意地悪な人の言動から自分の心を守るにはどうすればよいか。心理カウンセラーの衛藤信之さんは「相手の意地悪な言動を、『真実』として心の奥まで入れる前に、立ち止まって、仕切りの外に置くこと。
また、『意地悪な人から受ける刺激は脳によい影響を与える』と割り切って考えるとよい」という――。
※本稿は、衛藤信之『傷つかない練習 つらい感情から「自分を守る」思考法』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■相手の言葉はただの文字の配列
「なんでそんな言い方するの?」

「どうしてあんなことを言われたんだろう……」
誰かの何気ない一言に、深く傷ついてしまうことがあります。
その言葉が頭から離れなくて、ずっと心がモヤモヤする。あなたにもこんな経験があるかもしれません。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてほしいのです。その相手の言葉は、ただの文字の配列に過ぎません。
たとえば、その言葉がエイリアンの宇宙語だったらどうでしょうか。意味がわからなければ、あなたは苦しまなかったはずです。
でも、「これは自分を責めた言葉だ」と解釈した瞬間、その言葉は心の中でトゲに変わります。
つまり、僕たちは“言葉”そのものに傷ついているのではなく、あなたの奥にある「意味づけ」や「相手への期待」に傷ついているのです。
悲しみの前には、こんな気持ちが隠れています。

「この人には、そう思われたくなかった」

「信じていたのに、そんなふうに言うなんて」

「わかってくれる人だと思っていた」
その奥には何かに“期待していた自分”が存在します。
でも、よく思い出してください。
あなたが誰かの期待にいつも答えられないように、相手もあなたの期待どおりには生きていません。また、あなたが相手の期待に気づかないように、相手もあなたの期待を知るはずもないのです。
■自分を守るための境界線
だから、まずはこう心に言い聞かせてみてください。
【仕切り作り】相手の言葉を心の奥に入れないための仕切り

インナー心理カウンセラーからの声かけとして、

「これは、この人の意見として受け止めよう」

「でも、この言葉で世界中の人から『君がすべてダメだ』と言われたわけじゃない」

「君はこの人に、どんな期待をしていたのかな?」

「その君の期待が裏切られても、あなたの価値は変わらない」
それは、相手を拒絶するためではなく、自分を守るための境界線です。
相手の言葉を、「真実」として心の奥まで入れる前に、立ち止まって、仕切りの外に置くこと。それだけで、心はずっと軽くなります。
もちろん、中には本当に人を傷つけるような言葉をくり返す人もいます。
攻撃的で、否定的で、自分の価値観を押しつけてくるような人、そんな人の言葉を、あなたの「内なる声」にしてはいけません。
彼らの言葉は、その人自身のストレス、未熟さ、無自覚さから出ていることが多いのです。
あなたが傷つけられたときに、その人の言葉をあなたの中心に置かないようにしましょう。

あなたがすべきことは、その言葉に「意味」を与えすぎないこと。
そしてこうつぶやいてください。
「これは、この人の世界の見方。私の世界のすべてではない」

「私は、この人の言葉を私の中心に置かない」
攻撃的な人の感情の波を自分の中に引き入れすぎない。そのための仕切りを持つ練習が必要なのです。
■意地悪な人は変えることができない
「どうして、あの人はあんな意地悪を言うんだろう」

「私、何か悪いことしたのかな」

「何をしても認めてくれない。褒めてくれない」
あなたが何度も心の中でくり返してきた言葉かもしれません。
でもまず、そっと伝えさせてください。
あなたが悪いわけではありません。
この世界には、どれだけ気を遣っても、どれだけ下手に出ても、どれだけやさしくしても、なぜか“意地悪”で返してくる人がいます。
こちらが笑顔を向けても、無視をしたり、嫌味を言ったり、あら探しをしてきたり。
まるで、こちらのやさしさを“弱さ”と見なすかのように。
そんなときは、この考えを知ってください。
■平和すぎると脳が萎縮する
実は、脳には“新しい刺激を求める遺伝子”が備わっています。
あまりに平和で、刺激のない生活ばかりが続くと、脳はどこかで萎縮が始まるのです。引退後の高齢者に認知症が進みやすくなるのは、このためです。
だから、「平和で悠々自適な日々」ばかりが幸せとは限りません。
トロピカルジュースを片手にプールサイドで過ごすような何も悩まない毎日では、人は逆に、内側から感情が鈍くなってしまうこともあるのです。
だったら、インナー心理カウンセラーを強化して、この人の存在を“脳のエネルギーチャージ”として受け取ってみましょう。
【仕切り作り】嫌な人を脳のエネルギー変える

インナー心理カウンセラーにこう言ってもらいましょう。

「この人みたいには、なりたくないな」

「でも、こんな人がいてくれるからこそ、自分の人間性が保たれている」

「この人のおかげで、脳が刺激されて“活性化”してるんだ」

「この人は、“君”の神経細胞を活性化するために現れてくれた存在」

「ありがたく、エクササイズの相手として、感謝しておこう」

「でも、つき合いすぎると疲れるから、距離はちゃんと置いておくことも大切に」
このワークのあとから、意地悪な人がいるから、自分を正しく省みることができる。僕自身もある経験で、そのことを実感したことがあります。そのお話を聞いてください。
■「人を傷つけて喜ぶ人の気持ち」が分かるか
僕はアメリカで勉強しているとき、誰かに車を傷つけられたことがありました。

ひどくショックを受けている僕に、先輩のカウンセラーがこんなことを聞いてきたのです。
「ノブ、こうやって車を傷つけて楽しんでいる人の気持ちがわかるか?」
「まったくわからないですよ! 何が楽しいんですか? こんなことして」と僕は答えました。
すると先輩も、「うん、俺もわからない」と答えます。
なんだ、この会話! と、心の中で先輩の言葉にもイライラしていました。
でも、そのとき先輩は、
「よかったなぁ、ノブ。お前は“こっち側”の人間だ。この犯人は人を傷つけることでしか喜びを感じられない人生を生きている。一方、俺たちは人の車を傷つけて喜ぶ人間の気持ちなんてまったくわからない側の人間で生きている。ノブは、次に生まれるなら、どっちで生まれたい?」
僕は「“こっち側”で生まれたいです」と答えました。
「おめでとう。君がこっち側の人間でよかった」
■世界には傷つける人と傷つけられる人がいる
世界には、傷つける人と傷つけられる人がいます。
「ノブ、お前はこちら側で、人を傷つける側でなくてよかった。
この犯人が「闇の人生側」を引き受けてくれた。だから俺たちは胸を張って生きていられるノブ、この闇の人生を生きている哀れな犯人のために祈ろう!」と言ったのです。
このときにクリスチャンが言う「祈ろう」の深い意味に感心させられました。
社会に生きていると、傷つく出来事にはどうしても出会います。
でも、このエピソードのように、傷つく出来事は傷つけた側の問題であり、そういう人や言動に異世界の人として距離を取ることができれば、自分はいい人生を歩めていると考えることが可能なのではないでしょうか。
意地悪な人に出会った日は、インナー心理カウンセラーにこう言ってもらい、笑って家に帰るのです。
「いやぁ、今日もめずらしい生き物に遭遇しちゃったな」

「あの人、レアキャラだったな。ある意味、すごい才能」

「でも、“お土産”にして家にまで持って帰ることはしないぞ」
そう、「マイナスな心を持ち帰らないこと」も、あなたを守る術です。

(衛藤 信之)
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