■まずは体験「採算度外視のイベント」
仙台の街が、位置情報ゲーム「ドラゴンクエストウォーク」によって、RPGゲーム「ドラゴンクエスト」の世界に様変わりした。参加者は「スライム」「カンダタ」などの可愛いモンスターと触れ合いつつゲームを楽しみ、仙台の街を存分に散策した。
どうやらこのイベント、主催者だけでなく、仙台市も相当に乗り気だったようだ。「ゲーム会社と自治体のコラボ」がなぜ実現したのか? 「採算は度外視」というゲームイベントを、なぜ年2回も開催するのか? スクウェア・エニックス執行役員・柴貴正さん(以下「柴プロデューサー」)や、仙台市観光戦略課に、いろいろとお話を伺う……。
その前に、遊んじゃえ! まずは、ゲームの世界と現実世界がリンクした仙台市でのイベントを、3万歩を歩いて体験してから、考察を始めよう。
2025年11月1日・2日に開催された「ドラゴンクエストウォーキング vol.5 仙台」のメイン会場は、仙台市郊外の球技専用競技場「ユアテックスタジアム仙台」と、隣の「やまいちサステナパーク七北田公園」に設営された。
このエリアで「ドラゴンクエストウォーク」をプレイする場合は、各チケットを事前購入したうえで、スタジアム内にある1カ所目のスポットをゲーム内でタップ。ここから、スタジアム隣の「やまいちサステナパーク七北田公園」などに点在する計6カ所のエリアを歩いて巡り、報酬としてゲーム内のアイテムを受け取る。
■3万歩を楽しく歩かせる仕掛け
イベント当日の楽しみは、これだけではない。
他にも「あらくれ」のように風船をくれたり、盗賊「カンダタ」が仙台の美味しいご飯を紹介してくれたり、「ドラゴンクエスト」には間違いなく登場しない伊達政宗まで愛想を振りまいていたり……世界観が“ごちゃまぜ”ではあるが、これが「ドラゴンクエストウォーク」ならでは、と言えるだろう。
また、スタジアムはサッカー・J2リーグ「ベガルタ仙台」の本拠地とあって、サッカー関連グッズ・スタジアムグルメの販売も充実。七北田公園は100万都市の近郊とは思えないほどに空気が清く、うっすら色づいた紅葉を眺めながら散策……しているうちに、日常生活ではまず移動しないであろう「3万歩」を歩き、楽しく脂肪を落とした。
■約3万人を動員、ホテルや新幹線も満杯に
「ドラゴンクエストウォーク」は過去4回(大阪・山梨・熊本・北海道)のリアルイベントを開催しているが、今回は初めての試みとして、仙台市中心部の商店街とタイアップの上で、関連イベント「ドラゴンクエストウォーク秋祭り」を開催した。
商店街では、「ハピナ名掛丁商店街」内にあるゲームセンターでスタンプラリーの台紙を受け取り、メタルスライムなどと記念撮影を行いながら、6カ所のスポットを巡る。こちら午前中は参加者が少なかったものの、メイン会場から参加者が移動した午後にはかなり混み合い、ゲームプレイと散策を楽しむ人々で、6カ所のアーケード街は一杯に。
なお筆者はここで、「ゴーレム」型の自動販売機まわりで遊び倒したところ、知らない間に1万歩以上を歩行。ただし、仙台名物「北京餃子」と大皿の「広東焼きそば」(あんかけ焼きそば)を爆食したため、カロリー的にはどっこいどっこい、といったところだろう。
商店街の約50店舗は特典があり、画面を提示しながら「パルプンテ!」(何が起こるか分からない呪文)を唱えると、「ステッカー進呈」「サービス割引」など、ちょっとしたおトクを享受できる。スタジアムだけでなく、街の人々も経済効果を享受できるように、と始まった試みだ。
仙台市での「ドラゴンクエストウォーク」イベントには、商店街も含めると、約3万人の人々が訪れたという。期間中はホテルや新幹線が満杯となり、商店街買い巡りなどで仙台の街に賑わいをもたらしつつ、無事閉幕した。
■大盛況なのに「採算は度外視」
イベントを主催した「スクウェア・エニックス」によると、メイン会場に入るチケットは発売後・即完売。グッズ販売にも長蛇の列ができて、売り上げも相当なものがあったという。
「ドラゴンクエストウォーク」でのリアルイベント開催は、ここまで年2回ペース。半年前から準備を始め、社員も多く出勤する「会社総がかり」のイベントとあって、よほどの利益を得られるのでは? と、柴プロデューサーに聞いてみたところ、意外な答えが返ってきた。
「このイベント、採算は度外視です」
どうやら、スクウェア・エニックス的には金銭的な損失が大きく、会社の運営にかなり負担がかかるもののようだ。よく考えたら、「ファイナルファンタジー」「キングダムハーツ」などファンの多いコンテンツを抱えるスクウェア・エニックスが、その一角である「ドラゴンクエスト」のスマホ版として派生した「ドラゴンクエストウォーク」のイベントを、社を挙げて支援……なぜそこまでするのだろう?
■「顧客の姿が見られる」のはリアルならでは
柴プロデューサーいわく、リアルイベントは「『ドラゴンクエストウォーク』のブランディングと割り切って、採算が取れないのは承知の上で開催している」という。
過去5回にわたって開催されたリアルイベントでは、「遊園地で遊びながらゲームを楽しむ」(第2回・富士急ハイランド)「ボールパークを歩きまわる」(第4回・北海道「エスコンフィールド」)「商店街を散策」(第5回・仙台)など、ゲームとアウトドアを組み合わせた。さまざまな楽しみ方が提案された。
こういったイベントを開催することで、全国各地の観光名所やスポットで「ドラゴンクエストウォーク」をプレイしている人々の姿が、報道・拡散される。「活き活きと外でゲームを楽しむプレイスタイル」が知られることで、新しいファン層の獲得に繋がるのだ。
また、イベント会場で「プレイヤーの楽しみ方を実際に観察できる」こともメリットだという。
スマホゲームは「運営側がリアルにプレイしている人々を観察する」ことが難しく、ダウンロード数とコアなファンの感想くらいしか知れない。リアルイベントで、実際にプレイするファンの姿や困りごとに直面できることが、何よりのサンプルになるのだ。
まとめると、「ドラゴンクエストウォーク」イベントは採算が取れないものの、位置情報ゲームとしての「ブランディング」、顧客を知れる「マーケティング」でのメリットが大きく、相当な出費が伴ったとしても、スクウェア・エニックスには開催の意義がある、ということだ。
■誘致のきっかけは「ポケモンGO」
続いて、イベントを誘致した仙台市に、経緯と狙いを聞いてみよう。仙台市文化観光局観光戦略課長・日下和彦さんにお話を伺った。
日下さんによると、今回のイベントは仙台市からスクウェア・エニックスに声をかけて、開催が実現したそうだ。奇しくも、きっかけとなったのは、昨年に開催された「ポケモンGO」のイベント「GO FEST2024 仙台」だという。
「ドラゴンクエストウォーク」と同様の位置情報ゲームである「ポケモンGO」は、これまで横浜市・福岡市やアメリカ・シカゴ市などで、リアルイベントを仕掛けてきた。2024年5~6月にかけて仙台市で開催されたイベントは、「イベント参加者数37万9000人」「経済効果74億円」という、莫大な波及効果を市にもたらした。
仙台市はイベントの成功を受けて、さらなるゲームイベントの誘致に乗り出す。日下さんも子供のころから「ドラゴンクエストIIIそして伝説へ…」(ファミリーコンピューター版は1988年発売)などをプレイしていたこともあり、まずは2024年11月に熊本で行われた「ドラゴンクエストウォーク」リアルイベントに参加。
■過去には渋滞も…失敗から得た教訓
なお、宮城県では2016年に石巻市で「ポケモンGO」イベントを開催したものの、自家用車で「ラプラス」(希少なポケモン)を獲りに行く人々が地域に渋滞を引き起こすなど、混乱をきたしたこともある。
その教訓を生かしたのか、仙台市ではイベント誘致だけでなく、「歩きスマホへの注意喚起」「交通機関での来場呼びかけ」を積極的に行い、地下鉄増便やフリー乗車券発売などで参加者がスムーズに移動できるような仕掛けを作った。
かつ、メイン会場だけでなく商店街でもイベントを分散し、メイン会場の七北田公園やスタジアム以外にも賑わいが生まれる仕掛けを作った。スクウェア・エニックス側でも、前日まで「イベント用の立像と点字ブロックの距離」を仙台市と細かく協議して修正していくなど、要望にとことん応え、仙台市・商店街などとともに参加者を迎える体制を構築した。
過去の「ドラゴンクエストウォーク」リアルイベントの中でも、ゲーム会社だけでなくここまでの広範囲での連携を取れた仙台市での開催は、今後のイベントの大きな転換点でもあり、成功例となるだろう。全国の自治体・施設管理者などから「次回開催をぜひとも我が町に!」との声が相次いでいるのも、納得できる話だ。
■有料化の想定外の効果
ただ、位置情報ゲームのイベントは、マナーに関する問題が付きまとう。
「ドラゴンクエストウォーク」リアルイベントでも、「会場の入場料(大阪・万博記念公園。大人260円)のみ」で参加可能だった第1回(2022年12月)では、極度の混雑による人波の渋滞、鉄道の極度な混雑といった問題を発生させてしまった。柴プロデューサーも当時を振り返って、「無料開催のため来場者数を読み切れず、適切なサービスができなかった」と、今でも気にされている。
2回目(山梨県・富士急ハイランド開催)以降は相応の入場料を徴収することで人流をコントロールし、トラブルへの対策を行ったという。
また、課金して出向いてまで参加される方は概して購買力もあり、会場周辺に想定外の経済効果をもたらしているようだ。
例を挙げると、2025年5月の第4回開催でも、「エスコンフィールドHOKKAIDO」側がそこまで混雑すると思わずに物販関連を仕入れていたものの、実際には、約3万人が訪れる北海道日本ハムファイターズのプロ野球公式戦並みにグルメ・土産物が売れていたという。
■「運営の現実」と「誘致したい自治体」
北海道開催に参加した筆者も、ホットドック販売員が「試合がないのにこんなに売れたことないんです、すいません!」と、予想外の長蛇の行列に並ぶ参加者に頭を下げながら対応されていたのを目撃している。
「ドラゴンクエストウォーク」はゲームに「ご当地スライム」「ふるさとスライム」などの収集型コンテンツを取り込んでいることもあって「長距離移動で観光して帰る」タイプのプレイヤーも多く、位置情報ゲームのリアルイベント開催とは相性が良いのだろう。
なお、次回の「ドラゴンクエストウォーク」リアルイベントは、会場未定ながら「2026年4月18日・19日開催」と発表されている。
柴プロデューサーいわく「年2回開催を希望する熱量の高いプレイヤーと、もっと少なくていいプレイヤーがいて、今後の開催の在り方を迷っている部分もある」とのこと。次の開催地がどこか、詳細を待ちたい。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)

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