シジミエキスがいい、ウコンドリンクが効く、牛乳で胃を保護すると安心……。二日酔い予防法は諸説ある。
内科医の名取宏さんは「実際に効果があるのかどうか、よくある二日酔い予防法について一つひとつ文献を調べてみたところ、アメリカ国立衛生研究所の記述にたどりついた」という――。
■ヒトが二日酔いになるメカニズム
今年も、忘年会シーズンがやってきました。お酒はおいしく、宴会は楽しいものです。しかし、飲みすぎると翌朝には頭痛や吐き気がする二日酔いに悩まされます。私もお酒を飲むのは大好きで、若いころは二日酔いになることもありました。
二日酔いは、ホルムアルデヒドに代表されるアルコール分解過程で生じる有害な代謝産物や脱水、電解質バランスの乱れ、胃腸運動の低下、炎症反応といった多くの要因が関与する病態です。飲酒量が多いと発症しやすいのは確かですが、個人の代謝能力や飲酒当日の体調にも大きく左右されます。
そんな二日酔いを予防したり、いざ起きてしまったときに症状を和らげたりする方法として、さまざまな説があります。あまりにもいろいろありすぎて、いったいどの対策をすればいいのか迷いますね。そこで、実際に「医学的根拠あり」といえる方法が果たしてどの程度あるのか、文献をたどり探ってみました。
■何か食べておいたほうがよいのか
さて、まずはお酒を飲む前の話から。よく「空きっ腹でお酒を飲むと二日酔いになりやすい」「胃に何か入れておけば二日酔いになりにくい」という説を耳にします。
これは本当でしょうか。
じつは、血中アルコール濃度は、空腹時より食後に上がりにくいことを示した研究が複数あります。ただし、注意が必要なのは、血中アルコール濃度が上がりにくいからといって二日酔いになりにくいとは限らない点です。血中アルコール濃度が上がりにくいと、かえってお酒が進んでアルコールの総摂取量が増え、逆に二日酔いになりやすくなるかもしれません。
飲み会前に牛乳を飲んで「胃に膜(バリア)を作っておけば二日酔いになりにくい」という説もあります。私の母もそう言っていました。しかし、牛乳を飲んだぐらいでアルコールの吸収を物理的に防ぐような膜ができるとは考えにくいですし、私が探した限りでは牛乳摂取が二日酔いの予防や治療に役立ったという研究は見当たりませんでした。何もお腹に入れないよりは牛乳を飲んだほうがマシという程度でしょう。
■ウコンやシジミなどのサプリや漢方
特定の健康食品やサプリメントが二日酔いを予防するという説もよく聞きますね。たとえば、「ウコン(ターメリック)」には肝臓によいというイメージがあります。飲み会前にコンビニ等で、ウコンを含む栄養ドリンクや錠剤を購入して飲む人も少なくありません。
しかし、ウコンが二日酔いに効くかどうかはほとんど検証されておらず、現時点ではエビデンスは乏しいと言わざるを得ません。
これはシジミ由来サプリメント、肝臓抽出物サプリメントについても同様です。肝機能をサポートするといった触れ込みはあっても、二日酔いそのものの予防・軽減に効果があるかどうかを裏付けるデータは十分とはいえません。
漢方薬では「五苓散」などが二日酔いに効果があるとされています。こちらもランダム化比較試験といった近代的な臨床試験で有効性が証明されたわけではありません。一方で過度な期待は禁物ですが、入手しやすく比較的安全であることは利点です。
■どの成分も効果の証明はできていない
二日酔い予防法に諸説あるのは、日本だけの話ではありません。海外でも二日酔い対策としてのサプリメントや民間療法には多くの種類があります。その中には、ランダム化比較試験で二日酔いに有効だったという報告があるものもあります。
たとえば、グルタチオン、水素ガス、ノニ果汁エキス、エゾウコギ抽出物、韓国梨ジュース、紅参(高麗人参)、ウチワサボテン抽出物、ケンポナシ抽出物、L-システイン含有ビタミンサプリメントなどなど。日本でも入手可能なものもあれば、聞いたこともないようなものまで、さまざまです。
しかし、私はこれらの対策が二日酔いに有効であるという結論に懐疑的です。ランダム化比較試験といっても、どの研究も参加者が少なく、追試で再現性が確認されていません。
たくさん行われた研究の中でたまたま有意差が認められたものだけが報告された「出版バイアス」でも説明可能な範囲内だと考えます。現時点では「有効かもしれないし、有効ではないかもしれない」と態度を保留しておくのが賢明でしょう。
■「チャンポン飲み」について調べた研究
次にお酒の飲み方についてです。ビール→日本酒→ハイボールのように、異なる酒を次々と切り替えて飲む「チャンポン飲み」は二日酔いの原因だと言われます。ヨーロッパでも「ワインもビールもいいが、両方はダメ」といった格言があるそうです。
この格言を検証するための研究がドイツで行われました(※1)。健康な成人105人をランダムに「ビール→ワイン」「ワイン→ビール」「どちらか片方」を飲む3グループに分け、翌日の二日酔いの程度を評価しました。ランダムにグループ分けするのは、参加者の好み・体質・生活習慣などの個人差が結果に影響しないよう、くじ引きのように条件を割り振るための手続きです。
さらに1週間以上を開けて「ビール→ワイン」のグループは「ワイン→ビール」、「ワイン→ビール」グループは逆に「ビール→ワイン」という順番で飲み、同じように評価しました。同じ参加者を対照とすることで個人差の影響をできるだけ小さくすることができる「クロスオーバー」という方法です。
その結果、飲んだお酒の種類の組み合わせも、順番も、二日酔いの強さに影響しませんでした。チャンポン飲みを避けてもたくさん飲んだら二日酔いになるという面白みのない当たり前の結果ですが、研究の参加者はお酒を飲めて楽しかったでしょうね。

※1 Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine - PubMed
■飲酒中や飲酒後の水分摂取に効果はあるか
また、お酒を飲む合間に水分を摂取することは、二日酔い対策としてしばしばすすめられています。私も水分摂取は効果があると信じていましたが、研究によれば十分なエビデンスがあるとはいえないようです(※2)。
飲酒中あるいは飲酒直後の水分補給は、二日酔いを予防する効果があってもごくわずかで、二日酔いが始まってからの水分摂取は二日酔いの重症度とは関連がありませんでした。アルコール摂取が利尿を促進して脱水を起こしやすくするのは事実ですが、脱水は二日酔いの主因ではなく、アセトアルデヒドといった代謝産物、炎症反応や睡眠リズムの乱れといったいくつもある要因のひとつに過ぎないということでしょう。
とはいえ、脱水自体が有害なので、二日酔い予防とは関係なく、水分は補給しておいたほうがよいでしょう。お酒の代わりに水分を摂取することで総アルコール摂取量が減るという効果も期待できます。お茶やお水以外にも、最近ではノンアルコール飲料にもさまざまな種類のものがあり、これを活用しない手はありません。
※2 Alcohol hangover versus dehydration revisited: The effect of drinking water to prevent or alleviate the alcohol hangover - PubMed
■持病のある人にとってサプリはハイリスク
このように二日酔い対策として挙げられる手段は数えきれないほど存在し、候補が一つに収束していないという状況そのものが、特定の方法だけを決定打として扱うには根拠不足であることを示しています。
とはいえ、これらの対策は比較的害が少ないので、個人が試すのはかまいません。重大な病気の場合は、民間療法を試して効かなかったときに取り返しがつきませんが、二日酔い対策ならいろいろ試してみて、自分に合うと主観的に思えるものを選んでもいいでしょう。もしかしたらプラセボ効果かもしれませんが、それでも二日酔いの不愉快な症状が軽くなればそれでいいんです。
ただし、慢性の肝臓病の方は注意が必要です。
ごくまれですが、サプリメントで肝障害が起きることがあります。健康な人がたまに飲み会の前後に摂取するぐらいなら問題にならなくても、もともと肝臓の悪い方が続けて摂取すると問題になる場合があります。持病のある人が健康食品やサプリメントを摂取するときには、必ず事前に主治医に相談してください。
■アメリカ国立衛生研究所が認めた予防方法
「そんな対策では物足りない。もっと決定的な二日酔いにならないための対策を知りたい」という方のために、とっておきの情報があります。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、「二日酔いの緩和法はインターネットやソーシャルメディアで数多く紹介されているが、科学的に効果が証明されたものはない」としつつ、二日酔いの唯一確実な対策を挙げています(※3)。
それは「飲み過ぎない、もしくは飲まないこと」です。身も蓋もありませんが、それだけ二日酔いに「魔法の薬」は存在しないことをあらわしています。
たとえ二日酔いにならなくても、過度な飲酒は体に負担をかけます。お酒を飲むとしても飲み過ぎず、適量を楽しみましょう。私は「将来にわたってお酒を長く楽しむためにも、今飲みすぎて体を壊すわけにはいかない」という理屈で酒量を控えるようにしています。具体的に守っているルールは以下の3点です。
「二日酔いになるほどの量を飲まない」「週に2日は休肝日を設ける」「本当に美味しいと思える酒だけを飲み、惰性で飲まない」。
それではみなさん、よいお年と穏やかな朝を。
※3 NIH「Hangovers

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名取 宏(なとり・ひろむ)

内科医

医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

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(内科医 名取 宏)
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