夫婦関係を良好に保つためには、どうすればいいのか。『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか?』(講談社+α新書)を書いた夫婦問題研究家の岡野あつこさんは「不満を持っている妻がこっそり夫に嫌がらせをしているというケースは多い。
中には法に触れる事例もあるので、注意したほうがいい」という――。
■夫のスマホを覗いた妻が見た衝撃画像
「誰、この女……」
夫が寝ている間にスマホの中身を見た妻は、絶句してしまいました。写真フォルダに、知らない女性の写真が大量に保存されていたからです。
愛人の写真でした。年齢は30歳前後、アラフォーの妻より少し若い世代のようでした。妻よりメイクも服装も少し派手な印象でした。
写真の中には、レストランで食事をしている光景や、街中で撮影したスナップショットもありました。
誰もが知る有名テーマパークで撮った2ショット写真も出てきました。
そのテーマパークに夫婦で行ったことはそれまでありませんでした。妻はずっと行きたかったのですが、夫が、「子ども連れで行くのは面倒」などと言って、断っていたのです。なのに夫は愛人とは行っていたわけですから、妻が怒るのは当然でした。
普通なら、すぐ夫を起こして、「この女は誰?」と問い詰めるところだったでしょう。

ですが、妻は冷静でした。スマホを覗き見して手に入れた証拠だけでは、もし裁判になった場合、不利になると思いました。それに、愛人関係を匂わせる写真があったのは事実ですが、決定的な不貞の証拠写真はありませんでした。
■「出張に行く」と言っていたのに
とにかく、一旦、自分の胸にとどめ、もっと証拠を集めるなりしてから話をしようと思ったのです。
妻は探偵を雇い、証拠を集めました。残念ながら浮気は事実でした。
愛人は夫の会社の同僚で、仕事の相談にのっているうちに、深い関係になったようでした。妻には出張に行くと言って、愛人とホテルに宿泊する。そんなデートを繰り返していたようです。
友人に相談したところ、愛情がないなら、離婚して慰謝料を取ることを勧められました。ただ、それでも妻はしぶっていました。
2人の子どもは、どちらも小学生で、まだまだ手がかります。
子どもの将来を思えば、離婚しないほうがいいと考えました。
とはいえ、そうしている間も、夫は愛人と密会を重ねています。これ以上、浮気を放っておくわけにはいきません。
そこで、妻は一計を案じました。
■「不貞行為」の慰謝料の相場は?
妻は夫に、浮気の証拠を突き付け、「愛人と別れるなら、今回は水に流す」と言いました。「もし愛人と別れないのなら離婚する。その場合は慰謝料として500万円払ってほしい」とも。
実は、あらかじめ弁護士と打ち合わせて、夫に対して要求できそうな慰謝料の金額を算出してありました。
「慰謝料」とは、精神的苦痛への賠償金です。婚姻関係で慰謝料が発生するケースとしては、浮気などの不貞行為、DV、といった理由があげられます。
不貞行為の場合、概ね100万円~500万円くらいが慰謝料の相場だといいます。具体的な金額は、不貞行為の中身や、夫婦の状況によって変わってくるとか。

ちなみに、慰謝料は、離婚しなくても受け取ることが可能です。ただ、夫婦が家計を共にしている場合には、夫から妻へ、あるいは、妻から夫へ慰謝料を支払っても、家計のお金が増えるわけではありません。
■夫は再び愛人と密会するように
カウンセラーと弁護士のそれぞれからのアドバイスをもらい夫と妻の間で話し合いが行われました。妻が離婚を望まず、粘り強く交渉したことも手伝ったのでしょう。夫は愛人と別れて結婚生活を続けることを約束しました。
「今後、愛人と会っていることが分かった場合、慰謝料500万円を妻に支払う」という内容の覚書も交わしました。
もちろん、夫婦関係がすべて元通りとはいきませんでした。夫婦の間にギクシャクした空気が残ったのは事実ですが、それでも子どものために、表面上はいい夫婦を続けようとがんばっていました。
そうして半年ほど過ぎましたが、取り繕った夫婦生活が重荷に感じられたのか、夫は再び愛人と密会するようになってしまいました。
夫が愛人と会っていると感づいた妻は、激怒しました。今度こそ離婚して慰謝料500万円をもらうつもりで、また探偵を雇い、密会の証拠を押さえてもらいます。
ただ、どうにも気持ちが収まりません。
夫の二度にわたる裏切りが精神的にこたえたのでしょうか。子どもの前ではいいお母さんでいなければならず、そのこともストレスだったようです。
妻は夫に、密かに復讐することを思いつきました。
■「金魚が1匹いないんだけど」
夫の趣味は、金魚の飼育でした。かなり本格的で、幅2メートルほどもある大きな水槽の中で、いろいろな種類の金魚を30匹あまりも飼っていました。
ある日、夫が水槽を見ると、何かがおかしい気がしました。いつもより水槽が寂しいような気がしたのです。ふと思いついて、金魚を数え直してみると、何度数えても1匹足りません。
夫は不思議に思いましたが、この家では猫も飼っていたので、猫のいたずらということも考えられました。もちろん、猫が入らないよう、水槽にはしっかり蓋がしてあったのですが。
「おい、金魚が1匹いないんだけど、知らない?」
妻に聞いてみると、妻は「知らない」と言いました。
「大事な金魚なんだよ。
珍しい種類なんだ」
夫がそう言っても、妻は興味がなさそうに答えます。
「そんなに大事なら、普段からちゃんと管理しとけばいいでしょ」
その日の夕食、妻が作った料理を口にした夫は、顔をしかめました。
「なんか変な味がする……」
それは魚のすり身で作った団子が入った、「つみれ汁」でした。ただ、少し生臭いというか、普段食べている味とは違います。臭いを消すためなのか、カレー粉を入れてあるのも違和感がありました。
「私の料理にケチをつけないでよ」
変な味がする、と言われた妻は、夫に対して怒りました。ただ、変な味がするのは事実だったので、夫もムカッとしましたが、すかさず、妻がこう言いました。
「おいしい手料理が食べたければ、愛人のところに行けば?」
夫はそれ以上言い返せず、黙ってつみれ汁を食べたそうです。そのつみれ汁には、金魚のすり身が少しだけ入っていたのですが。
この妻は離婚が成立するまで、時々、金魚入りつみれ汁を作っていたそうです。夫が大事にしていた金魚は、半分ほど減ってしまっていたとか。
■早く離婚すれば良かったのに…
結局、この夫婦は最終的には離婚することになりました。
文書で約束したにもかかわらず、夫は愛人と別れていませんでした。それどころか、後でわかったことですが、愛人との間に子どもさえできていました。
それを知った妻は、もう離婚をためらいませんでした。慰謝料もさらに上乗せして請求したと聞きます。
夫としては、最初のタイミングで離婚したほうが良かったのかも知れません。慰謝料も抑えられましたし、金魚のつみれ汁を飲まされることもありませんでしたから。
ちなみに、夫はつみれ汁の秘密を最後まで知りませんでした。
■罰に問うのは難しいが、法律上は問題アリ
夫婦関係に不満を持っている妻が、こっそり夫に嫌がらせをしている、という話はよく耳にします。
料理の中に、唾や痰を吐く。夫の洋服のポケットに針を入れておく。夫のコレクションを勝手に捨てたり、ネットで売ったり、壊したりする。
といったケースはたくさんあるようです。
ちなみに、夫婦間においても、所有物を盗むことは窃盗罪に、所有物を勝手に壊すことは、器物損壊罪に該当する可能性があります。
ただし、日本の刑法には、同居している親族が窃盗犯だった場合、刑が免除されるという規定があります(「親族相盗例」)。さらに、器物損壊罪は「親告罪」、つまり、被害者が訴え出る必要もあるため、刑事罰に問う場合のハードルはかなり高いと思われます。
ほか、夫婦間であっても、民事で損害賠償を求めることも可能性があります。ただ、先にも触れたように、夫婦の家計が1つの場合は、夫婦間の賠償金はあまり意味がないとも言えます。
今回のケースでは、夫の金魚を盗んでいるので、窃盗罪の疑いがあります。また、金魚を食べたことで、夫が健康を害した場合、傷害罪になり得ます。
刑事罰に問われることはないかもしれませんが、法律上は問題のある行動ですので、真似しないようお願いします。
とはいえ、夫婦関係において、互いに腹が立つこともあると思います。うまくストレスをためないように付き合っていくのも、夫婦円満のコツ。くれぐれもやりすぎにはご注意ください。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)

夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理士

NPO日本家族問題相談連盟理事長。立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚相談所を設立。離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立する。これまでに35年間、4万件以上の相談を受け、2200人以上の離婚カウンセラーを創出。著書に『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など多数。近著は夫婦の修復のヒントとなる『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』(サンマーク出版)。

離婚救急隊

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(夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理士 岡野 あつこ)
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