウェル)

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