睡眠の質を良くするにはどうすればいいか。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんは「豆電球レベルの弱い明りでも睡眠に影響を与える。
部屋は真っ暗にして、温度は18℃以下、26℃以上にしないことが大きなポイントだ」という――。
※本稿は、梶本修身『世界一眠らない日本に疲労専門医が伝えたい お疲れ日本人の本当の休み方』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■快適な室温は22~24℃、湿度は50%前後
眠りの質は、環境にも大きく左右されます。環境が整っていないと脳は回復できず、自律神経にいたっては休むどころか酷使されるような場合も。脳と自律神経にとって、「安心・安全・快適」な睡眠環境を整えることは必須です。
まず意識したいのが寝室の空調。脳にとってもっとも快適な環境は、22~24℃の室温、50%前後の湿度といわれ、この状態をキープすることが睡眠の質を高めるためには不可欠なのです。
たとえば夏は、高温多湿で脳の温度が上がりやすいため、自律神経が睡眠中に働き、発汗させて体温を下げる指令を出すことになります。これは、いびきをかいているときと同様、自律神経にとってはまるで運動中と同じ。フル稼働させられている状態のため、いっこうに休むことができません。
■エアコンは「一晩つけっぱなし」を推奨
エアコンは夏場であれば24~25℃に設定し、一晩中つけっぱなしにしておくべき。ここでは「電気代がもったいない」という意識は捨てましょう。
途中でエアコンが消えると、結局、寝ている途中で汗を大量にかくことになり、脳と自律神経の疲労はかさむばかり。タイマーを使うのは厳禁です。
日本のマンションは、耐震性に優れているぶん、コンクリートがかなり分厚い構造です。コンクリートは昼の直射日光で輻射熱を蓄え、外気温が下がってくる深夜に室内側にも放熱します。
その結果、就寝時に冷房をかけて窓を閉め切っていた場合、深夜0時に外気温より室内温度のほうが高くなるケースが多いことがわかっています。夜間の熱中症を招く原因にもなるので、オフタイマーの利用は絶対に避けてください。
■「暖かい布団」→「寒い部屋」は負担大
冬の場合は、暖かい布団に入っていると副交感神経が優位となってリラックスできるので、自律神経は比較的、穏やかに過ごすことができます。
とはいえ、冬もエアコンは一晩中つけっぱなしにし、室温は一定に保つのがおすすめ。寒い日の早朝は、布団から出たときに血管が一気に収縮し、血圧が急激に上昇します。これは心臓や脳に大きな負担をかけてしまうため、要注意。冬場のエアコンは、20℃前後を目安に設定するといいでしょう。
寝室の温度は18℃以下、あるいは26℃以上にしないことが、良質な眠りを得るための大きなポイントとなります。
しかし、とくに暑い時季は、脳にとって快適な温度である24~25℃にエアコンを設定していると、多くの女性は冷えを感じてつらいのが本音でしょう。
■靴下を履いて眠ると、睡眠の質が下がる?
平均的に、女性は筋肉量が少ないことが多く、冬以外でも手足に冷えを感じている人がかなりいます。筋肉量が少ないということは、熱の産生量が少なく、さらに基礎代謝が低いということ。寒さを感じながら眠ると、それはそれで体を震えさせて温めなければならず、自律神経は疲弊してしまいます。
その場合は、夏でもパジャマを長袖にする、薄い布団をプラスするなどして、各自、調整しましょう。重要なのは「頭寒足熱」。室温は涼しく、体は温かく保つ工夫が必要です。
また、私たちは、眠るとき深部体温が自然と下がることで、スムーズな入眠を迎えます。冷え性だと靴下を履いて眠る人もいるかもしれませんが、これは季節を問わずNG。足先からの放熱が進まないため深部体温が下がり切らず、睡眠の質が低下してしまう可能性があるからです。
また、冬に電気毛布を使う場合も、一晩中、高い温度でつけっぱなしにするのは避けましょう。布団に入る前にあらかじめスイッチを入れておき、眠るときは消すか、あるいは最低温度に設定するのが鉄則です。

■照明で「睡眠ホルモン」をコントロール
次は、照明など、明るさにフォーカスしていきましょう。
私たちが夜になると眠くなるのは、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の働きによるもの。メラトニンの分泌量が少ないと、深い眠りに入ることができず、疲労回復は滞ってしまいます。
眠る前に、ブルーライトや真っ白な蛍光灯のように強い光を浴びていると、脳は昼間だと勘違いしてしまい、メラトニンは正しく合成されません。また、さほど強くない光でも、長時間浴びていると、メラトニンをつくる過程がブロックされることがわかっています。
つまり、良質な睡眠のためには、眠る前から照明などの明るさをコントロールしておく必要があるということです。
眠る3時間ほど前から、明るい光を避けることができればベストですが、お風呂上がりなど寝る1時間ほど前からでも、強い光を目に入れないようにすれば光の影響は抑えられます。
照明の光の色も、蛍光灯のような白色ではなく、夕焼けを思わせるようなオレンジ色の暖色系が◎。脳は「もう日が沈んで眠る時間だな」とリラックスし、入眠への準備を始めていきます。
オレンジ色の間接照明を取り入れてもいいですし、照明機器にオレンジ色の耐熱フィルムを貼ってもOK。やさしい光を演出しましょう。
■豆電球、デジタル時計の光でさえ悪影響
そして睡眠中の明るさに関していうと、眠るときは真っ暗な部屋で寝るのが正解です。

豆電球レベルの弱い明かりでも睡眠に影響を与えることがわかっていて、最近ではデジタル時計の光でさえ睡眠の質を低下させるといわれています。
寝室の遮光カーテンはしっかりと閉め、光をまったく感じない部屋で寝ることが、睡眠の質を高めるためには最適な環境だということです。
真っ暗だと不安を覚えて眠れないという人は仕方ありませんが、睡眠中に光はないに越したことはない……と覚えておきましょう。夜中にトイレにいくときが心配だという人は、人感センサーつきのフットライトを活用するのがおすすめです。
■あお向けで寝るのはデメリットだらけ
理想の寝姿勢は、あお向けより横向きです。というのも、あお向けで寝ていると、舌の根元である舌根や喉の筋肉が重力で垂れ下がることで、いびきをかきやすくなる、気道がふさがって無呼吸を起こしやすくなる、といったデメリットがあります。
いびきは良質な睡眠の大敵。せっかく寝ているのに、自律神経も脳も、まったく休まらなくなってしまうからです。
横向きで寝るといびきをかきにくく、疲れが回復しやすいことがわかっています。気道が狭くなることを防げるので、空気の通りがよくなり、脳に十分な酸素を安定的に届けることができるでしょう。
横向きのときは、とくに体の右側を下にするのが◎。これには理由があり、胃の出口(幽門部)が胃の右下にあるため、右側を下にして眠ることで胃の中にある食べものが重力に従ってスムーズに移動できるようになります。
消化吸収を司っている自律神経の働きをサポートし、負担を減らすことができるというわけです。
■抱き枕を挟んで横向きに寝るのが理想
そのため、寝具も「横向きに寝る」ことを前提として選ぶべき。最近は横向きに寝るための枕もいろいろと出ていますし、オーダー枕なら自分にピッタリな枕をつくることができます。
また、寝ている間にあお向けに戻ってしまう人や、横向きに寝るのがつらいと感じる人は、抱き枕を使うのもおすすめ。抱き枕を脚の間に挟むという寝姿勢は、実は睡眠中の体の負担を軽減してくれる“理想的な姿勢”といわれています。睡眠の質アップに一役買ってくれるでしょう。
マットレスに関していうと、一般的に肥満傾向な人は硬いマット、痩せている人は柔らかいマットがおすすめです。
理想をいうならばオーダーメイドですが、もし予算的に難しいということであれば購入する前に必ず実際に横たわり、寝心地を確かめておいて。一度も試すことなく、ネットでポチッと購入するのはやめましょう。
横向けになったときに体に合っているか、寝返りは打ちやすいかなど、自分にフィットしているかどうかで、眠りの質は大きく変わってくるからです。

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梶本 修身(かじもと・おさみ)

東京疲労・睡眠クリニック院長

医師・医学博士。大阪大学大学院医学研究科修了。
2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」研究統括責任者。自らプログラム作成したニンテンドーDS『アタマスキャン』は30万枚を超えるベストセラーとなり、脳年齢ブームを起こす。著書に『すべての疲労は脳が原因1・2・3』(集英社)、『寝ても寝ても疲れがとれない人のための スッキリした朝に変わる睡眠の本』(PHP研究所)などがある。「ホンマでっか⁉TV」ほか、「ためしてガッテン」、「世界一受けたい授業」、「林修の今でしょ!講座」など、TVやラジオにも多数出演。

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(東京疲労・睡眠クリニック院長 梶本 修身)
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