高齢者が健診や検診をする際の注意点は何か。医師の石川英昭さんは「健診や検診を受けた後、正常値と判断されても、検査対象外の病気が隠れているかもしれない。
一方で、異常値があった場合でも、自己判断で不安を募らせてはいけない。結果をどのように活用するかが大切だ」という――。
※本稿は、石川英昭『幸せな老衰 医師が伝える叶えるための「3つの力」』(光文社)の一部を再編集したものです。
■健診は必要なのか――高齢者にとっての意味と活用法
「特に気になる症状がない場合は、何もしなくて大丈夫なのか?」
本稿では、そんな疑問にお答えします。
まず、「健診」と「検診」の違いについて簡単に整理してみます。
健診は体全体の健康状態をチェックするもので、特定健診(いわゆる「メタボ健診」)がその代表例です。一方、検診は特定の病気を見つけるための検査を指し、がん検診や骨粗鬆症の検診などがこれに該当します。高齢者の健康管理では、この両者を適切に使い分けることがポイントです。
特に75歳以上の方は、後期高齢者健診の対象となります。この健診では、高血圧や糖尿病などの内科疾患の早期発見・早期治療を目的とした検査項目に加え、フレイルに関する質問が含まれているのが特徴です。
たとえば、「固いものが食べにくくないか?」「歩く速度が遅くなっていないか?」「日付がわからなくなっていないか?(認知機能のチェック)」などが確認されます。対象の方には自治体から案内が届き、基本的に無料で受診できるため、ぜひ積極的に受けていただきたいと思います。

こうした健診の結果、高血圧や脂質代謝異常(高脂血症・高コレステロール血症)、そして耐糖能異常(糖尿病)の存在が判明することがあります。若い世代でも、脳卒中(脳出血や脳梗塞)や心臓血管疾患(心筋梗塞)を防ぐために、これらの危険因子をいかにコントロールするかが重要なのです。
高齢者でも同様ですが、それに加えて、健康長寿のためには心臓や腎臓の機能の維持がとても大切です。日本人の死因として多い「心不全」は、心臓や腎臓の機能低下が大きく関与しているからです。
■がん検診も含めた定期的な健診を
また、血圧や血糖を適正に保つことで、認知症の発症リスクを下げられることがわかっています。血圧や血糖の異常に気づくためにも、健診はとても大切な機会なのです。
高齢になるとがんの発生リスクも高まります。そのため、がん検診も含めた定期的な健診を受けることをおすすめします。臓器やがんの異常が早期に発見されれば、適切な治療を受けることができ、健康長寿を守る手段が広がります。
働いていた頃は毎年健診を受けていたものの、引退後はその習慣がなくなり、なんとなく面倒で健診を避けてしまう高齢者も少なくありません。
しかし、健診や検診は高齢者にとっては、病気の予防はもちろんですが、毎日の穏やかな暮らしを守るため、生活の質を落とさないために、とても大切なのです。
「かかりつけ医」がいる場合でも、ただ薬をもらうだけで、なんとなく通院しているケースもあるかもしれません。
その場合には健診や検診が必要かどうかを、その医師にしっかりと確認することが大切です。
最近は、自宅で採血や採尿を行い郵送するタイプの健診サービスもあります。これらは便利ですが、精度や信頼性、そしてフォロー体制には注意が必要です。
そのため、こうしたサービスを利用する際には、最終的には必ず医療機関で再検査を受け、医師の診断を仰ぐことが大切です。手軽さが魅力かもしれませんが、医療機関で受ける検査は手間がかかる分、信頼性において優れているのです。
■健診の「受けっぱなし」はダメ
長年、医療現場で使用されている検査には、それだけ確固たる医学的根拠が裏づけられています。たとえば胃カメラや便潜血検査は、胃がんや大腸がんの早期発見に有効であることが多くの研究で証明されています。
しかし、これらの検査には身体への負担が伴います。腸の粘膜を傷つけて出血を引き起こす場合や、腸に穴が開くリスク、鎮静剤が効きすぎて呼吸が弱まるおそれもあります。
特にご高齢の方は、これらのリスクを踏まえた上で、ご自身の健康状態と相談し、時には「検査のやめ時」を考える必要があるのです。
健診や検診を受けた後、結果をどのように活用するかを、ぜひ意識してください。正常値と判断されても、検査対象外の病気が隠れているかもしれません。

一方で、異常値があった場合でも、自己判断で不安を募らせるのは避けたいところです。不確かな情報に振り回されるよりも、医師と一緒に対応を考えることが安心で確実な方法です。
このように、健診は「受けっぱなし」ではなく、その後の対応が大切です。ここからは、このテーマについて具体的にお話しします。
■異常値が、即、治療対象とは限らない
健診の結果で「数値に異常がある」と指摘されたり、検診で「悪い病気の可能性がある」と通知されたりすることもあるでしょう。確かに、不安を感じるかもしれませんが、その結果を放置してしまうのは避けたいところです。
また、たとえ結果が正常であったとしても、現在の生活について医学的なアドバイスを求めて医療機関を受診することは、決して間違いではありません。
まず知っておいていただきたいのは、検査結果の異常値が、即、治療対象とは限らないということです。
健診や検診では、年齢や性別に基づいた一般的な基準値と照らし合わせて結果が評価されます。しかし、高齢になると身体の代謝や機能が変化し、それが結果に反映されることがあり、少しの値のズレがあっても、治療が不要な場合があります。
たとえば血糖値やコレステロール値が高めであっても、生活習慣や体調の影響で一時的に上昇しているだけの場合があります。一方で、異常値が長期間続く場合は、病気が隠れている可能性も否定できません。

これを見極めるには、医師による追加検査や、詳細な問診が欠かせません。
■健診結果を医療とつながるきっかけに
健診や検診をきっかけに、医師に相談することで、さまざまなメリットがあります。
一つは、異常値が実際に問題ないかどうかの確認ができること。医師は検査結果だけでなく、生活背景や家族歴、普段の体調も含めて総合的に判断します。追加検査や生活指導が提案される場合もありますが、それは今後の健康を守るために大切です。
さらに、医療機関には、医師以外にも頼れる専門職が数多くいます。栄養士やリハビリスタッフ、ソーシャルワーカーといった専門家たちが、あなたの健康を支えるために一緒に考えてくれます。「かかりつけ医」がいない方でも、健診結果を相談する機会をきっかけに、自分に合った医師や医療機関と出会える可能性があります。
健診結果を受け取ると、「辛い追加検査を受けさせられるのではないか」「異常があればすぐに薬を出されるのではないか」、あるいは「結果を知ることで余計に不安になるだけでは」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、健診結果をもとに適切な医療を受けることで、「大丈夫ですよ」と言われて安心できたり、「これから気をつけるべきこと」を知るきっかけにもなります。さらに、医療スタッフとの関わりを通じて健康長寿への意識が高まり、結果として生活の質(QOL)の向上にもつながるのです。
■健診結果は老いと病気の現実を知るための手がかり
たとえば、なんとなく頭が重い感じが続いていたものの、健診で高血圧を指摘され、詳しく調べてもらった結果、薬を服用するようになった。
また、食事にも気をつけるようになった。おかげで体調が改善したと、嬉しそうに話してくださる高齢の患者さんもいらっしゃいます。
また、健診結果について相談に訪れた高齢者の場合、歩行が不安定だったり、難聴でコミュニケーションが取りづらかったりする様子を、医療スタッフは見逃しません。普段の生活について詳しく聞き取りを行い、介護や生活への適切なアドバイスをしてくれます。
つまり、医療機関を訪れたその瞬間から、医療スタッフによる見守りが始まっているのです。受診することで不安が増幅するとは限らず、それどころか、安心をもたらすきっかけになることもあります。
高齢者にとって、健診結果は老いと病気の現実を知るための手がかりです。それは、定期的に確認すべき健康と疾病の個人情報であり、信頼できる医療スタッフを見つけるための架け橋にもなります。

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石川 英昭(いしかわ・ひであき)

医師

1973年、岐阜県生まれ。東海大学医学部卒業、名古屋大学大学院にて医学博士取得。腎臓専門医、透析専門医。現在、医療法人偕行会城西病院副院長、聖隷クリストファー大学臨床教授。
勤務医として20年以上腎臓病診療に携わると同時に、老衰患者の「看取り医」としての職務を担っている。

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(医師 石川 英昭)
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