※本稿は、石川英昭『幸せな老衰 医師が伝える叶えるための「3つの力」』(光文社)の一部を再編集したものです。
■「なんとなくダルい」の背後に見逃せない病気
「老衰を加速させない」――これは本書でお伝えしたい重要な考え方の一つです。
歳を重ねる中で、不調や病気が現れるのは自然なことです。しかし、それを「歳だから仕方ない」となんでも放置してしまうと、老衰の進行を早め、生活の質(QOL)が損なわれる可能性があります。
一方で、身体や心の変化に早めに気づき、適切な対処をすることで、老衰のスピードをゆるやかにし、健康寿命を延ばすことができます。
たとえば、「目が見えにくくなってきた」「食が細くなった」「なんとなくダルい」――こうした変化は、確かに加齢によるものと考えられることが多いでしょう。
しかし、それだけで片づけてしまうのは危険です。これらの症状の背後には、見逃せない病気や、治療によって改善が期待できる不調が潜んでいる可能性があるからです。
目のかすみは白内障の兆候かもしれません。食欲の低下は、歯や口腔の問題、あるいは消化器系の疾患に関連している場合があります。また、ダルさの原因としては、貧血などの病気が隠れていることも考えられます。
■体調の変化をすべて「歳のせい」として放置しない
これらの症状を早い段階で見つけることで、病気の程度が軽いうちから治療を始められるというメリットがあります。さらに、思わぬ重い病気が見つかった場合でも、早期であれば手術によって完治が期待できるケースもあります。したがって、一刻も早く原因を特定し、適切な治療を受けることが重要です。
体調の変化をすべて「歳のせい」として放置するのではなく、医療の力を適切に借りて原因を見極める努力が大切です。早めに対応することで、症状の改善だけでなく、老衰の進行を遅らせ、生活の質を維持することにもつながります。
また、薬の使用に抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、適切に使えば薬は頼もしい味方になります。無理に医学を遠ざける必要はありません。むしろ医療と上手に付き合うことで、不安や負担を軽減し、自分らしい暮らしを続けることができます。
本稿では、老衰を加速させる要因にどう対処すればよいのか、具体的なヒントをお伝えします。不調のサインを見逃さないための知識、健診やかかりつけ医の活用方法、薬や治療に関する注意点など、安心して医療と関わるための実践的なアドバイスをまとめました。
■「視覚・聴覚・嗅覚」の低下が怖い理由
加齢に伴い、「見えにくい」「聞こえにくい」「においがわからない」といった感覚器の機能の低下を感じるのは、誰にでも起こり得る自然な変化です。
しかし、これを単なる老化現象として放置するのは危険です。
また、感覚器の機能低下は生活の質を損なうだけでなく、放置すれば認知症のリスクを高めることにもつながりかねません。
「最近、目がかすむ」「細かい文字が見えにくい」と感じたら、老眼や視力低下だけでなく、白内障、緑内障、加齢黄斑変性といった病気の可能性を考える必要があります。
特に白内障は手術で視力が改善するケースが多く、早期発見が重要です。見えにくさを放置すると、転倒リスクの増加や外出の減少につながり、生活範囲が狭まる恐れがあります。
視覚情報は脳で処理されるため、目からの情報が減ると、脳への刺激が減り、認知機能に悪影響を及ぼすおそれもあります。
「目の調子が少しおかしい」と感じたら、ためらわずに眼科を受診してください。
■音が入らないことは、脳の活動を低下させる要因に
聴力もまた、加齢による自然な衰えが避けられない感覚の一つです。しかし、その裏に、突発性難聴や耳あかの蓄積など、治療が必要な問題が隠れている場合もあります。
耳鼻科での診察によって、原因を取り除き、適切な治療を受けられる場合があります。
ある時、高齢の患者さんから「片方の耳が聞こえにくい」との訴えがありました。
耳を掃除してもらった患者さんは「すっきりした」と苦笑いされていましたが、このエピソードは専門家の診察の重要性を物語っています。
聴力が低下すると、程度が重くなるほど、認知症のリスクが高まることがわかっています。視覚情報と同様に、音を処理する際には脳のさまざまな部位が関与しています。そのため、音が入らないことは、脳の活動を低下させる要因となります。
さらに、聞こえにくさは会話を困難にし、何度も聞き直すことで疲れてしまい、やがてコミュニケーション自体が億劫になります。これが孤独感を招き、家にこもりがちになる悪循環を生み、心身の健康を損ないます。
ご存じの通り、聴力低下を補う手段として補聴器があります。ただ、患者さんによっては、「恥ずかしい」「面倒だ」といった理由で、使用に消極的な方も少なくありません。
しかし、補聴器を活用することで、聴力を補うだけでなく、社会とのつながりを維持できるのです。孤立を防ぐ大きな助けとなり、さらに、認知症のリスク軽減にもつながるのです。
■日常的に香りに触れることが、脳によい刺激を与える
嗅覚の低下は、日常生活に大きな影響を及ぼす問題です。においがわからなくなると、火災やガス漏れに気づくのが遅れる、腐った食品を摂取するなど、重大な事故や健康リスクにつながるおそれがあります。
また、認知症の中には、認知機能の低下や運動機能の衰えに先立って、嗅覚の低下が見られる場合もあります。
もし、明らかににおいを感じなくなったと気がついた場合は、ためらわず専門家を受診してください。まずは耳鼻科で鼻炎や副鼻腔炎といった病気を除外することが重要です。
その後も異常が続く場合、脳神経に起因する病気の可能性を考慮し、神経内科医への相談が勧められます。神経内科とは、脳や神経などに関する病気を専門的に診察・治療する科で、あまりなじみがないかもしれませんが、嗅覚低下の背景にある「認知症」などの病気を見極める診察をしてくれる専門家です。
残念ながら、現時点では、嗅覚の衰えそのものを直接改善する治療法はありません。しかし、日常的にさまざまな香りに触れることが、脳によい刺激を与えることがあるとされています。
■就寝時にお香の香りを楽しむ
たとえば、睡眠中にアロマセラピーを受けた高齢者では、記憶力が改善したという興味深い研究結果もあります。将来的には、補聴器だけではなく、認知症予防を謳った「補『嗅』器」も市販される可能性があるかもしれません。
私自身は、就寝時にお香の香りを楽しむことを習慣にしています。リラックスするためだけでなく、認知症予防にも期待できるなら、一石二鳥です。副作用もなく、気軽に試せる方法としてお勧めできます。
以上のように、感覚器の変化は、適切な診断と治療を受けることで改善が期待できるものが多く、生活の質を守るために非常に大切です。また、感覚の低下をそのままにしておくと、認知機能の低下に直結するおそれがあり、注意が必要です。
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石川 英昭(いしかわ・ひであき)
医師
1973年、岐阜県生まれ。東海大学医学部卒業、名古屋大学大学院にて医学博士取得。腎臓専門医、透析専門医。現在、医療法人偕行会城西病院副院長、聖隷クリストファー大学臨床教授。勤務医として20年以上腎臓病診療に携わると同時に、老衰患者の「看取り医」としての職務を担っている。
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(医師 石川 英昭)

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