会議で議論が進まず、求める成果にたどり着かないときはどうすればよいのか。さまざまな企業の“組織づくり”をサポートするMIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹氏は「若手もベテランも、2種類の『問いかけ』を活用すれば突破口を開ける」という――。

※本稿は、安斎勇樹『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■2つの「問いかけのモード」を使い分ける
まずは、2つの問いかけのモードを紹介しておきましょう。この2つのモードの違いを理解し、場の状況に合わせてフカボリ(深掘り)とユサブリ(揺さぶり)のどちらが必要かを見定めるだけでも、質問の精度があがります。
フカボリモード
フカボリ(深掘り)モードとは、チームの暗黙の前提、共通の価値観、一人ひとりの考えていることが曖昧で、チームの根底にある「こだわり」がはっきりせずぼやけているときに、解像度を高めるためのモードです。場の前提を確認したり、一人ひとりの中に眠っている個性や価値観を引き出したりするモードです。汎用性の高い質問の型として、「素人質問」「ルーツ発掘」「真善美」という3つのパターンがあります。
【フカボリモードの質問の型】

1 素人質問:みんなの当たり前を確認する

2 ルーツ発掘:相手のこだわりの源泉を聞き込む

3 真善美:根底にある哲学的な価値観を探る
ユサブリモード
ユサブリ(揺さぶり)モードとは、固定観念や価値観のずれなどの「とらわれ」が見えてきたときに、揺さぶりをかけて、新しい可能性を探るためのモードです。染みついた言葉遣いを変えたり、発想の視点を転換したり、固定観念を直接的に破壊したりすることで、とらわれを打破するモードです。汎用性の高い質問の型として、「パラフレイズ」「仮定法」「バイアス破壊」という3つのパターンがあります。
【ユサブリモードの質問の型】

1 パラフレイズ:別の言葉や表現に言い換えを促す

2 仮定法:仮想的な設定によって視点を変える

3 バイアス破壊:特定の固定観念に疑いをかける
■「素人質問」が効果的な理由
素人質問とは、チームにおいて前提となっている知識や情報に対して、まるで素人かのような、素朴な疑問をぶつけることです。
チームのみんなが当たり前だと思っている前提、価値基準、暗黙のルール、業界の常識、専門用語などに対して、ちょっとでも疑問を感じたら、その意味について確認をするのです。「これ、本当にみんなわかっているのかな?」と違和感を感じたら、そこにツッコミを入れていくイメージです。
定型文としては、以下のような例が挙げられます。
【素人質問の質問パターン】

「すみません、これどういう意味ですか?」

「初歩的な質問なのですが、これはどういうことですか?」

「理解不足で申し訳ないのですが、このプロジェクトの目的はなんですか?」
■暗黙の前提を確認することで議論を進める
たとえば、ヘルスケア領域の消費財メーカーY社のリニューアルプロジェクトの例でいえば、以下のようなイメージです。
「すみません、一応確認なのですが、なんでリニューアルが必要なんでしたっけ?」

「初歩的な質問なのですが、そもそも『健康的な美しさ』ってどういうことですか?」

「ところで、どうして研究開発部門とマーケティング部門で協力するんでしたっけ?」

「このプロジェクトって、とにかく目新しいアイデアがでればOKなんですか?」
これらの質問は、下手をすると「お前、話を聞いていたのか」と思われかねない、大前提の確認です。しかしチームに問題が起きているとき、このような「初歩的な大前提」のところで、認識がすり合わされていない場合があります。こうした前提に実は深く納得していないまま「正直、まだ腑に落ちないところがあるけれど、誰も質問しないし、きっとみんなわかっているんだろうな……」と、惰性で仕事が進行していくことは、少なくないはずです。この状態を放置すると、チームの現代病をじわじわ引き起こしていきます。
このような暗黙の前提を、率先して確認する。これが、素人質問です。
■上手な「素人質問」のコツ
素人質問のコツは、あえて「空気を読まない」ことです。多くの人は職場で「空気」を読んで、輪を乱さないように働いています。本当はわからないことも、わかったふりをしている人も少なくないのではないでしょうか。だからこそ、あえて空気を読まずに「わからないことを聞く」ことが、かえって周囲にとっても価値のある行動になるのです。

直球で投げると顰蹙(ひんしゅく)を買いそうな場合は、枕詞に付け加えるお詫びが重要です。
「すみません、一応確認なのですが~」

「当たり前のことを聞くかもしれないのですが~」

「理解不足で、間抜けな質問をするのですが~」
素人質問には、上司や先輩に「そんなことも知らないのか」と諭されて終了、というリスクもあります。けれども、うまく曖昧だった前提を指摘できれば、同じことで内心モヤモヤしていたチームメイトからは「よくぞ質問してくれた!」と、絶賛されることでしょう。リスクをうまく取るためにも「もし、どうしようもないことを聞いていたら、すみません」という言い訳をうまく使うのが賢いやり方です。
■自分なりの意見を添えると好印象
私自身、クライアントチームのミーティングをファシリテートする場合は、素人質問を多用します。例えば「人工知能(AI)を活用した未来のカーナビ」を生み出すことにとらわれていた自動車の周辺機器メーカーのプロジェクトの事例では、勇気を出して「みなさんは、なぜカーナビを作るのですか?」という素人質問をぶつけたことが、チームの衝動に火をつけるトリガーとなりました。
これは、私自身が運転免許すら持っていない、自動車に関する本当の「素人」で、かつチームの「第三者」であるからやりやすかった問いかけでもあります。
しかし内部メンバーでも、十分に素人質問を使いこなすことが可能です。
特にチームの若手メンバーや、在籍歴が浅い新参に近いメンバーは、その立場を利用して「素人質問」を投げかけるとよいでしょう。
ただし、わからないことを、自分で考えずになんでもかんでも他人に質問する態度は、人によっては「怠惰なふるまいだ」と捉える人もいます。そこで、以下のように自分なりの意見を添えておくと、角が立たずに素人質問を投げかけられます。
「すみません、一応前提の確認なのですが、このプロジェクトの目標は『とにかく目新しいリニューアルアイデアを出す』という理解であっていますか? いただいた資料を読み込んだのですが、よくわからなくて……」
■ベテランが「素人質問」する際の注意点
若手でなく、シニアメンバーやマネジメント層であったとしても、枕詞に注意すれば十分に「素人」に戻ることができます。

「ごめん、前提がわからなくなっちゃったのだけれど、これってどういうことでしたっけ?」

「古参の自分が言うのもなんなのだけれど、この会社ってどうして『健康的な美しさ』にこだわってきたのでしょうね?」
マネジャーとしての説明責任を果たせなくなってしまっては本末転倒ですが、むしろ立場が上の人が率先して疑問を呈してくれることで、「実はよくわからなかったけれど、聞きにくかった」という空気を一気に打破できるかもしれません。
立場が上だからといって、正解を知っているわけではないということを場に共有することで、チームの心理的安全性を高められるのです。チームにおいては誰もが「素人」として、前提に疑問を投げかける権利を持っていることを、覚えておいてください。
余談ですが、「素人質問で恐縮ですが」という枕詞は、学会発表でもよく耳にするフレーズでもあります。この場合、教授などの専門家が、相手の初歩的な不備を指摘するときに使われます。くれぐれも、相手を攻撃する嫌味な使い方にならないように、ご注意を。

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安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)

MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。
Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。

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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO 安斎 勇樹)
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