二日酔いを防ぐための方法はあるか。産業医の池井佑丞さんは「近年の研究で、二日酔いの重症度は飲酒量だけで決まるわけではないことが明らかになってきた。
事前の準備や適切なヘルスケアで、多くの場合は負担を軽減できる」という――。
■二日酔いは複数のメカニズムが重なって起こる
年末年始は、忘年会や新年会、久しぶりの友人との集まりなど、お酒を飲む機会が一気に増える季節です。しかし、楽しい時間を過ごした翌朝、二日酔いで頭痛や吐き気に襲われ、大事な会議や業務に支障をきたした経験があるという方は少なくないでしょう。
国内の調査によると、飲酒が翌日の仕事のパフォーマンスに影響すると回答した人は6割に上ることが報告されています(武蔵精密工業,2023)。
二日酔いは単なる「飲みすぎ」として片付けられがちですが、実際には仕事のパフォーマンスに影響を及ぼす社会的リスクでもあるのです。
二日酔いは、アセトアルデヒドの蓄積、脱水、睡眠の質の低下など、複数の生理学的メカニズムが重なって起こる現象です。これらの仕組みを理解し、適切な対策を講じることで、二日酔いは十分に予防可能になります。
今回は、二日酔いが起こる背景を解説するとともに、お酒と上手に付き合うための具体的な方法をご紹介します。
■日本人の4割は二日酔いを起こしやすい
二日酔いの症状には、頭痛、吐き気、倦怠感、のどの渇き、集中力の低下などさまざまなものがあります。これらは単一の原因によるものではなく、体内で同時進行する複数の生理学的変化が重なって起こると考えられています。
まず、二日酔いの最大の原因は、アルコールが体内で分解される過程で生成される有害物質「アセトアルデヒド」です。
アルコールは肝臓で2段階の酵素反応によって処理されます。
はじめにアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに変換され、次にアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)によって無害な酢酸に分解されます(Mackus et al., 2020)。
アセトアルデヒドは細胞に酸化ストレスや炎症反応を引き起こし、頭痛や吐き気、動悸などの不快症状を生じさせると考えられています。ALDH2の働きが弱い体質では、アセトアルデヒドが体内に長く残りやすく、症状もより強く出る傾向があることがわかっています(Mackus et al., 2020)。
そして、日本人の約4割はALDH2の働きが弱い、もしくはほとんど機能しない遺伝子型を持っているとされ、二日酔いを起こしやすいことが知られています(Tsuritani et al., 1995)。
■アルコールは脱水や睡眠の質の低下に影響
二日酔いには、脱水と電解質の乱れも関与しています。
アルコールは抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌を抑制する作用があり、それにより、腎臓での水分再吸収が低下し、尿量が増加します(Taivainen et al., 1995)。この過程で、水分と共にナトリウムやカリウムなどの電解質も失われるため、電解質のバランスが崩れ、頭痛・倦怠感・集中力の低下などが生じる可能性があります(Rodrigo et al., 1998)。
また、アルコールは睡眠の質にも影響します。
寝つきはよくなる一方で、深い眠りであるノンレム睡眠が減少し、夜間の中途覚醒が増えることが報告されています(Gardiner et al., 2025Ayre et al., 2021)。そのため、睡眠時間が十分でも体の回復が不十分となり、翌朝の倦怠感や集中力低下につながりやすくなると考えられます。
さらに近年は、アルコールによる炎症反応にも注目が集まっています。
アルコール代謝で生じるアセトアルデヒドや活性酸素は肝臓の免疫系を刺激し、炎症を促します。
その結果、肝細胞の代謝・解毒機能が一時的に低下することが示されています(Nagy, 2015Hyun et al., 2021)。
■全身の炎症負荷が高まり二日酔いが悪化
加えて、アルコールは腸粘膜を傷つけ腸内環境を乱すため、腸のバリア機能が弱まり、炎症性物質が血中に漏れやすくなる可能性も指摘されています(Shen et al., 2025)。こうした全身の炎症負荷が高まることで、翌朝のだるさや不快感など二日酔い症状が悪化すると考えられています(van de Loo AJAE et al., 2020)。
このように、複数の要因が重なり合うことで、翌朝にさまざまな不快症状が現れると考えられます。血中アルコール濃度がゼロに近づいても、アセトアルデヒドや炎症性物質が体内に残っているため、頭痛やだるさが続くことがあります。酔いは醒めても、体の内部ではまだ回復が追いついていない場合がある点が、翌朝のつらさにつながるのです。二日酔いの基本的なメカニズムを理解したところで、次に知っておきたいのは「どのような飲み方や状況が二日酔いを悪化させるのか」という点です。
■重症度は飲酒量だけで決まらない
近年の研究では、比較的少量の飲酒でも頭痛や倦怠感が現れることが報告されており、二日酔いの重症度は飲酒量だけで決まるわけではないことが明らかになってきています(Verster et al., 2020)。
ここでは、二日酔いを悪化させる主なリスク要因を整理していきます。
空腹での飲酒
アルコールは主に小腸で吸収されますが、空腹時には胃に食べ物がないため、小腸への移動が速まり、吸収速度が上昇します。その結果、血中アルコール濃度が急上昇し、ピーク値が高まることで、二日酔いの症状が強まる可能性があります(Holt, 1981Mackus et al., 2020)。
実際、空腹での飲酒は食後の飲酒に比べ、血中アルコール濃度のピークが約1.5倍高く、体内にアルコールが残る時間も約2時間延長することが報告されています(Jones and Jönsson. 1994)。

さらに、空腹時は胃粘膜が刺激されやすく、胃炎や吐き気といった症状も起こりやすくなります(Yu et al., 2020)。
普段よりも多く飲む
二日酔いには明確な閾値はなく、「普段より多く飲むこと」自体が症状悪化のリスクになります。ある研究では、血中アルコール濃度が比較的低くても、“いつもより飲んだ夜”に限って翌日の不快症状が強く出たことが示されており、「個人にとっての過剰量」が二日酔いの重要な決定因子であることが示唆されています(Verster et al., 2020)。
飲酒頻度(習慣性の飲酒)
大規模なデータを用いた研究では、二日酔いの頻度が高い人ほど、1回あたりの二日酔いの“重症度”も高くなることが報告されています(Rîșniță et al., 2025)。つまり、頻繁に二日酔いを経験する人ほど、次も重くなりやすいという「逆耐性」の可能性が示され、たとえ1回あたりの飲酒量がそれほど多くなくても、飲酒頻度が高いと二日酔い症状が強く出やすく、回復も遅れやすくなるかもしれないのです。
色の濃いお酒
お酒の種類や含まれる成分も二日酔いに影響することがあります。
ウイスキー、ブランデー、赤ワイン、テキーラなど色の濃いお酒には、「コンジナー」と呼ばれる不純物が多く含まれています。コンジナーは発酵過程で生じる副産物で、風味を豊かにする一方、肝臓での代謝負担を増加させ、二日酔いを悪化させることが報告されています(Swift and Davidson, 1998)。
また、赤ワインにはヒスタミンという物質が含まれており、この物質が頭痛リスクを高める可能性も指摘されています。そのため、飲むお酒の種類を意識することも、二日酔いの重症度を左右する重要な要素となります。
■日常的に飲酒量が多い人は「がんリスク」が高い
二日酔いは一時的な不調とみられがちですが、頻繁に繰り返す場合、長期的な健康リスクにもつながる可能性があります。
過去の大規模な追跡調査では、月に1回以上二日酔いを経験する人は、ほとんど二日酔いがない人に比べ、心血管疾患による死亡リスクが約2.36倍高いことが示されました(Kauhanen et al., 1997)。
二日酔い自体が心臓を直接傷めるわけではありませんが、強い症状を繰り返す飲み方は、体への負担が大きくなる可能性があります。
また、二日酔いの頻度が多いということは、しばしば「飲む量やペースが身体の処理能力を超えている」ケースに該当している場合があります。
このように飲酒量がかさむ人ほど、肝臓への負荷が大きくなるだけでなく、がんや認知機能への影響にも注意が必要です。
実際、日常的に飲酒量が多い人は、非飲酒者に比べて肝臓関連疾患の発症リスクが1.47倍、肝がんのリスクが2.07倍高いだけでなく、食道、大腸、乳房など複数部位でのがんリスクも上昇することが示されています(Moon et al., 2023Bagnardi et al., 2015)。また、別の研究では多量飲酒者は、軽度飲酒者に比べて認知症リスクが約1.4倍に高まるとの報告もあります(Sabia et al., 2018)。
これらの研究は、二日酔い自体を対象にしたものではないため、すべての二日酔い経験者がこれらのリスクに該当するわけではありません。しかし、二日酔いを繰り返す飲み方は、リスクの高い飲酒パターンに該当しやすいことから、頻繁な二日酔いは将来の健康リスクの指標と捉えることもできます。
翌朝のつらさをきっかけに、自分の飲み方を見直すことが、将来の健康リスクを下げる第一歩となるかもしれません。
■飲む前にはチーズ、ナッツ、オリーブオイル
二日酔いのメカニズムとリスク要因を理解したところで、ここからは具体的な予防策とセルフケアの方法をご紹介します。
お酒を楽しむ際、翌日の不快な症状をできるだけ避けたいという方は多いと思います。二日酔いは、事前の準備や適切なセルフケアによって、多くの場合、負担を軽減できます。
飲む前
アルコールの急速な吸収を防ぐため、タンパク質や脂質を含む食事を摂り、空腹で飲み始めないことが大切です。
食事はアルコールの吸収を緩やかにするだけでなく、摂取後の代謝や排泄も助けてくれます。チーズ、ナッツ、オリーブオイルを使った料理などがおすすめです。
また、アルコールによる脱水を予防するため、あらかじめコップ1杯の水を飲むのも効果的です。
■二日酔いになったら水分と電解質の確保を
飲んでいる最中
アルコールは利尿作用を強めるため、「お酒1杯に対して水1杯」を目安に、こまめに水分補給を行いましょう。飲むペースは1時間に1杯程度を目安にし、短時間での過量摂取は避けます。
おつまみの選び方も重要です。枝豆、豆腐、焼き鳥、刺身など、タンパク質を含む食品は肝臓の働きをサポートしてくれます。
飲んだ後
就寝前にはコップ1~2杯の水を飲むとよいでしょう。必要に応じてスポーツドリンクや経口補水液を利用すると、水分と同時に電解質も補給でき、より効果的です。
翌朝(二日酔いが起きた場合)
翌朝、二日酔いの症状が出た場合は、まず水分と電解質の補給を最優先にしましょう。経口補水液、味噌汁、スープなどがおすすめです。
頭痛が強い場合は、冷やすことで症状が和らぐことがあります。
鎮痛薬を使用する場合は、必ず食後に服用しましょう。脱水を悪化させる激しい運動やサウナは避けてください。
受診を考えるべきサイン
多くの二日酔いは24時間以内に自然に回復しますが、以下の症状が見られる場合は、医療機関の受診を検討してください。
・激しい腹痛や持続する嘔吐

・血を吐く、黒い便が出る

・意識がもうろうとする、呼吸困難、胸の痛み

・激しい頭痛や視覚異常
また、24時間以上経過しても症状が改善しない場合や、水分を全く受け付けず脱水が悪化している場合も、無理せず医療機関に相談しましょう。
■日常的な飲酒習慣の工夫が重要
二日酔いを防ぐために重要なのは、日常的な飲酒習慣の工夫です。
飲酒の頻度や量などを把握し、自分の体調やライフスタイルに合わせた調整を行うことが、長期的な健康維持にもつながります。
年末年始や特別な交流の場は、大切な人との時間を楽しむ貴重な機会です。お酒の席を楽しみながらも、翌日のパフォーマンスを犠牲にしない飲み方を選択することは、ビジネスパーソンとしても大切な心がけと言えるでしょう。
お酒と上手に付き合いながら、翌朝も自分のベストな状態で新しい一日を迎えられるよう、ぜひ日々の工夫に取り入れてみてください。

※参考文献

・厚生労働省 健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて

・Jones AW, Jönsson KA. Food-induced lowering of blood-ethanol profiles and increased rate of elimination immediately after a meal. J Forensic Sci. 1994 Jul;39(4):1084-93.

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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