※本稿は、小林順二郎『血管年齢』(文春新書)の一部を再編集したものです。
■どの程度の運動が健康にいいのか
血管の健康に欠かせないのが運動です。
血管によいものはさまざまありますが、NO(一酸化窒素)がよいということは確実です。NOの効果は多岐にわたります。血管拡張により血圧が低下し、血小板凝集抑制により血栓を予防し、白血球接着抑制により動脈硬化を予防し、血管平滑筋細胞の増殖を抑制し、抗酸化作用もあります。
ここでNOについて少し詳しく解説します。NOは中膜平滑筋細胞に作用して血管拡張を起こす物質で、発見者は1998年にノーベル賞を受賞しました。NOは筋肉の収縮と弛緩で発生します。
発生のメカニズムを説明すると、まず運動により血流が増加し、血管内皮細胞にシェアストレス(ずり応力)がかかり、eNOS(内皮型NO合成酵素)が活性化され、L-アルギニンからNOが産生され、そのNOが血管平滑筋に作用して弛緩する、という流れになります。まあ、むずかしければ忘れて結構です。
ただ、運動中は安静時の5~10倍のNOが産生されることは覚えてください。
しかも、一時的に強い運動を行うのではなく、長時間、適度な運動をすることが求められます。NOは運動時には筋肉内でできますから、有酸素運動、特に歩くことがよいとされます。
では、どのくらいのスピードで歩けばよいのか。速ければ速いほどよいのか。マラソン選手並みのスピードで走ってはどうか。答えはノーです。
■「ちょっと息が上がる」くらいがちょうどいい
NOを効果的に分泌させるには、激しくない長時間の運動がいいとされています。
激しい運動は活性酸素を発生させるから、かえって血管には悪い。ただし、だらだら歩く、歩きながら花を見たりする散歩程度のものは、あまり意味がありません。
ちょっと息が上がるくらいがちょうどいい。しかし激しすぎてはダメ。肩で息をするような全速力の運動は避けましょう。中高年でそんなことをする人はあまりいないとは思いますが……。自分が「ちょっときつい」と思うぐらいの運動を毎日続けるのがいいのです。
では、ちょっときついくらいの運動とはどのくらいのものか。目安を紹介します。
これはカルボーネン法という心拍数を使った方法です。ちょっときつい運動の「運動強度」は60%くらいです(中強度)。すると、運動時の目標心拍数は「(最大心拍数-安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数」という計算で出てきます。
最大心拍数は220-年齢です。
(160-70)×0.6+70=124
1分間に124拍というのが、運動時の目標心拍数です。これに近づくように、運動の激しさを調整するとよいでしょう。
■サッカーやバスケは平均寿命をあまり延ばさない
「ちょっときつい」運動が血管によいことを証明するデータがあります。それはアスリートの寿命です。
スポーツはそれぞれ運動強度が違います。スポーツによって平均寿命はどのくらい違うのでしょうか。まずスポーツが一般的に平均寿命を延ばしているのは確かです。米国のオリンピアンは一般人と比べて平均5.1年長生きで、心血管疾患での死亡についても、通常人よりも約2年も寿命を延ばしています。(*1)
世界のエリート・アスリートを対象にした研究でも、エリート・アスリートはだいたい一般人よりも5~6年長生きです。(*2)
では、競技別ではどうか。
中長距離ランナーやツール・ド・フランスの選手の平均寿命は一般人より8年ほど長いという研究があります。
一方、水泳は1.9年、バスケットボールは1.4年、サッカーは0.5年しか寿命を延ばすことはできませんでした(前出のエリート・アスリートへの調査)。
(注)
(*1)「Female and male US Olympic athletes live 5 years longer than their general population counterparts: a study of 8124 former US Olympians」(Br J Sports Med. 2020 Jul 29;bjsports-2019-101696)
(*2) Demaria S et ai. Sport and Longevity: an observational study of international athletes. GeroScience 47(2): 1397-1409,2025
(*3)Peter Schnohr, James H. O’Keefe, Andreas Holtermann, et. Al., (2018) Various Leisure-Time Physical Activities Associated with Widely Divergent Life Expectancies: The Copenhagen City Heart Study. Mayor Clinic Proceedings 1-11.
■ゴルフはスコアが良い人ほど長生きする
平均寿命を割り込んでいるのは格闘技系が目立っていて、プロレスラーが56.3歳、そして大相撲の力士が65.2歳です。力士の寿命は一般人よりも9.8歳も短いという研究もあります(同前)。
コペンハーゲンでの一般人調査は面白くて、ジムでの運動は、寿命をわずか1.5年しか延ばしていませんでした。筋トレの限界のせいかもしれません。ともあれ、やはり長時間にわたってハアハアいうくらいの有酸素運動がよいようですね。
短時間で一気に強度の高い運動をするスポーツは、寿命に関してはあまりよくない結果が出ています。ゴルフをする人はしない人に比べて平均寿命が長く、まことに遺憾ですが、スコアがいい人ほどさらに長生きというデータがあります。
スウェーデンの30万人を対象にした研究では、ゴルファーの平均寿命は非ゴルファーより5年長く、死亡率は40%低下することが分かりました。ハンディキャップが低い人はさらに47%まで低下します。ゴルフはたくさん歩きます。
ゴルフの健康効果を詳しく見ると、18ホールで8~10km、1万~1万5000歩も歩き、消費カロリーは1500~2000キロカロリー、運動強度は中強度(心拍数110~130)。これはNOを産出するのに好都合の4~5時間の持続的運動で、緑の中でのストレス軽減効果もあり、仲間との交流で認知症予防にもなります。
ショットごとの集中で脳トレ効果もあるというのですから、これはすごいスポーツです。
■階段を使うだけで健康効果が期待できる
ハンディの少ない人はカートに乗らずに歩くことが多いように思いますし、定期的にプレーするから、より効果的なんでしょう。私も週2回は回るようにしています。
東京はフラットなコースが多いので、あまりハアハアしないかもしれませんが、大阪は山がちなので、けっこうハアハアしてよい運動になります。お国自慢ですが。しかし、ゴルフをしない人もいますから、日常のさまざまなシーンで使える血管によい運動を紹介します。
・階段利用の勧め
階段を上り下りするだけでも、けっこうハアハアしますから、いい運動になります。階段昇降の効果は素晴らしく、10分で80~100キロカロリー(ジョギングと同等)消費し、大腿四頭筋、大殿筋、下腿三頭筋を使い、心肺機能が向上し、骨密度も増加します(重力負荷による)。
■安全で効果的な「水中ウォーキング」
・水中運動の素晴らしさ
水泳を勧める方もいます。
水の中で歩くのはお年寄りの間ではけっこう流行っています。水中運動の詳細な効果を専門的に言えば、浮力効果で体重が陸上の約10分の1になり関節負担が軽減され、水圧効果により静水圧で血液循環が促進され、水温効果で体温調節により代謝がアップし、抵抗効果で水の抵抗により筋力トレーニング効果があり、安全性も高く転倒リスクがほぼゼロであるということになります。
水中ウォーキングのポイントは、水深は胸~肩の高さ、水温は30℃前後が理想、時間は30~45分、頻度は週2~3回、歩き方は大股でゆっくり、腕も大きく振ることです。プールが苦手な人でも、歩くだけなら大丈夫です。顔を水につける必要もありませんし、浮き輪を使ってもいいんです。
■郊外型のショッピングモールは運動向き
・ショッピングモールウォーキング
しかし、ゴルフもスイミングも敷居が高いという人もいるでしょう。とくにお年寄りは新しいことをするのが億劫だというのはよくわかります。そういう時には「ショッピングモールやデパートの涼しいところで歩いてください」と勧めています。
そうすると熱中症にもならないし、うまい方法だと思います。ショッピングモールウォーキングの利点は、天候に左右されない(雨でも雪でも猛暑でも大丈夫)、適温に保たれている(熱中症、低体温症の心配なし)、平坦で歩きやすい(転倒リスクが低い)、トイレや休憩場所が豊富、人が多いので安心感がある、ウィンドウショッピングをすれば飽きないということです。
歩くぞ、と思って8000歩、1万歩というのは大変ですが、買い物をしていると意外と歩いているものです。目的なく歩いたり散歩はできないけど、デパートとかを見て回ったりするとけっこう歩いているんじゃないでしょうか。普通の郊外型のイオンモールなら1周1~2km、30分で約3000歩。2~3周すれば十分な運動量になります。
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小林 順二郎(こばやし・じゅんじろう)
医師、国立循環器病研究センター名誉院長
1954年生まれ。大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院医学研究科外科学第一専攻修了。医師。医学博士(大阪大学)。シカゴ小児病院心臓胸部外科Research Fellow、アラバマ大学バーミングハム校胸部心臓血管外科Special Postgraduate Fellow、ドイツ・ハノーバー医科大学胸部心臓血管外科Visiting Fellow、国立循環器病研究センター心臓血管外科部門長、同病院長などを歴任。現在、名誉院長。社会保険診療報酬支払基金審査調整役。著書に『血管年齢』(文春新書)などがある。
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(医師、国立循環器病研究センター名誉院長 小林 順二郎)

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