■「天一大量閉店」一体何が
「こってり」といえば、天下一品。京都・北白川で1971年に創業した「天下一品」は、鶏ガラや野菜スープを強火で煮込んだ「こってりスープ」に熱狂的なファンも多く、いまや全国に約200店を展開する、国内屈指のラーメンチェーンに成長した。
そんな天下一品の首都圏の店舗が、たった1年間少々で16店も閉店した。いずれも新宿・川崎・五反田などの一等地ばかり……仕事帰りにこってりラーメンを食べられなくなった天下一品ファンの喪失感は、計り知れない。
これらはすべて、天下一品とフランチャイズ契約を結んでいた「エムピーキッチンホールディングス」(以下:MPキッチン)系列の店舗であった。閉店した店舗はいずれも、同社が展開するつけ麺チェーンの「三田製麺所」、背脂黒醤油ラーメンの「伍福軒」などに、素早く転換された。
ファンからすれば、この2ブランドに天下一品を奪われたようなもので、いつしか「因縁のライバル」と称されることも多かった。
MPキッチン傘下の「三田製麺所」「伍福軒」と、一大ラーメンチェーンの「天下一品」。両者はつい最近まで、「フランチャイズ契約」という関係で繋がっていたにもかかわらず、なぜ提携解消に至り、いまは因縁めいた関係のように語られるのか。
■正反対の立場と気風が招いたハレーション
もともとMPキッチン(旧社名「アトラスフーズ」)は、全国に約200店舗を展開する天下一品(天一食品商事)のフランチャイズ企業であった。
一方でMPキッチンは、自社で立ち上げたオリジナルブランド「三田製麺所」を2008年に出店。何かと昔気質な天下一品と違ってSNS活用・マーケティング戦略の立案にも積極的で、「つけ麺特化」「『製麺所』屋号」といった「専門店に見せるブランディング」など、独自の戦略を駆使して早々に50店を突破。天下一品と同様に、フランチャイズを募集するまでに成長した。
つまり「上下関係の“上”」としての顔を持つようになり、おなじ会社に、天下一品への服従を旨とする“下”と、自らがグループを率いる“上”が同居するようになったのだ。かつ両者は「創業者と『こってり』ラーメンを崇拝」「データ活用に積極的な、今どきの外食企業」という正反対の気風でもあり、何かとハレーションも起きやすかったのかもしれない。
■ファンは怒り、天下一品は長らく静観
両者のもの別れが目に見えるかたちで始まったのは、2024年6月のこと。MPキッチン系列のうち歌舞伎町・恵比寿など天下一品6店を閉店。うち5店を三田製麺所などのブランドに、おなじ場所のまま転換した。
そして2025年6月、MPキッチン傘下で残っていた新宿西口・池袋などの店舗を、10店一斉に閉店。
あいにく、MPキッチン系列の天下一品店舗は、足を運びやすい首都圏・駅前立地ばかり。短期間で立地抜群の十数店を閉店させたことで、天下一品ファンからは「こってりラーメンを、食べに行けなくなった、三田製麺所・伍福軒のせいだ!」という怒りを買うことになったのだ。
この多量離脱に関して、天下一品は長らく静観ののち、以下のようなメッセージをホームページに掲出している。
一部のメディアにおいて、複数の弊社フランチャイズ店舗の同時閉店が、経営不振によるものといった趣旨の報道がなされております。しかし、実際にはそうした事実はなく、該当店舗はいずれもフランチャイズ加盟店様との契約期間満了に伴う、予定通りの閉店でございます。
■「新宿ラーメン戦争」勝者は“天一”
その後、天下一品は「伍福軒新宿西口店」(旧・天下一品新宿西口店の場所)の至近距離に、あらたに新宿西口店をオープン。至近距離で天下一品・伍福軒が相まみえた「新宿ラーメン戦争」の結果は……こってりスープを渇望していた天下一品ファンが大行列を作るいっぽうで、伍福軒は餃子半額セールの最中にも拘わらず、客足は寂しい……といった状態が、話題になった。「2025年に100店舗・株式上場」を掲げていたMPキッチンにとって、開店3カ月にしてまばらとなった伍福軒の客入りを、天下一品と比べられるのは、忸怩たる思いがあったのかもしれない。
さらに、MPキッチンとそのグループは、数字だけで見ると「あまり経営が順調ではない」ように見えるのだ。なぜ、ここまで業績が悪化したのか? 伸び悩む原因は三田製麺所なのか、それとも、天下一品に背を向けて立ち上げた伍福軒なのか……。MPキッチン本社に電話取材を試みたものの、期日までに回答を得られなかった。
ここでエムピーキッチンホールディングス傘下の「株式会社エムピーキッチン」の直近3年間(2022年12月期~2024年12月期)の経営データを見てみる。
売上高:38.4億円→48.6億円→57.4億円
営業利益:-9.2億円→-4.8億円→-4.4億円
売上が急増しているのに、まったく利益が獲れていない。3年間で純資産が「5.2億円→1.9億円→9900万円」と急減している点にも注目だ。
■数字にも表れる「伸び悩み」、そして買収へ
一方で本体(エムピーキッチンホールディングス)は、波はあるものの2000万円~1億円程度の純利益を獲れている。しかし、営業利益は3年間で「-409万円→-1139万円→-3112万円」と、終始マイナスをキープしたまま。おそらく多くの人々が、「慢性的な赤字を、何らかの手段(資産売却など)で黒字化させている」と解釈するだろう。
この数字を見る限り、MPキッチンは採算確保に苦しんでいるようだ。
そんな中、国内外で約150店を展開するラーメンチェーン「魁力屋」が、11月14日にMPキッチンの買収を表明した。プレスリリースでは三田製麺所を「ラーメン市場において認知度も高く規模も大きな優良なブランド」と位置付けているものの、伍福軒には何にも触れていない。
ましてや、純資産は子会社も合わせて40億円少々なのに「売却額50億円」という値付けは、ちょっと寂しいものがある……おそらく、MPキッチンの大株主であった投資ファンド「アドバンテッジパートナーズ」も、売却成功とは認識していないだろう。
また、伍福軒は、スープの黒さなどのスタイルが、京都の「新福菜館」とよく似ている、と言われている。買収後、おなじ京都発祥で、背脂をふんだんに使うなど共通点も多い魁力屋と、ブランドを並立できるのだろうか?
そもそもなぜ、魁力屋はあまり財務状況の良くないMPキッチンの買収に踏み切ったのか? 率直な疑問を、魁力屋本社に聞いてみた。
■魁力屋に直撃「リスクは承知していた」
メリットは「マルチブランド化」「無理のない出店地域拡大」にあるという。同社のブランドは現在、「魁力屋」(151店)以外に、「とりサブロー」(6店)「からたま屋」(3店)を展開している。しかし売り上げベースで見ると、魁力屋が売上の9割を稼ぐ「一本足打法」状態であるといい、魁力屋に何かがあっても良いように2番手、3番手のブランドを成長させる「マルチブランド化」を、もともと目指しているという。
その一環で、2025年7月には「肉そばけいすけ」などを展開する「株式会社グランキュイジーヌ」を子会社化。つづいてM&Aの買収先として浮上したのが、三田製麺所を擁するMPキッチンだった、という経緯だ。
MPキッチンの経営状況に関して、魁力屋本社は「リスクは十分に承知していた。しかし買収に当たっては弁護士や専門家などと慎重に協議を重ねたうえで、しっかりメリットがあると判断した上で買収に踏み切った」とのこと。
ただ、プレスリリースに記載された内容に不安を抱く声も、本社には届いているという。しかし、「株主の方には嫌なサプライズになってしまったかもしれないが、そこはしっかり対応していきたい」と、力強く仰っていた。
■場所と種類で棲み分け強みに
M&Aのメリットはもうひとつ、魁力屋とMPキッチン店舗では、出店エリアがほとんど被らないという。
魁力屋はもともと郊外・ロードサイドの店舗を得意としており、今でも7割程度が80席以上、駐車場付きの広々とした店舗が多数を占める。一方で都心の極小物件は、20席少々の「四条烏丸店」など、たった10店舗しかない(2025年12月期・第3四半期決算説明資料より)。
一方でMPキッチンは、三田製麺所が「新宿歌舞伎町・大崎・田町・恵比寿」、伍福軒も「新宿西口・池袋・川崎・大宮」など、30席・40席程度の都心・小型・駅前立地の好物件を抑えている。両者は「都心・郊外」「ラーメン・つけ麺」で棲み分けられるうえに、魁力屋にとってはこれまで手薄だった都心での営業のノウハウを手にすることができる。
場合によっては、MPキッチンの店舗を「魁力屋」に転換することで都心に進出したり、逆に郊外に「三田製麺所」「伍福軒」を展開してみたり……いかにも相乗効果を得られそうだ。しかし本社にそういった可能性を聞いてみたところ、「まだ現場レベルでは接触しておらず、出店戦略はまだ未定」とのこと。
■ラーメン戦争、第二幕へ
魁力屋では買収後もしばらく現場を尊重するといい、7月に子会社化した「グランキュイジーヌ」も、店舗運営にかかわる変更点はほぼ生じていないという。MPキッチンの三田製麺所・伍福軒なども同様の方針とはいうものの、「サプライチェーンの効率化・購買の効率化に関しては、すでに見直しを行っている」という。
現状でMPキッチンが「売上成長、赤字が解消されない」状態である以上、効率化やコストダウンが実現すれば、大幅に収益を改善することができるだろう。赤字基調の反転が可能と判断したうえで「MPキッチン」買収に踏み切った経営判断がどう出るか。
多量閉店後に三田製麺所・伍福軒を矢継ぎ早に出店して「脱・天下一品」の姿勢を示していたMPキッチンだが、「3期連続赤字」の事実から見る限り、この頃から経営不振が続いていたことが伺える。
一方で天下一品は新宿西口・北千住に新規出店するなど、勢いが衰えている訳ではなさそうだ。
長らく愛される看板メニュー「こってりラーメン」を擁する天下一品は、失った16店を首都圏で取り返すことができるのか。天下一品との競争の末に買収の憂き目にあったMPキッチンは、魁力屋のもとで経営再建を図れるのか。
新宿での「ラーメン戦争」のあとも続く「天下一品 vs. MPキッチン」の行方から、目が離せない。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)

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