■埋まっているガザ民の遺体は「1万体以上」
トランプ米大統領の肝いりでイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意「第一段階」が発効してからまもなく2カ月が経とうとしている。
しかし、停戦交渉の条件の一つとなっている人質の遺体返還は難航している。
2023年10月7日のハマスによる越境攻撃から、2年以上が経過するなか、パレスチナ側の死者は6万9000人に達しているとされる(ガザ保健省)。
世界の視線が、イスラエル側の人質、残り2人の遺体に注がれるなか、いまだ瓦礫に埋もれた1万人を超えるパレスチナ人の遺体は、搬出される見通しさえ立っていない。
■「政治化」される遺体の行方
イスラエル首相府は25日、ガザに残されていた人質1人の遺体を新たに受け取ったと発表したが、残る遺体2体はいまだ見つかっていない。
そんななか、ハマスが白い袋に入った遺体を運び出し別の場所へ埋めている様子を捉えたドローン映像が、先月公開された。イスラエル側は、遺体を発見したように装ったとして、これまで重機による捜索が必要だと説明していたハマスが「遺体の所在を把握しながら返還を意図的に遅らせている」と非難。
国際赤十字も「合意の履行が非常に重要な局面で、遺体回収が偽装されたことは残念でならない。かけがえのない身内の安否を案じる家族の気持ちを思うと、とても受け入れられることではない」と、尊厳を持って遺体を取り扱うよう、異例の緊急要請を行った。同時に、「家族の元へ遺体を返す行為を“政治化”すること」を断じて行わないよう注意を促した。
ハマスが遺体の返還を遅らせているとして「合意違反だ」とイスラエル側が主張するなか、先月下旬、あるガザ市民の男性がSNSに悲痛な思いを投稿した。
■妻子7人が瓦礫の下に…
男性は、自身の家族の遺体搬出を依頼していた現地の業者から突如、キャンセルされたという。
「亡くなった私の妻と子どもたちを瓦礫の下から引き出すため、私は大きな撤去の機械を手配するためにある建設会社と契約を結びました。
彼らは一回の運搬につき重機とトラックで400シェケル、つまり約120米ドルの賃金を要求し、軽油代は私の負担としました。さらに1ガロンの軽油ごとに200米ドルを超えると言われました。
また、自宅を評価したところ、少なくとも60台のトラックが必要と見積もられました。私たちは合意し、手付金を支払いました。その後、私は準備のために兄弟たちのテントを張り、道を開け、兄弟たちに運搬と賃借と荷下ろしなど多数の負担を負わせました
これらすべての苦労を経たのち、会社に繰り返し連絡したところ、彼らは謝罪してきました。言い訳として『エジプトの委員会などが“占領側のイスラエル人の遺体”の捜索を自分たちに依頼し、魅力的な金額と他の特典を提示してきた』と伝えてきました。」(投稿から翻訳・一部抜粋)
投稿者は、ガザのサブラ地区に妻と6人の子供たちと暮らしていた男性だ。
戦争開始以来ずっと自宅にとどまっていた。避難することもできたが、イスラエルへの抵抗心から、「慣れ親しんだその地にとどまり、自由で誇り高く生きる」ことを選んだという。
しかし、イスラエル軍の空爆により突如、妻と子供を失った。
彼の亡くなった妻と6人の子どもの遺骨は、いまだ破壊された自宅跡に長期間にわたって放置されたままでいる。
そのため、大量の瓦礫の下から遺体を引き揚げる手配をして建設会社と契約を交わしたものの、イスラエル側の人質遺体の捜索活動が本格化するのと不運にも重なってしてしまった。
しかし、手付金をすでに支払った後、建設会社側から「イスラエル側の遺体捜索」活動に携わることになり、契約をキャンセルされたという。亡くなったイスラエル側の人質の捜索には、さらなる「魅力的な金額」が提示されたとのことだった。
■“命の価値はみんな同じ”は本当か
男性はこう言葉を続く。
「世の中は、ならず者の国家と殺人者の兵士たちに対しては騒ぎ立て、収まることがありませんでした。では、私の無実の家族と他のガザ市民の遺体はいつ埋葬できるのでしょうか。」(投稿から翻訳・一部抜粋)
遺体をいまだ搬出することが叶わない事態は、この男性に限ったことではないだろう。
おびただしい数のガザの人々の遺体はいまだに瓦礫に埋もれた状態で、家族のもとに戻ることができていない。いや、家族全員が天国に同時に旅立っていったケースも報じられないだけで、数え切れないほどあるだろう。
ガザでは、「至るところで死臭が立ち込めている」という。
そして、こうした遺体は今後きちんと埋葬されるかすら、もはや分からない。
世界ではイスラエル側の遺体が一体返還されるごとに大きく報じられる。
しかし、ガザで日々失われてゆく一つ一つの命に注目されることは決してない。
人の命に価値の違いがあるのか――そんな当たり前の「疑問」でさえ、このガザの地ではもはや「愚問」になってしまう凄惨な現実がここにある。
■「2体」と「その他大勢」とを隔てるもの
「私たちの命は数字ではない」
その言葉をガザ市民から何度耳にしたことだろうか。
停戦合意で次々にイスラエル側の人質の遺体が返還されていくなか、男性は世界から見捨てられたという悔しい胸の内をこう吐露する。
「不正に満ちた世界よ――
660日以上が過ぎた今も、私の家族の遺体は瓦礫の下にあり、この野蛮で蛮行的で虐殺的な戦争の始まり以来、パレスチナの民の他の多くの遺体が瓦礫の下に眠ったままになっている。
世界中がそれを目の当たりにし、耳にしていながら、誰一人として動こうともしない……。」(投稿から翻訳・一部抜粋)
イスラエル側の人質、2人の遺体は「停戦合意の条件」として扱われる一方、瓦礫の下の無数の遺体が搬出される見通しは立たない。
こうした不均衡が、新たな憎悪を生み出してゆく。
それは、彼のこの言葉にも表れる。
「この地上で最も卑しむべき民族(=ユダヤ人)の遺体、その数は私が自分の家族の中で失った人数よりも少ないのに、それによって地上の秩序は一変した――」(投稿から翻訳・一部抜粋)
ユダヤ人を一括りにして「最も卑しむべき民族」と表現する。
そして彼は、ガザの人々だけは神のもとで天国へいくことができ、「殉教者」となりうると述べている。
■こうして憎しみは連鎖する
一方で、ガザには、たとえイスラエル人であっても無実の人々の死を望まず、和平を切望する市民は多い。実際、ガザではハマスを支持しない人々も少なくない。
しかし、イスラエル側では、「ガザ市民=ハマス」という認識のもと全員がハマスの越境攻撃を祝福したと信じ込み、強い憎しみを抱き続ける人々がいることも事実だ。
トップレベルでの和平交渉が進んでいく一方で、一部の市民らの心の底に秘めたこうした憎悪が簡単に消え去ることはない。
思想の“脱過激化”は、今後もう一つの重要な課題となってくるだろう。
ちなみに、彼は亡くなった兄とその妻、子供たちの遺体を自らの手で埋葬した。その時、自身の言葉でこう記している。
「兄の願いはこうでした。
――ガザで最も大きなモスクで葬礼の祈りをしてもらうこと。
――殉教者のように葬列を組んで送り出されること。
――人々の肩に担がれて運ばれること。
神に感謝します。私はひとりで、瓦礫の下から彼らを掘り出し、自分の手で彼らを清めて、自分の手で葬列をし、自分の手で彼とその妻、そして何人かの子どもたちを埋葬しました」(投稿から翻訳・一部抜粋)
イスラエル側の人質が家族のもとに帰還した時のように、国を挙げて祝われることもなければ、その遺体が正式な葬儀をもって埋葬されることもない。こんなにも大量の死者が出る戦時下でなければ、ひょっとしたらガザにおいても「殉教者として」人々の肩に担がれ、葬列を組んで「ガザで最も大きなモスクで」送り出されていたかもしれない。
しかし、もはやそんな光景を目にすることすらなくなった。ささやかな最期の願いでさえ、今となっては贅沢なものだ。
そして、今もって掘り出すことさえできていない、自らの妻と子供たちの遺体に思いを馳せる。
「もし神が許すなら――
近いうちに私の妻と子どもたちを瓦礫の下から掘り出して土に葬ることができるなら、私は彼らのために祈り、人々の肩に担がれ、神が命じられたように葬りたいと思います。
私のこの試練において報いを与え、これより良いものを授けてください。どうか私たちに忍耐と堅固さをお与えくださるよう祈ってください。
そして私たちの家の瓦礫の下にまだ残っている者たちを掘り出すことができますように」
(投稿から翻訳・一部抜粋)
ガザで眠るイスラエル側の人質は、残り2体。世界の視線は、その2体がいつ返還されるかに注がれる。その陰で、無数の遺体は未だ瓦礫の下に埋もれたままだ。
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海野 麻実(うんの・あさみ)
ジャーナリスト
東京都生まれ。2003年慶應義塾大学卒業、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”などを手がける。03年民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。16年退社。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、デジカムで撮影・編集まで単独で手がける。取材や旅行で訪れた国は東南アジアやヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。
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(ジャーナリスト 海野 麻実)

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