医療保険は本当に必要なのか。総合保険代理店の代表を務める藤井泰輔さんは「医療保険を検討する前に保険の仕組みを知るべき。
実際に被害に遭ったときの損失がいくらなのか、その認識が低いと本当に必要な保険が判断できず、万一の時に困ることになる」という――。
※本稿は、藤井泰輔『正直すぎる保険の話 いる保険・いらない保険』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
■医療保険に加入する前にするべきこと
TVや新聞、雑誌などの広告を見て、医療保険に興味を持ったら、さて、みなさんはどんな行動を取りますか。早速、ネットでパンフレットを請求して検討に入るでしょうか。それとも、近くの保険ショップに足を運ぶのでしょうか。
私が、生命保険を長年販売している立場からおすすめするのは、まずは、社会保険の勉強をしましょうということです。これは医療保険に関してだけではなく、死亡保障についても遺族年金などの基本を知っておくことが大切です。
医療保険を買うことから検討するのではなく、ひょっとしたら医療保険はいらないのではないかという疑問を持ち、それを解決することから始めてはいかがでしょう。
医療保険のパンフレットは、その商品の特長や必要性を謳うことを中心に作られています。医療保険のことに興味を持ったその機会を利用して少し勉強してほしいのは、毎月多くの保険料を支払っている社会保険には、いったいどんな保障が用意されているのかということです。
あなたが検討しようとしている医療保険の何倍もの保険料を支払っていながら、その中身さえ知らないのでは何事も始まりません。
■健康保険は必須だが民間の保険は必須でない
みなさんは、医者にかかって窓口で支払う診療代や、処方箋をもとに薬局で支払う薬代は、高くてもそれをそのまま受け入れているのではないでしょうか。

いくらケチな人でもそれらを値切ることはしないでしょう。私でもしません。つまり、医療に関する費用は、毎月支払う健康保険の保険料を含めて、高くても致し方ないと受け入れているように思います。
そうした意識が、民間の医療保険など生命保険商品についても言えるような気がするのです。これは仕方ない出費なのだと、自分なりに納得してしまっていませんか。しかし、果たしてその認識で大丈夫でしょうか。医療費全般を聖域にしてはいけないのです。
公的医療保険や、医療を受けたときの費用は、残念ながらそのまま受け入れざるを得ない状況ですが、民間の生命保険商品を買うかどうかの判断は、みなさんに委ねられています。
生命保険会社は、彼らの商品を公的な医療保険と同じようなものとして捉えさせようとしていて、そのために莫大な費用をかけてTVCMなどを打つのです。それにまんまと乗せられてはいないでしょうか。
医療保険の契約件数が、3千数百万件を超える状況を考えると、残念ながら実際にそうなっているのが分かります。保険分野を得意とするFPや、実際に保険を取り扱っている多くのプロが、医療保険はいらないと言っているにもかかわらずです。

■実はほとんどが特約の保険商品
「特約」とは、広辞苑によれば「特別の便宜または利益のある契約」との意味もあるようです。これを読むとなんとなくお得なものという感じがしますが、保険における特約はちょっと意味合いが違ってきます。
保険の特約とは、元々の契約(これを主契約といいます)に、追加で保障や補償を加えるものです。保険を買う側からすれば、色々なものが最初から一緒くたになっているよりは、必要なものだけ選んで契約できるようにも思え、それ自体は決して悪いものではありません。
実際、大手生保を除く後発の生保の商品はそうなっていますし、損害保険の特約なども本当に必要かどうかは迷うのですが、それでも選択できるという意味で本来の役割に近いと言っていいでしょう。
しかしです。本来は特約のはずが、大きな顔をしてまるで主契約のように位置している特約もあるのです。一番いい例が、大手生保などが販売している商品で、保険料で言えばわずかな部分を占める主契約があり、ほとんどの保障が特約という例です。
主契約はその商品の顔であり、商品名も主契約の保障内容から付けられますが、実態は特約のかたまりというような商品があるのです。まさに主客転倒の商品です。
■なくても困らない名ばかりの特約
昔一世を風靡した「定期付き終身保険」やその後現れた「アカウント型保険」はその代表例です。しかも、これらの商品の特約は、特約とは名ばかりで、多くが選択肢のない必ず付けなければならないものなのです。
したがって、本来、状況に応じて付けたりはずしたりできるはずのものがそうはなっていないのです。
例えば、100万円の終身保険(主契約)に4900万円の定期保険特約が付いているというような商品が現実にあったのです。一定期間だけ保障する定期保険は、その名の通り特約ですし、その他に医療などの特約が付けられていますから、主契約の終身保険は、全く影が薄い存在です。
それでも名前が終身保険ですから、100万円+4900万円で合計5000万円が一生涯続くと誤解していた人がいたとしても不思議はないのです。加えて、不要になった特約だけを外そうとしても、一定の制約がありそれができなかったりするのです。
特に医療保障や骨折したときの保障など、「特約はあったほうがいい」と言って勧誘を受けますが、それはつまり「なくても困らないもの」ということが多いのです。特約とは名ばかりの選択不能な商品ですから、大手生保の商品は、セット商品などと呼ばれています。
■被災すると数百万円の被害を受けることも
火災保険と医療保険の違いはなんでしょう? この人、何を言っているのかと思っている人はいないでしょうか。それは、損保と生保の違いだということではないのです。
火災保険、その中でも建物だけでなく家財の保険が必要であることを認識している人はどれだけいるでしょう。ここで言う家財とは、建物とは別に家具や衣類など、引っ越しのときに持っていく生活に必要なものの全てです。
一方、医療保険を必要と感じている人は、思いのほか多いのです。
それはなぜか。それは、それらの商品が広く宣伝されていることで、その保険が本当に必要かどうかの判断をすることをすっかり忘れて保険を購入しているからです。
火災になったり、水災を受けたりして自宅が多額の被害に遭うことは、最近の日本では珍しいことではありません。そうした場合の建物の被害額は、数百万円に及ぶこともありますし、全壊であれば1000万円を超えるのです。それに加えて、家財も同様の被害を受けます。
なにせ建物の中にあるわけですから。なのに、この仕事をしていて、家財の火災保険の必要性を十分に認識している人はさほど多いとは思えません。
家財の火災保険の加入率は、建物を所有している人の約半分と言われています。そのうち水災補償を付けているのは、もっと少ないはずですので、昨今多い水災の被害に遭ったときに、加入していなかったことを後悔する人が多くいるということです。
■家財と医療保険、どちらが必要かは明らか
住宅ローンで家を購入した場合、銀行などが建物そのものの火災保険は加入を強要するのですが、家財は貸したお金とは関係なく担保の対象ではないので、建物だけで家財に火災保険をかけていない人は多いのです。
したがって、当社の火災保険の契約者の中にも家財だけを契約している人がたくさんいますし、ローンの支払い終了後に、保険期間の切れた建物自体と同時に家財の火災保険を契約する人も多くいるのです。ちなみに、私もローンを借りて家を購入したのですが、家財は、都民共済です。

一方、医療保険はその必要性が低く、支払われる保険金額もせいぜい数十万円です。それにもかかわらず、日本全体で3700万件を超える契約があります。何度も言うように、それはひとえに保険会社が大金を投じて行う宣伝の賜物なのです。
それに消費者がまんまと乗っかっているだけだと言えば言い過ぎでしょうか。一旦ことあらば数百万円になる家財の保険と医療保険とでは、その必要性は明らかに違うはずなのですが。
それと、火災保険は被害に遭った後でも、必要と感じれば(大抵そのパターンです)新たに契約することもできますし、補償内容を厚くすることもできます。しかし、医療保険の場合は、入院などして必要性を感じたときには、新たに契約できない場合が多い。
売る側はその点を強調して、健康な人に医療保険を売り付けてくる。それが儲かる商品だからです。

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藤井 泰輔(ふじい・たいすけ)

生保協会認定FP、DCプランナー、宅地建物取引士

総合保険代理店、株式会社ファイナンシャルアソシエイツ代表取締役。生保協会認定FP、DCプランナー、宅地建物取引士。1954年名古屋生まれ。
一橋大学商学部卒業後、三井物産、生命保険会社勤務を経て、2000年に総合保険代理店、株式会社ファイナンシャルアソシエイツを設立。不思議と不合理の日本の生保、損保業界に身を置き、代理店という立場で、常に買う側の立場に立った保険提案を心がけている。また、機会あるごとに保険をテーマとしたセミナーの講師を務め、さらに新聞、雑誌などへの寄稿を通して、正しい保険の活用法を説いている。著書は『どんな家庭でも 生命保険料は月5000円だけ』(かんき出版刊)ほか多数ある。

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(生保協会認定FP、DCプランナー、宅地建物取引士 藤井 泰輔)
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