学校に行けなくなった子が中学受験をすることは可能なのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「結論から言うと、不登校でも中学受験はできる。
ただし、2つのポイントを心に留めてほしい」という――。
■高校受験より中学受験のほうがおすすめ
近年、小学校では不登校児童が増加しているという。学校に行けなくなる理由はそれぞれだが、私の周りでは、いわゆるギフテッドや発達障害の傾向がある子が、学校に馴染めなかったり、友達関係でうまくいかなくなったりして不登校になるケースが多い。そして、近年はそういう子たちの中学受験の相談が増えている。
結論から言うと、不登校でも中学受験はできる。いやむしろ、不登校の場合は出席日数や授業態度などの面から、高校受験では内申点に響きやすいので、中学受験を勧める。ただし、小学校の出席日数も評価の対象となる公立中高一貫校や女子校は難しい。それ以外であれば、私立の学校は最難関校から底辺校まで幅広く、そういう子を受け入れる体制がある。
以前、ある男子難関校の授業を見学したとき、飛び抜けて数学ができる生徒がいた。しかし、勉強はできるものの、授業中どこか落ち着きがない。後で先生に話を聞くと、その子はいわゆるADHD(注意欠如・多動症)で、クラスの全員がそのことを認識していた。だが、彼の数学の出来はピカイチなので、数学に関しては、まわりに一目置かれていた。
授業で難しい問題が出されると、まず彼の考えを聞いてみる。難関校にはそんな空気がある。このように、その子に合った環境に出会えれば、中学受験は吉と出る。
■不登校の子の中学受験「2つのポイント」
だが、ここで一つ忘れてはいけないことがある。それは、私立中高一貫校へ進学するためには、中学受験を経なければならないということだ。
不登校の子に中学受験をさせる場合、次の2つがポイントになる。1つは「中学受験の勉強をどういう環境で進めていくか」、もう1つは「どのような学校を選ぶか」だ。
昨今、中学受験といえば、受験カリキュラムが整った大手進学塾に通うのが一般的だ。子供が不登校になる理由は本当に様々で、勉強は好きだけれど、友達関係がうまくいかず学校に行けなくなってしまったという子もいれば、担任とそりが合わない、体育の授業が憂鬱などといった理由で学校へ行くのを嫌がるようになる子もいる。そういう子の場合は、塾へ行かせて受験勉強をさせるのが効率的だ。塾にクラスメートがいるからイヤという場合は、別の校舎に通わせればいい。
■「オンライン授業+個別指導や家庭教師」
一方、そもそも集団行動が苦手で学校に行けないという子は、やはり集団授業が基本となる進学塾に通うのは難しい。
そういう場合でも今はオンライン授業を行っている塾も多いので、そうしたサービスを利用してみるといい。
だが、オンライン授業だけで中学受験の勉強を進めていくのは勧めない。なぜなら、精神的にまだ幼い小学生の場合、常に気持ちを高めてくれる伴走者がいないと、モチベーションが保てないからだ。また、授業で理解したことを「なるほどね」と納得につなげるのも、子供だけでは難しく、大人の声かけが必要になる。そこで、オンライン授業をメインにしつつも、個別指導塾や家庭教師の力を借りることを勧める。
■偏差値表だけで学校を決めてはいけない
受験校選びについては、偏差値表だけで学校を決めないことだ。中学受験をさせるからには、できるだけ偏差値の高い学校へ入れたい。それが多くの親の望みであることは知っている。しかし、中学受験で成功し、難関校に進学した子が、その後、高度な授業についていけずドロップアウトしてしまったり、友達関係でつまずき、中学以降に不登校になってしまったりするケースも多い。今元気に小学校に通っている子でもそういうことが起きる可能性は十分にあるのだから、不登校児の場合はさらに慎重に学校選びをしてほしい。
多くの私立中高一貫校では、不登校の子を受け入れる用意はある。ただ、「うちの学校は不登校の子を歓迎します!」などと、あえて公表はしていない。
そこで、学校説明会や個別見学会などで相談をしてみることを勧める。そのときの対応で、迎え入れる準備ができているかどうかがおおよそ分かるはずだ。先生のちょっとした表情や言動を見逃さないことだ。
■マンモス校や集団行動重視の校風はあまり勧めない
ただ、一概には言えないが、1学年のクラス数が多いマンモス校や、集団行動を強要し、生徒たちを均一化させるような校風の学校はあまり勧められない。マンモス校ではその子の個性が埋もれてしまったり、排除されたりしてしまう可能性があるし、校則や校風が厳しめの学校は、そもそも不登校の子には合わない。
冒頭で最難関校にいた、いわゆるADHDの子の話を紹介した。理系科目が群を抜いて得意、または何かについては人一倍詳しいといった子は、そういう子をリスペクトできる環境の学校を選ぶといいだろう。あまり知られてはいないが、最難関校と言われる学校には、そういう子が少なくない。
また、中堅校でも様々な個性を持った生徒たちを上手に伸ばしてくれる学校がある。受験校を選ぶ際には、「わが子の個性を尊重し、伸ばしてくれる学校はどこか」という視点を忘れないでほしい。
■受験勉強を通じて基礎学力を付けられたら成功
ただ、勉強面で心配な子もいるだろう。不登校児の中には、低学年のときから学校に行けていないという子もいる。
そういう子の場合は、そもそも基礎学力が不足している。上を目指すつもりはなくても、基礎学力がなければ中学受験は難しい。そういう子の場合は、その子の学力に応じた学習が必要になるので、個別指導塾や家庭教師を利用した方がいいだろう。まずはしっかり基礎学力を身に付ける。これが最優先だ。
首都圏には偏差値30~70台まで、幅広い学力層を受け入れる学校がある。強気な受験を避け、併願校選びを間違えなければ、どこかの学校には合格できるだろう。だが、基礎学力が身に付いていないまま、中学受験を突破してしまうと、中学に入ってから勉強についていけなくなり、再び不登校になってしまう危険性がある。
そうならないためには、ただ環境を変えるために中学受験を選択するのではなく、「受験勉強を通じて基礎学力を付けることができたら成功」という心の在り方を持っておくことが大切だ。環境さえ変われば良くなるだろうという他力本願ではなく、まずは生きるベースとなる基礎学力を盤石にしておく。その上で、わが子に合っているだろうと感じた学校を選ぶ。この順番を間違えてはいけない。

■不登校になった直後に中学受験を促すのはよくない
中学受験をするとなると、その準備をしっかり進めていかなければならない。ただ、不登校の子供たちは、決められたレールに乗せられることを嫌がる傾向がある。受験勉強にスケジュール管理は必要だが、システマチックにやりすぎるとうまくいかない。
また、小学校に行けなくなった直後に、「学校に行けなくなったのは今の環境のせい。じゃあ、中学受験をしよう」と促すのも勧めない。塞ぎ込んでいた状態から、少しずつ表情が明るくなり、何かを頑張ってみようかなという兆しが見え始めたら、挑戦してみる。焦りは禁物だ。また、いざ中学受験をすると決めても、子供の気持ちを最優先してほしい。とても受験勉強どころではないという状態なら、一度立ち止まってみるなど、臨機応変に対応してほしい。
■10代の6年間で子供は大きく成長する
最後に私の教え子の話をしよう。その子は集団行動が苦手で、学校を休みがちだった。保護者の意向で中学受験をすることになったが、苦戦が続き、結局、受かった学校は偏差値30台の学校1つだけ。
でも、その学校は生徒一人ひとりの個性をとても大事にしてくれた。中学生のときは相変わらず勉強は苦手だったけれど、良い友達に恵まれ、学校生活は充実していたようだった。
転機が訪れたのは高校生になってから。学年が上がっていくにつれ徐々に学習のコツをつかめるようになり、同時に成績も上がっていった。最終的にその子は、大学受験で第二志望の大学に進学できた。これは驚くべき成長だ。学校選びを間違えなかったからこそ、充実した6年間を過ごすことができたのだ。
10代の6年間、子供は大きく成長する。小学生の時点では机に向かって勉強できなかった子でも、友達とうまくコミュニケーションがとれなかった子でも、その子に合った環境に出会えれば、どんな子でも伸びしろは十分にあると私は信じている。だからこそ、学校選びは慎重に行ってほしい。
子供が不登校になってしまうと、親はその子の将来が絶たれてしまったように感じ、ひどく落ち込む。だが、どんな子にも立ち直れるチャンスがあるし、その子自身にも今の状況を変えられる力を持っている。どうかその力を信じて、子供の成長を見守ってあげてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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