■56%の日本労働者がバーンアウト
燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥るビジネスパーソンが増えている。
バーンアウトとは、意欲的に仕事に取り組んでいた人が、突然意欲を失い、心身の疲労を感じる状態だ。WHO(世界保健機関)は「職業性ストレスの現象」と定義し、メンタルヘルス不調の一種だが、バーンアウト経験者が世界中で増えている。
Adecco Groupが2023年10月にまとめた調査報告書(未来のグロハーバルワークフォース)によると、過去12カ月間にバーンアウトを経験した労働者の割合は各国平均で65%に上る。
日本でも56%の労働者がバーンアウトを感じたと回答している。バーンアウトと同様の現象でもあるメンタルヘルス不調者は日本でも増えているが、特徴的なのは40~50代の中高年社員の比率が高いことだ。
健康保険組合連合会(健保連)の「令和5年度被保険者のメンタル系疾患の受診動向等に関する調査」(2025年10月)によると、気分障害(躁うつ病含む)による外来受診の男女比は男性が62.3%(約25万人)を占める。年齢別の割合は25~29歳は7.8%にすぎないが、50~54歳が17.2%と最も高く、次いで45~49歳の15.6%、55~59歳の14.6%、40~44歳の12.4%となっている。
実に40~50代が約6割を占めている。女性の場合は25~29歳が15.3%と最も高く、世代でバラツキがあるのに対し、男性は中高年に集中している。
また、神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害の外来受診でも男性(約21万人)が約6割を占め、また40~50代が5割以上を占めている。
※神経症性障害
心理的症状:強い不安、恐怖、抑うつ、イライラ、集中力の低下など
身体的症状:動悸、息切れ、めまい、頭痛、吐き気、発汗、不眠など
※ストレス関連障害及び身体表現性障害:身体的な異常がないにもかかわらず、痛みや倦怠感などの身体症状が長期間にわたって続く状態など
健保連の加盟企業は大企業とそのグループ企業が多いが、バーンアウトに陥っている大企業の中高年社員が多いことを物語る。
発症の原因はさまざまだろうが、その一端を厚生労働省の「令和6年度過労死等の労災補償状況」(2025年6月25日)から知ることもできる。
精神障害の請求件数は、コロナ前の2019年の請求件数は2060件だったが、2024年は3780件(内女性1963件)に増加している。
こちらも年代別の請求件数は20~29歳は733件と少なくないが、30~39歳は889件、40~49歳は1041件、50~59歳は870件と、中高年が圧倒的に多い。
決定件数の精神障害の原因となった出来事別の内訳を見ると、最も多かったのは「上司とのトラブルがあった」の953件、次いで「上司等からパワーハラスメントを受けた」の389件、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」の358件と続く。
いずれも前年より増加している。そのほかに「同僚とのトラブルがあった」(217件)という原因もあれば、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(207件)というカスハラが原因でメンタル不調となったケースもある。
40~50代は入社20~30年のベテラン社員だ。その中には管理職も含まれる。少ないが「部下とのトラブルがあった」(34件)という原因もある。中間管理職の課長職であれば上司の部長から無理難題な要求を突きつけられたり、部下との軋轢からメンタル不調に陥ったりする人もいるだろう。
40~50代は具体的にどんな悩みを抱えているのか。
■デジタル化についていけない中高年の「異動願い」増加
大手企業でミドルシニア層のキャリア面談を担当しているキャリアコンサルタントはこう語る。
「ミドルシニア層には管理職もいれば、50歳になっても管理職に就けない人も多い。非管理職の悩みで多いのは、『自分は仕事をがんばっているのに正当な評価を受けていない』というもの。同じ仕事で成果を出しても、上司の中には、将来性のある若い部下の評価を高くし、シニアの評価を下げる人もいる。その結果、昇給もしなければ給与が下がる人もいる」
近年は大企業も大幅な賃上げが続いているが、賃上げの原資は初任給や若手社員に厚く配分し、中高年層はその恩恵を受けられにくい実態もある。その上、公正さを欠いた人事評価で給与を下げられたらバーンアウトに陥るのも無理はないだろう。
管理職の悩みも深刻だ。キャリアコンサルタントはこう語る。
「課長、部長に昇進しても、55歳前後で役職定年になるのがわかっており、その先が見えないと悩んでいる人が多い。役職定年後は現場の一兵卒として働くことになるが、自らリスキリングや新たなスキルを獲得するためにトレーニングする必要がある。しかし自発的に培ったスキルのレベルを上げていこうというのは一握りにすぎない。多くの人はキャリアが止まったままで悩んでいる」
55歳で役職を降りても実質的な定年である定年後再雇用の法定上限65歳まで10年もある。
キャリアコンサルタントは指摘する。
「40~50代は会社にキャリアを預けてきた世代。今さら将来を見越してスキルを身につけて自分のキャリアを描けといわれても戸惑ってしまう。若い人であれば例えば能力を高めるためにTOEICの点数を上げようという目標も見つかるが、これまであらゆる仕事をこなしてきたベテラン社員にとっては、どんな能力が必要なのかさえわからない人が多い」
といってもDX化が叫ばれ、デジタルスキルが求められているが、若手社員より高度なスキルを習得することも不可能に近い。そうした中でバーンアウトとおぼしき管理職も増殖しつつある。建設関連会社の人事担当者はこう語る。
「当社は期末に『異動希望』を申告することができる。以前は圧倒的に20~30代の異動希望が多かったが、最近は管理職からも出るようになった。なぜ今さらと思い、その理由を聞くと『デジタル化についていけないので、違う部署に異動したい』と言う。当社はデジタル化を推進しており、そんな部署はないと突っぱねたが、新しい技術についていこうという気力を失っている人もいる」と語る。
■氷河期世代は就活に苦しみ、キャリア後半でも苦しむ
それでなくても管理職の仕事は激務だ。
自らの業務以外に部下の育成もあれば、部門の戦略立案、予算の執行・管理、部下の業務管理、他部署との連携・調整から最近はパワハラなどハラスメント防止を含む労務管理まで多岐にわたる。
マイナビの「管理職の悩みと実態調査」(2025年1月9日)によると、「管理職になって、人生はどう変わったか」(ネガティブ一覧)の質問で最も多かったのは「仕事の比重が増えた」(75.8%)、次いで「心身の健康が損なわれた」(68.9%)、「プライベートや家族との時間が楽しめなくなった」(55.4%)と続く。
それ以外にも「キャリア的な将来の不安が増えた」(40.0%)、「自分の人生が望まない方向に進んでいると感じる」(39.0%)という声もあるなどキャリアに対する悩みも深い。
こうした状態が続けば、いずれはメンタル不調に陥り、バーンアウトに至る可能性は十分にある。
40~50代には氷河期世代も多く含まれる。バブル期入社組は定年にさしかかり、何とかぎりぎり逃げ切ることもできそうだが、氷河期世代はそれも難しい。彼らは、就活に苦しみ、キャリア後半でも苦しむことになってしまう。
いったんバーンアウトしてしまったら這い上がるのも容易ではない。企業にとっても再活性化し、戦力とするのも困難になる。
中高年がバーンアウトしないようにどうするのか、企業や社会にとっても大きな課題になりつつある。
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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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