子供が病気になったとき、うまく薬を飲んでもらうにはどうすればいいのか。玉川大学教育学部の大豆生田啓友教授は「私自身も子育て中に薬を飲ませることには苦労した。
だが、嫌がる原因は味以外にあるかもしれない。まずは率直に尋ねてみてほしいことがある」という。自身も3歳の息子を育てる、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。
■“薬を飲みたくない”3歳の息子
3歳児Kは、薬が苦手だ。
10月半ば、Kは久しぶりに風邪を引いた。熱は上がらなかったが、激しい咳が出て、鼻水も止まらない。自宅では、さほどでもなかったが、保育園で症状が悪化したらしい。保育園からの連絡で、私は早めに迎えに行き、かかりつけの小児科に連れて行った。診断は、ただの風邪。一安心した私は、薬局で咳と鼻水を止める粉薬を受けとった。
問題は、ここからだ。Kは、薬を飲むのを極端に嫌がる。
粉薬の代わりに飲み薬を処方してもらったこともある。しかし甘い味が気に食わないのか、吐き出してしまった。
「粉薬はゼリーやヨーグルトに混ぜるといいですよ」
薬剤師のアドバイスを試してみたが、粉薬に気がつくと決して口にしようとしない。子供用の服用ゼリーもダメだった。
今回は、毎朝飲む牛乳に溶かしてみることにした。しかし――。
「なんか違う! いつものヤツ!」
一瞬でバレた。
「K、ごめん。ママ、マグを洗うのを忘れたんだ。だから味が違うのかも」
母の苦し紛れの言い訳に、Kは渋々といった様子で少しだけ牛乳を飲んだ。が、次から薬入り牛乳には一切口をつけなくなった。Kはこだわりが強い。
味の違いが分かる3歳児なのだ。
■「嫌」なのは“味”が原因とは限らない
困った。食べ物の好き嫌いなら仕方がないと割り切れるが、薬である。なんとか飲んでもらって風邪を治し、保育園に通園してもらわなくては。
1年ほど前までは、私と妻が2人でKを羽交い締めして、ぬるま湯に溶かした粉薬を強引に飲ませていた。それで飲んでくれればまだいいのだが、半分以上は吐き出してしまう。
だが、Kは3歳児である。信頼しているであろう両親に嫌いな薬を無理やり飲ませられるのだ。トラウマにならないだろうか。いま以上に薬嫌いになってしまうかもしれない。もっとうまく薬を飲ませる方法はないだろうか。
玉川大学教育学部乳幼児発達学科教授の大豆生田啓友先生に尋ねた。

「まず第一に思い付くのが、医師に相談して、別の形状や異なる味の薬を処方してもらうこと。それでもダメなら食べ物に混ぜてみる。ぼくの子どもも、こだわりが強かったから薬でも本当に苦労したんですよ。カレーやスープに混ぜたり、オブラートに包んだり、少しずつ分けて飲ませたりといろいろと試しました。
その子が薬の何をいやがっているのかが分かれば対策を立てやすくなります。薬の味なのか、臭いなのか、食感なのか、タイミングなのか、シチュエーションなのか……。薬に限らず、その子が、何が好きで何が嫌いなのかに視野を広げて考えて見るといいかもしれません」
■“臭い”が嫌ならば、カレーやスープに混ぜるのも手
薬を飲むシチュエーションとはなんだろうか。
「家では薬を飲まないとしても、保育園ならどうでしょう。家では野菜を食べないのに、保育園の給食ではよく食べるということはよくあります。子どもだって、先生や友だちに自分が薬を飲む立派な姿を見せたいという気持ちがあるはずです。園に事情を説明して保育士さんに協力してもらったら、すんなり飲む可能性はあるかもしれません。家庭だけで抱え込まないで、協力してもらえそうな人に相談してみるのがいいですね」
大豆生田先生は、保育士向けの著書『子ども主体の保育をつくる56の言葉』で〈その子が見ている視線の先に着目すること〉の大切さを説いている。

Kの薬嫌いに置き換えれば、Kが見ている視線の先――それが薬が嫌いな原因や理由だ。Kの視線の先には、何があったのか。
妻は、粉っぽい牛乳が苦手なのかと考え、粉薬を入念にかき混ぜて溶かし込んだが、飲まなかった。妻によれば、飲んだ瞬間、Kは「なんか、におう」と怪訝な顔をしていたらしい。ということは、食感というよりも、臭いが原因だったのか。
「たぶんそこにヒントがあるんです。おそらくお子さんは、いつも飲んでいる牛乳の臭いが変わっていることに気がついた。子どもは、ひとりひとり感度が違います。誰かと同じようにやっても、同じ結果になることなんて、まずありません。ヒントを組み合わせて、その子に合った解決策を手探りで探っていくしかないのです。原因が臭いなら、昔、ぼくが試したようにカレーやスープに溶かしてみたらどうでしょう」
■「あなたはどうしたい」「どんなことで困っている」と普段から寄り添う
なるほど。次に風邪をひいたら、スープに溶かして飲ませてみよう。
それでもダメだったらどうすればいいだろうか。やはり最後の手段として実力行使に出るしかないのだろうか。
思い出すのは、昨年の冬。
インフルエンザにかかったKは、40度近い熱を出した。解熱剤を飲もうとしないKを力尽くで押さえつけて水とともに解熱剤を口に流し込んだ。当然、暴れて、号泣した。
「それはわが家でもありましたよ」と大豆生田先生はうなずいた。
「やはり健康に関することですから、『ごめん、飲んでくれないと困るんだ』と説明して、妻と無理に薬を飲ませました。そして、小さな子どもであってもなぜ飲む必要があるかをていねいに説明もしました。ただ、いくら工夫しても飲まない場合は、強引に飲ませるしかありません。子どもにとって、親はアタッチメント――心の安全基地です。そんな存在でいるために重要なのは『あなたはどうしたい?』『どんなことで困っている?』といつも気にかけて、子どもの気持ちに添おうとする姿勢です。

そうした信頼関係を築いていれば、薬を飲むのは嫌かもしれないけど、子どもはきっと分かってくれるだろう、と。それは親側の勝手な願望に過ぎないのですが……。ツラかったですけどね。わが家ではそんな気持ちで薬を飲ませていました」
■「ぼくも乳幼児を一人前の人として見ています」
大人が子に接する際の基本的なスタンスがあるという。それが「あなたはどうしたい?」という子どもに対する問いかけだ。
大豆生田先生は、一昨年にこども家庭庁が公表した「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」に策定にたずさわった。通称「はじめの100か月の育ちビジョン」は、妊娠期から小学校1年生までの約100カ月間を対象とした、子どものウェルビーイングを高めるための政策だ。ウェルビーイングとは、身体的にも精神的にも健康で、社会的に満足している状態を指す。大豆生田先生は解説する。
「乳幼児期にウェルビーイング、つまり自分が自分らしくある状況だったか否かが、大人になったときの幸せに直結すると考えられています。それだけ妊娠期間からの100カ月は大切な時期です。そのためにも子どもの頃から1人の人として尊重する。ぼくも乳幼児を一人前の人として見ています」
私は、Kを一人前の人と見ていただろうか。もしも見ていたら、黙って牛乳に薬を溶かすような不意打ちやだまし討ちをせずに、薬を飲むように、とストレートに伝えていたはずだ。
しかしKが、自分の考えを正確に口にできたら、薬を飲ませようとする私に対して「嫌だ」と拒否するに決まっている。いや、思い出した。薬を飲ませようとすると、「やめてくれ!」と叫びながら暴れたこともあった。
■息子に“理由”を聞いたら「お薬飲んでみたい!」
「それなら『この薬の何が嫌なの?』と聞いてみるのがいいかもしれませんね。『お父さん、この薬をどうしたら飲んでもらえるか、考えているんだけど』と正直にお子さんに聞いてみたらどうでしょう」
大豆生田先生は、保育士たちにこう呼びかけているという。
「困ったら子どもに聞こう」
子どもの個性はそれぞれ違う。求めているものも、好みも違う。セオリーがないなか、現場の保育士が「どうしたらいいかな。教えてほしいな」とひとりひとりの子どもとの対話を手がかりに対応や、何を求めているのかを探っていくというのだ。
よし。私もKに聞いてみよう。早速、なぜ、薬が嫌いなのか、どうしてほしいか、Kに聞いてみた。
「トット(Kは父親である私をそう呼ぶ)、ミルクにお薬入れたでしょ。それはいいんだけどね……。Kはね、ミルクにお水をいれてほしいの」
わが家では、さらなる対話が必要なようだ。思い出したようにKは続けた。
「トット、お薬まだあるの? K、お薬飲んでみたい!」
息子よ……。君の風邪はもうとっくに治っているんだよ。

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山川 徹(やまかわ・とおる)

ノンフィクションライター

1977年、山形県生まれ。東北学院大学法学部法律学科卒業後、國學院大学二部文学部史学科に編入。大学在学中からフリーライターとして活動。『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)で第30回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。著書に『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館)、『最期の声 ドキュメント災害関連死』(KADOKAWA)などがある。最新刊に商業捕鯨再起への軌跡を辿った『鯨鯢の鰓にかく 商業捕鯨再起への航跡』(小学館)。

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大豆生田 啓友(おおまめうだ・ひろとも)

玉川大学教育学部乳幼児発達学科 教授

乳幼児教育・保育学・子育て支援などを専門に、テレビや講演会のコメンテーターとしても活躍している。『子ども主体の保育をつくる56の言葉』(学研、2025年)『大豆生田啓友対談集 保育から世界が変わる』(北大路書房、2025)ほか著書多数。

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(ノンフィクションライター 山川 徹、玉川大学教育学部乳幼児発達学科 教授 大豆生田 啓友)
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