■ヤクルト村上、巨人岡本はMLBで活躍できるのか
今オフに、ヤクルトの村上宗隆、巨人の岡本和真がMLBに挑戦すると言われている。また楽天の辰巳涼介も、MLB挑戦を球団に求めている。
このタイミングでNPB傘下の株式会社NPBエンタープライズ、コナミデジタルエンタテインメント、ソニーの3社が期間限定で「NPB+(プラス)」というアプリをテスト配信した。
このアプリでは、球場に設置された高精度カメラ「ホークアイ」の画像をもとに、投手の球速、回転数、タテヨコの変化、打者の打球速度、飛距離、スイングスピード、打球角度などが瞬時に表示される。
「NPB+」はMLBの「スタットキャスト」を手本にしていると思われるが、これによってNPBの投手、打者のさらに詳細なデータをMLBと比較できるようになった。
とりわけ打者は、NPBではこれまでほとんど公表されていなかったMLBで重視される指標が「NPB+」で一挙に出している。画期的なことだと言える。
スタットキャストの打撃部門のデータは「フライボール革命」の考え方に基づいている。
フライボール革命とは、データ野球の進展とともに明らかになった「最低でも打球速度が158km/h以上で、打球角度が26~30度(バレルゾーン)に打球を打つことで、本塁打、長打になる確率が格段に上がる」というデータに基づいた打撃理論のこと。
早速、NPBに移籍する可能性がある打者と、大谷翔平などMLBの主要打者の比較を試みよう。
■NPB打球最高速度1位は巨人の外野手
図表1には通常の成績に加え、打球最高速度、ハードヒット率、バレル率を出した。
まずは打球最高速度。
これは、そのシーズンに打者が出した最大の打球速度。この数字の上位者が、例年、本塁打数でも上位に来ている。
2023年の第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の際、侍ジャパンに加わった大谷翔平は、バンテリンドームで外野の最上段席に達する打球を放り込んでいた。ケージの後ろでデータを見ていたヤクルトの主砲、村上宗隆は顔色を失った。大谷の最高打球速度は軽く190km/hを超えていたからだ。
NPBでは屈指の打球速度を誇っていた村上だが(当時で180km/h超え)、大谷のあまりの凄さに絶望的な気持ちになったのだ。大谷は2021年以降、打球最高速度ではMLBで5位以内に入っている。
NPBにおける打球最高速度(規定打席以上)は、巨人のキャベッジの189.1km/h。これはMLBの規定以上では10位程度になり、鈴木誠也よりも上だ。
続いて阪神の佐藤輝明が186.7km/hで2位、佐藤もMLB挑戦を表明している。
パ・リーグの本塁打、打点二冠王の日ハム、レイエスは184.3km/hで5位。MLB志向が強いといわれる日ハムの万波中正は183.9km/hで6位だった。
■「打球速度=MLBで成功する条件」ではない
規定打席以下ではヤクルト村上が187.5km/h。WBC時点より数km/h速くなっているようだが、大谷翔平は193.1km/h。まだ差がある。
岡本は180.7km/h、これはレッドソックスの吉田正尚と同レベルだ。
MLB挑戦を球団に訴えている楽天の辰巳だが、打球速度で見る限りは論外といっていいだろう。
そんな中で、今シーズン中にソフトバンクから巨人に移籍した砂川リチャードの打球速度はなんと191.8km/h。MLBでも5位に入る猛烈な速さだ。ただ、打球速度だけが「MLB打者として成功する条件」ではない。
MLBでは、パイレーツの27歳外野手オニール・クルーズが打球速度197.8km/hで1位。この選手はここ数年、トップクラスの数字を出しているが、タイトル争いに絡んでいない。
故障が多いうえに、私生活で死傷者を出す交通事故を起こすなど集中力の欠如が指摘され、ポテンシャルが成績に結びついていない。
大谷は193.1km/hで3位、ア・リーグ最強打者のヤンキース、アーロン・ジャッジが5位、今季ナ・リーグ本塁打、打点王のフィリーズ、カイル・シュワバーは12位、カブスの鈴木誠也は15位、ア・リーグ本塁打、打点王のマリナーズ、カル・ローリーは34位だった。
打球速度が最重要の指標なのは間違いないが、これに加えて「ハードヒット率」と「バレル率」も非常に重要だ。
■MLB最強打者の「強さの源泉」
ハードヒット率は、打球に占める打球速度(95mph、153km/h)以上の打球割合のこと。フライボール革命全盛のMLBでは、打球速度が上がれば上がるほど本塁打、安打になる確率が高いとされる。ハードヒット率が高い選手は、速い打球をより多く打てることになる。
バレル率=BE/BBEは、フライボール革命に基づいた指標だ。フェアゾーンに飛んだ打球の内、「本塁打・長打になる確率が上がるバレルゾーン(打球角度が26~30度)」でとらえた打球の割合を示す。
大谷翔平の数値を見ると、ハードヒット率は2位、バレル率は3位だった。大谷は、コンスタントに速いスイングができるうえに、打球をバレルゾーンに打つことができる「技術」を持っていることがわかる。
ヤンキースのジャッジもハードヒット率が3位、バレル率は1位とこの指標で上位となっている。これが、ア・ナ両リーグ最強打者の「強さの源泉」といえるのではないか。
ナ・リーグ本塁打数で大谷を抜いたシュワバーを見てみよう。打球速度は12位だったが、ハードヒット率1位、バレル率3位だった。
ア・リーグの本塁打王のローリーの打球速度は34位、ハードヒット率36位だが、バレル率は4位だった。
今シーズンのMLBの本塁打王の2人は、パワーや総合力では大谷やジャッジに劣るが、ホームランを打つ技術で彼らを少し上回ったといえよう。
■ハードヒット率、バレル率1位は阪神・佐藤
カブスの鈴木誠也のハードヒット率、バレル率はMLB上位といえる数字ではあるが、タイトルを狙えるレベルではないことがわかる。レッドソックスの吉田正尚は、今季故障に泣いたが、数字的にも厳しい結果だった。
NPBでのハードヒット率、バレル率を見ると、規定打席以上では阪神の佐藤輝明が両方とも1位になっている。佐藤はおそらくフライボール革命を理解して、より速い打球を「バレルゾーン」に打つことを心掛けているのではないかと思われる。万波中正もそういう意識があるのではないか。
佐藤も近い将来のMLB挑戦を目指していると思われるが、引き続き打球速度を上げる必要があるだろう。また後述するように三塁守備は通用しないと思われるので、一塁、外野での経験値を高めるべきだ。
規定打席以下では、ヤクルトの村上宗隆がハードヒット率58.7%、バレル率23.5%と、MLBの打者と比べてもトップクラスの数字をたたき出している。
村上に比べると、岡本和真は打球速度だけでなくハードヒット率もバレル率も平凡だ。この数字では、MLBでは鈴木誠也程度、つまり各球団の中軸クラスの成績も厳しいだろう。MLB球団の岡本に対するオファーは、村上とかなり差がつくのではないか。
楽天の辰巳涼介に関しては、数値を見る限り、たとえ球団がポスティングシステムでのMLB移籍を容認したとしても、メジャー契約をするMLB球団はないのではないかと思われる。
■日本人内野手が成功しないワケ
村上、岡本、佐藤輝明に関しては、MLB挑戦にあたり、守備という課題が立ちふさがる。
この3人のスラッガーは三塁手だ。しかしMLBでは、NPBの内野手はほとんど通用しない。
NPBからMLBに移籍して内野手として通用したのは、一時期の井口資仁(ホワイトソックス)くらいだろう。他の選手は、遊撃手、三塁手、二塁手として入団しても、外野にコンバートされたり、控えに回されたりした。
MLBの球場の内野は天然芝で、打球は不規則に変化する。
西武からアスレチックスに移籍した中島裕之(現在は宏之に改名)は、NPBでは一線級の遊撃手だったが、打撃不振、怪我、故障に加え「守備で使えない」という評価になりメジャーに昇格できなかった。
日本ハムでは名二塁手と言われた田中賢介も、ファームで内野失格とみなされ、メジャー昇格時は外野手登録だった。
村上も岡本も、さらには佐藤も、MLBに移籍すれば、外野手、一塁手、さらにはDHへの転向が避けられない。
■大谷の本当のすごさ
今季、日本人打者でポジションに就いた選手はいない。大谷、鈴木、吉田の3人ともメインはDHだった。
今のMLBの選手評価は、投打+守備の総合指標である「WAR」が最重要視される。記録サイトBaseball Referenceによると日本人野手のWAR(rWAR)とリーグ順位は以下の通りだ。
大谷翔平6.6(DH)ナ・リーグ2位
鈴木誠也2.6(DH)ナ・リーグ49位
吉田正尚0.2(DH)ア・リーグ185位
守備の評価がマイナスになるため、DHのWARは低くなりがちだ。大谷翔平の場合、成績が超ド級なので、2位となっているが、鈴木は103打点を挙げても49位、規定打席に達しなかった吉田に至ってはレギュラー未満(136位以下)の185位だ。
村上、岡本も、打者としてそこそこの数字を上げたとしても、守備に就かなければ総合評価であるWARは上がらないのだ。
守備面での貢献度が期待できない日本人野手の場合、評価は「並みの選手」になってしまう。
もちろん、NPBの実績に関わらず、MLBでさらに成長、進化することができれば、こうした予測を裏切ることが可能になる。
ただ、多くの日本人選手がMLBに挑戦した中で、MLBで本当に進化したといえるのは、大谷翔平ただ一人なのだ。
今、日本の野球選手の多くは大谷を目標にしているだろうが、彼の本当の凄さは日米で活躍したということではなく、アメリカでさらに進化した、ということに尽きる。
ナ・リーグチャンピオンシップ決定戦で、大谷は投げては6.0回10奪三振自責点0で勝利投手、打っては3本塁打と言う空前の活躍をしたが、そのスケール感に後続の日本人選手がどこまで迫れるか、が課題なのだ。
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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)

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