肥満や老化を抑えるにはどのような食生活を心がければいいのか。同志社大学糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之さんは「タンパク質、脂質、酸を同時に摂るといい。
昼食はおにぎり2個を食べるより、1個をコンビニで買える別の食品に置き換えるだけで肥満ホルモンの分泌を抑えられる」という――。
※本稿は、八木雅之『老けない食べ方の新常識』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■老化を抑える「食べ方の工夫」
アルデヒドは、糖や脂質、アルコールの代謝過程で発生する老化の元凶。細胞を傷つけ、糖化を促進し、老化や生活習慣病の引き金になります。
老化を防ぐには、アルデヒドの発生を抑える食べ方の工夫が必要なのです。
ただ、その工夫をしさえすれば、白ご飯もラーメンもスイーツも、おいしいものは何でも安心して楽しめるようになるということです。
では、どうすればいいでしょうか。
【老化を防ぐ食べ方公式】 タンパク質 × 脂質 × 酸 = 黄金トリオ
この公式にしたがった食べ方をすればいいのです。
タンパク質、脂質、酸――この3つを1食の中でそろえれば、食後血糖値の急上昇(血糖値スパイク)を抑えることができます。それが、結果的にアルデヒドの過剰発生(アルデヒドスパーク)を防ぎ、老化を防ぐことにつながるのです。
もちろん、どんなにバランスがよくても、量を食べ過ぎてしまえば糖と脂質の代謝が追いつかず、アルデヒドは発生してしまいます。この点には注意が必要です。

■タンパク質×脂質×酸で糖の吸収を緩やかにする
ではなぜ、タンパク質、脂質、酸が食後血糖値の急上昇を抑えるのでしょうか。
タンパク質と脂質は、胃の中に長くとどまりやすく、これらを先にとっておくと、糖の消化・吸収のスピードを緩やかにしてくれます。
一方、酢や柑橘に含まれる酸は、胃から小腸への移動を遅らせる作用があり、糖の吸収をさらに緩やかにしてくれます。
結果、この3つをそろえて食べることで、食後血糖値の急上昇を防ぐことができ、老化や不調の原因になるアルデヒドスパークも抑えられるのです。
■「何を食べないか」ではなく「どう組み合わせて食べるか」
私は「老化を防ぐ食べ方公式」(以下、黄金トリオ)の有効性を確かめるために、ある実験を行ないました。
「サラダチキン(タンパク質)」「オリーブオイル(脂質)」「酢(酸)」を組み合わせて摂取し、その後に白ご飯を食べた場合と、白ご飯だけを単独で食べた場合とで、食後血糖値の変化を比較したのです。
その結果、黄金トリオをとり入れた食事では、血糖値の急上昇が抑えられ、安定した血糖値変動曲線が描かれました。つまり、老化因子であるアルデヒドの過剰発生を抑えられることになるのです。
黄金トリオは、さまざまな食材と組み合わせることが可能です。
タンパク質……肉、魚、豆腐、納豆、豆類など。

脂質……オリーブオイル、ゴマ油、アボカド、ナッツ類、青魚の脂など。

酸……酢、レモン果汁、梅干し、ヨーグルト、グレープフルーツなど。

冷蔵庫にある食材や、その日食べたい物で自由に組み合わせていきましょう。
大切なのは「何は食べてはいけないか」ではなく、「どう組み合わせて食べるか」。「制限」ではなく自分の体の状態に合った「工夫」によって、無理なくおいしく老化予防に効く食習慣はつくれるのです。
■ラーメンを食べて太るメカニズム
①ラーメンとの食べ合わせ
健康のことを考えると、なんとなく遠ざけてしまうのがラーメン。「麺の糖質が怖い」と、我慢している人も多いのではないでしょうか。
ラーメンの麺は、小麦粉を主原料とした食品です。小麦粉に含まれるでんぷんは、体内でブドウ糖に分解され、急激に血糖値を上昇させやすい性質があります。
この血糖値の急上昇が、老化と肥満の引き金になります。
ブドウ糖が血液中に流れると、インスリンというホルモンが分泌されます。インスリンには、ブドウ糖を細胞にとり込む働きがあります。そのブドウ糖はエネルギー源として消費されますが、余剰分は脂肪となって蓄積されます。これが、人が太るメカニズムです。
こうした働きからインスリンは「肥満ホルモン」とも呼ばれます。
食後高血糖が起こると、その分、インスリンの分泌量が増えます。すると、細胞内にとり込まれるブドウ糖の量が増えて、脂肪が蓄積しやすくなるのです。しかも、食後高血糖を引き起こすということは、老化の元凶となるアルデヒドスパークを発生させることにもなります。
だからといって、ラーメンを諦めることはありません。
食後高血糖とアルデヒドスパークをいかに防ぐか――。それさえ抑えておけば、肥満や老化を心配せずにラーメンをおいしく楽しめるのです。
その方法は驚くほど簡単です。
■テーブルに置かれている「酢」をスープに加える
ラーメン屋のテーブルには、酢が置かれています。レンゲにスープを少しすくったら、そこに酢を加えて飲むだけです。
ラーメンのスープには、豚骨、鶏ガラ、牛骨、魚介などさまざまなベースがあります。すべてに共通しているのは、タンパク質と脂質が豊富に含まれていること。
骨や肉、魚などの材料をじっくり煮出すことで、成分がスープに溶け出しています。
つまり、ラーメンのスープは、黄金トリオのうち「タンパク質」と「脂質」をすでに備えているということ。そこに、足りていない「酸」を足してあげるわけです。
先に「酢+スープ」を腸に入れておくことで、その後、麺が入ってきても、血糖値の急上昇と、それと同時に起こるアルデヒドスパークを防ぐことができるのです。
ちなみに、「ラーメンの汁は塩分が高くて血圧が心配」という人も多いと思いますが、酢には血圧を降下させる作用があることがわかっています。
■レンゲにすくったスープに少し酢を加えるだけ
では、どのくらいの酢をとれば、食後高血糖を抑えられるでしょうか。
私が行なった実験結果では、穀物酢大さじ2杯(30mL)を白ご飯と一緒にとることで、白ご飯だけを食べたケースよりも、血糖値の上昇を約30mg/dLも抑えられました。
これは糖尿病治療薬であるα-グルコシダーゼ阻害薬の平均的効果(20~40/dLの低下)と同程度の結果です。
ただし、一つ注意点があります。酢を原液のまま飲むのはNG。強い酸によって、食道や胃の粘膜が荒れたり、歯のエナメル質が傷ついたりするリスクがあります。
この点においても、「酢+スープ」という組み合わせは、理に叶っています。
スープが酸の刺激を和らげてくれるので、負担をかけずに体に届けることができます。
ちなみに私は、ラーメンを食べる際には、大さじ2杯程度の酢を2~3回に分け、レンゲに入れたスープに加えて飲んでいます。
とはいえ、酸っぱいものが苦手な人もいるでしょう。その場合は無理せず、大さじ1杯程度の酢を2~3回に分けて、スープと一緒に飲みましょう。
■おにぎり2個のうち1個を別の食品に置き換えたい
②おにぎりとの食べ合わせ
たとえば、こんな食事に心当たりはないでしょうか。
お昼にコンビニでおにぎりを2個。小腹が空いたら、お茶漬けやふりかけご飯をササッと食べる。こうした「ほぼ炭水化物だけ」の食事は、アルデヒドの発生量を増やす典型例。血糖値が急激に上がりやすく、それが老化を早める原因になるのです。
とはいえ、「お昼は手軽に、安くすませたい」という気持ちもわかります。そんなときは、コンビニでおにぎりを2個買う代わりに、1個をサラダチキンに置き換えてみてください。「サラダチキン→おにぎり」の順番で食べるだけで、血糖値の急上昇を緩やかにし、アルデヒドの発生も抑えることができます。

私たちは、健康な20代の男女10名を被験者に、白ご飯を食べる前に何を摂取しておくと血糖値の上昇を抑えられるか、調査をしました。
モデル食品は、「サラダチキン(タンパク質)」「オリーブオイル(脂質)」「酢(酸)」「難消化性デキストリン(水溶性食物繊維)」「キャベツ(不溶性食物繊維)」。
結果として、サラダチキンが最も血糖値の上昇を抑えることができました。
■ゆで卵、緑茶も一緒だとさらに良い
注目すべきは、55gよりも110gを食べた場合のほうが、血糖値の上昇の幅は抑えられたのです。サラダチキン110gは、コンビニで販売されている1パックに相当。「ダイエット中だから」と半分だけ食べるよりも、1パックすべて食べたほうが、若さを保つためにも、肥満予防にも得策だということです。
もう一つ、この試験では驚く結果が得られました。難消化性デキストリンやキャベツを食前にとっても、血糖値変動曲線が白ご飯だけのときと変わらなかったのです。
コンビニおにぎりで手軽にお昼をすませる場合には、食前にキャベツではなく、サラダチキンを食べるほうが、アルデヒドスパーク防止には効果的だということです。さらにもう一歩進んで、ゆで卵を加えることで、脂質も補えます。加えて、緑茶も1本飲んでおくと、アルデヒドの害をさらに軽減できるでしょう。
コンビニご飯でも、工夫しだいで、手軽ながらもアンチエイジング仕様のランチは整えられるのです。

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八木 雅之(やぎ・まさゆき)

同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授、農学博士

京都生まれ。京都工芸繊維大学繊維学部卒業、同大学院修士課程修了。1989年、京都府立大学大学院農学研究科博士課程修了。日本抗加齢医学会評議員、糖化ストレス研究会理事。糖化アミノ酸分解酵素を用いたグリコヘモグロビン測定系や、抗糖化作用をもつハーブ素材の開発などに従事。糖化ストレスに関する基礎研究から応用研究まで一貫して取り組む。2011年より現職。老化や生活習慣病の原因となる“糖化ストレス”の解明と対策に力を注ぎ、抗糖化素材や測定法の開発など、糖化研究の最前線を支える、日本を代表する第一人者。「糖化は老化」「糖化ストレス」「抗糖化」という言葉の生みの親。

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(同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授、農学博士 八木 雅之)
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