いい医師を見分ける方法はあるのか。医師の和田秀樹さんは「医師を選ぶときの基準として、知識や技術はもちろん重要だが、最も大切なのは、医師との相性だ。
治療のパートナーとして気持ちに寄り添い、尊重してくれる医師を選ぶことが、長期的な信頼関係をつくるためには不可欠だからだ」という――。
※本稿は、和田秀樹『喪失感の壁 きもち次第で何があっても大丈夫』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■「かかりつけの主治医が引退してしまった」
「過去に大病を患ってから20年来お世話になっていた主治医が、高齢のために引退してしまいました。長年付き合ってきて、これ以上に信頼できる医師とは出会えないかもしれないと思うと、不安で仕方がありません。子どもや孫のような若い医師に診てもらうのも、正直心配です。(60代後半・男性)」
■開業医でも70歳前後で引退する人は多い
これもなかなかつらいですね。信頼していた医師が突然やめてしまうと、不安が大きくなりがちです。特に長年お世話になっていた場合は、その人との関係性が一種の安心材料となっていた可能性が高い。
とはいえ、医師も人間ですし、開業医でも70前後で引退する人が多いのが事実。
ここでは自分に合う新しい主治医探しのために、私の考える「良い医師」の見極め方をお伝えしましょう。
第一に、年下の医師、若い医師だからという理由で、頼りないのではないかという偏見を持たないことが大事です。相談者の方がいま60代であれば、今後20年、30年の付き合いになるかもしれない。
そのときにも働き盛りでいてくれるのですから、むしろ安心ではありませんか? 
とはいえ、若ければいいというわけではもちろんありません。長い付き合いをするのであれば、適当に済まさずに、ドクターショッピングをしてしっかりと見極めたほうがいいと思います。
いまは健康でどこも悪くはない、という人でも、50、60代のうちに心の主治医、かかりつけの精神科医を持つことをすすめています。なにしろ喪失感の押し寄せる世代ですから、拠り所があるだけでだいぶ安心できるはず。それも、比較的軽い症状のときに、いくつかの病院を回ってみるといいですね。
■最も大切なのは「医師との相性」
医師を選ぶときの基準として、知識や技術はもちろん重要ですが、最も大切なのは、医師との相性です。医師と患者という一方通行の関係ではなく、治療のパートナーとして気持ちに寄り添い、尊重してくれる医師を選ぶことが、長期的な信頼関係をつくるためには不可欠です。
ろくに問診もしないで薬を処方する医師は論外です。「何か変わったことはありましたか」「ストレスに心あたりはありますか」など、話を引き出してくれる医師は良心的だと考えてよいでしょう。
何よりのポイントは、話していて気持ちが楽になるかどうか。これは、実際に診察室に入ってみないとわかりません。ただ、態度が偉そうな医師、電子カルテしか見ない医師は、基本的におすすめはしません。
よほどの難病で、どうしても専門の医師にかかる必要がある場合は、割り切って治療を受けることも必要ですが。
■世間的な名医よりも、自分にとっての「明医」
また、きちんと患者と向き合っている医師は、診察室に入ったときに明るい感じがするものです。話していて暗い気持ちになったり気疲れしたりする医師は相性が良くない証拠です。診察後に「なんとなく心地よい」と感じるのであれば、その医師はあなたにとって良いパートナーかもしれません。直感的に「この人なら信頼できる」と感じた場合、その感覚を大切にしましょう。  
逆に、この医師は嫌だな、話しにくいな、という直感も大切にしてください。
信頼できる医師との関係は、「安心感や信頼感」を感じることから始まります。そして高齢になるほど、人生経験からの直感はかなり信用できます。
信頼できる医師との出会いは、今後の健康を支える大きな力になります。
世間的な名医よりも、自分にとっての「明医」を探してください。
■「年甲斐もなく失恋してしまった」
「60代男性、バツイチ独身です。職場に派遣社員としてやってきた二まわりも年下の女性に、年甲斐もなく本気で恋をして、そして、失恋してしまいました。


失恋といっても、気持ちを伝えたわけではありません。私には子どもはありませんが、娘といってもいい年齢ですし、彼女はシングルマザーでしたから、いつも忙しそうにしていて、声をかけるタイミングもありませんでした。

正直、一目惚れだったので、再婚をしたいと思うほど相手を知っていたわけでもありません。ただ、外見が好みなだけではなく仕事熱心でいつも明るく、職場で姿を見かけるだけでも幸せな気持ちになり、日々のはりあいにもなっていました。

けれど先日、その彼女が再婚をしたと聞きました。その報告に思ったよりもショックを受けて、近頃は「恋なんてしなければよかった」と思春期の頃のような気持ちにもなってしまいました。傷心の癒やし方があれば、ご教授願いたいです。(60代後半・男性)」
■恋は最高の若返り薬
相談者さんの間違いは、年下の女性に恋をしたことではなく、「年甲斐もなく」などとおっしゃっているところです。恋愛にも結婚にも年齢などまったく関係ありません。年の差だって、お相手に迷惑行為をするのでなければ何も問題はない。
恋は最高の若返り薬だという人もいます。ときめきを感じることで男性ホルモンも女性ホルモンも分泌が活発になりますから、どんどんしたらよろしいですよ。

実際に、相談者さんはその彼女に恋をして、毎日にはりあいを感じておられた。間違いなく健康にも良い効果があったことと思います。
恋愛は、時に大きな喜びや充実感をもたらすものですが、同時に心の柔らかな部分を刺激するものでもあります。だからこそ、失恋の痛みを感じるとき、「もう恋をしなければよかった」といった気持ちが湧いてくるのも自然なことです。
心理学的な癒やしのプロセスとしては、まずしっかりと、傷ついている感情を認めたほうがいいとされています。「年甲斐もなく」「思春期の頃のような」と蓋をして痛みを押し込めてしまうと、逆に心の中にずっと引きずってしまうことがあります。
無理に気持ちを切り替えようとするのではなく、まずは恋の喪失感をしっかり認めることが大切です。何か行動を起こせばよかったといった後悔や、再婚相手への恨みつらみが湧いてきても罪悪感を感じることはありません。そうして感情が高ぶる経験も、癒やしのプロセスとして必要なものです。
■「年甲斐もなく」と言うのはダメ
そして、相談者さんは独身とのことですから、また恋がしたい、パートナーがほしいと思ったら、次は勇気を出して行動を起こしてみるのも良いと思いますよ。いまはマッチングアプリなどもありますし、その気になれば出会いの機会は昔よりもつくりやすいと思います。
失恋した相手を追いかけることは、おすすめしません。
恋ではなく執着になってしまうと、自分も苦しくなります。
気持ちを伝えてフラれてしまった場合も、失敗の要因を検証し、「もっと相手の好みをよく知ろう」とか「いきなり食事に誘うのはやめよう」と反省することは大事ですが、その教訓は次の相手で活かしてください。
もっとも、恋といってもグラデーションがあって、よく行くお店でお気に入りの店員さんがいる、という程度のほのかな恋心でも、自分で思う以上に日常に彩りを与えてくれるものです。
これは性格にもよって、特に男性は特定のパートナーを決めずに、気楽にその時々でいろいろな相手と話をしたい、デートしたいという人も多いのではないでしょうか。
いずれにしても、「年甲斐もなく」という言葉は使わないようにしましょうね。
■「もう年なんだから」と萎縮しなくていい
「年甲斐もなく」という言葉の害を、もう少し、説明しておきましょう。
「年甲斐もなく」「いい年をして」「年相応にしないとおかしい」
このような年齢による偏見や差別をエイジズムといいます。エイジズムは、レイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)に続く重大な差別といわれているのに、高齢者自身が受け入れてしまっているケースが非常に多い。今回の相談者さんもそうですが、恋愛という心の自由はもちろんのこと、暮らしぶりやファッションといった趣味嗜好も、本来であれば何の制約も受けるものではありません。
なのに、「もう年なんだから大人しくしないと」という、何の根拠もない言説にとらわれて、萎縮してしまっている人がなんと多いことでしょう。もはや呪いの言葉です。
世間体や古い慣習にとらわれることなく、心の赴くままにときめく経験をしてほしいですね。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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