※本稿は、加藤俊徳『1万人の脳を見た名医がつきとめた 機嫌の強化書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■不機嫌になると脳が成長しなくなる
私は機嫌というものを脳のセンサーと捉えています。上機嫌は、脳が成長と変化という本質的性質をいかんなく発揮しているというサイン。不機嫌は、何らかの要因により、その本質的性質を発揮できていないサイン。このように捉えるのは、特に不機嫌なときに非常に重要です。
本書で述べたとおり、不機嫌なのは脳が本来の機能を発揮できていないということ。言い換えれば、不機嫌な脳は成長しません。
脳細胞は生きるために絶えず働いて循環しています。それを内的および外的要因が止めるように作用するのは、すなわち、極端な言い方をすれば「死」につながることなのです。
となると、不機嫌なときに私たちがすべきことは何でしょうか。感情に任せて行動したり言葉を発したりと、周囲を自分の不機嫌に巻き込んでも、いいことはありません。
細胞には思考も意思もありませんから、もちろん、細胞自身が不機嫌になるのではありません。「生きるために働いて循環している」という細胞の性質が妨げられたとき、生命の危険を察知した脳が、生体の生存本能として不機嫌を発露させる、その人に不機嫌な表現をさせるという機序(メカニズム)なのです。
■脳は“毎日が違う”状態
脳は毎日、違います。日常の機嫌値を上げる工夫をしてもなお、内的および外的要因により、ときには不機嫌状態になります。同じことをしても、同じ成果が出るとは限らないのも、そのためです。
しばしば「昨日はこれくらいできたのに、今日はぜんぜんできない」ということが起こる。なまじ成功体験があるだけに、そんなときは「どうして昨日はできたことが、今日はできないんだろう」と不思議に思い、落ち込むかもしれません。
でも、それは何らかの要因により、脳が生来の働きを発揮できていない不機嫌状態にあるからと考えるといいでしょう。
「脳は一日いちにち違う」という前提を意識すれば、それは何も不思議なことではないし、落ち込むようなことでもないとわかるはずです。
したがって、不機嫌なときは、まず「脳細胞が生来どおりの機能を発揮できなくて困っている」と気づくこと。これが、機嫌強化の第一歩です。
すると、では脳を困らせているもの、脳細胞を生来どおり働けなくさせているものは何か。自分を萎縮させる誰かのハラスメントか。激しく傷ついた過去の出来事か。あるいは不快な環境か。昨日の睡眠不足か――という具合に原因を究明していけるため、いっときの憂さ晴らしではなく、機嫌そのものにアプローチできるというわけです。
■“慢性的な不機嫌”に陥っていないか
要因によって、日常の機嫌値が上がるまでに必要な時間には幅があるでしょう。たとえばうつ病で半年間休んだ人が、7カ月目からは何事もなかったかのように元気になるとは考えにくい。あるいは、座ってばかりで、ほとんど運動しない生活が1年も2年も続いたら、その人の機嫌はゆっくり低下していき、そのぶん、再浮上するにも時間がかかることになるでしょう。
一見、仕事熱心で充実しているビジネスパーソンには、意外とこうした「慢性型不機嫌」とも呼ぶべき、無自覚な不機嫌に陥っている人が多いのかもしれません。
毎日がんばって向上しているかと思いきや、トータルのパフォーマンスは落ちている。そういう人は、いつの間にか自分で自分の脳に制限をかけ、慢性的な不機嫌状態に陥らせている可能性があります。そうして、気づいたときには抑うつ状態になっていたり、何にも喜びを見いだせなくなったりしているのです。
でも、大丈夫です。先ほども述べたように、脳は一日いちにち違う。ということは、これから一日いちにち、少しずつ変えていくことも可能です。ゆっくりと不機嫌が慢性化したのと同じくらいの時間をかけるつもりで脳を整え、少しずつ機嫌を強化していきましょう。
■不機嫌に気づいたら「優先順位」を確認する
機嫌が悪いときは明らかに思考力も処理能力も低下しています。成長することが本質である脳にとっては、キビキビと物事を処理できる状態がもっとも快です。何らかの要因によって、そんな脳にとっての快状態が失われている。それが不機嫌という感情として表出されているというのが、脳科学的に見た「不機嫌」です。
つまり「何らかの理由で感情が不機嫌だから、脳の思考力や処理能力が落ちる」のではなく、「何らかの理由で脳の思考力や処理能力が落ちている、それは脳にとって不快状態だから不機嫌という表現になる」という因果関係なのです。
「不機嫌は脳細胞の叫び」です。それに気づくことが、日々の機嫌をコントロールするためには非常に重要です。
では、不機嫌なときに「これは“何らかの理由でうまく働けません”という脳からのサインだ」と気づいたとして、具体的にどうしたらいいでしょうか。
すぐに処理能力を上げたいのなら、自分を不機嫌にさせた直接的な原因を探るよりも、ずっと効果的な方法があります。「優先順位」を確認すればいいのです。
■感情は脇に置いて「今、すること」を絞り込む
私自身、実は右脳側の感度が鋭すぎるために、もともと、他の人の感情や周囲の状況に影響されやすいところがあります。気が散ってしまって、「今、対処すべきこと」に集中できなくなることもありました。
でも優先順位を確認することを習慣づけてみたら、だいぶ落ち着いて対処できるようになりました。私が実践したのは、どんどん立ち現れる物事を、次のように分類することです。すぐに不機嫌を脱して機嫌よく、効率的に物事に取り組みたいときは、ぜひ、この方法を取り入れてみてください。
(1) 目の前の物事に優先順位をつける
(2) 優先順位の上位にあるものを、さらに「比較的早く処理できそうなこと」「ある程度、時間がかかりそうなこと」「すごく時間がかかりそうなこと」に分ける
(3) 機嫌が回復しないうち(処理能力があまり高くないうち)は、比較的早く処理できることから着手する
(4) そうしているうちに機嫌が回復してきたら、時間がかかりそうなものにも着手する
このように、いったん感情は脇に置いて、「今、すること」を絞り込むのです。決して自分の感情を否定するのではありません。脳は場所ごとに役割が異なり、8つにわかれていますので、「不機嫌」というアウトプットをしている感情系脳番地(喜怒哀楽などの感情を表現するのに関与)の働きは認識しつつも、ほかの7つの脳番地にも努めて仕事を与える、といったらいいでしょうか。
■「負荷の軽いもの」から始めるといい
すると、自分の感情を否定したり、無理して抑え込んだりせずとも、感情に影響されずに目の前のことをこなせるようになるのです。
仕事でもプライベートでも、次々といろいろなことが起こるものです。
でも、脳の調子が悪いときに無理をしても、処理能力は上がらず、ますます不機嫌が増すだけでしょう。精神的な根性論でうまくいくほど、脳は単純ではありません。だからといって、「今日は脳が不機嫌なので……」と仕事や勉強など、やるべきことを回避することもできません。そんなときは、優先順位をつけて、比較的負荷の軽いものから始めるといいのです。
明日、機嫌よく生きるには、しっかり睡眠をとって日常の機嫌値を上げ直す。一方、その日、そのときに現れた不機嫌要素によって下がった処理能力を上げるために、「今、すること」を戦略的に脳に示し、わからせる。こうして、各脳番地がバランスよく働くよう誘導することで、最低限のやるべきことをこなすことができるでしょう。
■「嫌な上司から振られた仕事」は不機嫌要素になる
たとえば「嫌いな上司から仕事を振られたとき」など、モチベーションが上がらないことはよくあると思います。
仕事自体は嫌いなわけではなくても、個々の事案に何かしらの不機嫌要素が絡んでくると、意欲減退するのは無理もありません。そうはいっても、「仕事だから」「上司命令だから」「やらねばならない」と、どうにか重い腰を上げ、着手することが日常的になっている人は多いのではないでしょうか。
脳科学的に見れば、残念な話です。
こうして、本来は楽しいはずのことが、ぜんぜん楽しくなくなってしまう。しかも楽しくないと処理能力も落ち、処理能力が落ちるとますます楽しくなくなるという悪循環が生じ、いい結果が出せなくなってしまいます。
そんなときこそ、「考え換え」の出番です。これは私の造語なのですが、自分にとってネガティブな状況を、意図的にポジティブに捉え直すことで、機嫌を修復すると言ったらイメージしやすいでしょうか。
■「完遂することが成長につながる」と考え換える
例えば、こういうことです。嫌いな上司に仕事を振られて瞬間的に「嫌だな」と思ったけれども、「これを完遂することが自分の成長につながる」と考え換える。
挨拶を無視されて瞬間的に「嫌われているのかも」と思ったけれども、「自分の声が小さくて聞こえなかったのかも」「挨拶を返す余裕がなかったのかも」と考え換える。
事実がどうであるかは、あまり問題ではありません。このように考え換え、すんなり仕事に着手できること、あるいは気負いなく人付き合いができること自体が、上機嫌というベストコンディションで生きるためには重要なのです。
誰かに言われて渋々取り組むのは「やらされ脳」。それを、自ら進んで積極的に取り組む「やりたい脳」へと変換するのです。
いつでもこの変換ができるようになったら、どんな不機嫌要素にも邪魔されずに、自分の脳本来のパフォーマンスを発揮していけるでしょう。
まず、個々の事案から不機嫌要素を切り離します。先ほど挙げた「嫌いな上司に仕事を振られた」場合だと、「仕事」から「嫌いな上司」というネガティブ要素を切り離すということです。
■“上機嫌になるため”だけに「意欲の種」を探してみる
すると、その「仕事」の内容だけに意識が向くので、今度は純粋に自分の脳が仕事の中身を処理することに使われるので、その仕事に対する意欲の「種」を探します。
「この仕事は自分にとってどんな意味がある?」
「完遂することで、どんなメリット(利益や自己成長)が見込める?」
「誰が喜んでくれるだろうか?」
こうした内的会話から「意欲の種」が見つかれば、だいぶ脳の機嫌は改善しているはずです。そのまま着手すれば、その意欲の種はすぐに芽吹き、順調に育つでしょう。このあたりですっかり上機嫌ですから、どんどんはかどる。はかどるほどに楽しさも増し、やがては機嫌よく成果という花を咲かせるというわけです。
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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)

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