■位置情報ゲームは「2強時代」が続く
位置情報ゲーム界隈の「2強」といえば、抜群の知名度を誇る「ポケモン」「ドラゴンクエスト」をモチーフにした2タイトル。それ以外にも、「信長の野望」「ディズニー」「モンスターハンター」などの位置情報ゲームが次々とリリースされており、界隈はまさに「有名コンテンツの位置情報ゲーム化バトル」と化している。
その中で、なぜ「ポケモン」「ドラゴンクエスト」は「位置情報ゲーム2強」として独走を続けているのか。
まずは、これまで発売された位置情報ゲームの主要タイトルを見てみよう。あなたはいくつご存じだろうか?(※編集部注:外部配信先では図表が表示されない場合があります。その際はPRESIDENT Online内でご確認ください)
ゲーム独自の世界観に基づく「Ingress」「駅メモ!」などがあるものの、位置情報ゲーム全体で見れば「ドラゴンクエスト」「ポケットモンスター」「モンスターハンター」など、既存の有名コンテンツの世界観をベースにしたタイトル(いわゆるIPゲーム)が大勢を占める。
■「歩く理由」がないと人は動かない
なぜ、「位置情報ゲーム」はコンテンツ頼みになりがちなのか? そこは、ゲーム特有の「歩く」行為に関わってくる。基本動作が「指を動かす」だけで済むほかのスマートフォンゲームと違い、全身を使って歩かせるための「理由付け」が必要となるのだ。
ユーザーとしても、万歩計を見せて「この距離を歩いてください」と無機質に言われるより、ポケモンなら「トレーナーレベルを上げるため! マスターリーグで勝つため!」ドラゴンクエストなら「冒険をして、勇者になるため!」といった動機を設定してもらった方が、何万歩も歩けてしまう。だからこそ、位置情報ゲームは「コンテンツ頼み」となる。
ただ、絶対的な人気がある有力コンテンツはそう幾つもなく、争奪戦となったうえで版権を持つ会社と制作会社がタッグを組み、位置情報ゲーム化されていく。こうして、映画・アニメ・PCゲームなど、別ジャンルのトップコンテンツがそれぞれ位置情報ゲーム化され、ユーザー争奪戦を繰り広げる構図になりがちなのだ。
例えるなら、横綱・野球三冠王・芥川賞作家・ボクシング世界王者などが、同じフィールド内でノールールで戦っているようなもの。この中からアプリを選ぶプレイヤーも迷う上に、ゲーム会社にとってもユーザーの争奪戦がいかに厳しいものになるか、お分かりいただけるだろうか?
■「1タイトルしか選ばれない」厳しい現実
そんな「位置情報ゲーム」は、一般的なスマートフォンゲームのプレイの傾向と若干違うようだ。
まず、「いくつ位置情報ゲームがあっても、プレイされるのは1タイトル」という傾向がある。1日に歩く時間は通勤・通学などに限られるため、複数の位置情報ゲームを切り替えてプレイしているとゲームが進行せず、選択肢が絞られてしまう。多くの人々は複数アプリをインストールするものの、結果として「気に入られた位置情報ゲームアプリ1個のみがアクティブに動く」状態になるのだ。
そしてもうひとつ、位置情報ゲームと通常のスマートフォンゲームとは、プレイされる時間帯で棲み分ける傾向にある。例えば、位置情報ゲーム以外の「モンスターストライク」「ウマ娘 プリティーダービー」などのピークが21時台に来るのに対して、位置情報ゲームは通勤・通学などで歩く朝8時台・夕方18時台にピークを迎え、21時台にはあまりプレイされない。いわば「移動するなら位置情報ゲーム、帰ってくつろいだら他のゲーム」といった具合に、棲み分けているのだ。
■位置情報ゲーム、勝ち組はどっちか
さて、今度は位置情報ゲーム2強「ポケモンGO」「ドラゴンクエストウォーク」を比較してみよう。ビジネスとして、どちらが「勝ち組」なのか?
実際のところ、ポケモンGOを運営している「任天堂&スコープリー(2025年に「ナイアンテック」から事業譲渡)」、ドラゴンクエストウォークを運営している「スクウェア・エニックス&コロプラ」ともに、比較できるような経営データを出しておらず、はっきりとしたことは言えない。
ただ、調査会社「Sensor Tower」のリリースでは、日本国内では「ドラゴンクエストウォーク」が3億ドル(11月13日時点のレートで約466億円)の収益を稼ぎ、2億ドル強にとどまる「ポケモンGO」を引き離している(2023年度)。
コンテンツの世界観に基づく「IPゲーム」の2024年1~7月実績でも、2021年4月のリリース後の大ヒットで親会社「サイバーエージェント」を過去最高益に導いた実績がある「ウマ娘 プリティーダービー」を、収益で上回っており、位置情報ゲーム界隈に限らず手堅い収益力を発揮している。
これらのデータを見る限り、「ドラゴンクエストウォーク」は、国内で位置情報ゲームとして、収益力でトップを確保しているといっていいだろう。
■「らしさ」がファミコン世代を呼び戻した
では、位置情報ゲームとしての「ドラゴンクエストウォーク」は、「ポケモンGO」と比べてどのような強みを持つのか。筆者が実際にプレイして感じるのは、RPGゲームとしての「ゲームらしい体験を提供できている」ことではないだろうか。
プレイのメインとなる各章やイベントにはストーリーがあり、定期的なイベントでも10作以上の「ドラゴンクエスト」シリーズのナンバリングを追うことが多く、現に2025年12月時点でも、『I&II』(HD-2D版発売記念)のリメイクイベントを開催中だ。
「ポケモンGO」の場合はストーリーから「AR撮影」などのカジュアルな楽しみ方にシフトしているが、「ドラゴンクエストウォーク」の場合は「ドラゴンクエスト」の世界観を楽しみながらプレイする。
開発当時からそういった方針がしっかり感じられ、RPGゲームとしての「ドラゴンクエストウォーク」のファンを惹きつけているからこそ、かつてファミコン、PlayStationなどで楽しんでいたプレイヤーを、スマートフォンアプリの世界に呼ぶことができたのだろう。
また、過去に九州・北海道・仙台などで「リアルイベント」も開催されており、位置情報ゲームとしての「ドラゴンクエストウォーク」のイメージ向上に寄与している。
■「ユーザーの日常」に浸透する仕掛け
昔からのファンをスマートフォンアプリに呼べた……とはいえ、ドラゴンクエストウォークは「無料ダウンロード」であるがゆえに、それだけでは収入に繋がらない。原作の人気キャラクターや強力な武器を実装すれば“ガチャ”収益は上がるものの、過度な投入はゲームのバランスが崩れてしまう。
ここで、アイテム販売や“ガチャ”にこだわらない収益の秘訣が「ゲームプレイ以外への機能拡張」だ。
そして、これらのコンテンツには「広告」が入る。数十秒の「動画広告」を視聴することで、プレイヤーは課金せずともゲームを楽しめ、運営は手堅く広告収入を得ることができるのだ。
また、この「歩かなくてもアプリを開いてもらえる仕組み」は、ドラゴンクエストウォークそのものにも相乗効果を生み出す。「カジノゲーム」「食事記録」などの名目で毎日アプリを開く習慣が定着することで、プレイヤーは自然とメインコンテンツにも触れる機会が増えていく。
一度ログインすれば、新しいイベントやクエストの通知が目に入り、「せっかくだから少し歩いてみるか」という行動を促す。こうした日常への浸透が、結果的にゲーム本編への継続的なエンゲージメントを高め、課金意欲の高いコアユーザー層の維持にもつながっているのだ。
■「引き継がれたファン」が収益を支える
このように、「ドラゴンクエストウォーク」のユーザーはしっかり「ドラゴンクエスト」から引き継がれ、日常生活に浸透し、ゲームをやり込むユーザーと課金によって高収益を上げている。実際に「ドラゴンクエストウォーク」は10時間以上プレイするユーザーの割合も多く、(Sensor tower 2024年2月リリースより)、今後ともゲームビジネスとして、安定した高収益を上げながら、国内「2強」の座を守りつづけていきそうだ。
ただ、海外では「ポケモンGO」がアメリカを中心に世界で年間10億ドル級の売り上げ確保に成功しているのに対して、「ドラゴンクエストウォーク」は日本(台湾でもプレイ可能)のみ。グローバル市場でいえば、「ポケモンGO」の方が位置情報ゲーム市場を牽引しているといえるだろう。
これに関しては、仕方がない部分もある。
■「ハードからスマートフォンへ」
ただ、「ドラゴンクエスト」自体は30年かけて海外人気を築き上げており、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』のリメイク版も、世界中でヒットを記録している。いまPC・switchなどのハードで遊んでいるプレイヤーを、海外でもスマートフォンアプリで共有してもらうには……
スクウェア・エニックスでは、『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』を2026年春にリリースする予定だという。日本で好まれるストーリー展開重視のRPGというよりも、若干見下ろした視点からバッサバッサと戦闘する海外好みのアクションゲームであり、どこまでスマートフォンユーザーを取り込めるか、期待がかかる。
一方で、ポケモン陣営は2024年にリリースした「Pokémon Trading Card Game Pocket」(ポケポケ)が世界中でヒットを記録し、ハードでプレイしていたファンをスマートフォン市場に取り込んだ。ポケモン・ドラゴンクエストはどちらも、この「ハードからスマートフォン」へ取り込む作業に没頭しており、位置情報ゲームでの「2強」対決は、あくまでその一部分と言えるだろう。
「ドラゴンクエストウォーク」は今後も日本を軸としつつ、スマートフォンゲーム市場を「ポケモン」「ドラゴンクエスト」という日本発のコンテンツで制圧できるか。今後のスマートフォンゲーム市場・IPゲーム市場の動きに、要注目だ。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。
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(フリーライター 宮武 和多哉)

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