「ラブホ問題」で注目を集めた群馬県前橋市の小川晶市長が11月27日、辞職した。また25日には、福井県の杉本達治知事がセクハラで辞職を表明した。
首長の「男女関係」をめぐる問題が続くのはなぜか。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「バレたとしても『誤解』だと言い訳しておけば良いと、タカを括っているのではないか」という――。
■前橋市長の「謝らない謝罪」
小川市長は、11月25日午後10時28分、みずからのXに、次のように投稿した。
「27日付で退職することを決断し、議長に退職願を提出いたしました。市議会の皆さまからいただいたご意見、市民の皆さまとの対話でいただいたお声を真摯に受け止め、悩み抜いた末の判断です」という。
これまでの2カ月は、一体なんだったのか。9月24日、「NEWSポストセブン」は、〈前橋市の42歳女性市長 部下の市役所幹部と2ヶ月で9回「ラブホ通い詰め」…“休憩3時間”で入室 市長は事実を認めつつ「仕事に関する相談や打ち合わせをしていた」と釈明〉との記事を配信した。
その日のうちに小川市長は記者会見を開き、「多大なるご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」と謝罪した。この「謝罪」について私は、プレジデントオンラインで「謝らない謝罪」であり、「政治家=謝らない・謝ってはいけない、という古い図式に取りつかれているせいではないか」と書いた(〈「なぜ「前橋ラブホ市長」は不倫を認めないのか…ピカピカの経歴に社会学者が見た「謝ったら死ぬ病」の一端〉プレジデントオンライン、2025年9月26日18時配信)。
■あくまでも「誤解」と主張
彼女は、今回のXへの投稿でも、「私自身の行為については深く反省しつつも、事実と異なる情報の拡散や誹謗中傷には毅然と向き合い」とした上で、「私の行動が、市民の皆さんにご迷惑や誤解を生んでしまったことは、どれだけ謝っても尽きるものではありません」として、あくまでも「誤解」とのスタンスを貫いている。
「誤解」だったかどうかは、もう何を彼女に言っても仕方がない。
不倫なのかどうか。男女関係があったのかどうか。もはや、そこは論点ではない。それよりも、期せずして同じタイミングで辞職の意向を明らかにした福井県の杉本達治知事とあわせて、地方の首長のスキャンダル、それも男女の間にかかわる話題が続くのか。それを考えたい。
■群馬県知事は「普通の判断」というが…
福井県の杉本知事は、セクハラに当たるメッセージを複数の職員に送ったと認めて、辞職するという。前橋市のある群馬県の山本一太知事は、前橋市長の辞意を「遅すぎる」と批判した一方で、福井県知事の決断を「普通の判断だ」と評価している。
果たして、「普通の判断」なのだろうか。
群馬県の山本知事が述べている通り、福井県知事をめぐっては、特別調査委員会による調査が進められている。来年1月以降に報告書を取りまとめの上、公表される見通しだった。その結果が出る前に「県政の混乱を避けたい」と決断した福井県知事を、群馬県知事はポジティブに見ている。
2カ月も引きずった挙句に辞める前橋市長と比べると、福井県知事は「普通の判断」をしたのかもしれない。

他方で、福井県議会では、「通報者や被害者のプライバシー保護などを理由に事案の詳細を明らかにしない杉本知事の姿勢に対し、疑問の声が続出」したと、福井新聞が報じている(〈「詳細分からぬ」セクハラ事案で辞意表明の福井県知事、県議会に説明も疑問の声続出 報告書公表後の説明求める意見も〉福井新聞オンライン、2025年11月27日午前6時20分配信)。
以前に福井県政を取材していたテレビ局の記者によれば、杉本知事の資質を問う声は、かなり前から聞こえていたという。杉本氏とは、どんな人物なのか。
■女性記者に「家に来ないか」とメール
1961年に岐阜県中津川市で生まれた杉本氏は、1986年に東京大学法学部を卒業後、自治省(現在の総務省)に入る。2004年から3年間、福井県の総務部長を務める。祖父が同県旧西谷村(現在の大野市)出身との縁もあり、2013年に再び福井県に着任し、今度は副知事を3年間、担っている。
前出の記者によれば、すでに福井県に来る前から「女グセが悪い」との悪評が飛び交っていたところに、副知事として権力を持つようになりエスカレートしたという。今回は県職員へのセクハラが調査対象だが、女性記者、とりわけ民放記者に対しては「『家に来ないか』などと見境なくメールを送ったため、記者クラブ内でも話題になった」と記者は証言している。
女性への扱いが露骨だったのは、着任挨拶の際で、女性記者には10分程度の時間を取るのに対して、証言してくれた記者は男性であったためなのか、「廊下で30秒」の立ち話だけだったという。
ほかにも今回のセクハラをさもありなん、と納得せざるをえない、そんなエピソードは枚挙にいとまがない。辞意表明は「普通の判断」だったのかもしれないが、「家に来ないか」と見境なく誘っていたのだとしたら、どうか。
問題は、福井県知事と前橋市長、2人の優劣にはない。
辞めるのが早いか遅いか、でもない。なぜ、地方首長の「男女関係」にまつわる話が、陸続と出てくるのか。それが問題なのではないか。
■前知事は公舎を「ラブホ代わり」
山本一太氏の前の群馬県知事もまた、「男女」の話題を提供した。2011年7月13日発売の「週刊新潮」で、知事公舎に知人女性を宿泊させたと報じられたのである。同日の緊急会見で、大沢正明知事(当時)は、妻ではない、その女性を泊めたと認めたものの、「今後は誤解がないようにしたい」と謝罪した。
会見を報じたJCASTニュースにある「大沢知事の言い分」では、「女性は愛人ではなく、知事が顧問を務める社会福祉法人の職員」で、公舎へは月に1度、「事業報告」に来ており、「打ち合わせ中に2人とも酒を飲んで寝てしまった」ため、「車の運転ができないことを理由に翌朝まで宿泊させた」(〈公舎に女性泊めた群馬県知事「ラブホテル代わり?」と週刊誌報道〉JCASTニュース、2011年7月14日20時59分配信)。
群馬県では、知事も市長も、婚姻関係にない男女が、ホテルや公舎で「打ち合わせ」や「事業報告」をする習慣があるのだろうか。ラブホテルに男女が2人で入ったり、翌朝まで男女が宿泊していたりしても、「誤解」だと言えば済むのだろうか。
■「誤解」と言い続ければ済むのか
まさにここに、問題の根っこがある。前の群馬県知事も、前橋市長も地元を舐めているのである。有権者をはじめ、周囲をバカにしているのである。
この2人が「男女関係」にまつわるスキャンダルが報じられたのは、それほど衆人環視が効いているからだろう。首長は有名人であるし、何より危機管理の点からも、そのスケジュールは多くの人に把握されている。
そんな人たちが男女関係の「誤解」を招くような行動をすれば、すぐにバレる。本人以外の誰もが、そう思っているし、実際に明るみになり続けている。群馬県に限らない。福井県知事は、よりにもよって、多くの人に共有されるテキストメッセージを身内の職員に送っていたのだから、咎められないはずがない。
地方行政のトップだから清廉潔白でなければならない、とは思わない。それでも、厚顔無恥にもほどがあるのではないか。何より、どうせバレない、もしくは、バレたとしても「誤解」だと言い訳しておけば良い、そんなタカを括った姿勢があるのではないか。
自分を選んだ有権者を、もっともバカにしているのではないか。
■背景に「たかが男女関係」という甘え
では、なぜ、バカにしているのか。たかが男女関係、との甘さがあるのだろう。

たとえば、大阪府岸和田市では、永野耕平・前市長が性的関係をめぐって女性から提訴され、解決金500万円を支払うことで和解したが、刑事事件にはなっていない。市長の立場を利用していたにもかかわらず、民事での解決だった。そればかりか、市議会からの2回の不信任決議の末に行われた市長選挙にも出馬している。
ラブホ問題の前橋市長もまた、出直し市長選挙への出馬が取り沙汰されている。
「誤解」を呼ぶ行動に踏み出す時点で、有権者を下に見ているだけではない。再選挙で選ばれるに違いない、とまで見下しているのではないか。お金にからんだ「疑惑」であれば、逮捕される恐れがあるし、またイメージは悪い。
対して「男女関係」は「誤解」と言っておけば良いし、実際に「誤解」なのかもしれない、と思う人もいるのだろう。前橋市の小川市長がそうであるように、SNSを通じた自分の支持者とのやりとりでは、批判はほとんど聞こえない。それどころか、「事実と異なる情報の拡散や誹謗中傷」だとして、逆にメディアなどを非難する声のほうが大きい。
■なぜ首長の「スキャンダル」が続くのか
自分たちの置かれた状況を見つめる冷静さも、議会の過半数以上から支持を集めるための理性も、どちらも失われている。いや、失われているというよりも、いつの間にか消え失せているのだろう。

さらに、有権者の側にも苦しさがある。「男女関係」は、首長の職務にダイレクトには、かかわらないからである。
汚職事件やパワハラなど、行政の運営にあたって大きな支障となるテーマであれば、賛否を表明しやすい。仕事のなかでのトラブルであれば、有権者は怒りの拳を挙げやすい。
他方で、「男女関係」は、たとえ上司と部下であろうと、プライベートの側面が否めないし、「誤解」だと言われてしまえば、私のようにこだわるほうが「下衆の勘繰り」だと蔑まれかねない(私自身は「下衆」でしかないが)。
だから、首長たちの「男女関係」に関しては、これからも話題になり続けるに違いない。

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)

神戸学院大学現代社会学部 准教授

1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。

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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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