いつまでも健康でいられる秘訣はなにか。理学療法士で西九州大学准教授の中村雅俊さんは「ウォーキングだけでは不十分。
『3秒筋トレ』を取り入れることで、加齢による筋肉の減少を防ぎ、より健康でいられる」という――。
※本稿は、中村雅俊著『たった3秒筋トレ 世界最短時間で10歳若返る』(講談社)の一部を抜粋・再編集したものです。
■80代までに筋機能は30~40%低下する
「やっぱり運動しなきゃダメなんでしょ?」とおっしゃる方に、「なぜ運動が必要だと思いますか?」と尋ねてみると、次のような答えが返ってきます。「だって運動しないと足腰から筋肉が衰えるから。足腰がダメになったら、歩けなくなって大変なことになるでしょ」
その通り、大正解です! ヒトは動物。まさに「動く物」であり、動くためには足腰などの筋肉が必要不可欠です(当然ですが、病気などで筋力が落ちたり、動けなくなったりしたからといって、人間としての価値や尊厳が損なわれるわけではありません)。
この大切な筋肉の機能(筋機能)のピークは、普通の人では20~30代。運動をしない限り、それ以降は減少を続けます。後述しますが、筋機能とは、筋肉が発揮できる力、筋力とほぼほぼイコールだと思ってください。
筋機能は、運動不足だと30代以降では年1%、50代以降になると2%の割合で、減り続けることが明らかになっています。その結果、20~30代のピーク時と比べると、80代までに筋機能はおよそ30~40%も低下すると言われています。
■「3秒筋トレ」で筋力の低下は防げる
歳を重ねると、多少は髪が薄くなったり、シワが増えたりするもの。
20~30代の頃と比べて、筋機能≒筋力が多少低下するくらいなら、気に病むほどでもありません。ただ、その落ち込みは、最低限に留めることが重要。
筋機能≒筋力が必要以上に低下すると、自立した健康的な生活が送れなくなり、要支援・要介護になる可能性が出てくるからです。自立できなくなると、かかる医療費も増えてきます。
この筋機能≒筋力の落ち込みを防ぐために有効なのが、「3秒筋トレ」。ピーク時に比べると筋機能≒筋力が落ちているはずの60代から80代の男女が10週間取り組んだ結果、筋力がアップして筋肉量も増え、筋機能が高まることが証明されています。
加えて歩く速さもスピードアップし、バランス機能の改善も見受けられました。
■運動をしないとなぜ筋肉は減るのか
筋機能≒筋力の低下のもっとも大きな要因は、筋肉が減ること。では、なぜ運動不足だと、筋肉は減るのでしょうか?
筋肉は、カラダのなかでも、いちばん「新陳代謝」が盛んな組織。新陳代謝とは、古い細胞や組織を壊し(分解し)、新しく作り直す(合成する)ことです。
筋肉は新陳代謝が活発であり、つねに分解されており、分解に見合う量が合成されています。それにより、筋肉のおよそ半分は約半年(180日)で入れ替わっています。
分解と合成がちょうど釣り合っていれば、筋肉量は変わりません。
ところが、運動の刺激が乏しいと、分解のほうが合成よりも活発になります。その結果、じわりじわりと筋肉が減っていくのです。
もう少しだけ詳しく説明すると、筋肉は、筋線維という細長い細胞を無数に束ねたもの(そうめんやスパゲッティの束を想像してみてください)。運動不足だと、その筋線維の数が減り、筋線維自体も萎縮するのです。
逆に運動で筋肉を適度に刺激すれば、合成のほうが分解より活発になります。それにより、筋肉量が増えて筋力もアップします。「3秒筋トレ」の最大の狙いはそこにあります。
■筋力ダウン→生活習慣病リスクもアップ
加齢による筋肉の減少を、「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」と呼びます。歳を取っても適度な運動をしていれば、筋肉量は減るどころか、増やすことだって可能。ですから、厳密には、筋肉の減少は加齢+運動不足で起こるのです。
現在、60~70代の5~13%、80代以降の11~50%がサルコペニアだと言われています。
サルコペニアに陥ると、筋力不足で思うように動けなくなります。動けないと筋肉への刺激が減りますから、筋力減少に一層拍車がかかります。悪循環です。
サルコペニアを放置していると、心身が疲れやすくなり、弱ってしまう「虚弱(フレイル)」という状態に陥ります。サルコペニアからフレイルになると、転倒するリスクが男性で約3倍、女性で約1.5倍になるというデータがあります。
高齢者では骨が脆もろく弱くなっているため、転倒で容易に骨折が起こります。転倒による骨折は要支援・要介護状態になる大きな引き金。そこから認知症に進むケースも少なくありません。
■筋肉減少で起きる「負のドミノ倒し」
サルコペニアになると、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病やメタボのリスクも上がります。その背景にあるのが、サルコペニアによる肥満。「サルコペニア肥満」とか「隠れ肥満」と呼ばれることもあります。
前述のように、筋肉は新陳代謝が活発であり、じっとしているときでも体温を保つために代謝活動を行なっています。

安静時でも人間が生きるために行われている代謝活動を「基礎代謝」と呼びます。それは1日に消費しているエネルギー(カロリー)のおよそ60~70%を占めます。その基礎代謝の20%ほどを担っているのが、筋肉による代謝活動です。
ですから、筋肉が減る→基礎代謝が落ちる→1日の消費エネルギーが減るという負のドミノ倒しが起こります。すると、食べすぎていなくても、無駄な贅肉(体脂肪)が増えて太ってきます。そもそも太るとは、単に体重が増えることではなく、体脂肪が溜まりすぎた状態。男女ともに、30代以降、肥満の人は増える傾向があります。
■「3秒筋トレ」で「隠れ肥満」を打破できる
太るかやせるかを決めているのは、食事による摂取エネルギーと、消費エネルギーのバランス。摂取エネルギーが変わらなくても、筋力と筋肉が減り消費エネルギーが落ち込むと、エネルギー収支が黒字になり、黒字分が体脂肪に変わって太りやすくなるのです。
サルコペニア肥満になり、体内に無駄な体脂肪が溜まりすぎると、血圧が上がったり、血糖値が上がって下がりにくくなったり、悪玉コレステロールが増えすぎたりします。それにより、メタボや生活習慣病のリスクが上がるのです。
「3秒筋トレ」で筋力が上がり筋肉が増えると、基礎代謝が上がり、余計な体脂肪が減ります。
「3秒筋トレ」は、危険なサルコペニア肥満の解消にもひと役買ってくれるのです。
■ウォーキングしているから大丈夫、ではない
昔から「老化は足腰から」と言います。事実、筋肉は足腰から先に衰えやすいという特徴があります。なぜでしょうか?
その理由は、足腰の筋肉が大きくてそれだけ強いから。大きくて強い足腰の筋肉が衰えやすいなんて矛盾しているように聞こえますよね。でも、それは紛れもない事実。
筋肉を鍛える必須条件は、日頃加わっている以上の刺激を加えることです。たとえば腕のような小さな筋肉は、買い物で荷物を持ったりするだけでも、十分な刺激となり、衰えが防げます。
一方、足腰の筋肉は大きくて強いため、それだけ大きな刺激を与える必要があります。日常生活で大きな刺激を足腰に与えるのは難しいため、足腰は衰えやすいのです。
60代、70代の元気な方のなかには、「毎朝15分ウォーキングをしているから、筋トレなんて必要ないでしょ」とおっしゃる方もいます。
結論から先に言うと、ウォーキングだけでは足腰は十分に鍛えられません。
大きくて強い足腰の筋肉は、散歩レベルのウォーキングで鍛えるのは難しいもの。ですから、ウォーキングをしている人も、ぜひ「3秒筋トレ」を行っていただきたいのです。
「3秒筋トレ」は、その名の通り、筋トレ。筋肉を鍛えるのが狙いです。一方、ウォーキングのおもな狙いは、筋肉を鍛えることではありません。
■「ウォーキング+3秒筋トレ」が最強
ウォーキングは、「有酸素運動(エアロビクス)」の代表選手。有酸素運動とは、息が軽く弾むような運動をリズミカルに続けるもので、酸素を介して無駄な体脂肪を燃やしたり、血液循環をよくしたりする作用があります。
もちろんあまり歩かない人と比べると、ウォーキングをしている人の足腰はそれなりに鍛えられていると言えるでしょう。でも、それだけでは不十分なのです。
せっかく習慣になっているウォーキングをやめる必要はありません。「3秒筋トレ」と並行して続けましょう。ウォーキング+「3秒筋トレ」=鬼に金棒。合わせ技で無駄な体脂肪をメラメラ燃やし、筋力アップでサルコペニア肥満の予防・解消につなげてください。
■「3秒筋トレ」の2つの基本種目
ここからいよいよ、「3秒筋トレ」の基本種目を紹介します。
まず、取り組んでほしいのは、1の「椅子座り」と2の「かかと下ろし」。この2種目で、運動不足や加齢などで衰えやすい足腰(太もも前側、太もも後ろ側、お尻、ふくらはぎ)の筋肉が刺激できて筋力アップが望めます。
筋肉のおよそ3分の2は下半身に集まっていますから、この2種目のみで全身の筋肉の3分の2前後が鍛えられるのです。2種目で所要時間は3分程度。これを1~2日おきに週3回以上行うことを最初の目標にしてください
「3秒筋トレ」でもっとも大切なのは、3秒かけてじっくり丁寧に「ゆっくり下ろす」こと。でも、タイマーを使わず頭のなかで3秒をカウントするだけだと、意外と3秒未満だった、ということが珍しくありません。
そこで私がオススメしているのは、「1、2、3、4、5」とゆっくり5つ数えること。これでだいたい3秒になるのです。
■「1、2、3、4、5」をきっちりカウント
もう1つ意識してもらいたいのは、「ゆっくり下ろす」後半に、より時間をかけることです。
やってみるとわかりますが、「ゆっくり下ろす」後半ほどしんどいもの。私が体験者に「ゆっくり5つ数えながら下ろしてください」とアドバイスしても、「ゆっくり下ろす」前半で「1、2、3……」とカウントを稼いで、いちばん丁寧に行ってほしい「ゆっくり下ろす」後半は「4、5」と手を抜く方が大半。それでは「3秒筋トレ」の効果は半減します。
「1」である程度下ろしてから、そこから先は「2、3、4、5」と丁寧に下ろすように心がけてください。呼吸を止めると血圧が上がりやすいので、頭のなかでカウントするのではなく、「1、2、3、4、5」と口に出して数えながら、呼吸をゆったり続けましょう。
これを2カ月半(10週間)以上続けることができたら、加齢や運動不足などによる筋力低下にストップがかけられるだけではなく、筋力をアップさせて健康寿命を延ばすことも可能になるのです。

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中村 雅俊(なかむら・まさとし)

西九州大学リハビリテーション学部准教授/理学療法士

1987年生まれ。西九州大学リハビリテーション学部准教授/理学療法士。長崎大学医学部卒業、京都大学大学院医学研究科博士課程修了後、同志社大学スポーツ健康科学部助教、新潟医療福祉大学リハビリテーション学部講師を経て、2022年より現職。著書に『世界最短時間で10歳若返る たった3秒筋トレ』(講談社)。

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(西九州大学リハビリテーション学部准教授/理学療法士 中村 雅俊)
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