■「料理するのが女の幸せ」と決めつける主人公
「男が朝から料理するわけないだろ」
「(女性の後輩に)弁当ぐらい作れ。料理しない? うわーマジか」
「家で料理作って愛する人の帰りを待つっていうのはさ、女の幸せだと思うけどな」
「(彼女の作った夕ご飯に)全体的におかずが茶色すぎるかな。もうちょっと彩りを入れたほうがいい。これは鮎美が『もっと上を目指せる』って意味でのアドバイス」
ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)第1話より
竹内涼真演じる大企業勤務のサラリーマン・海老原(えびはら)勝男(かつお)が、こんな“昭和の男”的NGワードを連発し、話題となっているドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)。初回視聴率は6.3%だったが、注目を集めて数字が少しずつ増え、11月11日放送の第6話では8.1%まで上がった(いずれも関東地区)。今後、12月に迎える最終回までさらに視聴率は高くなっていきそうだ。TVerなどの見逃し配信では、ドラマ部門ランキング1位になることも多い。
原作は谷口菜津子による同名コミックで『comicタント』(ぶんか社)で連載中。ドラマの大部分の内容は、原作漫画に忠実に展開している。
主人公の勝男は大分県の中小企業社長の三男として生まれ、専業主婦の母のおいしい手料理を食べて育ったイケメン&高身長男子。地元の大学ではミスター・ミスコンテストで恋人の山岸鮎美(あゆみ)(夏帆)と共に優勝し、美男美女の「パーフェクトカップル」と呼ばれてきた。
その勝男が特にこだわる“おふくろの味”が筑前煮。
■「じゃあ、あんたが作ってみろよ」と言えない
ところが、勝男としては満を持してのプロポーズをしたところ、鮎美は「無理、別れたいの」と即答で拒否。その日のうちにマンションを出ていってしまう。結婚できない理由は「勝男さんに言ってもわからない」と詳しく教えてもらえず、勝男は絶望の淵に突き落とされて涙する。しかし、本当は鮎美こそが、勝男のモラハラ的発言やデリカシーのなさにずっと絶望していたのだ。
しかし、鮎美も完全無罪ではない。彼女には雑誌のモテ特集を参考にして男性に媚びる打算的な面があり、「条件が良い」勝男と結婚するため、同棲生活でも我慢を重ねてきた。勝男が「彩りが悪い」「おかずと味噌汁の具が同じ」「味噌汁の具が季節外れ」などと、こまごま料理に注文をつけても、「じゃあ、あんたが作ってみろよ」とキレることなく、「次から気をつけるね」とスマイルで対応。これでは、会社では後輩たちに「化石」扱いされている勝男も、自分が時代遅れで間違っているとは実感できない。
■主人公は改心したが、大分の両親が危ない
だが結局、「パーフェクト」だと思っていた関係は破綻し、勝男はハートブレイクな状態から浮上できないでいた。会社の女性の後輩から「(元カノの気持ちを理解するために)自分で筑前煮を作ってみたらどうですか」(じゃあ、あんたが作ってみろよ)と言われ、料理に挑戦してみたものの、当然、鮎美のようにはおいしく作れず、そこで初めていかに自分が鮎美に甘えていたかを思い知る。
昭和のCMキャッチコピー「私、作る人、僕、食べる人」を地でいっていた勝男は、そこから「僕、作る人」に転身。もともと食にはこだわりがあるだけに、めきめきと腕を上げ、第6話の時点で筑前煮を始め、おでん、とり天、小籠包まで作れるようになった。これまでの生き方を反省したのだが、入れ替わるように危うい状況になってきたのが、彼の大分の両親だ。
これまで母親の陽子(池津祥子)は、亭主関白な夫・勝(菅原大吉)の面倒を甲斐甲斐しく見てきた。毎日の食事作りはもちろん、陽子が息子の勝男と電話している間にも「ご飯のおかわり」「お茶が冷めた(から温めろ)」などと、細かい作業を要求され(視聴者は「そのぐらい自分でやれよ」とツッコミたくなる)、イヤな顔ひとつせずにそれをこなしてきたが、第6話のラストの陽子は恐ろしかった。
■九州の親戚の集まりに「リアル」の声
法事が開かれたらしく、海老原家の居間に十数人ほどの男女が顔をそろえたのだが、床の間の前にどっかりと座った勝は、末席にいる妻に「おかずこれだけか? 隣からもらった魚あったやろ」と、生魚を刺身にするように指示し、周りの男性に苦笑いしながら「はようせえ、(料理が)何も出ちょらん」とディスった。食卓の上には陽子が作ったであろう、ちらし寿司や天ぷら、筑前煮が既に並んでいるというのにだ。陽子は「(魚を)今おろしますから」と礼服のままエプロンを着けて台所に立ち、鬼気迫る表情で魚のウロコをそぎ取っていた。
この“親戚の集まり”シーンには、自分の経験をダブらせた人も多く、Xではリアルだという反応が多数ポストされた。
「祖母の葬式で九州の家に行った時にめちゃくちゃ見た光景」
「毎年の正月、これ(鹿児島出身)」
「ほんとこれ(長崎在住)」
「九州の田舎の方の祖父母宅に親戚一同が集まるとき今でも当たり前にこれ」
「これ見て、あぁ~正月帰りたくねぇなぁ~と思った地元が九州の女、みんな友達」
「『男は上座、女と子どもは下座』な感じも、男が一歩も動かずに『おい、あれ持ってきて』って頼むのも、女が『出た出た』って顔するのも、すっごく既視感(福岡出身)」
「もっと田舎の本物の“さす九”は女は別室です。台所前待機です」
■原作者は大分県別府市で取材したが…
次々にポストされた九州出身・在住の女性たちからの声。その数は圧倒的だったが、「福岡市出身だが、こんな文化はなかった」「うちは父親も(配膳に)動く」と反論する九州出身者もいた。
九州では男尊女卑の文化・考え方がまだ根強く広く残っているという状況を指し、嫌味として「さすが九州」、略して「さす九」というが、そんな問題にも波及してきている「じゃあつく」。原作漫画3巻のあとがきによると、舞台は大分県別府市。作者の谷口氏は2023年に同地を訪れ取材をしたが、「さす九」を描こうと考えたわけではないそうだ。担当編集者の出身が別府なので、主人公の勝男はそこで生まれ育ったという設定にしたという。ちなみに第6話の親戚の集まりのシーンは漫画にはなく、ドラマの脚色だ。
原作を読んだ人には予想できるが、勝男の母・陽子もずっと“作る人”“耐える女”ではいられず、両親の間には決定的な亀裂が入るだろう。11月18日放送の第7話では、結婚を期待している両親にまだ「鮎美と別れた」と告白できていない勝男が、友人の結婚式に出席するため大分に帰省するのだが、どうなってしまうのだろうか。しかも、鮎美も大分に帰っているのだ。
■男性は家事をしない「さす九」は本当なのか
ところで「さす九」(九州は男尊女卑の考えが強い、女性が家事を押しつけられる)は、データで証明されているのだろうか。
総務省統計局の出した「都道府県別イクメンランキング」では、九州は10位の宮崎県、11位の鹿児島県以外は平均以下。福岡県が25位、沖縄県が38位、佐賀県が39位、長崎県が42位、熊本県が45位、そして、「じゃあつく」の舞台である大分県は46位となった。
■家事負担が大きい九州の女性たちの不満
「九州・山口 6歳未満の子を持つ男女の家事・育児時間に関する調査」(九州地域戦略会議、令和2年)では、九州・山口の中で大分県が最も「男性の育児・家事時間が長い」と出ており、「女性の育児ストレスが少ないランキング」でも1位になっているが、他の地域に比べると、やはり九州の女性はたいへんそうだ。同アンケートの自由回答欄には、以下のような声も寄せられている。
「女性が家事育児はやる物だと考えている人が多い」
「親の背中、家庭環境は大きい。専業主婦の環境に育った男は家事しない」
「夫に家事を任せても、やり方が雑だったりやり方が分かっていないから、結局やり直したりする手間がある。幼い頃から家事は男女共に分担して行うものとして教育が必要だと思う。注意してもなかなか聞き入れてもらえないのでストレスになる」
「親世代には男尊女卑の考えがまだあるので、自分たちの存在価値を見出すために男尊女卑を言うしかないのかもしれないが、それはナンセンスだとわかって欲しい。時代が違うんだなと認識して欲しい。田舎は特に。男尊女卑じゃないと自分の価値がなくなって奥さんに捨てられるとでも思ってるのかなー? って想像してしまうのも一種の差別なのかもしれないが」
九州の女性のリアルな不満と怒りが伝わってくる。そんな状況をどうやって変えればいいのかという問いにも「妻が上手に夫を育てること」という答えもあれば、「遠慮せず、お願いするなど下手に出ず、配偶者がやって当然という態度で対応する」という回答もあり、なかなか一筋縄ではいかない現状が見て取れる。
■全国調査でも女性の85%が食事作りを担当
しかし、Xの反応にもあったように、これは九州だけの問題ではない。「じゃあつく」の勝男が、劇中でも視聴者の感想でも「昭和の男」「今どきありえない」と言われながらも、これだけの大きな反応を呼び起こしたのは、まだまだ「毎日の食事は女性が作っており、男性はそれが当然だと思っている」という現状があるからではないか。
全国調査でも、家事のジャンル別に見ると、育児やゴミ出し、家計管理などの作業に比べ、「食事の献立を考える」は圧倒的に女性が担当している率が高い(図表2)。全世代平均で約85%の女性が、毎日の食事の献立を考え、そして実際に作っている(図表3の「妻」「どちらかというと妻」合計)。鮎美のように「じゃあ、あんたが作ってみろよ」と言いたい気持ちを我慢している女性も、きっとたくさん存在するのだろう。
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村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。
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(ライター 村瀬 まりも)

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