■「東北大なのに、なぜか標準語が主流」
地方の旧帝国大学(以下、旧帝大)に通う学生たちの間で、近年ある違和感が広がっている。
「東北大なのに、なぜか標準語が主流」「北海道大の講義室、道産子こんなに少ないの?」という声を聞く機会が増えた。実際に、東北大では2019年以降、学生の出身地が「関東>東北」という逆転状態が定着し、2025年には北海道大学でも関東優勢に転じてしまった。
かつて、旧帝大といえば地場のエリートが集う場であった。しかし、昨今の旧帝大は首都圏出身者の流入が増え、もはや「進学疎開」の場となりつつある。こうした背景として、地元の学力低下、地方民の東京志向、首都圏の進学率向上、などの言説がまことしやかに語られている。本記事では、この地方大学の首都圏化現象について、データをもとに考察を深めていきたい。
■進む関東出身者の「地方開拓」
まず、地方旧帝大における関東出身者の広がりをデータで見ていきたい。先陣を切っているのは東北大である。もともと関東圏から地理的に近く、材料系を中心とした研究志向の理系受験生に好まれやすいという背景はあるのだろう。しかし、2010年代後半に関東出身者が急増し、今や新入生の4割以上を占める状況となっている。
こうしたトレンドは東北大・北大だけにとどまらない。京大や九州大でも過去10年で関東出身者がほぼ倍増し、大阪大・名古屋大でも緩やかに増加している。地理的距離の問題もあり、絶対数では依然として少数派ではあるものの、関東出身者の地方進出は全国的なトレンドになりつつある。
首都圏の過密な受験戦線から逃れた学生たちが、広大な地方旧帝というフロンティアに活路を求め、そこで地元のエリート予備軍を押しのけながら、新たな勢力圏を築いていく──そんな構図が浮かび上がる。
■「エリート流出」説の真相
こうしたデータを見ると、地方の優秀層が大都市圏へ大量流出しているのではないか、という指摘がしばしば聞かれる。若者の地域間移動に関する論文では、大学進学時点で非大都市圏から大都市圏への移動が多いことが指摘されている。関東圏には大学入学者の4割が集中し、地方の上位合格者ほど進学先の選択肢が多く、学力面で上京に対するハードルが低くなるであろうことは想像に難くない。
しかし、東大や京大に占める北海道出身者は単年で増えている年度もあるが、増加傾向とまでは言えない。また、東北出身者の場合、東大・京大への進学者数は、むしろ減少傾向だ。これらのトレンドは最難関国公立大に限ったことではなく、トップ私大の二大双璧をなす早稲田大学でも、関東圏を除く大半の都道府県出身者は過去10年間で一貫して減っている。
そもそも多くの都道府県において、大学進学における県外進学者割合は近年低下しており、学力優秀層においても例外ではないようだ。
■東北の「大学進学者数」が激減している
地方旧帝大の地元比率低下を語る上で、避けて通れないのが人口動態だ。総務省の人口推計をもとに、数年後に大学進学を迎える10~14歳の都道府県別人口推移を地域別にまとめたものが図表3である。少子化の影響で全ての都道府県において人口は減っているが、北海道・東北エリアではたった10年で20%も縮小している。大学進学率の上昇幅が全国平均よりも上振れで推移しているとはいえ、将来の母集団がここまで減れば進学者数の激減は必然であろう。
さらに深刻なのは、東北の中でも全国トップクラスのポテンシャルを示す秋田県や青森県の大学進学率が極端に低いという事実だ。特に秋田県は全国学力・学習状況調査においてトップクラスの常連だが、大学進学率・過去10年間の上昇幅ともにワースト10という状況だ。
このように、優秀な生徒であっても大学進学を選ばないケースも多く、旧帝大レベルに届く層の絶対数を地元で確保できないというミスマッチが生じている。その穴を埋めるため、他地域からの学生に依存せざるを得ない社会構造となっていて、人口比率の多い関東圏の学生にチャンスが回っているのだ。
■関東圏で1万人超の定員が削減
忘れてはならないもう1つの背景は、2016年から始まった大都市圏における私大定員超過の適正化政策だ。
1980年代より、私大は入学定員よりも多数の学生を受け入れることで、入学金・授業料などを集めて収益を稼ぐビジネスモデルだった。しかし、18歳人口が減少に転じた1992年以降も大学・学部の新設を許容し、入学定員は増加の一途をたどってきた。
収容定員を超えると助成金の削減・不交付、新設学部認可の制限などの厳しいペナルティがあり、各大学とも定員を遵守するようになってきた。これにより、関東圏で1万人を超える定員が削減され、地元志向が強まるトレンドの中、関東出身の進学希望者のうち約1%は他地域の大学に進学せざるを得なかったと思われる。
■「準上位層」が地方に目を向けはじめた
毎年5万人近く入学する早慶・MARCHに限定しても、数千人にも上る合格者が消失してしまったのだ。各大学とも推薦入試による入学者割合が増加傾向であることを考慮すると、一般入試の合格者数の絞り込みが広く行われていると考えられる。
実際に私大定員厳格化前後で、早慶・MARCHはもちろんのこと、日東駒専クラスまで難化し、以前であれば確実に受かっていたであろうレベルの受験生でも不合格者が相次いだ。トップ大に肉薄するレベルの学生にとって、進学先の偏差値が2~3ランク下になってしまうケースも出てきたのだ。
以前であれば、関東の大学に拘りのあるハイレベルの受験生の間では、東大・一橋・東京科学大を目指しつつ、早慶やMARCHという安全校を確保して都落ちを防ぐ考え方が一般的であった。しかし、この考え方が成り立たなくなった今、関東圏の準上位層が余り、地方旧帝大に流れ込んでいる可能性が高い。
■「地元エリート養成機関」の崩壊シナリオ
そんな現状を大学側はどう受け止めているのか。東北大学アドミッション課に聞いた。
「進路情報や学習環境に地域差が進学機会に影響しないよう注視し、地域連携の一環として東北6県の高校と情報交換や課題共有に取り組んでいきたい」
地元学生の囲い込み等を実施する予定はあるかという質問に対しては、「現状本学は国際性と多様性を重視し、地元学生向けの特別選抜を現時点では検討していません」という回答であった。
同様に、文部科学省や各大学の公式発表では、直接的に関東圏からの学生流入を懸念している声は見られない。表向きは出生減が確実である地方大学に若年層が流入しているからだろう。しかし、大学進学で地方移住した学生たちがそのまま地方に残ってくれるとは限らない。実際に、北海道大学に着目すると、北海道・東北出身者の大半は北海道で働きたいとの声が多いものの、関東出身者は概して後ろ向きだ。
このように、地元のエリートが集うはずの地方旧帝大にもかかわらず、域外出身者の就職予備校のような役割を果たしているとも言える。東北大医学部や名古屋大医学部では数人の地域枠定員も存在するものの、基本的には全国からの受け入れを重視するスタンスを貫いている。(※医学部地域枠については国の方針および県との協議による措置であり大学側の判断ではない)
■地方旧帝大は「誰のための場」なのか
一方で、関東出身者の濃縮が加速している関東の難関私大では、地方出身者向けの奨学金が設立されるなど、経済面で地方出身者を支援する動きもみられる。
例えば、早稲田大学の「めざせ!都の西北奨学金」では、南関東1都3県以外の出身者に対して、年間授業料の4割程度が給付される。収入要件は世帯合計で1000万円が上限と比較的受給ハードルは低く、対象人数も最大1200人と大盤振る舞いだ。経済面が足かせとなっている地方の優秀層を確実に取り込むことを狙ったものであろう。こうした施策は、関東出身者にとっては逆風となり、地方進出のさらなる加速につながる可能性もある。
地方旧帝大の「首都圏化」は、単なる進学動向の変化ではなく、大学とは誰のための場なのか、という根本的な問いを突きつけている。地元出身者が減り、首都圏の準上位層が流れ込み、大学の文化や役割が揺らいでいる背景には、人口減少と地域の相対的な進学力低下、そして私大定員厳格化による受験地図の再編がある。とりわけ、首都圏における受験競争のインフレから一時避難し、旧帝大クラスの高度教育を享受するための「ブルーオーシャン戦略」が浸透してきたのだ。
これまで地方旧帝大は、地元のトップ人材の育成拠点としての役割を担ってきた。しかし、地元出身者が大きく減っている今、地域のエリート養成の場なのか、全国の優秀層に学問を提供する場なのか。大学自身がその存在意義を再定義する局面に来ているのかもしれない。
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伊藤 滉一郎(いとう・こういちろう)
受験・学歴研究家、じゅそうけん代表
1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、教育機関向けの広報支援サービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。
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(受験・学歴研究家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)

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