住宅ローンはどのように返済すればいいのか。ファイナンシャルプランナーの松田聡子さんは「ボーナスは経済情勢や会社の業績、転職などによって金額が変わるとても不安定なものだ。
特に『景気敏感業界』で働く人たちはボーナス払いはやめたほうがいい」という――。
※本稿は、松田聡子『60分でわかる! 住宅ローン超入門』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
■夫婦の収入合算でローンを組む3つのケース
近年の住宅価格上昇により、夫婦の収入を合算して住宅ローンを組むケースが増えています。収入合算には大きく分けて3 つのパターンがあり、それぞれ特徴が異なるため、自分たちの状況に最適な方法を選ぶことが重要です。
1つめは連帯保証型。これは、夫または妻のどちらか一方が主債務者となり、もう一方が連帯保証人になる方法です。借入可能額は夫婦の収入を合算して計算できますが、団体信用生命保険には主債務者しか加入できません。また、住宅ローン控除も主債務者のみが受けられます。
2つめは連帯債務型。夫または妻のどちらか一方が主債務者となり、もう一方が連帯債務者になる方法です。【フラット35】で多く採用されており、夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けることができます。一般的に、団信に加入できるのは主債務者のみです。

3つめはペアローン。夫婦がそれぞれ別々の住宅ローンを組む方法です。物件を共有名義にして、それぞれが自分の持分に応じたローンを組みます。住宅ローン控除は夫婦ともに受けられ、団信もそれぞれ加入できますが、諸費用は2本分必要になります。
どのパターンを選ぶかは、夫婦の収入バランスや将来の働き方によって決まります。収入がほぼ同等で税制メリットを最大化したい場合は、ペアローンや連帯債務型が有利です。一方、配偶者の収入が少ない場合や、将来的に仕事を辞める可能性がある場合は、連帯保証型のほうが安全といえるでしょう。
■夫婦で購入した住宅は「持ち分」をハッキリさせておく
住宅を夫婦で購入する際、単独名義にするか、それとも共有名義にするかは、税務上の取り扱いや将来のリスクを考えるうえで非常に重要な判断となります。特に、共有名義を選択する場合は、持ち分割合の決め方について正しく理解しておく必要があります。
共有名義で住宅を購入する場合の税務上の基本原則は、実際に負担した資金の割合に基づいて持ち分を決めることです。この原則を守らないと、思わぬトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
たとえば、5000万円の住宅をペアローンで購入するケースを考えてみます。
夫が自己資金1000万円とローン2000万円で合計3000万円を負担し、妻が自己資金1000万円とローン1000万円で合計2000万円を負担したとします。この場合、夫の持ち分は3000万円÷5000万円で5分の3、妻の持ち分は2000万円÷5000万円で5分の2となるのが適切です。
もし、実際の負担額と持ち分割合が異なると、その差額分が贈与とみなされ、贈与税が課される可能性があります。たとえば、上記の例で夫婦の持ち分を2分の1 ずつにしてしまうと、夫から妻への贈与が発生したとみなされてしまうのです。
また、共有名義で連帯債務型の住宅ローンを組んでいる場合、住宅ローン控除は各人の持ち分割合に応じて計算されます。一方、共有名義であっても、ローンが単独名義の場合は、実際にローンを契約している人のみが住宅ローン控除を受けることになります。
■住宅ローンの「ボーナス払い」を勧めない理由
住宅ローンのボーナス払いは毎月の返済負担を軽減するのに役立ちますが、できればボーナス払いなしで住宅ローンを組むほうが無難です。ボーナスは約束されているものではなく、経済情勢や会社の業績によって減額・カットされるリスクが常に存在するからです。実際、コロナ禍では多くの企業でボーナスカットが実施され、住宅ローンの返済に困る人が続出しました。
また、転職の際にボーナス制度が前の会社と異なる場合も多く、転職を検討している人は特に注意が必要です。近年は、大企業を中心に、ソニーのように賞与を月額給与に組み込む動きも見られ、ボーナスという概念自体が変化しつつあります。
■歩合制の人、景気敏感業界の人は特に注意
特に注意が必要なのは、中小企業勤務者、営業職など歩合制の要素がある職種、建設業や製造業といった景気敏感業界で働く人たちです。
これらの職種や業界では、ボーナスの変動幅が大きく、安定した支給が期待しにくいといえます。
家計管理の観点からすると、毎月一定額を返済するほうが管理しやすい点も重要です。ボーナス払いがあると、年に2回の大きな支出が発生し、家計の収支バランスが不安定になりがちです。ボーナス返済なしのほうが、長期的な資金計画を立てやすくなります。
ボーナスが出た時は、繰上返済に充当して元金を減らせます。このように、収入状況に応じて返済ペースを調整できる柔軟性を保つことが可能です。住宅ローンを安定的に返済していくには、ボーナスに頼らないほうが、将来的にも安心といえます。
■「繰上返済」でボーナス払いと同様の効果が得られる
住宅ローンを組む際はボーナス返済なしをおすすめしますが、ボーナスが支給されたときに一定割合を繰上返済に充てることで、ボーナス返済と同様の効果を得られます。この方法なら、ボーナスが支給されないときでも返済が滞るリスクを避けられるでしょう。
この方法の大きなメリットは、返済計画に柔軟性を持たせられることです。ボーナスが多く出たときは多めに繰上返済し、少ないときは控えめにするといった調整ができます。また、急な出費があるときは繰上返済を見送ることも可能です。

ただし、住宅ローン減税を受けている期間中は、繰上返済のタイミングに注意が必要です。住宅ローン減税の控除率0.7%を下回る金利で借りている場合、減税期間中の繰上返済は税制上のメリットを失うことになります。このような場合は、ボーナスから繰上返済用の資金を別途積み立てておき、住宅ローン減税の適用期間が終了してからまとめて繰上返済を実行するといいでしょう。
繰上返済の最低金額は金融機関によって異なりますが、多くの金融機関で1万円程度から可能です。また、インターネット経由での繰上返済手続きは手数料無料としている金融機関が多いため、コストを気にせず利用できます。
ボーナスが支給されるたびに繰上返済をしていくと、元本の減少を早められます。ただし、いかなる場合もボーナスの全額を繰上返済に充てるのではなく、家計のキャッシュフローを悪化させない範囲で実行することが重要です。

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松田 聡子(まつだ・さとこ)

ファイナンシャルプランナー

住宅ローン相談を得意とする独立系ファイナンシャルプランナー。日本FP協会認定CFP。明治大学法学部卒業後、大手金融機関のシステム開発に従事。その後、国内大手生命保険会社で法人営業コンサルタントとして活躍し、独立。住宅ローン相談実績は200件を超え、大手Web媒体での住宅ローン関連記事の執筆は100件以上に及ぶ。
豊富な実務経験を活かし、個人向けに住宅ローンの選び方から返済計画まで、実践的なアドバイスを提供している。

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(ファイナンシャルプランナー 松田 聡子)
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