■連載コラム「リーチ・ツモ・ドラ1」に込めた思い
11月に文藝春秋から『勝負眼』という本を出しました。『週刊文春』で僕が連載しているコラムを一冊にまとめたもので、連載の方のタイトルは「リーチ・ツモ・ドラ1」。麻雀を知っている人ならピンとくる言葉だと思いますが、この言葉には僕なりのある思いを込めています。
麻雀には「役満」や「倍満」といった派手な大物手があります。卓上の華であり、一発逆転の派手さに誰もが惹かれる手でしょう。しかし、実際の勝負において、あるいは社会生活において本当に必要なのは、地道に最後まで諦めずやり抜く姿勢です。いきなり大物手を振りかざして一攫千金を狙うのではなく、一歩一歩を確実に、手堅く積み重ねていく――。そんな「謙虚さ」や「着実さ」こそが、長く勝ち続けるためには不可欠なんです。つまり、「リーチ・ツモ・ドラ1」とは、派手さはないけれど、まずはそのくらいから一歩ずつ積み上げていこう、そんな思いを込めたタイトルなのです。
■なぜ「勝者」と「敗者」が存在するのか
そして、「勝負眼」について考えるとき、どうしても避けて通れないのが、「運」という要素についてどう向き合うか、というテーマです。
僕は学生時代から麻雀にのめり込み、痺れるような勝負の場に身を置き続けてきました。そうやって何万回、何十万回という局数を重ね、膨大な数の勝負のサンプルを見てくると、ある一つの真理のようなものに気づかされます。それは、「いい時と悪い時は、誰にでも必ず訪れる」ということです。
極端に運だけで勝ち続けている人もいなければ、一生運に見放され続けている人もいません。短期的に見れば、確かに偏りはあります。信じられないようなラッキーが続くこともあれば、理不尽なアンラッキーが重なり、何をしても裏目に出る時期だってあるでしょう。しかし、長いスパンで見れば、確率は驚くほど平均値の中央付近に収束していきます。
■麻雀は「運7割、実力3割」
多くの人は運に翻弄されています。麻雀でもツイている時は自分の実力だと過信して調子に乗り、守りが弱くなる。逆にツイてない時が続けば、不貞腐れてやる気をなくし、投げやりになる。運の波に感情を揺さぶられ、自制心を失い、ついには自ら崩れていくわけです。
一方、麻雀が本当に強い人は、運が平等であることを理解しています。だからこそ、予測できない運の波に一喜一憂しません。「いい時」と「悪い時」のそれぞれに適した戦い方があることを知っていて、それを徹底できる。勝てるときにいかに大きく勝つか、負けるときにどれだけ負けを抑えられるかを心得ている。これは「勝負眼」の正体の一つです。
麻雀の世界ではよく「運7割、実力3割」と言われます。どんなに強いトッププロでも、今日ルールを覚えたばかりの素人に負けることがあるのが麻雀です。
そのように7割も運に支配されているゲームなんて、真剣にやるだけ無駄だと思う人もいるかもしれません。
でも、僕の考え方は逆です。運が7割ならば、その部分で差をつけるのは不可能です。しかし、残りの「3割」の実力部分、つまり才能や努力、精神力の部分では、長期的には他人と必ず差がついていく。しかも大きく差がつく。そのように考えています。
■ドン・キホーテ創業者・安田会長の凄み
明日の天気をコントロールできないように、運はどうしようもありません。だからこそ、自分にコントロールできる「残りの3割」をどれだけ徹底できるか。
多くの人は、運に左右される結果を見ると、「そこまでこだわっても意味がないんじゃないか」「結局は運だろう」と思っていい加減になったり、投げやりになったりしてしまいがちです。しかし、それは僕に言わせれば、最もやってはならない思考停止。麻雀は運の要素が強いからこそ、実力の部分で手を抜けば、あっという間に負け側に転落しまうからです。
例えば、この「3割の徹底」において、僕が最も「すごい」と思っている経営者が、ドン・キホーテの創業者の安田隆夫さんです。僕は多くの経営者と麻雀を打ってきましたが、安田さんほど麻雀を真剣に打つ人には出会ったことがありません。年齢や地位など一切関係なく、どんな相手でも、どんな小さな勝負でも、安田さんは圧倒的に真剣なんです。
運に左右されるゲームを長く続けていると、「どうせ運だろ」という甘えが出て、人間はだんだん適当になっていきます。だから、ツイているときは余裕を見せて遊びたくなるし、ツイていないときは雑になる。でも、安田さんは違う。どんな局面でも怖いほどの「本気」と「一生懸命」を保っている。それができることこそが、本当の強さなのだと、安田さんの麻雀を見ていると痛感させられます。
■「自分の都合」で勝負する人は“負け確”
それから、これも安田さんがまさにそうなのですが、どんなときでも感情を見せず、「食えない雰囲気」を持つ人は強いです。喜ばせようとしても乗ってこないし、怒らせようとしても怒ってこない。なかなか自分のペースを乱されない人です。対してすぐ調子に乗ったり、すぐ怒ったり、気分が表に出すぎる人は弱い。
また、運の扱い方において、もう一つ決定的な差を生むのが「タイミング」の捉え方です。麻雀で言えば「押し引き」の判断、ビジネスで言えば「参入と撤退」の決断などもそうです。
僕が思う「運の扱い方が上手い人」は、自分のタイミングではなく、常に「外部環境のタイミング」を見て動いています。逆に、多くの人にとって最も陥りやすい罠が、「自分の都合で勝負してしまう」ことです。
例えば、会社員でいえば、ある日、急にやる気を出す人がいます。何か自己啓発本を読んで急に意識が高まったり、セミナーに行って話を聞いた翌日に焦り出したりする。外部環境に何か変化があったわけではなく、自分が「よし、やるぞ」と思った翌日から闇雲に頑張り出すのです。その気持ち自体は否定しませんが、多くの場合、それでは周りが何も動いていないので空回りするばかりです。なぜなら、それは「自分の都合」であり、いま頑張るべきチャンスのタイミングが訪れたわけではないのです。
■藤田氏が経営で「徹底している原則」
麻雀でも、南場に入って点数が凹んでいると、「そろそろ取り返さないとまずい」と焦って、自分の手牌が良いわけでも、場の状況が良いわけでもないのに、無理に勝負に行って、結果として他家の当たり牌を掴んで自滅する人がいます。これは、自分の都合、自分のタイミングで勝負した結果です。
僕はサイバーエージェントの経営においても、この「自分のタイミングで勝負どきを決めてはならない」という原則を徹底してきました。勝負どきというのは、自分のやる気や事情ではなく、あくまで「外部環境が作る」ものです。
ネットバブルの時も、ガラケーがスマートフォンに変わっていくスマホシフトの時もそうでした。「ここだ」という瞬間には、躊躇なくリソースを突っ込む。逆に地合いが悪いときは、どんなに何か変化を起こしたい気持ちがあっても、大きく出るのは避けて力をためる。
■タイミングを見極め、どれだけそこにBETできるか
地合いが良いときは、10の努力が100にも1000にもなります。でも、同じ努力を逆風の時にしても10にしかならないし、マイナスになることさえあるでしょう。僕がよく例えとして話すのは、大学受験の直前3カ月前から、死ぬ気で勉強すれば、その努力には1ランク2ランク上の学校にいけるだけ価値があります。他方で、高校1年生の時の3カ月間やる気になって、同じだけの努力で勉強しても、大学受験にはそこまで影響しない。同じだけ努力しても、どのタイミングで頑張るかで、パフォーマンスは全然変わってくるのです。そのタイミングとは、自分の都合で決められるものではありません。
一人の会社員にとってもそれは同じで、動くべきなのは自分にチャンスが来ているタイミング。例えば新入社員で入社したばかりで注目されているとき、何か大事な役割を任されたとき、業界全体に新しい波が来ているときなどです。そういう「地合い」が良いときこそ、個人の事情を捨て、全力を出すべきなんです。
もし、あなたが10の努力が100にも1000にもなるタイミングを見つけたら、そこが勝負どころです。可能な限り、余すことなく、時間も情熱も全て賭けるべきです。それは次にいつ訪れるかわからないチャンスなのですから。そのタイミングの見極めと、どれだけそこにBETできるか、それが「勝負勘」の世界です。
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藤田 晋(ふじた・すすむ)
サイバーエージェント代表取締役
1973年、福井県鯖江市生まれ。97年に青山学院大学を卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。98年、サイバーエージェントを創業し、代表取締役社長に就任。2000年には史上最年少社長(当時)として東証マザーズに上場、14年に東証一部(現東証プライム)へ市場変更。現在は、インターネット広告やゲーム、メディアなど多角的に事業を展開している。FC町田ゼルビア代表取締役社長、Mリーグ機構チェアマン、新経済連盟副代表理事。主な著書に『渋谷ではたらく社長の告白』『起業家』(ともに幻冬舎)、共著に『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(講談社)など。近刊に『勝負眼』(文藝春秋)がある。
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(サイバーエージェント代表取締役 藤田 晋 聞き手・構成=ノンフィクション作家・稲泉連)

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