■「その汚い首を一瞬の躊躇もなく切り落とす」
中国の大阪総領事・薛剣氏が11月8日にXに投稿した「その汚い首を一瞬の躊躇もなく切り落とす」という脅迫は、単なる外交事件ではない。これは中国の「戦狼外交」がますます攻撃的になっている証拠で、日本だけではなく、カナダやオーストラリアまで世界各国が頻繁に直面している現象だ。
戦狼外交とは、2017年頃以降、中国の外交官による攻撃的で強硬な外交姿勢や手法を指す。狙いは2つ。国内のナショナリズムを高揚させ、中国共産党への支持を集めるという側面と、本国での出世競争の一環として行うという側面がある。
中国の台湾への攻撃が日本にとって「存立危機事態」になり得ると述べたことで激しい反発を招いた高市早苗首相にとって、課題は明確だ。それは、北京の脅迫戦術にどう対応し、同時に彼らの罠に陥らないようにするか。
実は危険な罠がもう一つある。元駐豪日本大使の山上信吾氏が「チャイナ・マジック」と呼ぶものだ。これは一言にすると「飴と鞭」マジックである。
豪州戦略政策研究所に寄稿した山上氏は、「日本と豪州の両国は、この魔法の力に取り込まれ、中国側を不快にさせないよう努力することに執着しているようだ」と述べている。チャイナ・マジックとは、民主主義国家を不安定にし、分断するために計算しつくされた「飴と鞭」戦略なのだ。
実は、薛氏が高市首相に暴力的な脅迫を行うわずか数カ月前、駐日中国大使の呉江浩氏は日本の政治家たちに対し、もし日本が台湾独立を支持すれば「日本国民は火の中に連れ込まれる」と述べていた。
あろうことか、実質的に日本市民を傷つけると脅迫したのである。ところが、日本の外務省は「控えめな抗議の電話」で応じただけで、「大使を外務省に呼び出すという伝統的な方法」をとらなかった。日本の外務省のあまりにも弱いこの対応は、北京をつけあがらせ、ますます威嚇的にさせるだけだろう。
この戦術は日本だけが対象ではない。カナダ当局が2018年にファーウェイ幹部の孟晩舟氏を逮捕した際、中国の駐カナダ大使・盧沙野氏は単に抗議しただけではなく、拘束された2人のカナダ人の釈放を要求したことについて、カナダを「西洋の利己主義と白人至上主義」だと非難した。
盧氏は論説で「カナダ市民だけが人道的に扱われ、彼らの自由は価値があるとみなされる一方、中国人はそれに値しない」と主張した。カナダが自国民を守ることを人種差別に転換しようとする印象操作だった。
同様に、豪州がCOVID-19の起源に関する調査を中国に求め、外国の干渉に関する法律を強化した際、北京は「14の不満」として知られる外交文書が流出した。14の不満の中には、豪州による「中国のウイグル、香港、台湾問題への絶え間ない干渉」、そして、驚くべきことに、「オーストラリアのメディアの敵対的な報道、外国投資制限、シンクタンクの批判的な報告書、中国の人権問題について発言するオーストラリアの国会議員」が含まれていた。
けれども、中国の李強首相が最近豪州を訪問した際、山上氏が述べるように、訪問は「中国は豪州に対する経済的威圧を完全に解除せず、豪州の海軍と空軍に危険な行動を起こしているにもかかわらず、豪州のご機嫌をとるような満面の笑みで会談した」。脅しをかけている傍ら、この関係正常化への急ぎは、まさに北京が期待していることだ。
■高市首相はどう対応すべきか「4対策」
このような例からは、中国の一貫したパターンが浮き彫りになる。言語の武器化、被害者と加害者を反転するフェイクの物語、そして、経済的利益をちらつかせる一方で脅しを使う飴と鞭。これが、山上氏が「敵意の経済」と呼ぶものである。これらは米国の同盟国を安全保障関係から引き離すための戦略だ。
中国のこういった外交パターンは歴史にも刻まれている。山上氏によると1989年の天安門事件の後、「中国は日本を民主主義諸国の中で弱い環だと考えた」。中国の銭其琛外相は後に回想録で、「中国は、日本を使って国際制裁体制を弱めることに成功した」と自慢したという。北京は「当時の天皇の中国訪問を、まさにその目的のために十分に活用したことを認めた」。
では、高市首相はどう対応すべきか?
第一に、日本は民主主義のパートナーと協力して、中国の飴と鞭に抵抗しなければならない。
第二に、日本は中国の外交的攻撃のパターンを文書化し、公表するべきだ。暴力的な脅しか、人種差別、経済的威圧からご機嫌取り的な飴玉攻撃まで、データベースを作るべきだろう。パターンを特定し、将来の戦術を予測し、国連の総合会議などを通して国際的に公表する。
第三に、日本は中国の印象操作戦争と経済的誘惑に対する国内のレジリエンスを強化すべきだ。これは、メディアリテラシープログラムへの投資、中国の主張をファクトチェックできるジャーナリズムの支援、中国政策に関する国会の議論をさす。
第四に、高市首相は北京の飴と鞭戦略を考慮したデジタル時代の外交規範を擁護すべきだ。日本はG7、クアッドなどを通じてこれらの基準を確立すべきだろう。
今回の薛総領事との事件は、高市首相の発言のせいで起きた、偶発で単発の事件では決してない。だからこそ、高市首相は国会で台湾についての「発言を撤回する意図はない」と述べた。これは国際的に見ても正しいアプローチだ。
中国との平和の道は、宥和でも挑発でもなく、北京の飴と鞭に耐えられる多国間連帯に裏打ちされた、ブレない外交姿勢を貫くことが肝要である。戦狼外交に立ち向かい、「チャイナ・マジック」に抵抗することは、野党や一部の識者が騒ぎ立てるような軍国主義や歴史修正主義ではない。高市首相は、迅速にオーストラリアやカナダと連携し、次の「鞭」に備えるべきだろう。
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スティーブン・R・ナギ
国際基督教大学 政治学・国際関係学教授
東京の国際基督教大学(ICU)で政治・国際関係学教授を務め、日本国際問題研究所(JIIA)客員研究員を兼任。近刊予定の著書は『米中戦略的競争を乗り切る:適応型ミドルパワーとしての日本』(仮題)。
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(国際基督教大学 政治学・国際関係学教授 スティーブン・R・ナギ)

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