■節約のために減らされやすい「外食費」
食品を中心とした物価上昇はとどまるところを知らず、消費者の懐具合はかなり厳しくなってきている。賃金上昇から物価上昇を引いた実質賃金は、依然としてマイナスが続いていて、2025年9月で連続9カ月マイナスと報じられているが、ボーナス月に一時的にプラスになったことがあるだけで、実態的には3年くらいほぼ前年比マイナスが続いている、ということなのだ。
つまり、3年くらいずっと収入が下がり続けており、消費者は節約に走るしかない状況なのである。それでも、毎日の家で食べる量を減らしたり、水道光熱費を大きく減らしたりするのは難しいため、我慢できる支出や、先送りできる支出(選択的支出)を減らすことになる。
こういう時、まず削減対象となるのは、お父さんのお小遣い、となることはやむを得ないとして、多くの家庭で検討されるのが、外食の見直しであるらしい。家で作って食べれば相当安く済むのだから、仕方ないのであり、実際、これまでも不況になると外食支出は減る、という実績が確認されている。
■今年に入って明らかに外食が減っている
ということで、最近はどうなのかを状況確認してみたのが図表1、2である。これは大手主要外食チェーンの既存店売上高の増減動向を示したものだ。表が細かいので個別銘柄の動きはちょっとスルーしていただいて、黄色に着色したマイナスの月の増減を見ていただきたくて載せている。図表1が売上増減だ。
主要30社の客数は2025年初めにはマイナス(黄色のマス)は10社ほどであったが、最近では倍増していることがすぐに見てとれるだろう。消費者は、今年に入って明らかに外食に行く機会を減らしている兆候が見える。そんな中、この期間ずっとプラスを維持した企業は、ファストフードの雄、マクドナルド、モスバーガー、M&A後体制を一新した大戸屋、コスパファミレスのサイゼリヤとジョイフル、といった数少ない企業である。
■居酒屋を取り巻く環境は厳しい
さらに言えば、コロナ後の外食業界では、アルコール比率の高いパブ、居酒屋などはコロナ前の6~7割という需要縮小が常態化していて、業界内でも厳しい環境が続いている。そんな居酒屋業態の中に大手ではないが、売上も客足も最近絶好調の企業がある。それが今回取り上げる、串カツ田中である。まずはどんな感じなのか、既存店売上の資料を見てもらおう。
図表3は串カツ田中のIR資料だ。既存店売上、客数、単価の推移を示している。
■顧客の7割がファミリーや女性がいるグループ
串カツ田中は、大阪名物の串カツ屋チェーンで、串カツ文化のない関東圏を中心に急速に店舗網を拡大、今では店舗数約350店、売上201億円に成長した(図表5)。
変わっているのは、店舗が繁華街だけではなく、住宅地にも多いということであろう。最初の店が世田谷ということもあり、繁華街のサラリーマン向けの居酒屋というよりも、地域住民、女性客に来てもらえることを重視していたのだという。さらに2018年には改正健康増進法に先駆けて、居酒屋なのに全面禁煙を導入、女性客の取り込みに成功、最近では、かつて3割超だった男性サラリーマン比率が16%程度まで下がり、ファミリーや男女客(女性がいるグループ)の比率が約7割と圧倒的になった(図表6)。これが今の好調につながった。
■今でも平均3000円以下で集まれる場所
日本フードサービス協会の直近のデータでも、居酒屋需要はコロナ前の6~7割の水準で推移していてそれ以上は戻っていない。他の外食業態はみなコロナ前を超える回復となっているのに、いわゆる飲み屋需要だけが落ち込んだままなのは、コロナ後のサラリーマン飲み会が大幅に減少、また飲み会をやっても1次会解散が増えたからだというが、このあたりは皆さまも感覚的に理解いただけるだろう。
こうした情勢も、サラリーマン依存度を下げて仲間同士の飲み会中心に移行していた、串カツ田中の追い風となっているようだ。また、冒頭で触れた消費者の厳しい懐事情も串カツ田中には有利に働いている。
■高所得層は外食を増やしている一方で…
今、大企業の賃上げはかなり進んでおり、実質賃金マイナス幅は縮小していると報じられているが、それは平均値の話である。中小零細企業での賃上げは十分ではなく、消費者は二極化していることが明らかになってきた。
図表7は、「家計消費調査」で、外食支出が前年比増えたか減ったか、を所得階層別にみたもの。高所得層は外食を増やしているが、所得の少ない層ではかなり支出を減らしていることが見て取れると思う。直近で支持率が上がっている串カツ田中はこうした環境下で相対的に選ばれやすいチェーンなのであり、今後も最後まで来てもらえる店だとみていいだろう。
今回、串カツ田中をみてきて、この会社がここまで成長したのは、コロナ禍での出店戦略が大きいと感じている。コロナの時、居酒屋などはアルコール提供時間の制限などもあり、売上的にも大きなダメージを受けたことは記憶に新しいと思う。その中で、店舗数を減らさずに維持、拡大したのが、今や居酒屋トップ企業に成長し、海外へも積極進出する鳥貴族と、串カツ田中だった(図表8)。
■コロナ禍でも少しずつ店舗数を増やしていた
コロナ禍の厳しい環境下、多くの居酒屋チェーンは店舗数を大幅に減らしたり、異業種に転換したりすることで生き延びることを選択した。鳥貴族はコロナ前こそ店舗網再構築中だったが、2019年7月629店⇒2022年7月622店とわずかしか閉店していない。
串カツ田中はコロナ禍でも店舗数を少しずつ増やして、今の売上200億円の基礎を築いた。コロナは一過性のものであり、必ず居酒屋が必要とされる時代がまた来るという先読みがこうした結果を生んだ。個人的には、これこそが経営者の力量であると思っており、この業界での両社の今を作った背景であると思うのである。
こうみると強気一辺倒な社風をイメージしてしまうかもしれないので、もうひとつ感想を付け加えておくと、串カツ田中は成長加速のため、フランチャイズ(FC)も活用した店舗網増強も行ってきたが、その加盟店拡大姿勢がかなり慎重なように見えるということだ。
■かなりまともなFCチェーンを展開
一般的にFC制の外食チェーンは、加盟店を急速に増やすことで、加盟店からのフィーを当てにして出店スピードを加速させるものなのだが、この会社はそうはしない。2022年12月150店だったFC店が、2025年10月で165店になっていること自体、穏やかなペースである。それ以上に、この間のFC純増は15店、に対して直営店からFCに譲渡された店が17店ということに感心した。
ふつうは新たな場所をFCにどんどん出店させるチェーンが多い中、この会社は直営で出して実績を確認した後で、加盟店に譲渡する店が多いということであり、これなら加盟店が判断を誤る可能性は大幅に低下する。つまりこのことが示すのは、かなりまともなFCチェーンだということである。
串カツ田中が、イタリアンチェーン「ピソラ」(約60店舗、売上72億円)を買収することを公表して以降、その投資額や資金調達方法が嫌気されて、株価が落ち込んだらしい。確かに純資産32億円ほどのこの会社にとって、95億円のM&Aはリスクを伴うことは間違いないだろうが、こうしたM&Aを成功させていくことが、さらなる成長の基盤となることは間違いない。
業態陳腐化が大きなリスクである外食チェーンでは、M&Aによる多様性の拡張は欠かせない。この会社が外食大手となっていけるかどうかは、ピソラの扱い方を見れば見えてくるのだろう。ただ、クレバーなこの会社はきっとうまく次の段階に進むであろうと大いに期待している。
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中井 彰人(なかい・あきひと)
流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)、共著『小売ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。
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(流通アナリスト 中井 彰人)

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