※本稿は、雑誌「プレジデント」(2025年12月19日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
日本維新の会の連立政権入りをどう評価しますか?
このほど公明党が自民党との連立を離脱し、日本維新の会が新たな連立パートナーになりました。議員の定数削減など維新の政策が実現するチャンスです。維新を立ち上げた橋下さんの目に、今の維新の躍進はどう映っていますか。
■Answer
自民とは異なる維新の「看板・ブランド」を忘れるな!
長年続いた自公連立が解消し、自民・維新の新連立が成立、さらに初の女性首相が誕生。この展開にはワクワクしました。15年前の大阪で、わずか6人のメンバーが立ち上げた政治グループが国政の中枢で政策実現に突き進む。大阪府知事が総理大臣とタッグを組んで日本の政治を動かそうとしているんですよ!
自民党総裁選から公明党の連立離脱、新連立の誕生までわずか16日。この展開は偶然だとか、維新には棚ぼただったと見えたかもしれません。でも、違います。吉村洋文代表をはじめとする維新の大阪グループが、この1年、というよりもその前から綿密に練ってきた「逆算のシナリオ」の賜物なのです。
企業でも政党でも、「最終目標」の達成に必要なのは、明確な「パーパス」と「中間目標」の設定です。国政政党である維新の最終目標は政権獲得。ただその達成のためには、明確な中間目標が必要です。そうでないと、そもそも自分たちが「なんのために政治を志すか」を見失ってしまいます。
当初「大阪維新の会」が目指したのは、個人主義に基づく国のかたち(統治機構)改革。カネに滅茶苦茶厳しい姿勢を保持しながら、政治行政、制度・補助金改革という政策実現に徹底的にこだわる。そのうえで賢い投資をしながら大阪を再生させる政策を実現していく。賛否両論ありましたが、あのときのカネに厳しく痛みを伴う改革と政策実現への執念があったからこそ、大阪・関西万博の成功や、日本初のIR(カジノを含む)の開業、高校授業料の完全無償化などが実現できたんです。維新が大きくなったのは政策実現の副次的な効果にすぎません。
でも国政に進出した「日本維新の会」は、苦労して築き上げたブランド・看板の意味を十分に学ばなかった。維新の看板で当選した途端、自分が憧れる政治スタイルや政治的考えを、維新の看板やブランドの意味に照らし合わせることなく実現しようとしたんです。
今の維新は、自分たちは保守政治家だ!と言い張る。
吉村さんが2024年12月に就任する前の馬場伸幸代表の時代は、全国の選挙区にくまなく候補者を立て、ひとつでも議席を増やして野党第一党になるのが中間目標でした。でも、それでは野党票が分散し、野党候補の共倒れが生じてしまう。なのにそれを目指したのは、議席を増やすと永田町の中で尊重されて気持ちがいいからです。
しかし野党第一党になっても、与党が過半数を握っていれば大したことはできません。与党のやることに文句をつけたり、小さな法案修正に血道を上げたり。そんな野党ライフですから、永田町の「ノミュニケーション文化」で仲間や子分を増やしたりすることがメインになる。すると、目的がよくわからない飲み会が多発し、「陣中見舞い」といった名目での金品の授受にも、これはマズイというセンサーが働きません。
そこに警鐘を鳴らし、維新本来のパーパスと中間目標を設定し直そうとしたのが維新の大阪政治グループです。自分たちのパーパスは「政策実現への執念」。ならば最終目標は政権奪取としても、中間目標は野党第一党ではなく、「与党過半数割れ」だと定義し直したのです。与党を過半数割れに追い込めば野党の価値は高まります。与党は野党の主張を無視できず、野党が与党と組んで政策を実現することもできる。そこでは野党の中で第一党か第二党かは、あまり関係ありません。
だから大阪の政治グループは、維新の議席数が増えなくても、場合によっては減るようなことがあっても、野党が共倒れになることを避け、与党を過半数割れに追い込むことを中間目標としたのです。与党を過半数割れに追い込むために、維新の候補者だけでも全選挙区に闇雲に擁立することは控えようという方針です。馬場前代表の全国擁立戦略からの転換ですね。
■なぜ参政党は「保守」と評価されるか
パーパスと最終目標から逆算した中間目標。
まずは与党過半数割れという中間目標の再設定、その達成を受けての小泉陣営などとの政策協議という一定のベースがあったうえで、遠藤さんが高市政権との連携・連立というチャンスをきっちりと掴んだ。そして、高市さんと藤田さんのペットボトルを脇に置いての緻密かつ熱量のある政策協議。偶然の賜物ではなく、しかるべき「逆算のシナリオ」を組んだ賜物なのです。
今回、維新は自分たちの議席数をほぼ増やしていません。しかし与党過半数割れという中間目標を達成したことで、自分たちの価値に恐ろしいほどのレバレッジを効かせることができました。もし与党が過半数を維持していたら、維新が野党第一党になったところで今のように政策実現ができるほどの存在にはなれなかったでしょう。
維新はこれまで、政策実現を積み重ねることで支持を広げてきました。政策実現を抜きに、国会でのちょっとした態度振る舞いや記者会見、街頭演説だけで支持は広がるものではないというのが、維新という看板やブランドに凝縮された教訓だと僕は思います。でも今のメンバーにはそうした教訓に学ぼうとする熱量は低いと感じます。
公金の扱いに徹底して厳しい姿勢を貫きながら、政策実現に徹底的にこだわる。そのことで維新の看板・ブランドが築かれてきました。もし維新がその意味を深く考えることなく、ザ・自民党スタイルに染まっていけば、ゆくゆくは国政維新は消滅するか自民に吸収されるでしょう。でも大阪では、維新の知事・市長が打ち出す政策を有権者が体感しているから、大阪維新は残る可能性が高い。
つまり維新が自民と連立を組んでも消滅しないためには、自民とは異なる維新の看板・ブランドをしっかりと守りながら、地方の知事や市長を輩出し、維新の政策を実行し続けることが必要不可欠です。
実は今、そうしたパーパスの共有や組織の看板・ブランディングについてよくわきまえているのが参政党です。前回、参政党について論じると予告していましたが、論じたかったのはこのことです。僕の考え方は参政党のそれとは真逆のことが多いのですが、彼らは参政党とはこういう政党だというブランディングを着実に実行しています。
維新も保守を名乗るなら、自分たちの看板やブランドに込められた意味、経緯、先人の苦労をもっと深く学んでほしい。
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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 写真=時事通信フォト)

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