※本稿は、加藤俊徳『1万人の脳を見た名医がつきとめた 機嫌の強化書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■睡眠不足が続くと“不機嫌”になる
眠っている間、私たちは単に身体を休めているだけではありません。次のような、生体の維持・向上のためのさまざまな処理が行われています。
・記憶の整理、定着
・日中の活動で生じた脳内の不要物(アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドベータやタウタンパク質など)の処理
・不安や恐怖の軽減など、感情のリセット、調整
・神経回路の再構成(重要なシナプスは強化され、不要なシナプスは刈り込まれる)
・成長ホルモンの分泌、自律神経の調整、免疫機能の強化
眠りが浅い、あるいは睡眠時間が短すぎるのは、こうした睡眠中の処理がすべて中途半端に終わることを意味します。そう考えるだけでも、睡眠不足がいかに脳や肉体に悪影響を及ぼすか、ひいては不機嫌になりやすい脳の状態を生み出すか、想像がつくのではないでしょうか。
「深く長い睡眠」は「高い意欲と幸福感」につながり、「浅く短い睡眠」は「低い意欲と幸福感」につながります。睡眠不足が続くと日常の機嫌値は低い水準が常態となり、「いつも不機嫌な人」になりかねないのです。
そこで、機嫌を強化するための具体的な「睡眠戦略」を考えてみましょう。
■理想の睡眠は「最低でも8時間」
実は、この3年間ほど、私は努めて「より長く眠る」ようにしてきました。いったい何時間眠ったら、脳のパフォーマンスが一番上がりやすいのかを自身の身体で試すためです。
思い返せば子どものころ、私は夜8時前に寝て、朝6時に起きていました。それが成長するにつれて短くなり、近年では平均して一日6時間未満。もともと感情の起伏は激しくありませんが、睡眠時間を長くすればもっと脳の働きがよくなり、感情的にも平穏に、機嫌よく暮らせるのではないかと思いました。
そこで少しずつ睡眠時間を延ばし、つい最近、9時間連続で眠れるようになってきたところです。そんな私の実感としては、最低でも8時間、できれば9時間は眠ることで、日中の脳の覚醒度が上がり、パフォーマンスは格段に高くなります。明らかに私の脳は以前よりも上機嫌になっている、そう感じるのです。
ただ、睡眠時間が短い人が急に8~9時間も眠るのは難しいでしょう。私も平均6時間未満だったものが1年間の平均で8時間半以上眠れるようになるまでに、3年ほどかかりました。みなさんも、少しずつ長く寝るようにする意識で、焦らず、徐々に睡眠時間を増やしていってください。きっと睡眠時間が30分延びるごとに違いを感じるはずです。
■寝ている間に脳を整えておく必要がある
「なんだか今日は朝から気持ちが軽いな」「だるさを感じずに、すんなり仕事に着手できるな」「能率が上がっているな」と思ったら、脳の覚醒度が上がり、日常の機嫌値が高くなっている証と見ていいでしょう。
このように、活動している間のパフォーマンスを上げるためには、寝ている間に脳を整えておくことが必要不可欠です。
単純に言えば、夜、眠る時間が短くなればなるほど、機嫌は悪くなる。そもそも「眠いのに起きている」ということ自体、生理的に不自然な状態ですから、脳が不快(生存の危機)を察知して不機嫌になるのも無理からぬことなのです。
睡眠不足が不機嫌の原因となることは、脳の構造を見ても説明がつきます。
大脳は表側にある「大脳皮質」と、奥側にある「大脳辺縁系」に分かれています。大脳皮質は思考、理性、言語、高度な認知機能など「人間的な能力」を担当している一方、大脳辺縁系は、より生存欲求に関係する動物的な機能を担っています。そして脳は場所ごとに役割が異なり、8つにわかれています。このうちの、喜怒哀楽などの感情を表現するのに関与する「感情系脳番地」の中枢である扁桃体が位置するのは大脳辺縁系のほうなのです。
■「8時間寝る」だけでは不十分
生存欲求に関係する機能を果たしているところに、感情系脳番地がある。この事実から脳科学的に感情の揺らぎを説明すると、怒りや不安、恐怖といったネガティブな感情は、つまり、生存を脅かされたときの反応と言えます。生理的に不自然な睡眠不足の状態で機嫌が悪くなるのも、究極的には、脳が生存の危機を察知した結果なのです。
脳番地ごとに機嫌を強化するにしても、脳の覚醒度が高い状態と低い状態とでは、効果の現れ方は大きく変わってきます。毎晩の睡眠を質・量ともに充実させ、脳の覚醒度という機嫌のベースを整えることが重要なのです。
ここまで、睡眠の「量」として8~9時間は寝ることをおすすめしました。では、睡眠の「質」はどう確保したらいいでしょうか。私たちの身体は、太陽の光とともに目覚め、夜になると眠るという約24時間の周期で動いています。これはサーカディアンリズムと呼ばれ、血圧やホルモン分泌、腸の活動、筋肉の働きなど、全身の生理機能を調整する「体内時計」のような役割を果たしています。
サーカディアンリズムは、夜に寝て、朝に目覚め、日中に活動することで整います。8~9時間寝さえすれば、いつ、どのような状態で寝てもいいというわけではありません。ここからは、このあたりをもう少し掘り下げ、質のよい睡眠をとる方法を紹介していきましょう。
■遅くとも「夜10時まで」に寝たほうがいい
通常、午後5時半~6時半の約1時間は、一日のなかでもっとも交感神経が優位になる時間帯です。ここで一日の疲労やストレスが最高潮に達しているため、生き続けるためには休まなくてはいけません。身体は休息に入る準備を始めます。
交感神経優位の状態では血圧も心拍も上がっています。そこで、脳の松果体という部位からメラトニンというホルモンが分泌されます。メラトニンは「睡眠ホルモン」として知られていますが、それは交感神経を抑制し、副交感神経を優位にする作用があるからです。疲労やストレスで血圧も心拍も上がっている身体を徐々に鎮めることで、夜、すんなりと入眠できるように整えてくれるのです。
このメラトニンがしっかり分泌され、睡眠の質と量が確保されると、脳は機嫌のいい状態で眠り、目覚め、活動できるようになります。こうして日常の機嫌値が高く保たれる。その意味では、「日中の自分の機嫌」は「夜間の脳の機嫌」で決まると言っていいでしょう。となると、いったい就寝は何時ごろが理想的なのでしょうか。
メラトニン分泌が始まると、数時間ほどで眠気が起こります。5時半~6時半に始まるとすれば、夜8時半~9時半にはもう眠くなってしまう。ベッドに入るには早すぎると感じる人が多いと思いますが、これが本来の身体の摂理なのです。
実際、人間がもっとも深く眠れるのは夜9時~翌朝4時ころまでとされています。
■不機嫌なまま寝ると“睡眠の質”が下がる
日常の機嫌値を上げる「睡眠習慣」は、(1)最低でも8~9時間は寝る(2)夜10時には就寝することだと述べました。しかし、仮に夜10時にベッドに入っても、ストンと寝付けなかったら意味がありません。
というわけで、日常の機嫌値を上げる睡眠習慣の最後に残る条件は、「どのような状態で寝るか」です。
メラトニンには交感神経を抑制し、副交感神経を優位にする作用があると述べました。スムーズに入眠し、8~9時間、しっかり眠るには、このメラトニンの作用を妨げないことが重要です。
夕方以降にネガティブな感情が生じると、せっかく徐々に眠る準備に入っていた体内環境が崩れてしまいます。一気に交感神経が優位になり、メラトニンの睡眠誘導効果が現れにくくなってしまうのです。実際、日中に腹の立つ出来事があり、夜も怒りが収まらずになかなか寝付けない、というのは誰にでも覚えのあることでしょう。
不機嫌なまま就寝すると、たとえ眠りに落ちたとしても睡眠の質は下がります。というのも、睡眠時間の前半では、深い睡眠である「ノンレム睡眠」が多くなり、主に前日の記憶の定着が行われるからです。
■日中のネガティブな出来事を引きずらない
そして睡眠時間の後半では、比較的浅い「レム睡眠」が多くなります。私の仮説なのですが、ここで脳は翌日の機嫌をつくるフェーズに入ります。
といっても、前半と後半とで、はっきりと切り替わるわけではないでしょう。睡眠前半の影響を受けないはずがないので、前半の睡眠が浅くて脳が不機嫌になれば、それは後半の睡眠にも引き継がれると考えるのが自然です。
入眠時の不機嫌は、こうして翌日の不機嫌にもつながると考えられるのです。日常の機嫌値を上げるには、夜、しっかり眠る必要がある。そして夜、しっかりと眠るためには、眠るべき時間帯に、なるべく交感神経優位にならないようにする工夫が必要だということです。
すでにお話ししたように、日常の機嫌値は、日々、機嫌をコントロールする際に重要な、機嫌のベースラインです。日常の機嫌値を上げておくことで、感情に振り回されにくくなる。しかし一方、日常の機嫌値を高く保つためには、よく眠れるように日々の機嫌をコントロールする必要もあります。両者は相互補完的なのです。
ですから、もし日中に、感情を揺り動かされるネガティブな出来事が起こっても、そこで生じた不機嫌を夜まで引きずらないこと。その日の不機嫌は夜までに解決することで、夜の睡眠が質・量ともに守られ、日常の機嫌値を上げていけるでしょう。
■“人生まで不機嫌になる”のは避けたい
その日に生じた問題をその日のうちに完全に解決するのは、難しい場合も多いと思います。人間の感情は複雑ですから、その日に生じたネガティブな感情を、その日のうちに、きれいさっぱり片付けられないこともあって当然です。
しかし、不機嫌なまま眠りにつくことがクセになると、日中の不機嫌が夜間の不機嫌につながり、翌日も不機嫌で過ごし、結局、不機嫌な人生になっていく……ということにもなりかねません。
そもそも機嫌は脳の生化学反応であり、ときに下振れして不機嫌になることはあっても、それ自体には罪はありません。
むしろ機嫌の変動がいっさいないほうが問題です。つねに平常心に見える人でも、感情系脳番地が健やかに機能していれば、機嫌の変動はあって当たり前です。それに、不機嫌が「対処すべき問題が起こっている」というアラートになっている場合もあります。
問題は不機嫌そのものではなく、不機嫌になったときにどう対処するか、なのです。
■その日のうちに“不機嫌を解消する”4つの方法
そこで求められるのは適切な対処と機嫌のコントロールです。今日の機嫌が明日の機嫌に影響する脳の仕組み、生体維持の仕組みからしても、感情のまま行動し、不機嫌を抱え込んだまま眠りにつくのは得策ではありません。自分を不機嫌にさせることがあっても、その日の睡眠の質を守ることは可能です。
・せめて問題を整理し、翌日に考えるべきことや行動するべきことを明確にしておく
・嫌なことや悲しいことがあっても、「大丈夫。明日はきっといいことがある」と信じる
・誰かの理不尽な行動を分析して、自分なりに「意味付け」してみる
・夕方以降は、意見が対立するかもしれない重大な話をするのは避ける
こうした工夫により、夜の機嫌と昼の機嫌の間で「不機嫌の連鎖」が生じるのを未然に防いでいきましょう。ご自身の体調とも照らし合わせながら、ぜひ取り入れてみてください。
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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)

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