■新規事業でも明治が持っていた強力な武器
私たちの最大の強みは、カカオ豆の取り扱い数量です。
明治製菓は有難いことに、最終商品すなわちBtoCの分野では、当時からチョコレート業界のシェアナンバー1の地位にありました。
それゆえにカカオ豆の輸入量は莫大です。輸入する原産国も多いので種類も豊富。それは商品バリエーションの豊かさにつながります。
お客様の要望の細かい部分にまで対応できるだけでなく、さまざまな組み合わせを使って新しい提案もできます。
その提案をするときも、BtoCの豊かな経験が、他社にはない特徴となりました。
ライバルである原料メーカーさんはBtoBが専門であり、その分野で新参者の私たちは、何歩もリードされています。
しかし裏を返すと、私たちは「BtoBだけ」の他社と違って「C」を知っています。それはエンドユーザーの視点に立てる、という圧倒的な強みです。
飲食店経営やお菓子の製造をしているお客様にとって、エンドユーザーの好みや、今後何が求められるかは非常に気になるところ。そんなとき、
「今、若年世代にはこういう味が好まれています」
「このフレーバーは今後、大きなトレンドになると思われます」
といった話は貴重な情報になります。
■こちらから質問する「呼び水型」
「明治の原料部門と仕事をすれば、ほかでは聞けない話が聞ける」
というメリットを感じてもらえたら勝てる。そう意識するようになりました。
すると、宿題の取り方にも応用が効くようになってきます。相手の質問を待つのではなく、こちらから質問する「呼び水型」のタスクゲットです。
たとえば、「これから○○のトレンドが来ます。何かご準備はされていますか?」と聞き、興味を持ってもらえたら「こういう原料があるので今度お持ちします!」。
強みの明確化による「攻め」のアプローチで、私たちはまた一歩、前進しました。
「現物の説得力」も大いに駆使しました。
組み合わせや配合を変えた試作品を用意し、バリエーションの豊かさをアピール。この場面で大きな助けとなったのが、開発部門の協力です。
■外食チェーンの「本命」をひっくり返す
開発部門の協力は、主に二つの場面で活かされました。
ひとつは、お客様が新商品を企画しているときです。ここで私たちの研究所が共同開発させていただくのが、もっとも「入りやすい」形です。
もうひとつは、リニューアルなどの切り替え時に提案を持って行くこと。こちらは既存の業者さんから乗り換えてもらうことが必要なので、エネルギーが要ります。BtoCに詳しいという強みを前面に押し出す頑張りどころですが、そこでも消費者の最新動向に明るい研究員は心強い存在でした。
この協力体制のもと、ある年には大きな「切り換え」を獲得しました。
ある外食チェーンが、主力商品に使われているチョコを明治に切り替えたのです。それまで納入していた業者さんは、同チェーンと関係の深い「本命中の本命」だったので、業界ではちょっとした騒ぎになりました。
ライバル会社の皆さんにとって、カカオ事業部は(「ライバル」と呼ばせていただくのもおこがましいほど)取るに足りない存在だったと思います。
部が立ち上がったときには「明治が参入⁉」という驚きと警戒心があったでしょうが、初動のたどたどしさを見て、きっと安心されていたはず。
ところが意外にもコツコツと入り込んで、ついには大きくひっくり返したのです。
ひっくり返された業者さんが怒り心頭、という噂も漏れ伝わってきましたが、ともかくこれを機に、カカオ事業部は「業界内プレイヤー」として認められたのではないかと思います。
■「何しに来たの?」からの大逆転
この件では、研究所でチョコレートを何枚も食べ続けたことも記憶に鮮やかです。
配合を変えたチョコのサンプルをずらりと並べ、端から試食。種類が多いので、うっかり満腹にならないよう、一枚を半分に割って食べました。
お客様も研究員も私も、全員真剣そのもの。
40代50代のいい大人が目の色を変えてチョコを食べる様子は、知らない人から見たら、かなり面白い姿だったでしょう。
開発部門とともに成し遂げた忘れられない出来事はほかにもあります。
「自動販売機用ココア」の納入に成功したことです。
自動販売機といっても缶やペットボトルではなく、紙コップがコトンと落ちて、飲み物が注がれるタイプのもの。お客様はその販売機を、職場や学校などの施設に入れている会社でした。
納入までに3年も要することになる、難攻不落のお客様でもありました。初回の営業に来た私に「何しに来たの?」と言った、あのお客様です(第1回参照)。その後も、私は通い続けました。周りに「脈がない」と言われても、いつかきっと何か頼んでもらえる予感がしていたのです。
■「そんなのつくったことねえ!」
その予感は当たりましたが、頼まれた後、さらなる苦労がありました。
お客様の要望は、「粉が浮かないココア」をつくってほしい、というものでした。
ココアをつくったことのある方は、ココアの粉が軽くて浮きやすいことをご存じでしょう。自宅でつくるぶんには構いませんが、自動販売機で紙コップのココアに粉が浮いているのを見ると、異物混入のように見えてしまうことがあります。そこで「造粒(ぞうりゅう)」=ココアを、砂糖にまぶした固い粒にして、沈むようにしてほしいとのことでした。
埼玉県坂戸(さかど)市にある関東工場に赴き、その旨を伝えたところ「そんなのつくったことねえぞ!」と、グループ長に特大の拒否反応を示されました。
たしかにごもっとも。ふだん工場でつくられている顆粒状の商品で「浮いてはいけないもの」などひとつもなかったはずです。
「でも、お客様のご要望なんです。どうにかなりませんか?」
グループ長はすぐカッカするタイプです。怒って放り出されたら大変だ、と思い、
「じゃあ、僕も入ります。一緒にやりましょう!」とつい口に出してしまいました。
翌日から、営業回りのあと工場に行き、作業服に着替えて実験しました。
■頑固職人を動かした執念
最初は予想通り難航し、「粒を重くすれば、沈むけれど溶けない」「粒を軽くすれば、溶けるけれど浮く」の間を行ったり来たりしました。
ところが、最初は怒っていたグループ長がなぜか、いつの間にか「やる気全開」になっていたのです。ついに「沈む&溶ける」が両立する配合を見つけたときは二人で大喜び。
めでたく、納入に至ることができました。
この仕事は、3年越しの目標達成という意味でも感慨深かったのですが、それにも増して思い出深いのは夜の工場です。
ココアまみれの私と、「不器用で見てられん」と言いながら助けてくれたグループ長。
あのときはただ夢中でしたが、今思えば、私の必死な様子が彼の心を動かして「協力してやるか」という気になってくれたのかもしれません。
毎晩帰宅するころには、満足感にあふれる笑顔とともに、全身にカカオの匂いが漂っていたのは言うまでもありません。
えいや! で始まったカカオ事業でしたが、「たかがチョコ」「されどチョコ」にここまでの熱量で打ち込めていることに、私はまぎれもなく幸せを感じていました。
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山本 実之(やまもと・みつゆき)
明治ビジネスサポート元代表取締役社長/ナトラ合同会社 代表
1984年に、明治製菓に入社。原料の輸入販売、製品輸出の業務で海外経験を積み、イギリスとの合弁会社で営業企画管理部長を経て、新規事業「カカオ事業部」の立ち上げのリーダー、営業部長として活躍。「売上0」から約10年で70億円の売上規模に拡大させる。その後、研修部長として人財開発を担当。グループ会社の社長を経て独立。現在は、世界100カ国以上、900万人が受講するデール・カーネギー・トレーニングジャパン公認トレーナー、GCDF-Japanキャリアカウンセラーをはじめ国内外の人材育成関連の資格及びFP1級(ファイナンシャルプランニング技能士、国家資格)、CFP資格等を数多く有し、PHP研究所研修講師・人財開発コンサルタントとして大手企業から中小企業まで人財開発を指導。また、社長のメンターとしても活躍している。ミッションは「世界中の人々に愛とゆめと勇気を与えること」。
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(明治ビジネスサポート元代表取締役社長/ナトラ合同会社 代表 山本 実之)

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