これからの時代に、価値を高める人の特徴は何か。早稲田大学名誉教授の内田和成さんは「個々の主観で、自分の『好き』を極めたほうが、結果的に仕事上での『自分の価値』を高めることができる。
合理的につくられたシステムからは、合理的に予想される成果以上のものは生まれない」という――。
※本稿は、内田和成『客観より主観 “仕事に差がつく”シンプルな思考法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■あなただけの「最高のキャリア」をつむぐ方法
先の記事で説明した「説得力を持ったストーリー」は、長い時間をかけて自然に出来上がっていくものであると同時に、ある程度“狙って”つくり上げていくこともできる。
たとえば自分が関心のある分野について、積極的に情報を集め、ことあるごとに、「私はこれについて、こう思う」と、積極的に自分の意見を発信していくのだ。
最初のうちは、知識不足や経験不足をバカにされるかもしれない。
でも、そうやって経験を積んでいくうちに、やがて10回に1回くらいは話を聞いてもらえるようになる。それが10回に2回に、そして3回になる。
気づけば、10回のうち6~7回は話を聞いてもらえるようになり、いつしか周りから「●●のことならあいつに聞け」と言われるようになる。
そうなると、仕事のキャリアをつくるには、非常に有利になるわけだ。
これはなにも、コンサルタントの世界に限った話ではなく、基本的にどんな仕事でも同じだ。普段から自分が好きで関心を持っているジャンルであれば、あなたはすでに普通の人以上の知識や情報を持っているはずだ。また、そのジャンルに関する情報を収集したり、発信したりすることも、苦に感じないだろう。

あとはそれを、「自分ならではのストーリー」をつくるための材料にしてしまえばいいのである。
■「自分らしさ」を「武器」に変える働き方
ストーリーが大事ということは、「客観的にいいとされること」以上に、個人の独自性が求められるということだ。「世の中でいいとされること」や「効率的に一番いいやり方」を極めても、まったく面白みがない。
それより個々の主観で、自分の「好き」を極めたほうが、結果的に仕事上での「自分の価値」を高めることができる。
やはり大切なのは、実績や経験の有無を問わず、「自分はこれが好きだ」「これは自分の得意分野だ」と積極的に発言をしてくことだ。
そうやって日頃から「自分の主観」を表明している人ほど、多くのチャンスに恵まれる。そこで経験を積むことができれば、「客観的な信頼性」も後からついてくるだろう。
逆にもし、最初の段階で「自分はまだ経験が足りない」とか、「より実力のある先輩たちに任せたほうがいい」と、発言を控えていたら、どうなるだろうか?
合理的に考えれば、それは正しい。経験値の低い人間が混ざることによって、チーム全体の“仕事の平均点”は下がるだろうし、「できる人に任せる」ほうが作業もスピーディーに進むだろう。
でも、それでは個人の成長につながらないし、組織の成長も遅くなってしまうのである。みなの成長をリーダーが望むのであれば、予定調和的なマネジメントをするのでなく、部下の主観を活かし、それぞれがストーリーをつむげるような場を演出する必要があると私は考えている。
以前であれば、名人技の伝承ではないが、上司とか先輩が持っているものを、そのまま若い世代に伝えるというのが主流だったかもしれない。

しかし現在は、あらゆる業界で技術革新が起こり、「いままでのやり方」が通じなくなっている。
だとしたら、上司は部下の特性を見抜いたうえで、「その人らしい」やり方や考え方を容認して「やらせてみる」ことが、今後ますます大事になってくるのではないだろうか。
■1千万円分ぐらいの失敗を許容できるか
もちろん、そうやって経験やスキルが十分ではない人に仕事を任せていれば、失敗も増えるだろうし、短期的には売上が落ちることもあるだろう。
だが、こうした失敗やリスクを恐れて、従来のやり方を漫然と続けているだけの会社が、これからの市場で生き残っていけるとは思えない。
失敗を恐れるのであれば、部下の失敗をゼロにしようとするよりも、「どこまでの失敗やリスクなら許容できるか」を事前に把握し、対応策を考えておけばいいだけの話だ。
仮に年間10億円くらいの利益を上げている会社であれば、若い部下が1千万円分ぐらいの失敗をしたとしても、「新しいやり方」を会社にもたらすための投資と考えれば、ずっと将来のためになる。その1千万円の損失が、数年後に何億円にもなって返ってくる可能性だってあるのだ。
私がこれまで見てきた限りで言えば、先進的で、イノベーションが起こるような組織ほど、このように「チャレンジを推奨する」文化が形成されている傾向がある。
■さらば「ロジカルファースト」の世界
これからの時代の「組織づくり」に必要なのは、「客観的なロジック」よりも「主観的なストーリー」だ。
それは、会社が掲げている壮大な理念やビジョンに限らず、社員一人ひとりの「小さな主観」が重要視されるということでもある。
上の指示にただ従うのではなく、自分の主観に従い、自分オリジナルの仕事、あるいはストーリーをつくっていこうと行動することが、結果的に組織を成長させるのだ。
そう考えると、組織が成果を出していくために最も重要なのは、やはり「主観と主観のぶつけ合い」だと言えるだろう。

あなた個人の主観に基づくストーリーと、組織としてのストーリーが重なるところにこそ、強い推進力が生まれる。そしてそれは、組織全体としての連帯感をも生み、「多様だが、まとまっている」という、なんとも不思議なチームが出来上がる。
そして、この連帯感を強く持っているチームは強い。分野や業界を問わず、ずば抜けた成果を出している組織やチームというのは、そういう“誇り”に似たものを持っている。
ひるがえって現代のマネジメント理論を見れば、ずっと「どこの会社でも成立する客観的正解」ばかりが求められてきた。
論理性を重視し、効率的に、合理的に、社員が自分の目標を掲げ、それを上司がなるべく客観的に評価する。
■求める働き方は「主観」が教えてくれる
もちろん、そうしたやり方にもメリットはあるし、千差万別の部下がいる職場では、そうした誰もが実行可能なやり方を導入していく必要もあるだろう。
ただ往々にして、合理的につくられたシステムからは、合理的に予想される成果以上のものは生まれないものだ。
だからこそ、本書で繰り返し述べてきたように、「客観」から「主観」に発想を切り替えることこそ、日本のビジネス、そしてあなた自身のこれからの働き方を大きく変えるヒントになるのではないかと私は思う。
もちろんそれは、昔のようなアナログな働き方に戻れ、という話ではない。
以前よりスマートで効率的になった部分や、最先端のツール自体は活用しつつも、根っこの部分で、「主観」のことを考え続けてほしいのだ。
客観的で、合理的で、画一的な“つまらない生き方”に身を投じるか。

主観的で、直感的で、個性的な“ワクワクする生き方”を選ぶか。
その答えは、あなたの「主観」が教えてくれるはずだ。

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内田 和成(うちだ・かずなり)

早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授

東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空株式会社を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。2000 年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント25人」に選出。2006年から2022年3月まで早稲田大学教授。早稲田大学ビジネススクールでは意思決定論、競争戦略論、リーダーシップ論を教えるかたわら、エグゼクティブプログラムにも力を入れる。
主な著書に、『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)など、ベストセラー・ロングセラーが多数ある。

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(早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授 内田 和成)
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