仕事相手から信頼されるにはどうすればよいか。元レスリング日本王者でビジネスコンサルタントの金久保武大さんは「日々の心配りが関係性を育てる。
相手の都合を確認してから電話をかける、メールは素早く丁寧に返信するといった小さな行動の積み重ねが信頼獲得につながる」という――。(第2回)
※本稿は、金久保武大『圧倒的な結果を出す思考の筋トレ』(小学館)の一部を再編集したものです。
■会食を「楽しかった」だけで終わらせない
「人脈は多いほうがいい」――ビジネスの世界では、よく耳にする言葉である。
たしかに、多様な業界や立場の人とつながっていれば、情報やチャンスの流入量は増える。だが、僕が大切にしているのは、ただ人とつながることではなく、その関係をどう活かすかという視点である。
そこで僕は、会食の相手や頻度を見直し、誰とどれくらい会っているのかを数値で整理した。会食だけでも年間500回以上、多いときは1日3件。独立から2年目に入った時点で、すでに延べ2万人を超える人とテーブルを囲んでいた。
さらに、これから自分が注力する事業との親和性や、相手の関心領域、困りごとの傾向をもとに関係性をマッピング。単なる感覚ではなく、具体的な数値と傾向から“信頼の濃度”を可視化していった。
この取り組みによって、会食という時間の価値は大きく変わった。事業の未来を共に描ける相手かどうかを見極める場となり、意味のある時間に昇華されていった。

また、誰かが課題を抱えたときにも、「この悩みなら、あの人が助けてくれる」と即座に判断できるようになり、紹介や支援のスピードと精度が圧倒的に上がった。
■人脈で大事なのは量ではなく質
信頼関係とは、単に数を増やすことではなく、必要なときに機能し、互いを高め合える関係の質によって築かれていくものである。そして、それを日々の会食という時間のなかで、僕は一つずつ丁寧に積み重ねている。
会食や相手とのつながりを数値化して可視化するなかで、僕は一つの結論にたどり着いた。それは、「人脈は多ければいい」という単純な話ではないということだ。持つべきは、“相手との関係にどれだけの信頼と未来が待っているか”という視点である。
僕が会食で大切にしているのは、ただ出会うことではない。「この人と仲良くなりたい」と思える相手と、腹を割って話す時間こそが、人脈の“質”を高める最も確かな方法だと信じている。
名刺交換だけで終わる関係ではなく、信頼で結ばれた関係に育てていけるか――。その意識を持つだけで、出会いの質は自然と変わってくる。
■会食が「時給100万円の商談」に
人と人をつなぎ、クライアントの課題解決の相談に乗るなかで、1時間のやり取りが100万円を超える価値を生むこともあった。
もちろん、僕が価格を提示したわけではない。
あくまで、目の前の課題に真摯に向き合い、実際に売上や成果として結果が出たことで、相手のほうから「この時間にはそれだけの価値がある」として評価されたにすぎない。独立して数年、僕は10億円を超える売上に貢献するようになっていた。
「困りごとを一緒に解決してくれる人」「成果を一緒に出せる人」として信頼されれば、相手は惜しみなく報いてくれる。評価されるのは、あくまで“結果に対する感謝”の現れなのだ。こうした瞬間にこそ、ビジネスの醍醐味がある。
お金そのものではなく、「あの人に頼んでよかった」というひと言が、次の案件を呼び込み、また信頼の連鎖が広がっていく。
自分の時間と知見が、相手の課題を解くために使われ、それが価値として適切に評価されたとき、信頼は一気に深まっていく。そしてその関係性は、一度きりのやり取りでは終わらず、次の相談や紹介、長期的なパートナーシップへとつながっていく。
■「丁寧な人」になるテクニック
ビジネスとは結局、人と人の間にある“信頼の流通”であり、そこに真摯に向き合い続けることで、無限に可能性は広がっていくのである。
こうした信頼は、一朝一夕に得られるものではない。日々の小さな行動や心配りが、着実に関係性を育てていく。たとえば、
・相手に連絡する前に「今、お時間大丈夫ですか?」と気遣いのひと言を添える

・どんなやり取りも、素早く、丁寧に返信する

・会話の最後には「いつもありがとうございます」と、感謝を欠かさない

そんな些細な行動が、「この人とは安心して関われる」という印象を残し、信頼の根を深く張っていく。
人脈とは、肩書きや実績で築くものではなく、日々の姿勢と誠実さで育てていくものなのだ。
そして、この「丁寧さ」がやがて大きなビジネスの機会を呼び込んでくれる。どれほど良い商品やサービスを持っていても、「この人になら任せたい」と思ってもらえなければ、選ばれることはない。
信頼の質こそが、成果の質を決めていく――この実感が、僕の行動の指針になっている。
■失敗はチャンス
正直に言えば、僕もこれまでに多くの失敗を経験してきた。どれだけ営業経験を積んでも、失敗は避けられない。むしろ、たくさん行動すればするほど、ミスの数も増える。失敗をやらかすたびに反省し、謝罪し、信頼を取り戻してきた。
たとえば、保険の契約に関して、できないことを「できる」と言ってしまったときのことだ。信用問題に関わる重大なミスだった。すぐに菓子折りを持って足を運び、何度も頭を下げた。
ほかにも、レスポンスが他者に漏れてしまったり、スケジュールのダブルブッキングを起こしてどちらかをキャンセルせざるを得なくなったりしたこともある。

もっと言えば、寝坊をして約束の時間に遅れてしまったこともある。完璧からは程遠い。
今でも、菓子折りを持って謝罪に足を運ぶことはある。でも、大切なのは「失敗しないこと」ではない。失敗したときに、どれだけ早く、どれだけ誠実に向き合えるかだ。
言い訳をせず、すぐに謝りに行く。顔を出して、気持ちを伝える。誠意ある対応は、相手に必ず伝わる。むしろ、そこでの姿勢によって信頼が深まったケースも少なくない。
今の僕が心がけているのは、「ミスをゼロにする」ではなく、「信頼を失わない行動を取る」こと。失敗はプロセスの一部だと割り切り、気にしすぎない。それでも
誠意だけは絶対に欠かさない。
この姿勢があるからこそ、次のチャンスが生まれるのだと、数々の経験を通して学んできた。
僕は失敗を「終わり」ではなく「関係を深めるきっかけ」ととらえている。人は完璧さよりも、誠実さに心を動かされる。ミスを恐れて動かないのではなく、動いて失敗し、誠意を持って修正する。その繰り返しが、結果的に最も強固な信頼を築くのである。

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金久保 武大(かなくぼ・たけひろ)

元レスリング日本王者、ビジネスコンサルタント

日本体育大学在学中にレスリング競技を始め、2009年全日本選手権初優勝。以降、通算7回優勝。わずか4年2カ月で全日本王者、世界選手権5位と日本屈指の成長曲線を描く。2016年引退。2017年ソニー生命入社。新人営業歴代最高記録を樹立し、社長杯(PD)受賞。2021年独立。
人材事業会社Proverを共同で創業。これを皮切りに、金融・AI・医療・人材・不動産などの異業種を横断しながら、複数事業の成長支援に携わる実践型コンサルタントとして活躍。インベスコアジャパン、TREASURY、KSTほかの事業設計・組織構築・営業統括・資金調達などに携わる。現在はGPUサーバー等の先端技術に従事。IC Digital Asset執行役員。著書に『圧倒的な結果を出す思考の筋トレ』(小学館)。

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(元レスリング日本王者、ビジネスコンサルタント 金久保 武大)
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