※本稿は、千賀秀信『[ポイント図解]管理会計の基本が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■とあるセルフ式うどん店の経営
あなたは郊外の街道沿いで、セルフ式うどん店を経営しています。お店では、お客がうどんを注文し、トッピングとしてカウンターに並んだ具材を選びます。
1カ月の利益計画は、次の通りです。
【月間計画】
客単価あたり:材料費140円 消耗品費35円
人件費:270万円/月 店舗設備費等:180万円/月(1店舗)
●月間最大可能製造・販売量は15,000食である。
●客単価は500円であり、価格競争は激しい。
損益分岐点の売上高と販売数量はいくらでしょうか。
利益が出るか出ないかという分岐点を損益分岐点と呼びます。これを超えれば利益が出るのです。一緒に考えていきましょう。
ただし、もしも損益分岐点を求める公式を知っていたら、それをできるだけ使わないで考えてください。そうすることで問題の本質が見えてきます。
まず、問題にある客単価とは、客1人当たりの売上高のことで、
店の売上高=客単価×客数(食数)
の関係にあります。売上高アップのため、客単価アップまたは客数(食数)増を狙い、さまざまな販促策が行われます。
客単価当たりの材料費140円と消耗品費(客が使う醤油などの調味料、紙コップ、割り箸など)35円は、変動費です。変動費とは、売上高に比例して増加する費用で、1食当たり175円の変動費が発生する計画です。ここから、客単価に対する変動費の割合(変動費比率)は35%だとわかります。
客単価500円なので、1食当たり325円(500円-140円-35円)の粗利益が発生します。この粗利益が限界利益で、65%(325円÷500円)は、限界利益率と呼ばれます。客数が20人なら、6500円(325円×20人)の限界利益が発生します。限界利益は、売上高と比例する粗利益です。
■固定費をペイできるうどんの販売数量の求め方
売上高の増減とは関係なく、毎月一定額が発生する費用を固定費といいます。
人件費や店舗施設費で、店舗施設費とは、家賃、機器のレンタル料、減価償却費、固定資産税などです。
固定費は、短期的に売上高の増減の影響をほとんど受けません。
①固定費=人件費270万円+店舗設備費等180万円=450万円
②1食当たり変動費(変動費比率35%)=140+35=175円
③1食当たりの限界利益=500円(売上高)-175円=325円
④限界利益率=325円÷500円=65%
ここから、損益分岐点における売上高と販売数量を求めます。
【損益分岐点の販売数量】
①450万円÷③325円≒13847食
【損益分岐点の売上高】
13847食×500円=692万3500円
固定費が450万円(①)なので、1食当たりの限界利益325円(③)で割れば、固定費を回収できる販売数量13,847(客数)が求まります。
また、これに客単価500円を掛ければ、損益分岐点の売上高692万3500円が求められます。
■利益目標を達成するための販売数を求める方法
もう1つ考えてみましょう。
18万円の営業利益を得るために必要な販売数量はいくらでしょうか。
理解すべきは2点です。
①限界利益=固定費になった場合が損益分岐点に達した時で、②限界利益が固定費を上回ると営業利益が生まれることです。すなわち、固定費450万円=限界利益の時の売上高が損益分岐点の売上高で、営業利益18万円を加えた限界利益468万円になる売上高が目標売上高です。
客1人当たりの限界利益は325円ですから、468万円÷325円=14400食で限界利益を稼げます。また、客単価は500円なので、営業利益18万円を稼げる売上高は、500円×14400食=720万円となります。
こうした関係性を理解することが、利益計画を考える際に大いに役立ちます。
■限界利益は固定費をまかなう大事な原資
次に、損益分岐点を超えた売上高はいくらかというと、次の通りです。
売上高720万円-損益分岐点の売上高692万3500円=27万6500円
この売上高を経営安全額といいます。
つまり、営業利益18万円を生み出す売上高720万円は、損益分岐点の売上高692万3500円と経営安全額27万6500円の合計になります。
また、経営安全額の65%(限界利益率)が営業利益18万円になっていて、損益分岐点の売上高の65%は、固定費と同額です。このことは、限界利益が固定費をまかなう原資であり、利益の源泉であることを意味しています。
以上からわかることを整理すると、大事なのは次の2点です。
①損益分岐点では、固定費と同額の限界利益が生まれているため、営業利益はゼロです。損益分岐点では、固定費=限界利益となっているのです。
②経営安全額(損益分岐点を超えた売上高)から生まれる限界利益は、営業利益となります。経営安全額×限界利益率=営業利益となるのです。
①と②の考え方を理解することで、損益分岐点の売上高と目標利益を達成できる売上高を求めることができます。
■「経営状態」を示す経営安全率
さて、売上高に占める経営安全額の割合を経営安全率、損益分岐点の売上高の割合を損益分岐点比率と呼び、合計は100%です。
赤字(営業利益がマイナス)の会社は経営安全率がマイナスになり、損益分岐点比率は100%を超えます。経営安全率が大きいほど赤字になりにくい状態を意味します。
例に挙げているセルフ式うどん店では、経営安全額27万6500円÷売上高720万円=経営安全率3.84%です。これは売上高が3.84%下がると損益分岐点に達し、それより下がると赤字になることを意味します。
3.84%程度の売上高の下落は可能性が高く、赤字転落のリスクが高いと判断できます。
1カ月25日営業として、その3.84%は約1日、1年(300日営業)なら11日です。1日も無駄にできない厳しい経営状態だとわかります。
■固定費の回収に使えるのはいくらか
最後に、営業利益率10%にするための必要販売数量と売上高は、いくらかを考えてみましょう。
まず、固定費を回収するには、限界利益がどのくらい必要かを考えます。
客単価当たりの限界利益は、325円(500円-140円-35円)です。
解答に際しては、公式や方程式を使わないでほしいのですが、ヒントは2つです。
ヒント①:325円を全額、固定費の回収に使えばよいのではありません。
ヒント②:325円は、販売数量に比例しています。
固定費の回収に使える限界利益は275円です。なぜなら目標営業利益率が10%なので、客単価500円の10%の50円は営業利益になるのです。
そのため固定費450万円÷275円≒16364食を販売すれば、目標達成できます。
■計算だけでは解決しない制約要因もある
では、公式を使わずに出した結果を検算してみましょう。
売上高は、818万2000円(500円×16364食)で、限界利益は、531万8300円(818万2000円×限界利益率65%)です。ここから固定費450万円を控除すると、営業利益は81万8300円です。
よって売上高営業利益率は10%(81万8300円÷818万2000円)になります。なお、ピタリ10%にならないのは、16363.6≒16364食と小数点以下を切り上げているからです。
ここで問題点に気づいたでしょうか。
最初に示した通り、月間可能製造・販売量は15000食でした。このため16364食の製造販売はできないのです。
売上高営業利益率10%を目指すなら、
①客単価をアップする(限界利益率をアップさせる)
②変動費比率を下げる
③固定費を引き下げる
いずれかを再検討する必要があります。
このように計画には、計算だけでは解決しない制約要因があるのです。そのため、制約要因を必ず認識して計画を進めましょう。
中長期の計画では、投資を検討するなどの戦略的意思決定が行われ、制約要因を克服できます。
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千賀 秀信(せんが・ひでのぶ)
計数感覚・養成コンサルタント、マネジメント能力開発研究所・代表、中小企業診断士
公認会計士、税理士専門の情報処理サービス業・株式会社TKC(東証プライム)で、財務会計、経営管理などのシステム開発、営業、広報、教育などを担当。1997年にマネジメント能力開発研究所を設立し、「わかりやすさ、具体性」を重視したコンテンツを提供している。雑誌などで連載や、多くの上場企業、公的機関などで研修を行ってきた。著書には、ロングセラーである『〔新版〕経営分析の基本がハッキリわかる本』(ダイヤモンド社)や『この1冊ですべてわかる管理会計の基本』(日本実業出版社)の他、多数ある。
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(計数感覚・養成コンサルタント、マネジメント能力開発研究所・代表、中小企業診断士 千賀 秀信)

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