ストーカーの手口が巧妙化している。中でも、Apple社のAirTagなどスマホで位置を特定できる「紛失防止タグ」を悪用するケースが相次いでいる。
成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「スマホには不審なAirTagを検出できる機能があるので、忘れずに設定してほしい」という――。
■犯罪者が便利なデジタル機器を使うと…
11月11日、ストーカー規制法とドメスティックバイオレンス(DV)防止法の改正案が閣議決定された。改正の柱の一つは、許諾を得ない紛失防止タグの取り付けや位置情報取得の禁止だ。
紛失防止タグの本来の使い方は、自分の持ち物につけて紛失時に発見したり、子どもの持ち物などにつけて居場所を確認したりするものだ。
AirTagは500円玉大と小さく、充電せずとも1年くらい電池が持つ上、5000円程度。他の紛失防止タグであれば、2000~3000円程度とさらに安価だ。このタグを他人のバッグやコートのポケットにこっそり忍ばせたり、車や自転車などに取り付けて、自宅や居場所を特定するといった悪用が相次いでいる。
この2つの法律では、許諾なしのGPS機器等を使った位置情報の取得は禁止されている。ところが、AirTagはGPS機器が搭載されておらず、Bluetoothによって付近の通行人のスマホを介して位置情報を特定する仕組みであり、規制対象外となっていた。
ところが、これを悪用したストーカー被害が多発。警察庁によると、タグを悪用した被害に関する相談件数は、2022年から2024年に3倍以上に急増。2025年も9月時点で昨年を上回る件数の相談がきており、今回の規制につながったというわけだ。

■「ぬいぐるみにAirTag」はよくある手口
「バイト先の先輩にぬいぐるみをもらったら、中に何か入っていることに気付いたんです。縫い目を切ったら、中からAirTagが出てきました。これって、自宅バレてますよね。AirTagって止められますか。警察に行ったほうがいいですか」
ある女子大学生からの相談だ。ぬいぐるみは厚みがあり、AirTagなどを仕込みやすいため、この手口はよく使われている。
実際2022年には、離婚調停中、夫に所在を隠して避難していた妻と子どもとの面会時、夫が紛失防止タグを入れたぬいぐるみを渡す事態が起きている。
実は、アイドル等を対象とした贈り物に、GPS機器や盗聴器等が仕込まれる被害は以前からよく起きている。
たとえば、スクールライフをモチーフとしたVTuberグループ「あおぎり高校」でもメンバー宛のプレゼントにGPS発信器が隠されている事件が発生。公式Xは2024年2月、刑事告訴を検討すると同時に、プレゼントは受け付け停止を発表している。
■「どこで何をしているか知りたかった」
車にAirTagなど紛失防止タグをつけて位置情報を不正に取得し、逮捕される事件も相次いでいる。
京都府警では、2022年12月にAirTagを同僚の車に取り付けてつきまとったとして、40代の男をストーカー規制法違反容疑で書類送検している。
男は、「好みの女性がどこでどんなことをしているか知りたかった」と供述している。
同年、滋賀県で男が知人女性の車に自らの車を衝突させ、女性を連れ去る事件が起きた。男は、監禁容疑で現行犯逮捕されている。男は、女性の車に紛失防止タグをつけ、位置情報を取得していた。
さらに同年には、米インディアナ州で殺人事件まで起きている。同居中のボーイフレンドの浮気を疑った女性が、AirTagを車の後部座席に仕込んで追跡。彼が他の女性と居合わせたところを発見し、女性に暴力を振るった上、止めようとした彼を車ではねて死亡させた。
ほかにも、高級車の盗難に悪用されるケースも複数報告されている。車に勝手に紛失防止タグを取り付け、保管場所を把握した上で、人気がない時間帯に盗む手口だ。
■不審なAirTagを見つける事前設定
このような被害は、けして他人事ではない。「AirTagがあなたの近くで見つかりました」といった不審なメッセージがスマホに通知されたら、以下のようにして対処しよう。
その通知をタップし、「続ける」、「サウンドを再生」とタップ。
利用可能な場合は「近くを探す」をタップして、「正確な場所を見つける」を使うと、画面の指示、「サウンドを再生」によって不審なAirTagが見つかるだろう。
見つかったら、iPhoneの上部を近づけると通知が表示される。通知をタップすると、シリアル番号またはデバイスID、AirTagを登録した人の電話番号下4桁または伏せ字の入ったメールアドレスがWebサイト上に表示される。
記録のためにAirTagと持ち主情報のスクリーンショットを撮影すること。そして、「持ち物を無効にする手順」をタップし、画面の案内に従って無効化し、位置情報の共有を停止しよう。身の危険を感じる場合は、警察に被害を届け出てほしい。
なお、この通知を受け取るためには、事前の設定が必要だ。
iPhoneの場合

・「設定」→「プライバシーとセキュリティ」→「位置情報サービス」をオン

・「設定」→「プライバシーとセキュリティ」→「位置情報サービス」→「システムサービス」→「iPhoneを探す」をオン

・「設定」→「Bluetooth」をオン

・「設定」→「通知」→「トラッキング通知」→「通知を許可」をオン

※機内モードはオフ
以前はAndroid端末では通知が表示されなかったが、現在は改善されている。「不明なトラッキングアラート」機能で検出でき、この機能は初期設定で有効になっている。「設定」→「緊急情報と緊急通報」から確認できる。
■AirTagが役立つこともたくさんある
一方、AirTagのおかげで犯罪を摘発できたケースもある。
コメの価格高騰で、倉庫から玄米が盗まれる事態が相次いだ。
今年2月、青森県のある農家で30キログラム入りの米袋が10袋ほどなくなっていることに気づき、警察に被害届を出すことに。農家の男性が米袋にAirTagを入れておいたところ、数日後に今度はAirTag入り米袋2袋が盗まれ、位置情報を基に容疑者を割り出し、逮捕に至ったという。
AirTagをはじめとする紛失防止タグは便利だが、悪用されると自分の身に危険が及ぶことになりかねない。今回の法改正で、無断で他人の所持品に取り付ける行為などが規制されるため、被害が出る前に抑制できる可能性が高まるのではないか。
ただ、規制されたといっても悪用が完全になくなるわけではないので、ご紹介した設定で対処していただければ幸いだ。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)

成蹊大学客員教授

ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α文庫)ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)
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