※本稿は、髙橋大樹『あなたの実家、どうする? 知識ゼロでも絶対後悔しない! 損しない! 不動産相続の新・ルール』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。
■祖父の土地をめぐり裁判へと発展した事例
Dさんの祖父が亡くなった後、Dさんの親の兄弟姉妹6人とその配偶者が、祖父の所有していた都内280坪の広大な土地の相続をめぐって真っ二つに割れました。最初は普通の親戚会議でした。みんなで「どのように分ければいいか?」を話し合っていたのです。
ところが……話し合いが進むにつれて、どんどん感情論へともつれていったのです。
「私が父の面倒を一番多く見たのよ。病院への付き添いも私がやったんだから! なのに、なんでほかのみんなと同じ取り分なの?」と次女が叫ぶと、
「あなたは大学まで出してもらったのに、私は高卒で働かざるを得なかったのよ。結婚の時だって、お兄さんはお金をもらったのに、私はもらえなかった。そんなの不公平よ!」と長女が涙ながらに訴える。
法定相続分という法律で決まった分け方があるにもかかわらず、過去の恨みつらみが次々と噴出してきたのです。何度話し合いを重ねてもいっこうに話はまとまらず、最終的にはそれぞれが弁護士を立てて裁判することにまでなりました。
■精神的ストレスで母はがんを患い死亡
弁護士が入ると、もはや話し合いではなく「戦争」のはじまりです。送られてくる書面には、幼い頃からの金銭のやり取りなどが詳細に記され、互いの不信感は決定的なものになりました。
「○年○月に○○万円贈与を受けている」
「○○の学費として○○万円支出」
「ほら、やっぱりお姉さんはお金をもらっていたじゃないの。ずるいわよ!」
「あんただって、学費をこんなに出してもらっていたじゃない。私より多いわよ」
感情的な対立はさらに激化。Dさんのお母さんには、両方のおばさんから「ちょっと聞いてよ! 昨日ね……」「あの人ったらひどいのよ!」と連日、愚痴(ぐち)の電話がかかってくるようになりました。
そのうち、Dさんのお母さんは電話の着信音が鳴るだけでパニックを起こすように。その精神的なストレスからか、ついにはがんを発症し、争いの最中にあっけなくこの世を去ってしまったのです。「こんなトラブルに巻き込まれなければ、お母さんは今でも元気だったはず」とDさんはくやしくてなりません。
もちろん、Dさんの親戚一同は完全に絶縁状態。土地は分割されましたが、その後は誰かが亡くなっても連絡が来ることはありませんでした。
■相続問題が親子だけでは解決しない理由
Dさんのケースでは、事前に専門家(相続に詳しい弁護士や司法書士、不動産コンサルタントなど)を交えた話し合いをすべきでした。
多くの方の相談を受けてきて思うのは、相続の問題は親子だけではまず解決しないということです。理由はふたつあります。まず、親も子も相続については素人だということです。さらに不動産の問題が加わるともう無理です。ふたつ目は、親子だと感情的になりやすいという点です。
子どもから「相続の話をしたい」と言われた親は、「お金目当てなのか」「死ぬのを待っているのか」と感じてしまうかもしれません。一方、親も「相続のことを考えなければ」と思っていても、子どもに切り出すのは簡単ではありません。「まだ早い」「縁起でもない」と先延ばしにしがちです。
■第三者の介入がトラブル回避の一歩
結果として、誰も、何も行動を起こさないまま時間が過ぎてしまいます。実際、私がお手伝いする案件のほとんどは、「本当に困った状況になってから」の相談です。
だからこそ、間に入る第三者が必要です。私たちのような専門家が間に入ることで、親子では話しにくい内容も自然に話し合えるようになります。
理想的なのは、親子で一緒に専門家の話を聞くことです。セミナーに参加したり、個別相談を受けたりすることで、同じ情報を同じ場所で共有することができます。別々に相談してしまうと、一方からの話しか相手に伝わらず、話がかみ合わなくなることも多いです。
親から相談を受けた専門家は親の立場で答えますし、子どもから相談を受けた専門家は子どもの立場で答えるからです。同じ場所にいて、同じ人から話を聞くことで、共通の認識が生まれるのです。
「そんな専門家をどこで見つければいいの?」という声が聞こえてきそうです。実は、身近なところに情報があります。お住まいの区や市の広報誌を見てみてください。
■親に「相続」への興味を持たせる誘い方
図書館や公民館、地域の集会所などでも相続関連のセミナーが開催されることがあります。まずは、こうした地域の情報をチェックしてみましょう。大切なのは、「色のついていない」専門家を選ぶことです。銀行に相談すれば銀行の商品をすすめられますし、ハウスメーカーに相談すれば建築の話になりがちです。できるだけ中立的な立場の専門家を選んで、まずは親子一緒に話を聞いてみることをおすすめします。
では、具体的にどうやって親を誘えばいいのでしょうか。
・知人の話を例に出す
「○○さんが相続で大変だったみたい。うちは大丈夫かしら」という形で話題にできます。他人の話なら、親も身構えることなく聞いてくれるでしょう。
・新聞記事やテレビ番組を利用する
相続に関するニュースを見た時に、「こんなトラブルもあるのね。うちも準備しておいたほうがいいかしら」と自然に話題にできます。
・軽い気持ちで誘う
「面白そうなセミナーがあるから、一緒に行ってみない?」「無料の相談会があるから、話だけでも聞いてみない?」こんな軽い気持ちで誘ってみましょう。「勉強になりそう」「興味深い」といった表現を使うと、相手も参加しやすくなります。
■遺産話で使ってはいけないNGワード
親との相続の話では、できれば使わないほうがいい表現もあります。
「万が一の時」「もしもの場合」という曖昧な表現は、具体的な話し合いにつながりません。また、「心配だから」という理由は、「自分は心配されるほど弱っているのか」と親を不安にさせてしまう可能性があります。「遺産」「相続税」「遺言書」といった直接的な言葉も、親に「死」を連想させてしまうため、最初は避けたほうが無難です。
代わりに、「将来のことについて一度、きちんと話し合いませんか」「大切な家のことを教えておいて」といった、より自然な表現を使いましょう。
「エンディングノート」という言葉を聞いたことはありますか? これは自分の人生の終末期に向けた準備として、財産状況や家族への想いを記録しておくノートのことです。遺言書のような法的効力はありませんが、相続手続きを円滑に進めるための重要な情報源となります。
そして何より、相続対策を立てるための出発点として非常に有効です。エンディングノートにはさまざまな項目を記載できますが、不動産相続においてもっとも重要なのは財産状況の記録です。
(1)不動産について
所有している不動産について、住所や面積、取得した時期などの詳細を記録しておきます。
■話し合いが進む「エンディングノート」も作成しよう
(2)現金・預金について
どこの銀行にいくらくらいあるかを記載します。通帳の保管場所も書いておくと、相続人にとって大きな手がかりになります。
(3)株式・保険について
株式や保険についても、有無だけでも記録しておきましょう。証券会社や保険会社の名前、連絡先も重要です。
(4)借金などの負債
借金などの負債がある場合は必ず記載しておきましょう。相続ではプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継がれるため、相続人が知らずに借金を背負ってしまうことを防げます。
財産状況と同じくらい重要なのが、家族への想いの記録です。誰にどの財産を残したいかという希望や、介護を担ったり面倒を見てくれたりした人への配慮について記載します。
これに法的効力はありませんが、相続人同士の話し合いで重要な指針となります。「お母さんには家にずっと住んでもらいたい」「長男には事業を継いでもらいたい」「次男の嫁さんには介護でお世話になった」といった想いを残しておくことで、家族も納得しやすくなります。
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髙橋 大樹(たかはし・だいき)
宅地建物取引士、一級建築士、不動産相続アーキテクツ代表
1980年8月22日生まれ。神奈川県相模原市出身。法政大学工学部建築学科卒。埼玉の住宅建築会社勤務を経て2008年、不動産の相続対策を専門とするプロサーチ株式会社に入社。「不動産」や「相続」の知識と合わせて「建築」の知識・経験を活かし、不動産の売買仲介、土地・建物の有効活用提案、底地や借地の権利関係調整など幅広く手がける。2019年、相続に特化した不動産会社「不動産相続アーキテクツ株式会社」を東京都豊島区池袋に設立し、不動産の相続対策から相続発生後の不動産売却・有効活用提案、地主さん向けセカンドオピニオン、家族信託コンサルティングなど、不動産の相続全般に関わるコンサルティングを税理士、司法書士、弁護士といった専門家と連携しながら行っている。
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(宅地建物取引士、一級建築士、不動産相続アーキテクツ代表 髙橋 大樹)

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