※本稿は、八木雅之『老けない食べ方の新常識』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「茶色い食べ物は体に悪い」は本当か
糖が体のタンパク質と結びついて劣化させてしまう「糖化」が体に及ぼす影響について、誤った情報が世間に広まっています。
その代表的なものの一つに、「唐揚げなどの揚げ物、グラタン、焼きおにぎりなど、こんがり色づいた食品は、AGEs(※)が含まれているので、食べると糖化が進む」という誤情報があります。
(※)advanced glycation endproducts(終末糖化産物):体にできる過程でタンパク質などを褐色化させて硬くし、炎症や糖化ストレスを引き起こして細胞にダメージを与える。動脈硬化や糖尿病性合併症、アルツハイマー病など、さまざまな病気や老化現象の一因にもなる。
たとえば、フライパンで焼かれたホットケーキは、生地の中に含まれるタンパク質と糖が加熱されることで、茶色く香ばしく焼き上がります。この茶色の部分には、AGEsが多く存在しています。
この情報のもとになっているのが、アメリカの研究者が論文にまとめた食品中のAGEs含有量のリストです。アメリカの研究ですから、当然、アメリカ人の食生活に即した食品が中心になっています。
日本で「こんがり色づいた食品は健康に悪い」「老化が進む」と主張する人の多くは、その米国の論文を日本語に訳したデータをもとに、AGEsの害を警告していることになります。
本当に「こんがり焼けた食品」を食べただけで、人は老化するのでしょうか?
■AGEsを正確に測定する方法は存在しない
私たちはその情報の信憑性を確かめるため、「食品中のAGEsの含有量が多いものほど、体の細胞を傷つけ、糖化を促進する」ことを測定しようとしました。
ところが、その検証はできませんでした。なぜなら、現時点では、「あらゆる食品中のAGEsを正確に測定する方法」が存在していないからです。
国内には多数の分析機関がありますが、AGEsの定量分析を請け負っている機関は一つもありません。分析法が確立していないため、検証すら不可能なのです。
さらに、血中に吸収されたAGEs量や、尿や糞便中に排泄されたAGEs量を正確に測定する方法もないのです。
それにもかかわらず、「数字」だけが独り歩きし、日本語に翻訳されたデータでは、焼きおにぎりや照り焼き、唐揚げ、アジフライといった日本の伝統的な食べ物まで「AGEsが多いから危険」と断じられてしまっているのです。
その根拠に、明確なエビデンスがあるわけではありません。
きちんとした科学的裏づけがないまま、「こんがり焼けた食品はすべて有害」と決めつけられている。これが現状なのです。
■AGEsの大部分は腎機能によって排出される
食品中のAGEs量を測定する方法は確立されていませんが、多少なりともAGEsが体内にとり込まれることは予測できます。加熱調理をすれば、糖とタンパク質が結びつき、AGEsが生成されること自体は事実だからです。
しかし、腎機能が正常であるならば、体外からとり込まれたAGEsの大部分は、腎臓の働きによって排出されます。
では、食品中のAGEsは、実際にどの程度体内に残るのでしょうか?
■「AGEsの残留量」に言及した論文はほとんどない
この点に関する研究は極めて限られており、明確な答えを出している論文はほぼ存在しません。ただ、過去に一度だけ、「どれだけのAGEsが体内に残留するか」を推定した論文があります。
その報告によれば、摂取した食品に含まれるAGEsのうち、約6.6%が体内に残るとされています。
ところが、この論文の主旨は、「腎機能が低下している場合、AGEsは排出されにくく、体に悪影響を及ぼす可能性がある」というものであり、食品中のAGEsの危険性を強調するための研究ではありません。
その論文に記載された「6.6%」という数字だけが独り歩きしているのが現状です。
では、この6.6%はどのような実験によって算出されたのでしょうか。
それは、「糖と卵白を80℃で1時間加熱し、真っ黒にした食品を摂取した場合」という実験です。その結果から論文の著者らが推定したのが6.6%という数値です。
■真っ黒焦げになった食べ物はそもそも食べない
ちょっと立ち止まって、考えてみてください。
「食品中に含まれるAGEsのうち6.6%が体内に残留する」といわれれば「そんなに?」「怖い」と不安を感じるでしょう。
では、私たちが毎日の食事で真っ黒になったものを食べる機会はありますか?
加熱し過ぎた食品が健康によくないことは多くの人が直感しているはずです。
私たちが食べたくなるのは、こんがりとほどよく色づいた「おいしい料理」です。
その中にあるAGEs量は、真っ黒になったこの研究の試験食品と比べれば、はるかに少ないはずです。
以上をまとめれば、食品中のAGEs量はそもそも正確に測定できず、たとえそれを食べたところで体内に残留する量は極めて少ないと予測できます。おおむね健康な人であれば、腎臓で排出できる量ともいえるでしょう。
こうしたことから、通常の食生活において、食品中のAGEsを気にする必要はない、というのが私の見解です。
今後、私たちはこの分野についても研究を進め、正確なエビデンスを構築していく予定です。
■「唐揚げより蒸し鶏のほうが健康に良い」に根拠はない
みなさんは、こんな健康情報も信じてはいないでしょうか。
「調理法は『生→茹でる→蒸す→煮る→焼く→揚げる』の順に、食品中のAGEsが増える。だから、揚げ物は避けて、生や茹でて食べたほうがいい」といった情報です。
「揚げ物や焼き物を食べるくらいなら、蒸し物や煮物にしたほうが健康によい」
そんなことが書かれている本や記事、そして健康情報も、たびたび目にします。
しかし、食品中にどれほどのAGEsが含まれているかを正確に測定するのは、現在の科学では難しいのが現状です。
たしかに、揚げ物は加熱の温度が高く、きつね色や茶色になりやすいため、「こんがり焼けた食品=糖化が進んでいる」と思われがちです。
ところが、「唐揚げを食べると老化が進み、蒸し鶏は体によい」といった二項対立の考え方に、エビデンスはないのです。
■揚げ物をよく食べる東南アジアの人々は不健康なのか
体内で発生したAGEsが老化促進物質であることは事実ですが、そもそも口から入れたAGEsが体内でどれほどの悪さをするのか、ということを調べたエビデンスはない――ここが重要です。
実際、本当に揚げ物が体に悪いのだとしたら、それを日常的に食べる国の人たちは、他の国々より老化が進みやすいことになります。
たとえば、東南アジアの国々では、衛生上、揚げ物をよく食べます。しかし、疫学上、糖尿病などの生活習慣病が際立って多いというデータはありません。
つまり、「揚げ物は糖化を促進し、蒸し物は安全」という単純な図式で食事を語ることには無理があるのです。
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八木 雅之(やぎ・まさゆき)
同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授、農学博士
京都生まれ。京都工芸繊維大学繊維学部卒業、同大学院修士課程修了。1989年、京都府立大学大学院農学研究科博士課程修了。日本抗加齢医学会評議員、糖化ストレス研究会理事。糖化アミノ酸分解酵素を用いたグリコヘモグロビン測定系や、抗糖化作用をもつハーブ素材の開発などに従事。
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(同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授、農学博士 八木 雅之)

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