中学受験の本番が近づいているが、秋はどのように過ごせばいいのか。塾講師で教育コンサルタントの渋田隆之さんは「塾の言われた通りに模試を受けるのはおすすめしない。
毎週末が模試で埋まり、学力向上にもつながらず逆効果だ。模試に時間を割くよりも、ぜひ行ってほしいイベントがある」という――。
■「秋の模試」の“受けすぎ”に注意
中学受験を控える小学6年生の秋、11月や12月ともなれば、入試本番まで残り数カ月です。多くの親御さんが、わが子の成績と志望校の合格ラインを睨みながら、焦りや不安を募らせているかと思います。
特に週末の過ごし方は、この時期、非常に重要です。授業や特訓に加えて、土日は模試で埋まっているような状況かもしれません。とにかく合格可能性を上げなければと日々、奔走されていることと思います。しかし、その「熱心さ」がかえって合格を遠ざけているかもしれません。もちろん、模試を受けること自体が悪いわけではありません。問題は、その「向き合い方」にあります。
私はこの時期になると「このままでは本番で力を発揮できなくなるな」と思う親子を数多く見てきました。例えば、毎日時間に追われたり、合格という最終目標を見失っていたり。
中には十分な休みがなく、疲弊して学力向上に時間を使えていなかったり……と、さまざまです。
来るべき試験本番に向けて、親御さんが11月~12月に本当にすべきことは何なのか。もちろん個々によって正解は違うと思いますが、「模試に時間を割きすぎるな」ということは、はっきりと言えます。では何をすべきなのか、詳しく解説していきます。
■午前と午後で“模試のダブルヘッダー”をこなす子もいる
今の時期、お子さんたちは通う塾に関わらず忙しい毎日を過ごしています。平日は小学校に通って授業をうけ、夜は塾に通い……。土日になっても模試があって、○○特訓もうけている。それなのに塾からは「通常授業の宿題」や「提出物」「模試のやり直し」なども締め切りを設けられる。
お子さんたちは毎日課題に追われ、精神的にも肉体的にもギリギリ状態になってはいないでしょうか。大人でも休みなく仕事をすれば体力的にもメンタル的にも厳しくなるはずなのに、子供に無理をさせすぎてはいないでしょうか?
私が特に深刻だと感じているのが、模試の回数の多さです。高校受験や大学受験を思い出してください。大きな模試というのは、数カ月に1回ぐらいではなかったでしょうか。
ところが中学受験は、基本的には2週間に1回のペースであります。さらに他の塾の模試も受けに行くことがよくあるので、月に4~5回受けている子も珍しくありません。
中には、午前中にA塾の模試を受け、午後からB塾の志望校別の模試を受けるというような「ダブルヘッダー」をこなす子もいます。つまり1日に8教科です。
■塾の“おすすめ”をそのまま受け取らなくていい
ずっと試験を解き続けるのは大人でも至難の業です。というのも、入試本番の期間でも、午後だけとか、1教科や2教科で受験するというところがほとんどで、1日8教科というケースはごく稀なことです。
しかも、模試の前日は塾にも通っているでしょうから、休む暇がありません。小学6年生は体の成長にも差があるので、体力のない子は不利になります。もちろん、受験会場が志望校で行われる場合は本番の練習になるメリットはありますが、ヘトヘトの状態で受けた結果は、必ずしも実力が反映されているとは限りません。
では、なぜ中学受験生はこんなにも多くの模試を受けてしまうのでしょうか。私は、親御さんたちが、塾の「受けたほうがいいですよ」「去年の生徒は全員受験しています」というある種の営業トークをそのまま受け取りすぎて、深く考える余裕もなく「ベルトコンベアーに乗っているような状況」に陥っているのではないかと見ています。
塾の年間のカリキュラムに組み込まれているので、「中学受験とはそういうものだ」と思われている親御さんも多いと思いますが、一度立ち止まってお考えになることは損ではありません。

■“ダイエットせずに体重計に乗る”ような悪循環
私はよく講演会で、まるで「フォアグラ」のように強制的に食べさせられている状態だとお伝えしています。この時期、一番重要なのは通常の授業の復習ややり直しです。本来、模試を受けるかどうかはご家庭で取捨選択しなくてはいけないのに、「とりあえず紹介されたから受ける」「模試があるから受ける」というのであれば、何もメリットがありません。
また、「ダイエットせずに体重計に乗っているだけではないか?」という例えも使っています。模試ばかり受けるのは、運動や食事制限をせずに、体重計にばかり乗って「痩せないね、痩せないね」と嘆いているのと同じです。残念ながら、模試をいくら受けても、学力は上がりません。痩せるための行動、つまり「できていない問題をできるようにするための時間」が確保できていないのですから。
親御さんとしては「わが子の学力の現在地を知るため」「志望校を決めなくてはいけないので情報が欲しい」という理由があると思います。しかし、それでは今の時期にやるべき「学力を上げるための勉強時間」が失われてしまうので、実際は本末転倒なのです。
■“模試を受けすぎた子の母親”が受験相談にきた
私のところには、「セカンドオピニオン」として受験相談に来られる親御さんも多くいらっしゃいます。過去には、模試の受けすぎについての相談もありました。
以前、小6のBくんの勉強について相談に来られたお母さんがいました。
しかし、よくよくお話を伺っていくと、お母さんの不安はもっと別のところにあることがわかったのです。
実は、Bくんの兄(Aくん)が中学受験で残念な結果に終わっていたのです。しかも、兄は模試では高い判定を取り続けていたにもかかわらず、入試本番で失敗していました。
原因は明確でした。兄は模試の成績を上げることに軸足を置いてしまい、土日が全て模試や特訓で埋まっているという状況だったのです。志望校の対策がおろそかになり「対策不足を兄も自覚していて、自信がないまま本番を迎え、やりきった感がないまま残念な結果になった」と。
弟のBくんがまた同じ轍を踏むのではないかと不安になり、私のところにいらっしゃったようでした。私からは「すべての模試を受ける必要はない」と、本稿のような“取捨選択の重要性”をお伝えして終わりましたが、Aくんのケースは、模試を受けすぎたり、いい判定を求めすぎたりする危険性を改めて教えてくれたものでした。
■模試よりも「学校説明会」へ行くべき
では、親御さんはこの時期に何をすべきなのでしょうか。最優先は、11月以降に行われる学校説明会への参加です。「第二志望以降の学校」についてもご参加をお勧めします。その理由は、「出題の単元」や「出題しない単元」、「採点基準」を教えてくれることがあるからです。
そこで得られる情報次第で、本番までの短い期間に何に集中すればいいのかがわかります。取捨選択ができれば、第一志望の対策に時間を割く余裕が生まれます。
親が行かなくても、塾の先生はプロなのだから学校のことはすべて知っているだろうと思われるかもしれませんが、首都圏だけでも300校ほどあります。中には、説明会に参加した家庭だけが有利になるようにする学校もあり、塾が知らない情報もあるのです。
また、入試直前になるとSNSなどにも情報が流れますが、偏りのある情報も多く、本当に必要な情報はありません。例えば「塾関係者を名乗るアカウント」があったとしても、自分の生徒のライバルが読むかもしれないので、無料で有益な情報を流すとは思えません。
そして、中学受験を経験した親が発信しているアカウントもありますが、その方が持つ情報は、自分のお子様にしか当てはまらない、またその年度でしか通用しない「再現性のない」内容かもしれません。実際会ったこともない人たちの情報をうのみにするのはリスクが高いと言えます。
■「出題内容」を具体的に教えてくれる
その意味で、学校説明会で得られる情報は信頼に足る「一次情報」です。実際に足を運ぶと、結構具体的に、しかも有益な情報が手に入ります。例えば以下のようなものです。
○「時事問題は1~2問出ます」

→問題数が多い場合は、1点から最大でも4点くらいでしょうから、合否に影響がない可能性があります。
その程度の点数のために、大きな労力をかける必要はないと判断できます。それよりは、まだ苦手な単元の復習をしたほうが合計点数は上がります。
○「今年は国語の制限時間を5分伸ばす代わりに、記述問題を増やします。その分、選択問題を減らします」

→「選択問題が苦手で、記述が得意」という子のケースの場合はメリットになります。合格ラインぎりぎりの子でも、受験を決意できるようになります。 ○「理科の出題範囲は、化学分野では“水溶液の性質”、物理分野では“力学”。これがどこかの入試回で出ます」(入試が3回ある学校)

→1回目の入試でその単元が出ていなければ、水溶液の性質と力学をピンポイントで学習して本番に臨めます。
■“生きた情報に触れた受験生”は目の色を変える
また、「記述は加点方式なのでたくさん書いてほしい」「解答欄の8割以上を書かないと0点にする」「漢字の止めはねは厳しくはないが、画数が違っていたらだめ」というような採点基準も教えてくれることがあります。
これはお子さんに正確に伝えて、改善していく必要があります。実際の本番の入試では、同じような偏差値帯の子どもが争うので、数点差で合否が決まります。「まあいいか」とやり過ごしていた生徒も目の色を変えて、勉強に勤しむようになります。自分が志望している学校からの「一次情報」の力は絶大です。
さらに、学校によっては、前年度の現物の入試問題を配布しているケースがあります。出版社が出している冊子だと知り得ない情報が手に入るので貴重です。例えば、「理科・社会はカラー印刷だから、資料の問題が多いんだな」「計算スペース(余白)が少ないので、どこを使ってやるかは事前に準備が必要だ」などがわかるのです。これらも説明会に行かなければ知りえない、生きた情報です。
11月以降の学校説明会は、小6受験生を対象としたものが多く設定されています。この時期に説明会に参加してくれる方は、入学意思も強い方も多いので、学校側としてもぜひ来てほしいという気持ちから、受験のアドバイスもより具体的になります。残りの学習をしっかり行なって諦めずに受験してほしいというエールと受け止めると良いでしょう。
■本番と同じように“入試体験”ができる学校もある
また、学校によっては「入試体験会」を設けているところもあります。
名称は学校によってまちまちですが、これも12月~1月の土日に設定されることがほとんどです。入試本番と同じ時間帯・教室で、リアルなシミュレーションをしてくれるのです。日程が塾の授業や模試と重なることも多いのですが、私は最優先で行くことをお勧めしています。特に、志望順位が高い学校では、場に慣れておくことのメリットは甚大です。
実際に教え子から聞いた声をピックアップします。
「教室に時計がなかったので、当日は腕時計を2個持っていった」

「思ったより暖房が効いていて暑かったので、入試当日は脱ぎ着しやすい服を選んだ」

「事前にトイレの場所が確認できたので、入試本番の休み時間は安心できた」

「中学生が使う机で、思ったより背の低い私にはびっくりだった。どうしようもないけど、事前に覚悟ができた」

「入試の監督の先生も当日と同じようにやってくれたので、緊張感を味わえた。当日は少しリラックスできたかも」

「朝、思ったよりも電車が混んでいたので、当日は早めに家を出た」

いかがでしょうか。実際の試験本番に役立つ情報が得られると感じたのではないでしょうか。どれも実際に学校に行かないと得られない情報ばかりです。
■冬直前は「子供が前向きになれるイベント」が重要
中学入試は、メンタルの勝負とも言われます。冬直前の今からは、学力をつけることと同じくらい、子どもが前向きになれるイベントの活用もポイントになってきます。模試ばかり受けることが、中学受験生としての正解ではありません。とはいえ、お子さんの学力があがらないと親御さんも不安や焦りがどんどん増していくと思います。ただ、その気持ちは子どもに確実に伝染して行きます。
「学校説明会」「入試体験会」は、そんな気持ちをリセットして、目標を再確認することができる貴重な機会にもなりえます。ぜひ週末の予定が模試ばかりになっていると気付いた方は、一度立ち止まって、志望校の説明会のスケジュールを確認してみてはいかがでしょうか。
説明会に足を運び、その帰り道に「ここが通学路になるんだな。なってほしいな。もうひと頑張りするか!」と明るい気持ちが持てれば完璧です。皆さんの奮闘を応援しています。

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渋田 隆之(しぶた・たかゆき)

国語専門塾・中学受験PREX代表

教育コンサルタント・学習アドバイザー。神奈川大手学習塾で中学受験部門を立ち上げ、責任者として20年携わる。毎年、塾に通う生徒全員と直接面談を実施。保護者向けにも、ガイダンス、進路面談、カウンセリングを担当し、これまで関わった人数は2万人以上にのぼる。日々の思いを綴るブログ「中学受験熱血応援談」は年間100万件以上のアクセスを獲得している。2022年7月に中学受験PREXを立ち上げ、現在も継続して中学受験の最前線に立ち続ける。国内最大の受験人数を誇る首都圏模試センターの中学受験サポーターも歴任し、中学校と受験生の橋渡しとなる情報提供を日々行っている。一番大切にしていることは、ご縁があり指導することになった子どもたちとご家族のために、誠心誠意、ベストを尽くすこと。著書に『中学受験 合格できる子の習慣 できない子の習慣』(KADOKAWA)、『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)、『親の声掛けひとつで合否が決まる! 中学受験で合格に導く魔法のことば77』(KADOKAWA)がある。

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(国語専門塾・中学受験PREX代表 渋田 隆之)
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